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映画『デトロイト』に見る現実のデトロイト(ネタバレ)

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キャスリン・ビグロー監督の新作『デトロイト』は、1960年代のデトロイトで実際に起きた事件を忠実に描いた社会派ドラマです。

当時、デトロイトの黒人は人口過密な居住区に住まされ、暴力的な白人警官によって不当な逮捕や激しい暴行を受け続けていました。

そして1967年7月23日、ついに地元住人たちの不満が頂点に達し、放火や略奪などデトロイト全体を巻き込んだ暴動へとエスカレート!もはや警官だけでは対処できなくなり、とうとう軍隊まで出動する大騒動になったのです。

そんな中、とあるモーテルに泊まっていた黒人がふざけて「競技用のスターターピストル」を撃ったところ、「狙撃された!」と勘違いした白人警官たちがモーテルへ押し寄せ、外から一斉に銃撃開始!

たまたまそのモーテルに宿泊していたラリー(アルジー・スミス)とフレッド(ジェイコブ・ラティモア)は、いきなり大量の銃弾を撃ち込まれてパニック状態になりますが、本当の恐怖はそこから始まったのです…。

この映画、前半は普通に「物語」を描いてるんですけど、舞台がモーテルに移ってからはストーリーがほとんど進展せず、白人警官のフィリップ(ウィル・ポールター)が黒人たちを虐待しまくる壮絶な「私刑(リンチ)」の様子をひたすら見せてるんですよ。

レイシストの白人警官による残虐な私刑のせいで、一人また一人と命を落としていく黒人青年たち。延々40分も繰り広げられる尋問シーンのえげつなさが凄まじい!

キャスリン・ビグロー監督は、徹底したリサーチや当事者へのインタビューによって当時の状況を克明に再現し、50年以上も封印されてきた黒人差別問題にメスを入れようとしたのです。

しかし、あまりにも黒人虐待シーンを克明に描きすぎたため、白人警官を演じたウィル・ポールターは撮影中にどんどん気分が悪くなり、ついに泣き崩れてしまったとか(本人は優しい性格だったので、毎日毎日、仲間の俳優たちを痛めつけることが耐えられなかったらしい)。

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また、食料品店の警備員メルヴィンを演じたジョン・ボイエガは「現場の誰にとっても過酷な物語だから、ずっと役柄になり切っている必要があった」と語り、白人と黒人の間に立って事態を収束させようと努める誠実なキャラクターを丁寧に演じていました。

最終的に暴行を働いた白人警官たちは、事件後に殺人罪などで起訴されるものの、裁判で全員無罪になります。えええ…

なんとも後味の悪い結末ですが、50年前にはこういう事件が実際に起きていて、しかも現代のアメリカもいまだに人種差別問題がなくなってはいない…という事実を突き付けているわけです。



なお、「デトロイト」という街は過去に何度も映画の舞台になってるんですが、いい印象がほとんど無いんですよね(苦笑)。

たとえば1987年に公開された『ロボコップ』は2010年のデトロイトが舞台なんだけど、メチャクチャに荒れ果てて完全なる”犯罪都市”になってるんですよ。

SF映画だから誇張されているはずなのに、現実のデトロイトとあまり変わらない…つーか『ロボコップ』の方がまだマシに見えるのがすごい(笑)。

また、2002年に公開された『8 Mile』のデトロイトは街中が廃墟だらけで、貧困ぶりがひどいです。タイトルの「8マイル・ロード」とは富裕層と貧困層を隔てる境界線のことで、「8マイル・ロードより先(内側)に行ってはいけない」と言われてるらしい。どんだけ恐ろしい場所なんや…

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そして2014年公開の『イット・フォローズ』は、デトロイト郊外に住む若い男女の姿を描いたホラー映画です(誰かとセックスすると”イット”が現れ、捕まったら死ぬというストーリー)。

この作品にも「8マイル・ロード」が出て来るんですが、主人公たちは境界線の外側に住んでいるので『ロボコップ』や『8 Mile』ほど荒れ果てた風景は映りません(まあ街自体に活気はあまりないんだけど)。

しかし2015年公開の『ドント・ブリーズ』は、まさに「8マイル・ロードの内側」が舞台になっているため、住民はほとんどおらず、多くの建物は朽ち果て、巨大なゴーストタウンと化しています。

そんな街で主人公たちは泥棒を繰り返してるんですが、警察官の数が非常に少ないため、犯罪が起きても現場にパトカーが駆け付けるまで1時間近くかかってしまうなどムチャクチャな状況らしい(デトロイトの検挙率は全米で最低)。だから堂々と泥棒してるんですね(最悪や…絶対住みたくねえ…)。

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まさにここは世紀末!正気でいられるなんで運がいいぜYou!の世界です。デトロイト恐るべし(^^;)


『ペンタゴン・ペーパーズ/最高機密文書』(ネタバレ)

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スティーブン・スピルバーグ監督の『ペンタゴン・ペーパーズ/最高機密文書』はいい映画でしたねえ。

1971年、政府によって長らく秘匿されてきたベトナム戦争の最高機密文書「ペンタゴン・ペーパーズ」がニューヨーク・タイムズによってスクープされ、ニクソン政権は直ちに記事の差し止めを要求。

一方、出し抜かれたワシントン・ポストの編集主幹ベン・ブラッドリー(トム・ハンクス)は、何とか巻き返そうと記者たちに発破をかけ、ついに文章の入手に成功する。

……というのが物語の前半部分で、普通の映画なら新聞記者たちが苦労して特ダネを手に入れる過程をじっくり描いただろうし、それだけでも面白いジャーナリスト映画として十分成立したでしょう。

しかしスピルバーグ監督は、もう一人の主人公として亡き夫からワシントン・ポストの経営を受け継いだキャサリン・グラハム(メリル・ストリープ)を登場させ、まだ女性の地位が高くなかった時代に男社会の中で重要な決断を迫られる「一人の女性の苦悩と成長」も描いて見せたのです。

ベンは手に入れたネタを元に記事を作成し、明日の新聞に載せようとしますが、会社の上層部は猛反対。なぜならワシントン・ポストは株式公開を控えており、掲載には大きなリスクが予想されたからです。

社の顧問弁護士も「政府から訴えられるぞ。会社が潰れたらどうするんだ?」と掲載中止を求めますが、「圧力に屈して真実を報道できない新聞社なんて死んだも同然だ!」と一歩も引かないベン・ブラッドリー。

そしてクライマックスでは、色んな立場の男たちが別々の場所からキャサリンに電話をかけて「最終的な決定権は経営者の君にある。どうするか君が決めてくれ」と迫るわけです。

激しいプレッシャーの中、悩みに悩んだ末に「OK、載せるわ!載せましょう!もう寝る!おやすみなさい!」とキレ気味に言い放つキャサリンが痛快で良かったなあ(笑)。

その後、主人公たちは政府との裁判にも勝利し、劇中のセリフ(「報道の自由は報道することによってしか守られない」)を体現したのです。

というわけでこの映画、実際に起きた事件を元にした社会派ドラマでありながら、内容的には極めてシンプルでわかりやすいエンターテインメントになっていることに驚きました。

さらにビックリしたのは制作期間の短さです。2017年の2月にスピルバーグが脚本を読んで、5月30日からニューヨークでクランクインし、わずか50日で撮影完了。

その後、編集作業とポストプロダクションを経て11月には全ての作業を完成させ、そして2017年12月22日に劇場公開という驚くべきハイスピードで制作されたのですよ。

元々スピルバーグは早撮りで有名で、『レイダース』の場合は当初88日間の予定だった撮影スケジュールを13日も短縮し、たったの75日間で終わらせスタッフを仰天させました。

また、『 ジュラシック・パーク』は70日間、『 キャッチ・ミー・イフ・ユー・キャン』では、全140箇所にも及ぶロケーション撮影をわずか58日間で完了。

しかし『ペンタゴン・ペーパーズ』は過去のどの作品よりも撮影期間が短く、スピルバーグ監督の自己最短記録を更新してしまったのです。うわあー!

おまけに「超大作SF映画『レディ・プレイヤー1』と同時進行で作られていた」ってんだから凄すぎる!スティーブン・スピルバーグ、恐るべし!

ちなみに映画のラストシーンは、ワシントン・ポスト紙が「ウォーターゲート事件」の真相を暴くきっかけとなる場面で、この後に『大統領の陰謀』へと繋がっていくわけですね(^.^)

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クリント・イーストウッド『15時17分、パリ行き』(ネタバレ)

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優れた俳優であると同時に、素晴らしい映画監督として数々の傑作を世に送り出してきたクリント・イーストウッド。

そんなイーストウッド監督の最新作『15時17分、パリ行き』は、2015年8月21日に発生した『タリス乱射事件』を映画化した、いわゆる「実話もの」です。

乗客554名を乗せたアムステルダム発パリ行き高速鉄道「タリス」の車内で、イスラム過激派の男が銃を乱射。乗客一人が被弾し重傷を負うものの、たまたま乗り合わせていた3人のアメリカ人が勇気を出して立ち向かい…

という内容なんですが、一般的に「実話の映画化」っていうのは「実際に起きた事件をプロの俳優が再現するパターン」が普通じゃないですか?

例えば、過去のクリント・イーストウッド監督作品でも、『ハドソン川の奇跡』ではトム・ハンクスが、『アメリカン・スナイパー』ではブラッドリー・クーパーがそれぞれ主人公を演じていました。

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しかしこの映画では、なんと主人公となる3人の若者(アンソニー、アレク、スペンサー)の役を、「事件に遭遇した本人」が自ら演じてるんですよ。えええええ!?

それだけでなく、犯人に撃たれた被害者(マーク・ムーガリアン)や彼の妻イザベル、列車の乗務員や警察官や救急隊員に至るまで、あの日現場にいた当事者たちが、事件当日の服装のまま「本人役」で出演しているのです(”犯人”以外のほぼ全員が参加したらしい)。

さらにセットも使わず、本物の高速列車を実際の運行通りに走らせ、狭い車内の中で照明まで自然光のみという徹底ぶり!まさに「リアル」という意味においては、これほどリアルな映画も滅多にないでしょう。

当初、イーストウッド監督は他の映画と同じようにオーディションでプロの俳優を選ぶつもりでしたが、本人たちに会って話をしているうちに「この3人が自分で演じた方が面白いんじゃないか?」と思い付いたらしい。

イーストウッド曰く、「この試みが上手くいくかどうかはわからなかった。しかし、多くの映画はほとんどが”見せかけ”だが、この映画には嘘が少ない。細部まで本物のリアリティに満ちている。それが観客をこれまでにない感動へ導いてくれると思ったんだ」とのこと。

やらせる方もアレですが、引き受ける方もどうなのかと(笑)。なんせ演技経験ゼロのド素人ばかりですからねえ。なお、主演の3人は「他の誰かを演じるのは無理だけど、自分がやったことを再現するだけなら出来なくはないだろう」と思ったらしい。

さらに撮影現場でも、クリント・イーストウッド監督はほとんど何も演技指導をしなかったそうです。「だって僕よりも彼らの方が当日に何が起きたかを詳しく知ってるからね。その瞬間に何を考え、どう行動したのか、全て彼らに任せた方が間違いないと思ったんだ」とのこと。

このようなイーストウッド監督の判断によって、過去に類を見ない”超本物志向”の映画が出来上がりました。

ただし、いくらリアルにこだわったからといっても、それによって直ちに映画が面白くなるとは限りません。事実、「ストーリーがいまいち」「特に前半部分が退屈」など否定的な意見も多かったようです。

それもそのはず、普通の映画はドラマを盛り上げるための”演出”をあちこちに仕掛けるものなのに、本作は「実際に起きたことをほぼそのまま再現しているだけ」なので、”本当の日常描写”が延々続いてるんですよ(そりゃ退屈だわw)。

じゃあ、この映画は駄作なのか?というと、それも違うと思うんですよね。たとえば、僕が『15時17分、パリ行き』を観て「おお!」と感じた場面はラストシーン。

この手の「実話もの」は「エンドロールで本人の映像が流れる」っていうのがお約束で(『ハドソン川の奇跡』でもあったけど)、普通はそういうシーンが出てきた瞬間に「ああ、こっちが本物(現実)ね。今まで観ていたのは作り物か」と再認識させられるんですよ。

もちろん、それでガッカリするわけじゃないし、そもそも最初からわかっていることなので何の問題もないんですが、少なくともその時点で「虚構」と「現実」がはっきりと分断されるわけじゃないですか?

ところが『15時17分、パリ行き』の場合は、ラストに当時のニュース映像が流れ、3人が本物のフランス大統領と並んでいるシーンが映っても、劇中の彼らがそのまま出てるんですよ(当たり前だけど)。

つまりこの瞬間、「虚構」と「現実」が分断されることなくシームレスで繋がってるんですよね。この感覚はいったい何なのか?と。

映画の本編はドキュメンタリーではなく、あくまでも「本人が演じた作り物」にすぎません。にもかかわらず、一つの映画の中で「虚構」と「現実」がいつの間にか融合しているという曖昧さ。

そういう”奇妙な感覚”こそがまさに、『15時17分、パリ行き』の大きな特徴であり、他の映画にはない画期的な部分だと思います(クリント・イーストウッド監督が最初からこういう効果を狙っていたのかどうかは分かりませんが)。


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ジョン・ウー監督『マンハント』(ネタバレ)

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ジョン・ウー監督の最新作『マンハント』は、高倉健主演の日本映画『君よ憤怒の河を渉れ』(1976年)のリメイクです。

『君よ憤怒の河を渉れ』は過去に中国で大ヒットを記録しており、さらにジョン・ウー監督も高倉健の大ファンで「いつか健さんの映画をリメイクしたいと思っていた」とのこと。

ちなみに『男たちの挽歌』でチョウ・ユンファがサングラスと黒のコートを着ているのは、高倉健の『網走番外地』シリーズや『ならず者』の影響だそうです。

また、ジョン・ウー監督は小林旭のファンでもあり、小林旭が主演した日本映画をたくさん観ていて「日本で映画を撮ることが長年の夢だった」らしい。そのため、本作はなんとオール日本ロケが実現!夢がかなって監督は大喜びしたとか。

ただし、当初はオリジナル版と同じく東京を舞台に設定していたものの、撮影許可が思うように下りず、大阪に変更されてしまいました(『ブラック・レイン』と同じパターンですねw)。

しかし、大阪府や役所の人たちは非常に協力的で、通常は許可が下りにくい駅の中や線路上でのアクションシーンも「近鉄が許可してくれたおかげで撮影できたよ」と監督も喜んでいたそうです。

特に、堂島川(淀川が中之島で分岐し、南は土佐堀川、北は堂島川と呼ばれる)での水上バイクを使ったチェイスシーンが凄まじく、ジョン・ウー監督も「まさか日本であんな凄いアクションが撮れるとは思わなかった。そもそも観光地なので、許可が下りたこと自体が奇跡に近い」と驚いたらしい。

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そんな『マンハント』で主演を務めた福山雅治さんは、英語のセリフに加えて初のガンアクション、さらに水上バイクも免許を取得して自ら運転するなど、苦労の連続だったそうです。

中でも言葉の問題が最も大きかったらしく、まず中国語で上がってきた台本を翻訳家が日本語に訳し、それを脚本家が適切なセリフに書き替え、さらに翻訳家がもう一度中国語に戻して監督がチェック。

そして監督から「いや、違う。これではセリフが長い」と言われると、また中国語から日本語へ翻訳し直して…というやり取りがずっと続いたらしい。うわ〜、大変だなあ(-_-;)

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また、香港の映画界は昔から「現場で段取りがどんどん変わる」ことでも有名で、今回ジョン・ウー監督の映画に初めて参加した池内博之さんも「キャスティングされた時は”福山さんを追う刑事”という役だったのに、いつの間にか”製薬会社の次期社長”になっていた」と困惑気味(笑)。

ちなみに社長役の國村隼さんは、チョウ・ユンファ主演の『ハード・ボイルド/新・男たちの挽歌』に出演して以来、ジョン・ウー監督と非常に仲が良く、「今度日本で映画を撮るから出てくれない?」と直接頼まれ、脚本も読まずにOKしたそうです(^^;)

さて、ジョン・ウーといえば『男たちの挽歌』シリーズで一世を風靡した監督であり、ハリウッドへ渡ってからもジョン・トラボルタとニコラス・ケイジ主演の『フェイス/オフ』や、トム・クルーズ主演の『MI:2』など、ヒット作を連発しました。

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その最大の特徴と言われる”ガンアクション”は、もちろん『マンハント』でも健在です。冒頭から女性二人が華麗な2丁拳銃でヤクザを瞬殺!チャン・ハンユー演じる弁護士と福山雅治との格闘場面では白いハトが飛び、中盤からクライマックスにかけても激しい銃撃戦のつるべ打ち!

ただし、香港やハリウッドで撮影していた時は本物の銃を使っていましたが、今回はオール日本ロケなので当然ながら実銃は使えません。しかし、市販のモデルガンやガスガンなのに、ジョン・ウーが撮るとカッコよく見えてしまうんですよ。それが凄い!

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CGでマズルフラッシュを合成したり、電気着火式のプロップガンを使ったり、やり方自体は日本の撮影方法と変わらないのに、どうしてこんなに迫力が違うのか?その秘密は”マルチカメラ”にあるという。

通常、日本の撮影ではカメラは1台ですが、ジョン・ウー監督は常に3台のカメラを同時に回してるんですよ。福山さん曰く、「アクションシーンを3台のカメラで撮ると、手元と顔と全体を一気に撮れるので効率がいい」とのこと。

そして(『男たちの挽歌』などもそうですが)ジョン・ウー作品のガンアクションを見ると、複数のカメラで撮った映像を編集で巧みに繋ぎ合わせ、実に見事な効果を生み出していることがわかります。

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つまり、マルチカメラで撮影した大量の映像素材を編集技術で自在に組み合わせ、通常速度やスローモーションなど緩急を適切にコントロールすることによって、迫力満点の素晴らしいガンアクションを作り上げていたんですね。

というわけで、内容的には色々アレな部分もありますが(笑)、「日本を舞台にした本格ガンアクション映画」としては見どころが多く、また「福山雅治が激しい銃撃戦を繰り広げる」という点においても極めて価値がある作品と言えるでしょう(^.^)


映画映画ベストテン!

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どうも、管理人のタイプ・あ〜るです。

いよいよ2018年も残すところ後2週間ほどになりましたが、皆さんいかがお過ごしでしょうか?

さて、毎年この時期になるとワッシュさん(ブログ「男の魂に火をつけろ!」の管理人様)が「好きな映画ベストテンを選ぶ企画」というのを主催していて僕も数年前から参加してるんですが、今年も参加させていただきますよ。

男の魂に火をつけろ!

で、今回のテーマは「映画映画ベストテン」になったようです。ん?いつもは「戦争映画」とか「SF映画」なんですが、はて「映画映画」とはいったい…?

これは、映画そのものをテーマにした映画や、映画俳優・監督・スタッフ・映画ファンが主人公の映画、映画製作にまつわるドキュメンタリーやメイキングなど、「映画について扱っている映画」という意味だそうです。

例えば、今年は『カメラを止めるな!』が大ヒットしましたが、あれも「ゾンビ映画を撮影中の俳優やスタッフたちが本物のゾンビに襲われる」という内容だったり(本当はもうちょっと入り組んでるんですけど)、要はそういう”メタ的な視点”を持っている映画ということですね。

ただ、『カメラを止めるな!』があまりにも面白すぎて、「これがたぶん1位じゃないかな〜」という気持ちが否めない(総合的な面でもダントツに面白いと思う)ので、今回は敢えて『カメラを止めるな!』を外してみました。というわけで、僕のベストテンは以下のような感じになってます。


1.アルゴ

「6人のアメリカ人をイランから脱出させるためにCIAが架空のSF映画をでっちあげる」という、どう考えてもフィクションとしか思えない実話を映画化した本作。

『アルゴ』というのはつまり、”存在しないSF映画のタイトル”なんですが、普通に考えればコメディになりそうな設定を、スリリングなサスペンス映画に仕上げたところが面白い。

内容的にも非常にクオリティが高く、第85回アカデミー賞にて作品賞、脚色賞、編集賞を受賞しました。監督はあのベン・アフレックなんですが、俳優よりもこっちの方が向いてるんじゃないの?と思ったり(笑)。


2.マルホランド・ドライブ

巨匠デヴィッド・リンチ監督が「ハリウッドのダークサイドを描きたい」と取り組んだ本作ですが、正直言ってストーリーはよくわかりません(笑)。

しかし、「よくわからない」ということ自体が本作の面白さでもあるわけで、何回観ても「あれはどういう意味なんだろう?」と疑問が尽きない映画っていうのは、ある意味「何度でも楽しめるお得な映画」と言えるんじゃないかな〜と思います(^.^)


3.地獄でなぜ悪い

本作は、園子温監督が自主製作映画を撮っていた時代の自らのエピソードを映画化したという点において「極めて私的な映画」であると同時に、「映画青年の映画愛を描いた青春ドラマ」という点においても画期的だと思います。

「映画を撮影中に小学生にバカにされた」とか、「女の子の誘いに乗ったら実はヤクザの娘で、事務所に連れて行かれて殺されそうになった」という破天荒なシチュエーションも全部監督の実体験らしい(^^;)

長谷川博己、星野源、二階堂ふみ、國村隼、堤真一、坂口拓、友近、成海璃子、でんでん、岩井志麻子、水道橋博士、ミッキー・カーチス、江波杏子、板尾創路など、参加した面子もすごい。


4.ロスト・イン・ラ・マンチャ

テリー・ギリアム監督といえば、『未来世紀ブラジル』ではストーリーの結末をめぐって映画会社と対立したり、『バロン』では予算が超過しすぎて完成が危ぶまれたり、毎回色んなトラブルに振り回されているイメージですが、本作は「そのトラブル自体を映画化したドキュメンタリー」なのですよ。

ギリアムは1998年頃からドンキホーテを主人公にしたファンタジー映画を撮りたいと企画を練り、2000年にようやくクランクインしたものの、撮影初日から次々とアクシデントが勃発し、とうとう制作中止の決断を余儀なくされました。

本作では、その間のテリー・ギリアム監督の苦悩や焦燥や絶望を余すことなく描いており、「映画の制作がダメになっていく過程」を観ることが出来るという点においても貴重な資料と言えるでしょう。


5.ファンボーイズ

余命3か月の宣告をされたスター・ウォーズファンの友人のために、スカイウォーカーランチに侵入して公開前の『エピソード1』を見せようと奮闘するオタクたちの姿を描いたコメディ映画です。

『エピソード1』が公開される直前の盛り上がりたるや、それはもう本当に凄まじく、「『エピソード1』を観るまで死ねない!」と思っていたファンも実際にいたでしょうけど、いざ公開されたら微妙なリアクションに…という部分も含めて楽しめる作品ですよ(^^;)


6.キャノンフィルムズ爆走風雲録

チャック・ノリスの『地獄のコマンド』、チャールズ・ブロンソンの『スーパー・マグナム』、ジャン=クロード・ヴァンダムの『キックボクサー』、シルヴェスター・スタローンの『コブラ』や『オーバー・ザ・トップ』など、80年代にこういう映画ばっかり量産していた「キャノンフィルムズ」という映画会社のドキュメンタリーです。

イスラエルの小さな田舎町で映画を作っていたメナヘム・ゴーランと、同じく映画が大好きな従弟のヨーラム・グローバスは、夢を求めてハリウッドへ進出すると次々とヒット作を生み出し、50万ドルで設立した会社の時価総額をたったの7年で10億ドルにまで高めました。

しかし、やがて映画の製作費がどんどん高騰し始め、逆に興行成績はどんどん下がっていくという悪循環に…。このドキュメンタリーはそんな紆余曲折を描きつつ、メナヘム・ゴーランとヨーラム・グローバスの絆も描写しているところが良かったです。


7.桐島、部活やめるってよ

第36回日本アカデミー賞で最優秀作品賞、最優秀監督賞、最優秀編集賞の3部門を受賞した傑作青春映画。ポイントは主人公たちで劇中で撮っている自主制作映画『生徒会・オブ・ザ・デッド』で、「やはり自主制作映画といえばゾンビだよなあ」と(笑)。


8.SUPER8/スーパーエイト

製作:スティーブン・スピルバーグ、監督:J.J.エイブラムスの最強コンビが作ったSF映画で、全体に漂う『E.T.』っぽい作風など、エイブラムス監督の「スピルバーグ・リスペクト」が目一杯詰まってますよ。なお、本作も主人公たちは自主制作ゾンビ映画を撮っています(笑)。

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9.ホドロフスキーのDUNE

フランク・ハーバートのSF小説『DUNE』を映画化するために、錚々たるキャストとスタッフを集め、莫大な予算と数年に及ぶ準備を費やした挙句、とうとう企画がポシャってしまったアレハンドロ・ホドロフスキー監督の『DUNE』。

本作は、そんな実現しなかったホドロフスキー版『DUNE』について、関係者の証言や”幻の絵コンテ”などの貴重な資料を公開しつつ、「もし映画が完成していたら…」と妄想を膨らませる、笑いと感動のドキュメンタリーなのです。

1975年、アレハンドロ・ホドロフスキー46歳(映画監督)、ミシェル・セドゥー28歳(映画プロデューサー)という2人の男は荒唐無稽で壮大な映画を企画した。撮影を前に頓挫したその作品は、「映画化不可能」と言われた小説、フランク・ハーバートの「DUNE」を原作に、そうそうたる面子をキャスト・スタッフに配し、莫大な予算と、12時間にも及ぶ上映時間を予定していたという。本作は、この“映画史上最も有名な実現しなかった映画"と言われ伝説となったホドロフスキー版『DUNE』の顛末を描いた爆笑と感涙のドキュメンタリーである。


10.イン・ザ・ヒーロー

映画界で活躍するスタントマンの姿を描いた作品。正直、ストーリー的には「ん?」と思うような部分もありますが、アクションの裏側を垣間見れる点が良かったですね。

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というわけで、僕のベスト10はこのような感じになりました。「映画について描いた映画」といえば、僕はメイキングが好きなのでドキュメンタリー作品がやや多くなってしまいましたが、まあこんなものかなと(^.^)


1.アルゴ(2012年 ベン・アフレック)

2.マルホランド・ドライブ(2001年 デヴィッド・リンチ)

3.地獄でなぜ悪い(2013年 園子温)

4.ロスト・イン・ラマンチャ(2002年 テリー・ギリアム)

5.ファンボーイズ(2008年 カイル・ニューマン)

6.キャノンフィルムズ爆走風雲録(2014年 ヒラ・メダリア)

7.桐島、部活やめるってよ(2012年 吉田大八)

8.SUPER8/スーパーエイト(2011年 J.J.エイブラムス)

9.ホドロフスキーのDUNE(2013年 フランク・パヴィッチ)

10.イン・ザ・ヒーロー(2014年 武正晴)

『ゲティ家の身代金』ネタバレ感想

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リドリー・スコット監督の最新作『ゲティ家の身代金』は、実際に起きた誘拐事件を元に作られたサスペンス映画です。

1973年、イタリア・ローマでアメリカ人のジョン・ポール・ゲティ三世が誘拐されました。やがて犯人から身代金が要求されるのですが、その額なんと1700万ドル!

実は彼の祖父は総資産50億ドルとも言われる石油王:ジャン・ポール・ゲティだったので、「そんな大金持ちならすぐに身代金を払うだろう」と犯人たちは考えたのです。

ところが、ジャン・ポール・ゲティは「洗濯代がもったいない」と言って自分でパンツを洗うぐらいドケチだったのですよ。

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まあ「金持ちほど無駄遣いをしない」という話も聞きますが、なんとゲティ氏は「身代金が高すぎる」と言って支払いを拒否したのです。えええ!?

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これを聞いたポールの母親のアビゲイル(ミシェル・ウィリアムズ)は「有名な絵画ならすぐ買うくせに!」と大激怒。ゲティ氏の豪邸を訪れて交渉しようとするものの、全く相手にしてもらえません。

さらに、ポールの友人たちが「わざと誘拐されたフリをして金をもらう計画を立てていた」と証言したため、警察から「狂言誘拐なんじゃないか?」と疑われてしまう始末。

そのせいで交渉が全く進展せず、何カ月も人質の世話を続けるはめになった誘拐犯たちは「話が違う!」とイラだち、とうとうポールをマフィアに売り飛ばしてしまいました。

凶悪なイタリアン・マフィアに監禁されたポールは脱出を試みますが、結局見つかって再び連れ戻され、片耳を切り落とされるという悲惨な事態に!

そして犯人は切り取った耳を新聞社に送り付け、「身代金を払わなければもっと酷い目にあわせるぞ!」と脅したのです。

それを知ったアビゲイルは「どうしよう…」と絶望的な気持ちになったものの、この記事が掲載された新聞1000部をゲティ氏に郵送。驚いたゲティ氏はとうとう「金を払う」と約束してしまいました。

というわけで本作は、「息子をさらわれた母親が身代金を捻出するためにドケチな祖父と対決する」という、ちょっと変わったサスペンス映画になっています。

普通、こういう映画は「人質を救出しようと頑張る警察の姿」とか「誘拐犯との緊迫感溢れるやり取り」などが見どころなんですが、そういうシーンはほとんどありません。

一応、マーク・ウォールバーグ演じるチェイスが元CIAという経歴なので「スキルを活かして犯人を捜し出すのだろうか?」と思いきや、特に事件解決の役には立たないんですよねえ(笑)。

面白いのは、ゲティ氏が身代金を払うまで数カ月かかったため、その間に犯人グループの一人とポールが仲良くなってしまい、とうとう「俺はもう金なんかどうでもいい。ポールに死んでほしくないんだ!」とまで言い出すんですよ。

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この辺はどこまで事実なのかわかりませんが、「早く逃げろ!」と懸命にポールを助けようとする誘拐犯の姿に結構グッと来たりしました(でも身代金はしっかりもらってるんだけどw)。

ちなみにこの映画、当初はゲティ役をケヴィン・スペイシーが演じていて、一旦は全ての撮影が完了してたんですが、公開直前にスペイシーの「少年に対するわいせつ行為」が発覚し、なんと芸能界を引退してしまったのです。

当然、そのままでは公開することができず、かと言って公開予定日まで1カ月しかありません。「いったいどうすれば…」と頭をかかえる関係者たち。

しかしリドリー・スコット監督は「撮り直そう」と即決!すぐにクリストファー・プラマーを代役として起用し、ケヴィン・スペイシーの出演シーンを全て撮影し直したのです。それもたったの9日間で!

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映画を観た人はわかると思いますが、ゲティ氏の登場場面ってかなり多いんですよ。いくらリドリー・スコットが早撮りで有名とはいえ、あれだけの分量をわずか9日で撮り切るとは、驚くべき離れ業と言えるでしょう。

なお、この件に関してリドリー・スコット監督は以下のようにコメントしています。

クリストファー・プラマーのおかげで全然違う映画になった。ケヴィン・スペイシーが演じたゲティはひたすら冷酷なだけだったが、プラマーには心の奥に隠した温かさ、寂しさ、人間味がある。ユーモアもね。おかげで、本当に哀れな男としての深みが出たよ。

ちなみに、再撮影ではリドリー・スコットやミシェル・ウィリアムズが1000ドル以下の安いギャラで協力していたのに対し、マーク・ウォールバーグだけ150万ドルももらっていたことが発覚。

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そのせいで世間から猛烈な批判を浴びたマーク・ウォールバーグは、再撮影のギャラ150万ドルをセクハラ撲滅運動「Time's Up」の募金に全額寄付するはめになったそうです(^^;)

2018年に観た映画

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新年明けましておめでとうございます!

…ってメッチャ遅いですね、すみません(-_-;)


さて、去年も色んな映画を観たんですが

記事に書いてないから忘れちゃうんですよねえ(苦笑)。

なので、タイトルだけざっくり書き出してみました。



『キングスマン:ゴールデン・サークル』

『レディ・ガイ』

『ネイビーシールズ ナチスの金塊を奪還せよ!』

『悪女/AKUJO』

『空海』

『マジンガーZ / INFINITY』

『ジオストーム』

『ザ・シークレットマン』

『ガーディアンズ』

『サリュート7』

『デトロイト』

『ダークタワー』

『スリー・ビルボード』

『スリープレス・ナイト』

『グレイテスト・ショーマン』

『マンハント』

『ちはやふる-結び-』

『犬猿』

『リメンバー・ミー』

『シェイプ・オブ・ウォーター』

『15時17分、パリ行き』

『ブラックパンサー』

『トゥームレイダー ファースト・ミッション』

『ヴァレリアン 千の惑星の救世主』

『トレイン・ミッション』

『ペンタゴン・ペーパーズ』

『レッド・スパロー』

『ジュマンジ/ウェルカム・トゥ・ジャングル』

『パシフィック・リム: アップライジング』

『いぬやしき』

『レディ・プレイヤー1』

『アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー』

『アイ,トーニャ 史上最大のスキャンダル』

『ホース・ソルジャー』

『機動戦士ガンダム THE ORIGIN 誕生 赤い彗星』

『孤狼の血』

『GODZILLA 決戦機動増殖都市』

『ランペイジ 巨獣大乱闘』

『犬ヶ島』

『ゲティ家の身代金』

『オーシャンズ8』

『デッドプール2』

『空飛ぶタイヤ』

『万引き家族』

『ニンジャバットマン』

『カメラを止めるな!』

『ハン・ソロ/スター・ウォーズ・ストーリー』

『バトル・オブ・ザ・セクシーズ』

『ジュラシック・ワールド/炎の王国』

『未来のミライ』

『ミッション:インポッシブル/フォールアウト』

『インクレイディブル・ファミリー』

『アントマン&ワスプ』

『検察側の罪人』

『MEG ザ・モンスター』

『ザ・プレデター』

『スカイスクレイパー』

『愛しのアイリーン』

『クワイエット・プレイス』

『若おかみは小学生』

『フリクリ オルタナ』

『フリクリ プログレ』

『イコライザー2』

『スカイライン 奪還』

『ヴェノム』

『ボヘミアン・ラプソディ』

『ボーダーライン:ソルジャーズ・デイ』

『スマホを落としただけなのに』

『へレディタリー/継承』

『アリー/スター誕生』

『来る。』

『こんな夜更けにバナナかよ』



だいたいこんな感じでしょうか(いくつか抜けてるかも)。

去年は『劇場版コード・ブルー』が大ヒットしたんですが、

映画ファンの間では完全にスルーされてて

一般の観客との温度差がすごかったですね(笑)。


そういう意味では、『ボヘミアン・ラプソディ』なんかは

飲み屋でも普通の人と「観た?」「観たよ」などと会話できるので

個人的には非常に助かりました(?)。


『ペンタゴン・ペーパーズ』と『ザ・シークレットマン』は

同じ物語の前後編みたいな感じで良かったです。

特に『ザ・シークレットマン』は

「いつリーアム・ニーソンが暴れ出すんだろう…?」

と違う意味でドキドキしたりして(笑)。


あとはやっぱり『カメラを止めるな!』かなあ。

ヒットの仕方も特殊だし、内容もメッチャ面白いし

一番印象に残った映画でしたね。


ただ、早くも金曜ロードショーで放送するらしいんですよ。

ついこの間、ブルーレイが発売されたばかりなのに。

普通、劇場公開終了から最低1年は空けると思うんだけど…

まあ大勢の人に観てもらえるからいいのかな〜。

激安DVDを買ってきた

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最近、近所の古本屋が攻めまくっている。


全国展開している例の有名チェーン店なんだけど、週末になると「コミック全品50%オフ」とか、頻繁に何らかのセールを実施しているのだ。

今日は「500円以上の本が全品500円均一!」というセールをやっていた。
どういう内容なのか?というと、例えば値札に1,000円と表記されている本がレジで500円になる、という意味だ(税込で)。

しかしこれ、高い本になればなるほど店側にとって損じゃないのか?と気になったので店員に聞いてみた。

僕:「あの〜、このセールって値段の上限はないの?」
店員:「はい、ありません」
僕:「1万円の本を買っても500円ってことですか?」
店員:「そうです」

すごいセールだ。正気の沙汰とは思えない。
しかし、よく店内を見てみたら、そもそも3,000円以上の本があまり置いていないので、そこまで大変なことにはならないのだろう(ちなみに専門書や写真集みたいな本は対象外)。

結局、色々物色して3,000円分(6冊)の古本を購入した。家に帰って定価を確認したところ、合計12,740円程だった(かなりのお得感である)。
ただ、こういうセールは値段に釣られて大して欲しくもない本まで買ってしまうこともあるので、注意が必要かもしれない。

なお、店内には中古DVDのコーナーがあって普段は古本よりもそっちをチェックしてるんだけど、最近になって「100円DVD」のコーナーが出来ているのを発見(厳密に言うと100円から300円まで値段は色々)。

「500円DVD」は以前からあったのだが、円盤のデフレ化がどんどん進行してるってことなのだろうか?というわけで、今回は本と一緒に以下のDVDをゲットした。


●『デイ・アフター・トゥモロー』2枚組特別編 100円


●『マイノリティ・リポート』2枚組特別編 100円


●『X-MEN:ファイナルディシジョン』2枚組特別編 100円


●『ファイト・クラブ』プレミアム・エディション 150円


正直、上の3本は「まあ、こんなもんだろう」という感じなのだが、『ファイト・クラブ』がこの値段で売られていたのは意外だった。傑作映画だと思うんだけど…

ファイト・クラブ プレミアム・エディション〈特別限定版〉 [DVD]
20世紀 フォックス ホーム エンターテイメント (2000-12-01)

※ちなみにAmazonを見てみると中古品が78円とかで売られているので、相場としてはこの程度なのかもしれない

●『セブン』プラチナム・エディション 200円


これまた安い。しかし商品の状態はいいし、ディスク2枚組で特典映像が130分もあるし、非常に素晴らしいソフトなのにこの値段。解せぬ。

●『Mr.&Mrs.スミス』プレミアム・エディション 250円


なぜかブラッド・ピットの出演作が軒並み安くなっているような気が…。なぜだ!?


●『ブラックホーク・ダウン』コレクターズ・ボックス 500円


これは500円コーナーで見つけたんだけど、500円でも全然安い。ディスク3枚組で、特典ディスク1には約3時間20分、ディスク2には約3時間53分のメイキング映像が収録されている(正直、特典が多すぎて全部観れる気がしないw)。


●『ミッドナイトイーグル』プレミアム・エディション 250円


この作品に関しては、人気度や世間の評価を考えても「まあ妥当な価格かな」という感じである(笑)。ただ、商品の状態が非常に綺麗で、パンフレットの縮刷版が付いている等「250円にしては満足度が高い」と言えるだろう。


というわけで、DVDの代金は1,450円プラス消費税116円=計1,566円。
古本と合わせて今日は4,566円も使ってしまった。でも、後悔はしていない(好きな映画を買えたから)。
敢えて不安点を挙げるなら、観てないDVDがどんどん溜まっていくということか。いつ観ようかなあ…(^^;)

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鈴木敏夫、高畑勲について語る

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最近、以下の記事が話題になっていたので読んでみた。


鈴木敏夫が語る高畑勲


いや〜、これはすごい!

今年4月に亡くなった高畑勲監督について、ジブリのプロデューサーの鈴木敏夫氏が過去のエピソードを交えながら「高畑勲と付き合うことがいかに大変だったか」を語っているのだが、どれもこれも凄まじい内容ばかりで戦慄させられること間違いなし!

「高畑監督は良い作品を作るために多くの人を壊してきた」と告白し、『火垂るの墓』などで作画監督を務めたアニメーターの近藤喜文氏が「高畑さんは僕を殺そうとした」と泣きながら訴えたとか、恐ろしい逸話が満載だ(なお、近藤喜文氏は高畑監督と仕事をした後、47歳の若さで亡くなっている)。

まあ、具体的な内容は実際に本文を読んでもらうとして、今回はこの記事に書かれていること以外の「高畑勲監督が行った数々の驚くべき所業」についてざっくりと書いてみたい。



鈴木氏が高畑監督と組んで作った映画は『火垂るの墓』『おもひでぽろぽろ』『平成狸合戦ぽんぽこ』『ホーホケキョ となりの山田くん』『かぐや姫の物語』の計5本。

しかし、その全てで「監督 vs プロデューサー」の激しい戦いが繰り広げられ、1作目の『火垂るの墓』では高畑監督のこだわりが強すぎて制作が大幅に遅れ、ついに未完成のまま映画を公開する非常事態となってしまう。

2作目の『おもひでぽろぽろ』の時にはさらに遅延状態が悪化し、とうとう宮崎駿が「高畑監督の方針に従って映画を作っていたら絶対に公開日まで間に合わない!今すぐやり方を変えろ!」と大激怒。

高畑監督は人物のリアルな動きにこだわり、極めて繊細な作画を指示していたのだが、そのやり方では「いつまで経っても終わらない」というのだ(ちなみに、宮崎監督はこの時あまりにも大声で怒鳴ったため体の震えが止まらなくなり、その後3日間眠れなかったらしい)。

3作目の『平成狸合戦ぽんぽこ』の時には、さすがに鈴木氏も「今まで通りではダメだ」と考え、本当は夏の公開なのに「春に公開します」と”嘘の予定日”を高畑監督に伝える作戦を実行(わざと締め切りを三カ月前倒しした)。

ところが「これで間に会うだろう」と思っていたら、なんと高畑監督は春の締め切りを余裕でぶっちぎり、サバを読んだはずの「夏公開」にも間に合わないという想定外の事態が勃発!

これには鈴木氏も困り果て、監督と相談した結果、絵コンテから10分カットすることで作業を短縮し、何とか解決。しかし、それから数カ月間、高畑監督から毎日「鈴木さんがカットしたせいで映画がガタガタになった」と言われ続けるはめに…(鈴木氏曰く「ノイローゼになりそうだった」とのこと)。

そして4作目の『ホーホケキョ となりの山田くん』の頃になると、もはや鈴木氏も開き直り、「製作は順調に遅れています」という自虐的な予告編をバンバン流す有様。

さらには宣伝のキャッチコピーまで「日本の名匠、高畑勲監督の”とりあえず”の最高傑作誕生!テーマは適当(てきとー)」という、かなりふざけた感じになってしまった。

こうした宣伝方針に対して、高畑監督は一切文句を言わなかったものの、スタッフとして参加していた某ベテランアニメーターが「『もののけ姫』であれほど真面目に”生きろ”って言ってた人が、今回は”てきとー”ってどういうことですか!?」と真剣な顔で抗議に来たらしい。

そして遺作となった『かぐや姫の物語』。鈴木氏が関わった5作品の中では最も難産で、完成までなんと8年を費やし、製作費も50億円(劇場用アニメとしては日本映画史上最高額)を突破するなど、多くのスタッフが苦労を強いられた超大作映画である。

例によって現場ではトラブルが続出し、あまりにも仕事がキツすぎてアニメーターから苦情が出るわ、高畑監督は脚本をなかなか書かないわ、絶望的な制作進捗表を見せられた鈴木敏夫氏は「吐き気がする」と言ってトイレに駆け込むわ、ムチャクチャな状況だったらしい(詳しい内容は下の記事をご覧ください↓)。


スタッフ号泣!高畑勲監督『かぐや姫の物語』の舞台裏が凄すぎる!


というわけで、今回の鈴木氏の告白を読んだ多くの人が衝撃を受けたらしく、「高畑勲ってこんなにひどい人だったのか」「完全にブラック企業じゃん!」などの批判が殺到している模様。

しかしその一方、高畑監督が生み出したアニメーション作品における表現の革新性や、後進のクリエイターたちに与えた影響の大きさは計り知れないものがある。

富野由悠季監督は「『アルプスの少女ハイジ』や『母をたずねて三千里』や『赤毛のアン』のような作品が先になければ、日本のアニメは絶対に今の形にはならなかった。僕が『機動戦士ガンダム』に辿り着けたのも高畑作品で修業したおかげ。それは認めざるを得ない」とコメント。

また安彦良和も「個人的には、高畑さんの最良の仕事は『母をたずねて三千里』だと思っている。当時”TVのリミテッドアニメでもやり方次第でこんなにクオリティの高いものが出来るんだ”ということを見せつけられ、本当にショックを受けた。今でも、3カットくらい見ただけで涙が出そうになる」と告白。

他にも多くの映画監督やアニメ業界関係者からその功績を認められており、人物に対する批判と作品に対する称賛が、くっきりわかれているのが興味深い。果たして高畑勲監督の評価はどちらが正しいのだろうか?


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「好きな女優を見るために映画館へ行く男性はいない」って本当?

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どうも、管理人のタイプ・あ〜るです

先日、以下の記事が話題になっていたので読んでみました。


何で男の人は好きな女優の映画を見に行かないのだろう


NTTコムが実施したアンケート調査によると、女性客はどの映画を観るか決める際、「自分の好きな俳優やタレントが出演している」という理由で選ぶパターンが圧倒的に多いらしい(ほぼ1位を独占↓)。

一方、男性客は好きなジャンルや好きな原作の映画化、好きなシリーズの続編などを求めるパターンが多く、好きな女優さんを目当てに映画を観に行く人はほとんどいないようです。

かなり明確に意見がわかれているようですが、この差はいったいなぜなのでしょう?

映画が娯楽の王様だった昭和初期の時代は、高倉健三船敏郎石原裕次郎吉永小百合原節子高峰秀子など、「好きな映画スターを見るために映画館へ行く」という風潮が確かにあったと思います。

当然、この頃には男女の差は見られません。「テレビが一般に普及していなかった」という事情はあったにせよ、元々「映画とはそういう娯楽(スターを見ることが目的)だった」からでしょう。

そして僕の個人的な経験で言うと、この傾向は1980年代の頃にもまだあったような気がします。当時、映画界に新規参入したばかりの角川映画は、薬師丸ひろ子原田知世など魅力的な新人女優を次々とデビューさせており、薬師丸ひろ子が出ているから『セーラー服と機関銃』を観に行こう!」というファンも大勢いたのですよ。

ところが90年代後半になると、『タイタニック』や『アルマゲドン』みたいな超大作映画が次々と公開され、観客の興味は「作り込まれた派手な映像」へとシフトしていきました。

97年に大ヒットした『タイタニック』の場合も、女性客が当時人気スターだったレオナルド・ディカプリオを見て歓声を上げていたのに対し、男性客は豪華絢爛かつ迫力満点の映像効果に圧倒されたのです。

もちろん「ヒロインのケイト・ウィンスレットを目当てに観に行った」という男性客もいたでしょうけど、一般的な傾向としてはNTTコムの調査結果の通りなのではないかな〜と(つまり、女性の観客は好きな俳優を見るために映画館へ行く場合が多い)。

ただ問題は、近年の日本映画がこういうデータを重視しすぎて、「女性客を呼び込むためには、女性に人気のある役者やアイドルを起用すればいいじゃん!」みたいなパターンがどんどん増えている、という点でしょう。

そのため、映画ファンの中には「邦画は女性客の好みばかりを優先するから海外で受けないんだ!」「映画の質がどんどん下がっている!」と考える人まで現れているらしい↓


映画館の男女別の客のデータは正直見ないほうがいい


まあ、この意見が合っているかどうかはともかく、多くの映画館でメンズデーが廃止されてレディースデーだけになっているのは今後の映画界のことも考えて、どうにかして欲しいなあと思いますね。

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『メアリと魔女の花』はこうして生まれた

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本日「金曜ロードSHOW!」で『メアリと魔女の花』が放送されます。ちなみに今月の金ローは『ハウルの動く城』、『となりのトトロ』、『猫の恩返し』を連続で放送しているので、本作も「スタジオジブリの作品?」と思っている人がいるかもしれません。

でも、このアニメは『借りぐらしのアリエッティ』や『思い出のマーニー』を作った米林宏昌監督の3作目であると同時に、ジブリ解散後、新たに立ち上げたスタジオポノックの第1作として、満を持して制作された長編映画なのです。

米林宏昌監督といえば、2014年7月に『思い出のマーニー』が公開され、35億円の大ヒットを記録したものの、前年に宮崎駿監督が引退を表明していたため、残念ながら『マーニー』が(現時点で)スタジオジブリ最後の作品となってしまいました。

実は、ジブリのプロデューサーの鈴木敏夫さんは「高畑勲監督の『かぐや姫の物語』が完成したら、ジブリを解散しよう」と考えていたそうです。その発端は宮崎監督の発言らしい。

鈴木さんによると「宮さんは『風立ちぬ』を作っている頃から引退を決めてたんです。で、宮さんの方から”スタジオを休止しよう”って話を持ち出して来たんですよ。色んな意味でアニメの制作が難しい状況になっていたし、僕としても宮さんの意向に反対するつもりはなかったので」とのこと。

こうして2014年8月に制作部門の休止を発表。ちょうどその頃、米林監督は『思い出のマーニー』の宣伝キャンペーンで全国を回っていたのですが、スタジオに帰って来たらもう誰もいなくなっていたそうです。

ガランとした室内を見て米林監督は思いました。「とにかく次の映画を作らねば…!」と。その後、『マーニー』のプロデューサーを務めた西村義明さんと居酒屋で”新しいアニメスタジオ”について話し合い、2015年4月にスタジオポノックを設立したのです。

こうして新作映画の企画を考え始めたわけですが、実は米林監督も西村さんも、1本の映画を企画から立ち上げた経験がありませんでした(今までは宮崎監督や鈴木さんから「これをやれ」と言われてやっていたので)。

そこでまず米林監督は、以前からアニメ化したいと考えていたメーテルリンクの『青い鳥』を提案。しかし「冒頭に、帽子に付いた小さなダイアモンドを回すと部屋の中のあらゆるものが動き出すという場面があって、卵とパンと砂糖がお供になるんです。”こういうのいいなあ、描きたいなあ”と思って企画を進めていたんですが、なかなか上手くいかなくて…」などと難航。

何度も検討を重ねているうちに時間がどんどん過ぎて行ったため、西村さんが一つの本を見つけて来ました。それがメアリー・スチュアートの児童小説『小さな魔法のほうき(原題:The Little Broomstick)』だったのです。しかし当初、西村さんから本の内容を聞いた米林監督は拒否反応を示しました。「主人公は魔法使いの女の子で、ホウキに乗って空を飛んで、黒猫が友達って……それ完全に『魔女の宅急便』じゃないですか!」と(笑)。

同じ題材を扱ったら、必ず宮崎監督と比較されてしまう。それだけは嫌だ!と拒んだ米林監督でしたが、西村さんは「いや、むしろそれがいい!」と強引に推し進め、「魔女、ふたたび。」という明らかに『魔女の宅急便』を意識したキャッチコピーまで考え出す有様。

結局、渋々西村さんの提案を受け入れ、絵コンテを描き始めた米林監督ですが、いざとなったら「『思い出のマーニー』が静かな語り口だったので、今度は思い切り動き回る冒険ファンタジーで行こう!」とノリノリになったらしい(笑)。

ただ、米林監督が盛り上がったことで作画的に難しいシーンが次々と絵コンテに描き込まれ、現場のハードルはどんどん上がっていきました。

絵コンテは2016年7月に完成したものの、その時点で2017年7月の公開が決定していたため、「こんな大変なアニメをたったの1年で作れると本気で思ってるんですか!?」とスタッフから批判が殺到。その時の様子を西村さんは以下のように語っています。

大勢のスタッフが真顔で僕のところへ詰め寄って来ました。でも、そこに嬉しさもあったんですよ。高畑さんもそうですが、現場に迷惑をかけるのは良い作品を作る必須条件ですらあると思うんです。もちろん、現場にとっては悪夢でしょう。でも監督の熱量やこだわりを感じられないような映画だったら、それこそが悪夢です。今回、動物が大脱走するシーンのコンテを見て、僕自身「これ本当に完成するのかな?」と不安になりました。でも結果として映画は完成し、そのシーンは素晴らしい仕上がりになったんです。

なお、本作で作画監督を務めた稲村武志さんは『千と千尋の神隠し』や『ハウルの動く城』など数多くのジブリ作品で活躍したベテランアニメーターですが、そんな稲村さんですら本作のプロジェクトは「無謀だ」と感じていたらしい(以下、稲村さんのコメントより↓)。

絵コンテを見て「本当にやるの?」と思いました(笑)。ジブリのフルスペックと同等の作業量を、立ち上げたばかりのスタジオで本当にやれるのか?と。昨今の長編アニメはCGの力も借りて作画は5万枚前後と聞いていますが、『メアリと魔女の花』は10万枚近くあったんです。アニメーターも不足しているのに、どうやって実現しようかと悩みました。

かつてスタジオジブリの制作部門が稼働していた頃は、常時100人を超えるクリエイターが在籍していたので、いつでも長編アニメを作れる環境が整っていたそうです。

しかし制作部門を休止後、多くのアニメーターがフリーとなり、それぞれが仕事をかかえるようになると、再び彼らを呼び戻そうと思っても容易ではありません。

現在、アニメ業界は深刻な人材不足で、どこのスタジオもアニメーターを確保するのに必死だからです(優秀な原画マンは仕事の依頼が殺到し、2年先までスケジュールが埋まっているらしい)。

こういう状況で『メアリと魔女の花』を作れるのか…?作れたとしてもクオリティがボロボロになるんじゃないか…?そんな不安に包まれる中、ピンチを救ったのが元ジブリのアニメーターたちでした。

稲村武志、山下明彦橋本晋治、大塚伸治、田中敦子、百瀬義行、安藤雅司大平晋也橋本敬史山下高明、西田達三など(ジブリ出身でない人も混じってますけどw)、ちょっとやそっとでは集まらないような凄腕の原画マンが集結。

さらに、美術監督は新人の久保友孝ですが、『となりのトトロ』や『もののけ姫』で美術監督を務めた男鹿和雄や、『千と千尋の神隠し』や『ハウルの動く城』で美術監督を務めた武重洋二などが背景スタッフとして参加しているのが贅沢すぎる!

こうして、万全の体制で作業を開始したものの、いかんせん作画の分量が膨大すぎて、たちまち制作は難航。そんな状況を聞き付けた宮崎駿監督が米林監督のもとを訪ね、以下の手書きメモを渡したそうです。

絵コンテを見ました。お助け原画には打ち合わせや設定資料を見せても描けません。それで打開策。1.マロ(米林監督)がレイアウトを描く。2.カットのスタートから「こう動くべし」というラフ原画を描く(原画より少なくていい)。その上で打ち合わせして渡せば何とかなる。


自分(宮崎)にも何度か経験があるが、急場で一番作品世界を理解しているのは演出である。何が必要で何がなくてもいいと判るのも演出である。現実に僕は『カリオストロ』から『もののけ』と急場をしのいできた。『カリオストロ』の時計塔の内部なんか、いくら打ち合わせしてもムダ。描いちまうのが一番速い。

このメモについて米林監督曰く、「まあ要するに”お前が描け”ってことなんですけど(笑)、これを読んで”いい加減なものは作れないな”と思いましたね」とのこと。

そんなこんなで、どうにか完成した『メアリと魔女の花』。キャスティングも杉咲花神木隆之介天海祐希小日向文世満島ひかり佐藤二朗渡辺えり遠藤憲一大竹しのぶ満島ひかりなど非常に豪華で、公開されるや33億円の大ヒットを記録しました。

ただし、観客の評価は賛否真っ二つにわかれたらしく、「とても楽しい映画でした」「まさに王道のファンタジー!」と絶賛する人から「キャラに魅力がない」「話も全然面白くない!」と酷評する人まで様々な意見が寄せられた模様。

特に、批判的な意見で多かったのが「過去のジブリ作品に似すぎている」というもので、参加メンバーのほとんどが元ジブリのクリエイターなので当然といえば当然なんですが、似ているが故に比較されてしまうことは避けられず、そうなると色々”足りないもの”が見えてしまったのでしょう。

そのせいで「宮崎アニメの劣化コピー」とか「ジェネリックジブリ」とか、厳しいコメントもチラホラと…(個人的にはエンドア大学の描写などが妙に薄っぺらく、架空の世界に説得力が感じられない点が残念でした)。

とはいうものの、スタジオジブリで長年作画を担当していたベテランのアニメーターたちが存分に腕を振るった映像表現は圧倒的に素晴らしく、「さすがだなあ!」と感心せざるを得ません。

現在、劇場ではスタジオポノックの短編アニメ『ちいさな英雄-カニとタマゴと透明人間-』が公開されていますが、次回作の長編映画がどんな作品になるのか楽しみです(^_^)


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『カメラを止めるな!』のネタバレはどこまでOKなのか?

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※今回の記事はネタバレしているので未見の人はご注意ください。


どうも、管理人のタイプ・あ〜るです。

さて、みなさんはもう『カメラを止めるな!』を観ましたか?この映画はわずか300万円の超低予算で作られ、キャストは無名の役者ばかり…という完全なインディーズ映画です。

ところが、たった2館の公開からスタートしたにも関わらず、SNSや口コミで人気に火がつき、あっという間に全国累計269館に拡大!観客動員120万人、興行収入16億円を超える大ヒットを記録しました。

いったいどうしてこんなに成功したのか?と言えば、もちろん「ものすごく面白いから」なんですけど、それだけではありません。本作を観たほぼ全員が「これは絶対にネタバレしちゃダメだ!」と口を揃えて言ってるからなんですよ。

普通、面白そうな映画を人に薦めるときは、ある程度ストーリーを説明したりするものじゃないですか?でも『カメラを止めるな!』の場合はそういうこともNG。完全に「ネタバレ厳禁映画」なのです。

”ネタバレ厳禁”とはすなわち、映画の構成自体に何らかのサプライズが仕掛けられていることを意味し、それをバラされると面白さが激減する…、要はそういう類の映画なんですね。

昔、ブルース・ウィリス主演の『シックス・センス』が公開された時も、「ネタバレ絶対ダメ!」と言われ、「何それ?」「どういう内容なの?」と気になった観客が劇場に押しかけ大ヒットしました。

つまり、人は「ネタバレするな」と言われると好奇心を刺激され、確認せずにはいられなくなってしまうわけですが、では”ネタバレ”とは、どの程度までがネタバレと定義されるのでしょうか?

僕が『カメラを止めるな!』を観て個人的に気になったのがこの部分で、人によってネタバレの許容範囲がバラバラなんですよ。

公式にアナウンスされているストーリーは「とある廃墟でゾンビ映画の撮影をしていたスタッフたちが本物のゾンビに襲われる」という、たったこれだけです。

これだけなら普通にゾンビ映画の一種ですが、もちろんこれだけではありません。映画を観た人ならご存知の通り、前半の「ゾンビ映画パート」が終わってからがむしろ”本編”なのです。

つまり『カメラを止めるな!』は厳密に言うとゾンビ映画ではなく、「ワンカットでゾンビ映画を撮ろうと悪戦苦闘しているスタッフたちの姿を面白可笑しく描いたコメディ映画」なんですね。

僕は事前情報をほとんど何も入れない状態で観に行ったので「なるほど!そういうことだったのか!」と楽しめたんですが、鑑賞後に映画評論家の紹介記事などを読んだら、この辺を普通にバラしちゃってるんですよ。

「いやいや、それはネタバレじゃないの?」と。

某映画解説者は「ゾンビ映画のパートには不自然な”間”とか変なシーンがいくつもあるけれど、実はそれらは伏線で、後半のシーンでもう一度撮影現場の様子を見せながら全部の伏線を回収していく」と本作を紹介していましたが、そこまで言っちゃっていいのかなあ?

たとえば僕が初めてこの映画を観た時、ゾンビ映画のパートで確かに不自然さを感じたものの、その時点ではまだどういう方向に話が転がるのか分からないから真剣に観てるわけですよ。

で、”最初のエンディング”が流れて「1カ月前」のテロップが出たところで初めて「ああ、そういうことか!」と映画の構造に気付いたわけです。もしこのネタが事前に分かっていたら、サプライズを1個損することになるんじゃないですかね?

一応、映画解説者の言い分としては、「予告編でもこの辺について触れているし、別にネタバレじゃないだろう」ってことらしいんですが、そもそも予告編自体がネタバレしてると思うんですよ。

通常、映画の予告編は”専門の会社”が作成するため、必ずしも監督の意図が反映されるとは限りません。もし上田慎一郎監督が予告編を作っていたら、そこまでは見せていなかったでしょう。そういう意味でも「どこからどこまでをネタバレの範囲に含めるか?」は難しい問題だと思います。

ちなみに先日、上田監督が報道ステーションに出演した際、番組中に流れた予告編を見て、「映画を観てない人は分からないと思いますが、今のはちょっと危ないですね〜」と微妙な表情をしていたのが印象的でした(笑)。

というわけで、『カメラを止めるな!』のネタバレについて色々考えてみたんですが、本作は「映画製作の裏側を描いたコメディ映画」という部分をネタバレされても十分に楽しめる作品であり、「笑って泣ける最高の娯楽映画」という本質に変わりはありません。

中でも僕が特に感激したのは、37分ワンカットの映像を本当にワンカットで撮っていることです。もちろん”長回し撮影”自体はよくある技法で、特に珍しいものじゃないんですよ。

でも、アルフレッド・ヒッチコックブライアン・デ・パルマみたいに「人物がカメラ前を通り過ぎるタイミングでこっそりカットを割る」とか、そういう”疑似ワンカット”を使っている監督もいる中、実際にワンカットで撮影したことの意義は大きいと思います。

上田監督自身、撮影前は「あまりにも大変だからカットを割って”ワンカット風”に編集しようか…」などと弱気になっていたそうですが、スタッフから「何言ってるんですか!ワンカットで撮りましょう!」と言われて腹を括ったらしい。

そこには、「俺たち金は無いけど”やる気”と”根性”だけは誰にも負けないぜ!」という熱い心意気みたいなものが感じられ、そういう作り手たちの情熱が単なるフィクションを超えた”ドキュメンタリー”としての面白さすら生み出していたと思うのですよ。

無名の俳優や若手のスタッフたちが、血だらけ汗だらけになって必死に映画を撮っているその姿は、完全に映画の内容とシンクロしてるんです。全員が一丸となって頑張る、そのひたむきな姿に感動せずにはいられません!いや〜、本当に素晴らしい映画でした(^_^)


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週末になると台風が来るので家で映画を観てました

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どうも、管理人のタイプ・あ〜るです。

大型台風が各地に甚大な影響を及ぼしている昨今、皆さんいかがお過ごしでしょうか?僕のところは幸いにも大した被害はなかったんですけど、雨風が強くて外に出られないので、家に引きこもって映画を観てました。

なんか最近、AmazonプライムビデオやNetflixなどの動画配信サービスが便利になりすぎて、外へ映画を観に行く頻度が減ってきてるんですよね。

以前は「大きなスクリーンで観なければ映画の本当の魅力はわからないぞ!」とか言ってたのに、今は「やっぱ家で観てると楽でいいな〜」などとすっかり堕落している有様(苦笑)。

理由の一つとして、近所の大手シネコンでやらないような「メジャー系以外の小規模な作品」をちょこちょこ観るようになったことがあると思います。

多くの映画館では「製作費300億円の超大作!」みたいなメジャー作品が話題になりがちですが、「低予算で目立たないけど良い映画」も当然あるわけですよ。大ヒットした『カメラを止めるな!』も、元々はたった2館の劇場からスタートしてますからね。

でも、残念ながらそういう映画はなかなか僕が住んでいるような田舎では上映されません(こういう”地域格差”を早くネットで解消してくれないかな〜)。

このため最近は、「少し前に公開された小規模な作品」をチョイスして家で観る機会が多くなっています(本当は映画館で観たかったんですけどね…)。

というわけで本日は、「決して超大作ではないけれど印象に残った小規模作品」をいくつかご紹介しますよ。



●『ゲット・アウト
つい最近、Amazonプライムビデオに入ってきたので観ている人も多いかもしれませんが、わずか450万ドルの低予算で作られたにもかかわらず、全世界で2億5000万ドル以上を売り上げ大ヒットしたホラー映画です。

本作の見どころは、なんと言っても”アカデミー脚本賞を受賞した見事なストーリー”でしょう。主人公の黒人青年が恋人の実家へ挨拶しに行くんですが、そこで「とんでもなく奇妙な出来事」に遭遇するんですよ。

ただし、「家に幽霊が出る」とか、「凶悪なモンスターが襲ってくる」とか、そういう派手な話ではありません。むしろ「何が起きているのかわからないけれど、言葉にできない違和感がずっと漂っている」という状況そのものが不気味で怖いのです。

一見すると良くある日常の風景なのに、その日常がジワジワと非日常に侵食されていく恐怖感がすごい!ちなみに僕は『ジョジョの奇妙な冒険』が大好きなんですが、『ゲット・アウト』を観て「荒木飛呂彦の漫画みたいな雰囲気だな〜」と思いました(^.^)


●『ファウンダー ハンバーガー帝国のヒミツ』
田舎の小さなハンバーガー屋を世界最大のファーストフードチェーン店に成長させたレイ・クロック。そんな彼の奮闘ぶりを描いたサクセスストーリーなんですが、普通はこういう成功物語の場合、すごく感動的な話になりそうじゃないですか?

ところが本作は、マイケル・キートン演じる主人公があまりにも”嫌なヤツ”に描かれているため、全然共感できないんですよね(とにかく「商売を成功させること」しか考えてない)。

しかしその一方、マクドナルド兄弟が経営していたハンバーガー屋に目を付け、強引な手法でフランチャイズ化を推し進めるレイ・クロックのビジネス戦略は「見事!」としか言いようがありません。

つまり本作は、「嫌な主人公がビジネスマンとしての才能を存分に発揮して次々と事業を拡大していく様子」が痛快で抜群に面白い映画なのですよ。なお、美味しそうなハンバーガーの映像が頻繁に映るため、観たあと必ず腹が減るのでご注意ください(^.^)


●『セブン・シスターズ
強制的な人口抑制が行われている近未来を舞台に、『ドラゴン・タトゥーの女』や『プロメテウス』のノオミ・ラパスが7つ子の姉妹を1人7役で演じるSFサスペンス映画です。

軽くネタバレすると、この映画では主人公が死にます。…みたいなことを書いたら「オイオイ、重要なネタバレじゃねえか!」と普通なら怒られるでしょうが、本作の場合は主人公が7人もいるので無問題(笑)。

そこが『セブン・シスターズ』の最大の特徴で、誰が死ぬのか(あるいは誰が生きるのか)というハラハラドキドキ感が最後までドラマを牽引し続けるのですよ。ウィレム・デフォーグレン・クローズなど、さりげなく役者が豪華なところもポイント高し(^.^)


●『エル ELLE
ロボコップ』や『氷の微笑』など、下品で暴力的で倫理観の欠落した映画ばかりを撮っている印象が強いポール・バーホーベン監督の最新作と聞いてワクワクしながら観たんですが、相変わらず下品で暴力的で倫理観の欠落した映画でした(笑)。

主人公のミシェルを演じたイザベル・ユペールはフランスの有名な女優さんで、65歳なんですけど非常に美しく、本作の中でも常にエロい感じで描かれています(アカデミー主演女優賞にノミネートされた)。

面白いのはミシェルのキャラクターで、自宅に押し入ってきた強盗にレイプされても「やれやれ」みたいな感じで平然と風呂に入り、息子と寿司を食べながら普通に会話してるんですよ。

実は、彼女の父親は連続殺人犯として服役中で、幼い頃からメディアの執拗な報道を受け続けたミシェルは今でもそのことがトラウマになっているのです(だから警察にも通報しない)。

つまり本作は、そういう彼女の言動や彼女を取り巻く環境を楽しむ映画であり、「レイプ犯は誰なのか?」を突き止めるサスペンスじゃないんですね。そこが評価の分かれ目かなと。


●『ドリーム』
当初は『ドリーム 私たちのアポロ計画』という邦題でアナウンスされていたものの、「嘘つけ!マーキュリー計画じゃねえか!」と映画ファンから苦情が殺到したため、公開直前に急遽タイトルが変更されたという、いわく付きの映画です。

内容は、実在したNASAの女性技術者たちの活躍を描きつつ、1960年代の「黒人差別問題」にも深く切り込み、娯楽性と社会派ドラマをバランスよく共存させた良作で非常にオススメですよ(^.^)


●『僕のワンダフル・ライフ
ゴールデン・レトリバーのベイリーが、大好きな飼い主イーサンに再び会うために何度も何度も生まれ変わるという動物映画。もう設定だけで涙腺が緩みますね。犬好きは号泣必至でしょう(T_T)


●『レディ・ガイ
ミシェル・ロドリゲスが整形手術で男になる」という、設定だけ聞くともの凄く面白そうなんですけど、実際に映画を観てみたら「…あれ?」って感じ。

いや、決してつまらなくはないんですが「求めていたのはこういうのじゃないんだよなあ」という印象がぬぐえない微妙な出来栄えだったのがちょっと残念。ウォルター・ヒル監督、どうした?


●『エンドレス 繰り返される悪夢
天才外科医の主人公が海外出張から帰国し、久しぶりに娘と会う約束をする。ところが、その娘が目の前で車に轢かれて死亡!ショックを受ける主人公だったが、次の瞬間飛行機の席で目が覚める。

「夢だったのか…」と安心したのもつかの間、飛行機を降りたらさっき夢で見た状況が再び繰り返され、またしても娘が事故死する。

同じ一日を何度も何度もリピートしていることに気付いた主人公は、必死で娘を救おうとするものの、どうしても助けることが出来ない。

一体どうすればこのループから抜け出せるのか…。ところが、絶望的な気持ちになった主人公の前に一人の男が現れる。なんと、彼も同じ日をリピートしていたのだ!

やがて主人公は、このリピート現象が起きた”原因”へと辿り着く。その驚くべき真相とは…!?「タイムループもの」の一種ですが、なかなか良くできた韓国映画ですよ(^.^)


●『シンクロナイズドモンスター
「酔っ払ったアン・ハサウェイが、なぜか韓国に現れた巨大怪獣とシンクロしてしまう」という、普通の発想ではなかなか思い付かない設定が面白い。

ただ、内容は意外とシリアスで、「アルコール依存症の問題」とか「過去のトラウマ」とか、割と重たいテーマを扱っていて、さらに「最後はそれらを克服してハッピーエンド」ってわけでもありません。

予告編を見ると「ダメなヒロインが巨大怪獣を操って世界を救う」的なアクション・コメディ映画のように見えますが、全然そんな映画じゃないので要注意!


●『レッドスパロー』
あのジェニファー・ローレンスが至る所でオッパイを出しまくり服を脱ぎまくるスパイ映画です(でも実際にオッパイが見えるシーンは少ない)。

しかも単にエロいだけじゃなく、様々な場面に細かい伏線が張り巡らされ、最後はそれらを綺麗に回収していく、実に手際のいいサスペンスでした(^.^)


●『女神の見えざる手
ゼロ・ダーク・サーティ』、『インターステラー』、『オデッセイ』など、近年大作映画への出演が相次いでいるハリウッド女優ジェシカ・チャステイン

そんな彼女が主役を演じた本作は、製作費わずか1800万ドルの低予算にもかかわらず、政治を影で動かす天才ロビイストの活躍を描いた堂々たる社会派サスペンスとして非常に見応えがありました。

なお、『キングスマン』でマーリンを演じたマーク・ストロングや、『リコシェ』『レイジング・ケイン』『クリフハンガー』などで印象的な悪役を演じたジョン・リスゴーも出演しています。


●『スリー・ビルボード
本作は、娘をレイプされ殺された母親が7か月経っても手掛かりすら発見できない警察に不信感を抱き、犯行現場付近の看板広告に「なぜ犯人が捕まらないの?」など3つのメッセージを掲載する…という物語です。

この3枚の看板によって、小さな田舎町に様々な波乱が巻き起こるわけですが、最大の特徴は「犯人を捕まえるために必死で頑張る健気な母親の姿を描いた感動ストーリー」ではない、という点でしょう。

僕も観る前はそう思ってたんですが、主人公のキャラがとにかくブッ飛んでいて、他人に対して汚い言葉を投げかけるわ、警察署の署長がガンで余命わずかと知りながら名指しで批判するなど、観客の共感を拒みまくりなんですよ。

しかも署長は町中の住人から慕われているため、「早く犯人を捕まえなさいよッ!」と警察に対して憤る主人公は、”娘を殺された悲劇の被害者”という立場なのに皆から嫌われてしまうのです。

なので、この映画は賛否がわかれるでしょうね。実際、僕の周りでも「登場人物がクズすぎる!」「ラストが意味不明」「結局、真犯人は誰なんだ?」など、批判的な意見も少なくありません。

でも僕は非常に面白かったです。どこへ転がっていくかわからない予測不能なストーリーもさることながら、サム・ロックウェル演じるダメ警官のディクソン巡査が徐々に心情を変化させていくドラマ展開にグッときました。

なお本作は、第90回アカデミー賞で作品賞、脚本賞、作曲賞、編集賞など計6部門でノミネートされ、主演女優賞(フランシス・マクドーマンド)と助演男優賞サム・ロックウェル)を受賞しています。

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『三度目の殺人』ネタバレ解説/真犯人は誰?

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どうも、管理人のタイプ・あ〜るです。
昨日、テレビで是枝裕和監督の『三度目の殺人』が放送されました。

30年前に殺人を犯して服役していた三隅(役所広司)が、出所後に勤めていた工場の社長を殺し、火をつけた容疑で逮捕され、犯行も自供し死刑はほぼ確実。

そんな状況の中、弁護を担当することになった重盛(福山雅治)は、何とか刑を軽くするために調査を始める。

しかし、三隅の供述はコロコロ変わるし、被害者の娘・咲江(広瀬すず)も何かを隠しているようだし、怪しいことが次々と…

果たして社長を殺したのは誰なのか?そして事件の真相とは…?という法廷サスペンスなんですが、放送後にテレビを見た人から「いったいどういうこと?」などと疑問の声が上がったらしい。

なぜなら、この映画は「最後に真犯人が判明して全ての謎がスッキリ解決!」みたいなストーリーでは全然ないからです。

そのため、最後まで観ても誰が社長を殺したのかわからないし、そもそも”三度目の殺人”って何なのか?など、モヤモヤばかりが残ってしまうのですよ。

では、どうしてこういう映画になったのか?というと、是枝監督が「社長を殺した犯人が三隅(役所広司)なのかどうかをハッキリ決めずに撮影を開始したから」だそうです。

是枝監督によると「たぶん三隅が殺してるんだろうけど、映画の中では”もしかしたら咲江(広瀬すず)かもしれない”という可能性も残している」とのこと。

実は、脚本を書いている段階では割とハッキリしてたんですが、撮影しているうちに「誰が犯人かわからない方が面白いんじゃないか?」と思えてきて、役所広司さんも「最後までよくわからないところがいいですね!」と言ってくれたので、最終的にそうなったと。

しかし、弁護士:重盛役の福山雅治さんは非常に気になったらしく、「本当に三隅が殺したんじゃないんですか?」と役所広司さんに直接聞いていたそうです(笑)。

でも、福山さんからそう質問された役所さんは、答えるどころか「福山くんはどう思う?」と逆に聞き返し、余計に福山さんのモヤモヤは充満していったらしい。



まあ福山さんはやり辛かったようですが、是枝監督としては「目の前にいる殺人犯らしき男にどう接したらいいのかわからない…という重盛の心情をリアルに演じられて、逆に良かったんじゃないかな」とのこと。

つまり、この映画は監督が”そういう風に作っている”ので「良くわからない」という感想が当たり前なんですが、そんな中でもいくつかポイントになる映像が出て来ます。


●十字架
焼死した社長の燃え跡や、三隅が庭に作ったカナリアの墓など、本作には「十字架」を思わせる映像が何度も登場します。これはもちろんキリスト教的な隠喩であり、「罪を背負った者」を象徴しているのでしょう。

●雪の中で寝転ぶ3人
三隅、咲江、重盛が雪の中で寝転ぶシーンをよく見ると、三隅と咲江は「十字架」の形になっていますが、重盛は足を開いて「大の字」で寝ています。つまり「この時点では重盛は何もしていないけれど、三隅と咲江はすでに罪を犯している」という意味なのではないかと。

●頬をぬぐう仕草
三隅への判決が言い渡され、裁判所から出て来た重盛が右手で左の頬をぬぐうシーン。実はこれと全く同じ仕草を三隅と咲江もやっています。それは、社長を殺したときに浴びた返り血をぬぐう場面でした。


つまり、重盛もこの瞬間(頬をぬぐった時)に誰かを殺して罪を背負ってしまった…ということを表しているのですよ。「誰か」とはもちろん死刑を言い渡された三隅のことです。

すなわち「一度目の殺人」は”30年前の事件”、「二度目の殺人」は”社長殺し”、そして「三度目の殺人」とは、”法律によって殺される三隅自身”のことだったのです。

●ガラスに映る顔
映画の終盤、三隅と重盛が向かい合って最後の会話をしているシーンで、仕切りのガラスに重盛の顔が映り、三隅の顔と重なる場面があります。

このシーン、撮影中に是枝監督が偶然見つけて急遽追加したらしいのですが、「今まで弁護側にいた重盛が、三隅と同じポジション(罪を背負った者)に同調する」という意味だそうです。

●十字架の中で佇む重盛
映画のラスト、道の真ん中で立ちすくむ重盛の姿が映りますが、よく見ると道が十字架(十字路)になってるんですよね。つまり、この映画は最後に重盛も十字架を背負ったところで終わっているのです。そこが非常に象徴的だなと思いました。

なお、重盛と三隅が会話する接見室はセットなんですが、非常に気密性が高く、長時間撮影していると内部の酸素が足りなくなり、役者もスタッフも意識が朦朧としていたらしい。

そのため、セットに酸素ボンベを持ち込んで、時々酸素を吸入しながら撮影していたそうです。大変だなあ(^^;)


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『もののけ姫』のタタリ神はどうして手描きなのか?

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どうも、管理人のタイプ・あ〜るです。
先日、金曜ロードショー宮崎駿監督の大ヒット映画もののけ姫が放送されました。

「何度目だ?」と思うぐらい繰り返し放送されているので、今更内容について語ることは特にないんですが、テレビを見ながら何となく「タタリ神のシーンは作画が大変だったんだよね〜」などとツイッターでつぶやいたら、「あのシーンってCGじゃなかったの!?」ともの凄い反応が返って来たので逆に驚きました。


どうやら皆さん、「あんなに動きが複雑な物体を人間の手で描けるはずがない」「CGに違いない」と思っていたらしく、「こ…これが手描き…だと…?」と衝撃を受けたようです。



確かに、最近のアニメならほぼ確実にCGで作画するようなシーンでしょう。しかし、『もののけ姫』が作られたのは1997年で、宮崎駿監督作品としてはCGが本格的に導入された最初の映画になるわけです。

そのため、当時はジブリ社内に新たにCG部門を開設し、「コンピュータを使うことでどんな表現が可能になるのか?」を日々試行錯誤しながらアニメを作っていたという。

そして当初は「冒頭に登場するタタリ神をすべて3DCGで作画する」という計画もあったらしいのですよ。

しかし、実際にテスト映像を作ってジブリ内部で検討したところ、宮崎監督が「ダメだ!こんなもの使えない!」と却下。

理由は、当時のCG技術が不十分で、タタリ神のグネグネした複雑な動きをリアルに再現できなかったこと。もう一つは、3秒の映像を作るのに3か月かかるなど「制作に時間がかかり過ぎる」ということでした。

こうしてタタリ神は手描きで作画することになったのですが、実はタタリ神本体の動きが2コマなのに対し、表面の”ヘビ状紋様”の動きは1コマ作画、つまり1秒間に24枚の絵が必要だったのです。これは大変な手間だ!

そこで、少しでもアニメーターの負担を減らすために「ヘビの動きは正確に1コマ1コマ繋げなくてもいい」と決めて作業することになりました。

しかし、アニメーターの習性なのか、描いているうちにどうしても1コマ1コマの動きを繋げようとしてしまい、宮崎監督から「せっかく負担を減らそうとしてるのに、わざわざ手間がかかるような作画をするな!」と怒られたらしい。

ところが、出来上がった映像はランダムに動いている部分があったり、順序よく綺麗に流れている部分があったり、とても不規則で奇妙な動きになっていたのです。

これは意図したものではなく、完全に”偶然の産物”なんですが、「誰も見たことがない、宮崎監督も見たことがない斬新な映像が出来上がった!」とスタッフの間で大盛り上がり。結果的に『もののけ姫』を代表する名シーンの一つとなりました。

なお、このシーンの原画を担当した笹木信作さんは「宮崎監督の意図する”勢い”とか、生物感のようなものを表現するのが難しかった。常に”これでいいのか?”という不安との闘いだった」とコメント。

また、動画を担当した鶴岡耕次郎さんは「どうしても変なクセが出てしまい、インスタントラーメンみたいな形になってしまった。描いているうちに何が正解かわからなくなり、どんどん泥沼にはまっていった」とのこと。

最終的に、わずか2分10秒のシーンを仕上げるのにかかった期間は1年7か月、動画枚数は5300枚も費やされました。しかし、そこまで大変な苦労と手間暇をかけ、1枚1枚コツコツと手描きで作画したからこそ、CGと見紛うような見事な映像が完成したのでしょう。

ちなみに『もののけ姫』の制作中、ジブリではほとんどのアニメーターがこのシーンを担当することを嫌がり、「仕事が遅いやつはタタリ神を描かせるぞ!」と”罰ゲーム”みたいな扱いになっていたそうです(笑)。


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なぜ『紅の豚』のヒロインの服はチェック柄なのか?

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どうも、管理人のタイプ・あ〜るです。
本日、金曜ロードショー宮崎駿監督の『紅の豚』が放送されます。

豚の姿をした主人公のポルコ・ロッソが、イタリアの空を舞台に愛用の飛行艇で存分に活躍する様を描いた本作は、配給収入27億円を超える大ヒットを記録しました。

まあ、内容については皆さんよくご存じだと思うので詳しく触れませんが、本日はどうしても言っておきたいことがありまして…。

それは「宮崎アニメのヒロインの衣装がダサい問題」です。

過去の宮崎アニメをちょっと思い出していただきたいのですが、『未来少年コナン』のラナや『魔女の宅急便』のキキなど、宮崎監督の作品に登場する女の子ってだいたい「無地で単色のワンピース」を着てますよね(ナウシカは除くw)。


これには理由がありまして、アニメーションとは「1枚1枚形が異なる絵を連続で表示することで動いているように見せている」わけですから、描く線が1本増えただけでもアニメーターの負担が増大します。

例えば、キャラクターの服を”可愛い花柄”にした場合、その柄を1枚の絵に何個も描き込み、さらに同じような絵を何十枚〜何百枚も描かねばなりません。

しかも(今はデジタルで彩色できますが)当時は専門のスタッフが1枚1枚のセルに細かく色を塗っていたわけで、その手間を想像しただけでも「大変だなあ…」と実感できるでしょう。

そこで宮崎駿さんは、アニメーターや彩色スタッフの負担を少しでも軽くするために、キャラクターの衣装をできるだけ簡略化したのです。

特に登場シーンが多い(=描く枚数が多い)ヒロインは、作画が面倒な装飾品を一切つけず、シンプルな無地のデザインでボタンすら省略し、色もいちいち塗り分けしなくてもいいように紺やオレンジの”単色”で設定。

つまり、限界まで描く手間を省いて効率化を極めた結果、生み出された形が「宮崎アニメによく出てくる例のワンピース」だったのですよ。

ムスカ大佐が「流行りの服は嫌いですか?」と綺麗なドレスをシータに見せても着なかったのは、こういう理由があったからなんですね(笑)。

ただ、アニメーターにとっては「描く手間が減って大助かり」と好評だったものの、観ている側は「宮崎アニメの女の子っていつも地味な服ばかり着てるなあ」と少々不満に思っていました。

ところがなんと!『紅の豚』のヒロイン:フィオは「白地に青色のチェック柄」という非常に華やかなシャツを着ているのですよ。おお〜!ようやく宮崎ヒロインがオシャレになった(笑)。

しかし、当然ながらアニメーターからは苦情が殺到しました。見てわかる通り、縦・横に何本も線が入っていて描くのが大変、塗るのも大変なデザインだからです。

あまりにも作画の時間がかかりすぎるため、とうとうスタッフの一人が宮崎監督に「せめてラストシーンだけでも無地の服に変えてもらえませんか」と提案したところ、「ダメだ!」と即答。

その理由は……「フィオのシャツは花嫁衣装だから」

ええっ!花嫁衣装!?以下、『紅の豚』で動画チェックを担当した舘野仁美さんの証言より。

フィオをめぐってポルコとカーチスが決闘するシーンがありますが、宮崎さんの気持ちとしては、フィオのシャツは花嫁衣装のようなものだったんですね。つまり、手間のかかるチェック柄を描くことは、ウェディングドレスのレースを手間暇かけて編み上げるのと同じこと、そういう意味だと理解しました。 (「エンピツ戦記」より)

いままでは”作業の効率化”を第一に考え、シンプルで飾り気のない服ばかりをヒロインに着せてきた宮崎さんですが、『紅の豚』のフィオだけは「少しでも華やかに見せてあげたい」と思ったのかもしれません。

というわけで、宮崎監督が「花嫁衣装」を想定したおかげで、ヒロインの服がようやくオシャレになったんですが、”花嫁”…ってポルコはジーナと結婚するんじゃないのかな?でも原作にはジーナは出て来なくて、ポルコとフィオのカップルだし…。やっぱフィオが花嫁ポジションになるのかなあ?う〜む(^^;)



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今年も残りあとわずかですが…

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どうも、管理人のタイプ・あ〜るです。

最近、更新が滞りがちになってて申し訳ありません(^^;)

ふと気づけば今年も残りあと1か月ちょいになっているにもかかわらず、観た映画の感想がほとんど書けていないという情けない有様です、トホホ。

正直、映画は観てるんですが、インプットに対してアウトプットが全く追い付いていないという状況なんですよね(単なる言い訳ですけどw)。

しかし「このままではいかん!」「何とかしなければ!」という気持ちはあるんですよ(気持ちだけは)。

というわけで、明日以降は今年観た映画の感想を頑張って少しずつアップしていこうと思います。どこまで書けるかわかりませんが、よろしくお願いします(^.^)

映画『デトロイト』に見る現実のデトロイト(ネタバレ)

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キャスリン・ビグロー監督の新作デトロイトは、1960年代のデトロイトで実際に起きた事件を忠実に描いた社会派ドラマです。

当時、デトロイトの黒人は人口過密な居住区に住まされ、暴力的な白人警官によって不当な逮捕や激しい暴行を受け続けていました。

そして1967年7月23日、ついに地元住人たちの不満が頂点に達し、放火や略奪などデトロイト全体を巻き込んだ暴動へとエスカレート!もはや警官だけでは対処できなくなり、とうとう軍隊まで出動する大騒動になったのです。

そんな中、とあるモーテルに泊まっていた黒人がふざけて「競技用のスターターピストル」を撃ったところ、「狙撃された!」と勘違いした白人警官たちがモーテルへ押し寄せ、外から一斉に銃撃開始!

たまたまそのモーテルに宿泊していたラリー(アルジー・スミス)とフレッド(ジェイコブ・ラティモア)は、いきなり大量の銃弾を撃ち込まれてパニック状態になりますが、本当の恐怖はそこから始まったのです…。

この映画、前半は普通に「物語」を描いてるんですけど、舞台がモーテルに移ってからはストーリーがほとんど進展せず、白人警官のフィリップ(ウィル・ポールター)が黒人たちを虐待しまくる壮絶な「私刑(リンチ)」の様子をひたすら見せてるんですよ。

レイシストの白人警官による残虐な私刑のせいで、一人また一人と命を落としていく黒人青年たち。延々40分も繰り広げられる尋問シーンのえげつなさが凄まじい!

キャスリン・ビグロー監督は、徹底したリサーチや当事者へのインタビューによって当時の状況を克明に再現し、50年以上も封印されてきた黒人差別問題にメスを入れようとしたのです。

しかし、あまりにも黒人虐待シーンを克明に描きすぎたため、白人警官を演じたウィル・ポールターは撮影中にどんどん気分が悪くなり、ついに泣き崩れてしまったとか(本人は優しい性格だったので、毎日毎日、仲間の俳優たちを痛めつけることが耐えられなかったらしい)。

また、食料品店の警備員メルヴィンを演じたジョン・ボイエガは「現場の誰にとっても過酷な物語だから、ずっと役柄になり切っている必要があった」と語り、白人と黒人の間に立って事態を収束させようと努める誠実なキャラクターを丁寧に演じていました。

最終的に暴行を働いた白人警官たちは、事件後に殺人罪などで起訴されるものの、裁判で全員無罪になります。えええ…

なんとも後味の悪い結末ですが、50年前にはこういう事件が実際に起きていて、しかも現代のアメリカもいまだに人種差別問題がなくなってはいない…という事実を突き付けているわけですね。



なお、「デトロイト」という街は過去に何度も映画の舞台になってるんですが、いい印象がほとんど無いんですよね(苦笑)。

たとえば1987年に公開されたロボコップは2010年のデトロイトが舞台なんだけど、メチャクチャに荒れ果てて完全なる”犯罪都市”になってるんですよ。

SF映画だから誇張されているはずなのに、現実のデトロイトとあまり変わらない…つーか『ロボコップ』の方がまだマシに見えるのがすごい(笑)。

また、2002年に公開された8 Mileデトロイトは街中が廃墟だらけで、貧困ぶりがひどいです。タイトルの「8マイル・ロード」とは富裕層と貧困層を隔てる境界線のことで、「8マイル・ロードより先(内側)に行ってはいけない」と言われてるらしい。どんだけ恐ろしい場所なんや…そして2014年公開の『イット・フォローズ』は、デトロイト郊外に住む若い男女の姿を描いたホラー映画です(誰かとセックスすると”イット”が現れ、捕まったら死ぬというストーリー)。

この作品にも「8マイル・ロード」が出て来るんですが、主人公たちは境界線の外側に住んでいるので『ロボコップ』や『8 Mile』ほど荒れ果てた風景は映りません(まあ街自体に活気はあまりないんだけど)。

しかし2015年公開のドント・ブリーズは、まさに「8マイル・ロードの内側」が舞台になっているため、住民はほとんどおらず、多くの建物は朽ち果て、巨大なゴーストタウンと化しています。

そんな街で主人公たちは泥棒を繰り返してるんですが、警察官の数が非常に少ないため、犯罪が起きても現場にパトカーが駆け付けるまで1時間近くかかってしまうなどムチャクチャな状況らしい(デトロイトの検挙率は全米で最低)。だから堂々と泥棒してるんですね(最悪や…絶対住みたくねえ…)。

まさにここは世紀末!正気でいられるなんで運がいいぜYou!の世界です。デトロイト恐るべし(^^;)

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『ペンタゴン・ペーパーズ/最高機密文書』(ネタバレ)

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スティーブン・スピルバーグ監督のペンタゴン・ペーパーズ/最高機密文書』はいい映画でしたねえ。

1971年、政府によって長らく秘匿されてきたベトナム戦争の最高機密文書「ペンタゴン・ペーパーズ」がニューヨーク・タイムズによってスクープされ、ニクソン政権は直ちに記事の差し止めを要求。

一方、出し抜かれたワシントン・ポストの編集主幹ベン・ブラッドリー(トム・ハンクス)は、何とか巻き返そうと記者たちに発破をかけ、ついに文章の入手に成功する。

……というのが物語の前半部分で、普通の映画なら新聞記者たちが苦労して特ダネを手に入れる過程をじっくり描いただろうし、それだけでも面白いジャーナリスト映画として十分成立したでしょう。

しかしスピルバーグ監督は、もう一人の主人公として亡き夫からワシントン・ポストの経営を受け継いだキャサリン・グラハム(メリル・ストリープ)を登場させ、まだ女性の地位が高くなかった時代に男社会の中で重要な決断を迫られる「一人の女性の苦悩と成長」も描いて見せたのです。

ベンは手に入れたネタを元に記事を作成し、明日の新聞に載せようとしますが、会社の上層部は猛反対。なぜならワシントン・ポストは株式公開を控えており、掲載には大きなリスクが予想されたからです。

社の顧問弁護士も「政府から訴えられるぞ。会社が潰れたらどうするんだ?」と掲載中止を求めますが、「圧力に屈して真実を報道できない新聞社なんて死んだも同然だ!」と一歩も引かないベン・ブラッドリー。

そしてクライマックスでは、色んな立場の男たちが別々の場所からキャサリンに電話をかけて「最終的な決定権は経営者の君にある。どうするか君が決めてくれ」と迫るわけです。

激しいプレッシャーの中、悩みに悩んだ末に「OK、載せるわ!載せましょう!もう寝る!おやすみなさい!」とキレ気味に言い放つキャサリンが痛快で良かったなあ(笑)。

その後、主人公たちは政府との裁判にも勝利し、劇中のセリフ(「報道の自由は報道することによってしか守られない」)を体現したのです。

というわけでこの映画、実際に起きた事件を元にした社会派ドラマでありながら、内容的には極めてシンプルでわかりやすいエンターテインメントになっていることに驚きました。

ドラマの構造としては、「ワシントン・ポスト vs ニューヨーク・タイムズのスクープ合戦」、「アメリカ政府 vs 報道機関」、「ワシントン・ポスト内部の経営陣 vs 新聞記者」、「女性経営者 vs 男性社会」という4つのバトルが繰り広げられているわけですが、それぞれが非常に面白く&バランスよく描かれており、最後まで全く飽きさせません。

さらにビックリしたのは制作期間の短さです。2017年の2月にスピルバーグが脚本を読んで、5月30日からニューヨークでクランクインし、わずか50日で撮影完了。

その後、編集作業とポストプロダクションを経て11月には全ての作業を完成させ、そして2017年12月22日に劇場公開という驚くべきハイスピードで制作されたのですよ(日本での公開は2018年の3月)。

元々スピルバーグは早撮りで有名で、『レイダース』の場合は当初88日間の予定だった撮影スケジュールを13日も短縮し、たったの75日間で終わらせスタッフを仰天させました。

また、『 ジュラシック・パーク』は70日間、『 キャッチ・ミー・イフ・ユー・キャン』では、全140箇所にも及ぶ過酷なロケーション撮影をわずか58日間で完了。

しかし、『ペンタゴン・ペーパーズ』は過去のどの作品よりもぶっちぎりで撮影期間が短く、スピルバーグ監督の自己最短記録を更新してしまったのです。うわあー!

おまけに「超大作SF映画レディ・プレイヤー1』と同時進行で作られていた」ってんだから凄すぎる!スティーブン・スピルバーグ、恐るべし!

ちなみに映画のラストシーンは、ワシントン・ポスト紙が「ウォーターゲート事件」の真相を暴くきっかけとなる場面で、この後に大統領の陰謀へと繋がっていくわけですね(^.^)

大統領の陰謀 [Blu-ray]
ワーナー・ホーム・ビデオ (2011-04-21)

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クリント・イーストウッド『15時17分、パリ行き』(ネタバレ)

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優れた俳優であると同時に、素晴らしい映画監督として数々の傑作を世に送り出してきたクリント・イーストウッド

そんなイーストウッド監督の最新作『15時17分、パリ行き』は、2015年8月21日に発生した『タリス乱射事件』を映画化した、いわゆる「実話もの」です。

乗客554名を乗せたアムステルダム発パリ行き高速鉄道「タリス」の車内で、イスラム過激派の男が銃を乱射。乗客一人が被弾し重傷を負うものの、たまたま乗り合わせていた3人のアメリカ人が勇気を出して立ち向かい…

という内容なんですが、一般的に「実話の映画化」っていうのは「実際に起きた事件をプロの俳優が再現するパターン」が普通じゃないですか?

例えば、過去のクリント・イーストウッド監督作品でも、『ハドソン川の奇跡』ではトム・ハンクスが、『アメリカン・スナイパー』ではブラッドリー・クーパーがそれぞれ主人公を演じていました。

しかしこの映画では、なんと主人公となる3人の若者(アンソニー、アレク、スペンサー)の役を、「事件に遭遇した本人」が自ら演じてるんですよ。えええええ!?

それだけでなく、犯人に撃たれた被害者(マーク・ムーガリアン)や彼の妻イザベル、列車の乗務員や警察官や救急隊員に至るまで、あの日現場にいた当事者たちが、事件当日の服装のまま「本人役」で出演しているのです(”犯人”以外のほぼ全員が参加したらしい)。

さらにセットも使わず、本物の高速列車を実際の運行通りに走らせ、狭い車内の中で照明まで自然光のみという徹底ぶり!まさに「リアル」という意味においては、これほどリアルな映画も滅多にないでしょう。

当初、イーストウッド監督は他の映画と同じようにオーディションでプロの俳優を選ぶつもりでしたが、本人たちに会って話をしているうちに「この3人が自分で演じた方が面白いんじゃないか?」と思い付いたらしい。

イーストウッド曰く、「この試みが上手くいくかどうかはわからなかった。しかし、多くの映画はほとんどが”見せかけ”だが、この映画には嘘が少ない。細部まで本物のリアリティに満ちている。それが観客をこれまでにない感動へ導いてくれると思ったんだ」とのこと。

やらせる方もアレですが、引き受ける方もどうなのかと(笑)。なんせ演技経験ゼロのド素人ばかりですからねえ。なお、主演の3人は「他の誰かを演じるのは無理だけど、自分がやったことを再現するだけなら出来なくはないだろう」と思ったらしい。

さらに撮影現場でも、クリント・イーストウッド監督はほとんど何も演技指導をしなかったそうです。「だって僕よりも彼らの方が当日に何が起きたかを詳しく知ってるからね。その瞬間に何を考え、どう行動したのか、全て彼らに任せた方が間違いないと思ったんだ」とのこと。

このようなイーストウッド監督の判断によって、過去に類を見ない”超本物志向”の映画が出来上がりました。

ただし、いくらリアルにこだわったからといっても、それによって直ちに映画が面白くなるとは限りません。事実、「ストーリーがいまいち」「特に前半部分が退屈」など否定的な意見も多かったようです。

それもそのはず、普通の映画はドラマを盛り上げるための”演出”をあちこちに仕掛けるものなのに、本作は「実際に起きたことをほぼそのまま再現しているだけ」なので、”本当の日常描写”が延々続いてるんですよ(そりゃ退屈だわw)。

じゃあ、この映画は駄作なのか?というと、それも違うと思うんですよね。たとえば、僕が『15時17分、パリ行き』を観て「おお!」と感じた場面はラストシーン。

この手の「実話もの」は「エンドロールで本人の映像が流れる」っていうのがお約束で(『ハドソン川の奇跡』でもあったけど)、普通はそういうシーンが出てきた瞬間に「ああ、こっちが本物(現実)ね。今まで観ていたのは作り物か」と再認識させられるんですよ。

もちろん、それでガッカリするわけじゃないし、そもそも最初からわかっていることなので何の問題もないんですが、少なくともその時点で「虚構」と「現実」がはっきりと分断されるわけじゃないですか?

ところが『15時17分、パリ行き』の場合は、ラストに当時のニュース映像が流れ、3人が本物のフランス大統領と並んでいるシーンが映っても、劇中の彼らがそのまま出てるんですよ(当たり前だけど)。

つまりこの瞬間、「虚構」と「現実」が分断されることなくシームレスで繋がってるんですよね。この感覚はいったい何なのか?と。

映画の本編はドキュメンタリーではなく、あくまでも「本人が演じた作り物」にすぎません。にもかかわらず、一つの映画の中で「虚構」と「現実」がいつの間にか融合しているという曖昧さ。

そういう”奇妙な感覚”こそがまさに、『15時17分、パリ行き』の大きな特徴であり、他の映画にはない画期的な部分だと思います(クリント・イーストウッド監督が最初からこういう効果を狙っていたのかどうかは分かりませんが)。


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