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『君の名は。』へ至るまでに新海誠監督が辿った16年の軌跡

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現在、全国の劇場で爆発的な大ヒットを飛ばしている新海誠監督の新作アニメ『君の名は。』が、22日までに観客動員数774万人、公開後わずか28日間で興行収入が100億円を突破したそうだ。日本のアニメでは、宮崎駿監督の作品以外で100億円を超えたのは史上初。邦画全体のランキングでも、現時点で歴代9位に食い込んでおり、大変な快挙と言えるだろう。

さらに、新海監督が手掛けた同名小説も発行部数100万部を突破し、映画に登場する場所に多数のファンが押し寄せる“聖地巡礼”など、『君の名は。』を取り巻く環境は今や完全に社会現象と化している。しかも興行成績の増加ペースが2001年の『千と千尋の神隠し』を上回る勢いで推移していることから、「『千と千尋』を抜くのではないか?」との噂まで出ているらしい。

ちなみに、100億円を超えたアニメ映画で、宮崎駿監督作品以外のものと言えば、『アナと雪の女王』(255億円)、『ファインディング・ニモ』(110億円)、『トイ・ストーリー3』(108億円)の3本だけ。あとは全部、宮崎アニメで占められている。このゾーンへ新海誠監督が参入してくるわけだから、改めて考えてみると凄い話だよなあ。

しかしながら、『君の名は。』を観るまでに新海監督のことを知っていた観客は、どれぐらいいるのだろうか?アニメーション作家としての新海誠は、もちろん以前から多くのファンに知られていたが、ここまで爆発的に知名度が上がる事態は想定していなかっただろう。恐らく、「『君の名は。』で初めて知った」という観客が大半じゃないだろうか?

というわけで本日は、新海監督がまだ会社員時代に作った自主制作アニメ『彼女と彼女の猫』(2000年)から、最新作の『君の名は。』に至るまでの16年間に制作したアニメーション作品(主に劇場で公開されたもの)について、その変遷をざっくりと振り返ってみたい。『君の名は。』の大ヒットが、”ある種の必然”だったことが分かると思う。



●『彼女と彼女の猫』(2000年)

新海誠監督の名前が広く知られるきっかけになったのは『ほしのこえ』に違いない。だが、その前に作った自主制作アニメ『彼女と彼女の猫』の時点で、その実力はすでに認められていたという。新海作品の原点となるこの作品は、彼がまだゲーム会社に勤めていた時に作られたものだ。

アマチュアとはいえ、その評価は当時から非常に高く、第12回CGアニメコンテストでグランプリを受賞するなど、他のアマチュア作家を圧倒していたのである。この作品に最初に目を付けたのが、短編映画専門館「下北沢トリウッド」の代表を務める大槻貴宏氏だった。

初めて『彼女と彼女の猫』を観た大槻氏は、「こんなに凄いアニメーションを個人で制作できるのか!」と驚き、トリウッドでの上映を決定。こうして新海誠の存在が世に知られるようになった。今、『彼女と彼女の猫』を改めて観てみると、緻密で美しい背景美術、リアリスティックな日常描写、天門による音楽、印象的なモノローグなど、後の新海作品に見られる特徴がいくつも入っていることが分かる。

実は本作を作っていた頃、新海監督は「このままゲーム会社の社員を続けるべきなのか?」と真剣に悩んでいたそうだ。しかし、どうしても「自分のアニメを作りたい!」という気持ちを抑えることが出来ず、「突き動かされるような初期衝動を、そのままこの作品にぶつけた」という。まさに、アニメーションに対する彼の想いが詰まった入魂の一作!ここから”新海誠伝説”は始まったのだ。


●『ほしのこえ』(2002年)

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『彼女と彼女の猫』でその存在を知られるようになったものの、まだまだコアなユーザーにしか認知されていなかった新海誠を、一躍有名にしたのが『ほしのこえ』である。この作品がどれほど世間に驚きと感動と衝撃を与えたかについては、先日、当ブログでも詳しく書いたので、未読の方はぜひお読みいただきたい。

新海誠監督の『ほしのこえ』がアニメ界に与えた影響と衝撃

そして短編映画『ほしのこえ』では、前作で評価の高かった背景美術や音楽や日常描写に加え、「美しいライティング効果」と「思春期の男女」という、後の新海誠作品における重要な要素がほぼ全て出揃っている。すなわち本作は、”新海スタイル”が確立した記念碑的作品なのだ。

しかし、『ほしのこえ』が話題になったことで、ある”問題”が発生する。多くの人々の注目を集めるということは、同時に多くの批判にさらされることでもあるからだ。そして、これ以降の新海誠は長い”迷走状態”に入っていく。


●『雲のむこう、約束の場所』(2004年)

本作は新海監督にとって初の劇場用長編アニメーションであり、公開規模も全国スケールにアップした大作映画だ。そのスケールに合わせるかのように、技術的にも内容的にも大幅に進化している。

だが前作『ほしのこえ』の公開後、「制服姿の女子中学生が巨大ロボに乗って戦うなんてリアリティがない」とか、「登場人物が二人しか出ていないので、世界がどうなっているのか全く分からない」とか、「雰囲気だけでストーリー性がない」など、様々な批判が殺到したことで新海監督は悩んだらしい。

そして『雲のむこう、約束の場所』では、これらの批判を真摯に受け止め、「ダメだ」と言われた部分を修正しようと試みているのだ。物語に起伏をつけてストーリー性を強化し、登場人物を増やし、SF設定も真面目に考証するなど、ひたすら誠実に対応している。

ただ、その結果『ほしのこえ』よりもいい映画になったのか?と言われれば、ちょっと微妙な感じに…。ストーリーが長く複雑になった分だけ冗長な語り口が目に付き、構成力の弱さが露呈してしまったのだ。新海自身も「自分としては稚拙さが目立つ作品。特に、物語面での手付きの危うさばかりが気になってしまう」と辛口にコメントしている。

しかし、『雲のむこう、約束の場所』で満足な結果を得られなかったことが、逆に自分の弱点に気付くきっかけとなり、以降の新海監督をさらなる高みへとレベルアップさせていく。そういう意味では、とても重要な作品と言えるだろう。


●『秒速5センチメートル』(2007年)

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前作から3年後、満を持して制作された本作。長編1本ではなく、初心に帰って(?)短編3本で構成(「桜花抄」・「コスモナウト」・「秒速5センチメートル」)されているのがポイントだ。

この映画について新海監督は、「『雲のむこう、約束の場所』を思うように作れなかったという気持ちをずっと引きずっていて、もっとコンパクトに、短い作品をちゃんと作ろうと思った」と語っている。

その言葉通り、短編の良さを生かした秀作に仕上がっており、ファンの評価も高いようだ。中でも、以前から特徴的だった背景描写は凄まじい進化を遂げており、アニメーション表現の限界を極めるかのような緻密さを実現している。

しかし、ここまで完成度の高い作品を作っても、新海監督の中ではまだ納得し切れない部分があったようだ。以下、本作を自己批判する新海監督のコメントより↓

『秒速5センチメートル』は、作った後で自分で小説版を書いたんですが、それはやっぱり、観客の反応に対する”言い訳”という側面がどこかにあったんです。作品を観て「ショックだった」という声に対するアンサーでもあった。「ショック」ということはその人の心を動かしたということでもあるので、作り手としては喜ぶべきなんだけど、ちゃんとした意図が伝わらなかったのは、技術が足りないからだ、という気持ちもあったんです。 「アニメスタイル004」のインタビューより


「自分の意図が正しく伝わらなかった」という点を反省した新海監督は、「次回作ではもっと分かりやすく、伝わりやすくしよう!」と心に誓った。その結果、今度は”別の批判”に晒されることになる。こうして迷走状態はまだまだ続くことに…。


●『星を追う子ども』(2011年)

この映画が公開された時の世間の反応、それは「ジブリのパクリじゃねえか!」というものだった。確かに、キャラクターデザイン、設定、動き、レイアウト、内容全般に至るまで、ジブリ作品と似ている部分は多いかもしれない。また、新海監督自身も「宮崎駿の絵コンテを参考にした」と認めているので、影響を受けていることは間違いないだろう。

ただしそれは、『秒速5センチメートル』の時に気付いた「意図が正しく伝わらない」という欠点を補うための手段の一つであり、「普遍的な物語構造にストーリーを落とし込む」という手法と同じく、あくまでも「絵柄を馴染みやすいものに変える」という手法を選択しただけなのだ。

新海監督によると、『星を追う子ども』はジブリ作品に似ているというより、東映アニメーションや世界名作劇場のように、「昔から連綿と受け継がれてきた、日本のアニメの典型的な一つの形である」とのこと。そして、この馴染みやすい絵柄を使うことで、より多くの人に抵抗なく受け入れてもらえるのではないか?と考えたらしい。

こうした新海監督のアイデアは、実際にかなりの効果を上げたようで、今までは男性ファンが多かったのに、本作から10〜20代の女性の観客が大幅に増えたという。しかしその一方で、強い拒否反応を示すユーザーも数多く現れ、特に旧来のファンから「これは少なくとも自分が観たい新海作品ではない」「オリジナリティがない」などの厳しい意見も寄せられたそうだ。

これらの批判に対して新海監督は、「僕のオリジナリティと言われても、そんなの意識したこともなかったのに…」と非常に困惑したらしい。後に新海自身は『星を追う子ども』に関して、「お客さんとの関係性をより慎重に、より真剣に考える、その契機になった作品」と振り返っている。こうして再び迷走状態に陥っていくのであった。


●『言の葉の庭』(2013年)

『星を追う子ども』で、「分かりやすくて馴染みやすい、万人が楽しめる普遍的な娯楽映画を作りたい」と考え、実際に一定の成果は達成できたものの、新海誠は納得していなかった。新しい顧客は獲得できたが、古いファンからは否定されたからだ。

そこで次回作『言の葉の庭』を作る際には、「言い訳をしなくてすむ作品にしよう」と決意。「アニメ好きじゃない人に対して、アニメだからっていう言い訳をしなくてすむものにしたかったし、アニメ好きの人が観ても、いわゆる作家性の強い作品だから、みたいな言い訳を立てなくても、単純にドラマとして楽しめるものにしたかった」とのこと。

内容に関しては、「15歳の主人公と27歳のヒロイン」という時点でこれまでの新海作品とは一線を画しており、大人の観客が観ても楽しめる、成熟したラブストーリーとして非常に完成度は高い。長編ではなく、敢えて46分の中編にしたのも、「コンパクトにすることで”これならば絶対間違いない”と確信できるレベルまで質を高めるため」だったとか。

そして新海監督によると、「この映画は『彼女と彼女の猫』の語り直し」だという。2つの作品に共通して出て来る”大人の女性”というモチーフは、27歳の新海誠自身でもあるらしい。実は『彼女と彼女の猫』を作った時の新海も27歳で、この時期の自分をもう一度きちんと語りたかった、という気持ちがあったそうだ。

なお、本作はキャラの塗り分けが独特で、通常の「ノーマル色」と「影色」に加えて「反射色」という色が入っている。これはハイライトの一種で、「周囲の環境色が光に照らされ、キャラに映り込んでいる」という設定だ(なので、緑が多い場所に立つとキャラに緑色が反射する)。

一般的なアニメ作品ではあまり見られない表現だが、『言の葉の庭』のルックスを印象付ける特徴の一つとして機能している。また、背景美術のクオリティも相変わらず素晴らしく、特に「水」の表現におけるディテールの緻密さが熾烈を極め、その圧倒的な映像美は「本作で一つの頂点に達した」と言っても過言ではないだろう。

結果、『言の葉の庭』は大ヒットを記録し、新海作品史上最大の興行収入(当時)を叩き出した。新海監督も、「優れたアニメーターや背景美術、音楽等の力もあって、今でも強度がある作品だと思う」と満足しているらしい。こうして長年の迷走状態を脱出し、ようやく自分自身が納得できる作品が完成したのだった。


●『Z会CM(クロスロード)』(2014年)

前作の『言の葉の庭』を作って「はっきりとした手応えを感じた」と語る新海監督は、次回作までに何本かのコマーシャル映像(大成建設等)を手掛けている。その中の一つがZ会の企業CMだった。

「離島(田舎)で暮らす少女と東京で暮らす少年が、ふとしたきっかけで偶然出会う」という、まさに『君の名は。』の原型とでも言うべきショート・ストーリーで、さらにキャラクターデザインが『君の名は。』の田中将賀。これは完全に『君の名は。』のプロトタイプじゃないか!?

事実、新海自身もこの2分間のCMに長編作品の可能性を見出し、「まだ会ったことはないけれど、この先出会うべき運命にある二人というモチーフは、アニメーション映画としてもキャッチーだし、これまで自分がやってきたことの総決算的な内容にも成り得る」と考え、『君の名は。』の企画書を書いたという。

こうして、わずか120秒のCMをベースに、『君の名は。』の企画がスタートした。ただ、それだけでは長編映画にならないので、男女が夢の中で入れ替わるとか、1200年に一度地球に彗星が来訪するとか、色々なシチュエーションを詰め込んで、劇場用アニメーションとしてのスケールを補強していったのである。


●『君の名は。』(2016年)

『クロスロード』のCMをもとに作られることになった『君の名は。』には、錚々たるスタッフが集結した。キャラクターデザインを担当する田中将賀は、『あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない』や『心が叫びたがってるんだ』などのヒット作を手掛けた人気アニメーターである。

新海監督との接点が生まれたのは、『言の葉の庭』と劇場版『あの花』の公開が重なった際、『あの花』の長井龍雪監督と対談する機会があり(雑誌『Cut』2013年7月号)、その後に開かれた食事会に田中将賀が同席したことがきっかけだという。

『クロスロード』を一緒に作ったことで、田中氏も新海監督も「次は長編を作りたい」という気持ちが芽生えていたらしい。だが、ちょうどその頃、田中氏は『心が叫びたがってるんだ』の仕事が重なっていたため、「しっかり作品に関われないのは申し訳ないので…」と断っていたそうだ。

しかし、新海監督から「どうしても田中さんのデザインでアニメを作りたいんです!」と熱望され、「そこまで仰っていただけるのであれば…」と引き受けることを決意。とはいえ、作画監督を誰にやってもらうか決まらないまま、キャラクターデザインだけ進めることに不安もあったという。

ところが、作画監督を探すうちに突然「安藤雅司」の名前が浮上したのだ。安藤雅司といえば、1990年にスタジオジブリに入社して以来、『もののけ姫』や『千と千尋の神隠し』などの作画監督として優れた手腕を発揮し、『東京ゴッドファーザーズ』、『パプリカ』、『ももへの手紙』、『思い出のマーニー』などでも作監を務めたベテランアニメーターである。

それを聞いた田中将賀はビックリ仰天!なんせ、安藤雅司の実力は同業のアニメーターでさえ驚愕するほどの超絶スキルであり、しかも売れっ子だから仕事が忙しすぎて引き受けてくれないだろうと諦めていたからだ。なので最初は「えええ!?本当に?断られるんじゃないの?」と半信半疑だったらしい。

だが、あれよあれよと言う間に話が決まり、本格的に参加してもらえそうだということが分かると大喜び!「まさか安藤さんに僕のキャラクターを描いていただける日が来るとは、思ってもいませんでした。僕にとって安藤さんは、それこそ雲の上にいるような存在ですから。本当に光栄です!」と大興奮していたという。

一方、安藤雅司はどうして『君の名は。』の仕事を引き受けたのか?本人によると、「田中さんのキャラクターはアニメーション的な華がある。それに対して僕がこれまで携わってきたのは、どちらかと言えば地味な感じで(笑)。だから、田中さんの魅力的なキャラクターを自分が動かしたら、どんなアニメーションになるんだろう?と興味が湧いたんです。あとは、『君の名は。』の企画を拝見して、単純に面白そうだと感じたことが大きかったですね」とのこと。

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こうして二人の凄腕アニメーターが揃ったわけだが、凄いのはそれだけではない。なんと、この二人以外にも黄瀬和哉、沖浦啓之、松本憲生、橋本敬史、稲村武志、田中敦子、賀川愛、中村悟など、日本を代表するスーパーアニメーターが続々と集結!そのおかげで作画のクオリティが信じられないほどアップしているのだ。

例えば、沖浦啓之などは『GHOST IN THE SHELL / 攻殻機動隊』や『イノセンス』の作画監督として圧倒的な画力を見せつけ、「業界で最も巧いアニメーター」と称されるほどの逸材なのだが、『君の名は。』ではクライマックスの「三葉が走って転んでしまうシーン」を担当している。

特に目立つシチエーションではないものの、この場面を観た新海監督が、「絵コンテ通りなのに、想定よりも何倍もエモーショナルなシーンになっていて、ちょっと単純にビビりました(笑)」と驚くぐらい、ドラマチックで印象的な映像に仕上がっているのだ。

他にも、黄瀬和哉は『機動警察パトレイバーThe Movie』や『エヴァンゲリオン新劇場版:序』などの作画監督を務め、松本憲生は『NARUTO』や『鉄腕バーディ』などで流れるようなアクションを披露し、橋本敬史は炎や煙などを得意とするエフェクト作監、田中敦子は『ルパン三世 カリオストロの城』で「ルパンが屋根を駆け下りて大ジャンプするシーン」を描いたベテラン原画マンだ。

このようなトップアニメーターばかりが参加したことで、『君の名は。』は今までの新海作品とは比べ物にならないほどの高いレベルへ到達できたのだと思う。なぜなら、過去の新海作品は作画が弱かったからだ。もともと新海監督は、『ほしのこえ』の頃まで作画も自分で担当していたが、アニメーターではないので絵は上手くない。

しかし、それでもアニメを作りたいと考えた新海誠は、「作画に頼らない演出方法」を編み出した。それが、作画以外のものをフル活用して作った『ほしのこえ』であり、「圧倒的に綺麗な背景描写」などの技法を駆使することで作画の弱さをカバーし、同時に以降の新海作品の方向性を決定付ける特徴にもなったわけだ。このため、背景に比べると作画に関してはあまりこだわりを見せず、基本的にはアニメーターや作画監督にまかせっぱなしのスタンスだったらしい。

だが、アニメーションにおけるアニメーターとは、実写映画における役者みたいなもので、役者の演技力でシーンの優劣が決まってしまうのと同じように、アニメーターの技量によって作画のレベルは大きく左右されてしまう(特にアニメマニアの間では「新海作品は作画がイマイチ」と思われていたらしい)。

ところが、今回優秀なアニメーターが大量に参加したことで、こうした弱点がほぼ解消された。それぞれのキャラクターが実に生き生きと、魅力的に画面内を動き回っているのだ。もちろん、シナリオが良く出来ていることもあるのだろうが、やはりトップアニメーターが描いた丁寧な芝居が効果を発揮していることは疑う余地がない。

そして今回、観客の感情をさらに揺さぶっているのがRADWIMPSの主題歌だ。もともと新海作品の特徴として、音楽を効果的に使うことが知られていたが、それは新海監督がゲーム会社で働いていたことと関係があるらしい。以下、音楽について語ったインタビューより↓

僕はゲーム会社の出身で、映像を作り始めたのもゲームのオープニング映像を作るためでした。なので、どちらかというとPV監督の立ち位置に近かったのかなと思うんです。つまり、始まりが音楽演出だったし、そこが自分の主戦場というか、得意分野であるという自覚は昔からあったんですね。ですから、よく「演出がPV的だ」と揶揄されることもあるんですが(笑)、それは意図的なものであって、そこにしか生じない快感も絶対にあるはずなんです。『秒速5センチメートル』のときも耳馴染みのある曲を使わせてもらえば、勝算が立つと思いましたし、音楽がかかる瞬間は作品の中でも見せ場だと、毎回大事にしています。 「キネマ旬報2016年夏の増刊号」より


この言葉通り、『君の名は。』ではRADWIMPSの主題歌が4曲もかかるという、通常の映画の楽曲とは少々異なる過剰な使い方になっていて、確かに「PV的だ」と言えなくもない(笑)。しかし、今回はシナリオに合わせて音楽を作ったり、音楽に合わせて絵コンテを描き直すなど、映像と音楽のマッチングを1年以上もかけて調整したという。だからこそ、ドラマと楽曲の相乗効果で観客のテンションが大いに盛り上がったのだろう。

なお、下北沢トリウッドの大槻貴宏氏は『君の名は。』を観て、「『前前前世』が流れてからのシークエンスは、RADWIMPSの軽快な音楽と、特徴である“実写より美しい風景画”を見せるシーンと、物語を見せていくシーンとのミックスがすごくうまくいっていたと思います。だから多くの方に響いたのでしょう」と分析している。まさにその通りだ。

というわけで、新海誠監督の過去作品を16年分振り返ってみたんだけど、「作品を発表する」 → 「観客から批判される」 → 「次回作で修正する」 → 「また批判される」というサイクルをずっと繰り返していたことが判明して驚きを隠せない。どんだけ真面目な人なんだ?と(笑)。

不思議なのは、インディーズの作家ならもっと自分のスタイルにこだわりを持ってもいいはずなのに、新海監督の場合は観客の反応をいちいち気にして、自分の作風を次々と変えていっていることだ。これは、個性を重視する映像作家としてはかなり珍しいんじゃないだろうか?

さらに今回、細田守監督『バケモノの子』など数々の大ヒット映画を手掛けたことで知られる敏腕プロデューサーの川村元気氏が制作に関わり、脚本の段階からかなり綿密な打ち合わせを重ねていたらしい。『君の名は。』のストーリーも当初は「無事に過去を変えることが出来て、それぞれのキャラクターが平穏な日常へ戻っていく」という場面で終わっていたとのこと。

しかし、その脚本を読んだ川村プロデューサーが、「この物語は本当にここで終わっていいのか?」と何度も問いかけてきたそうだ。一見すると作家に自分の考えを押し付けているようにも見えるが、川村氏は「”ああしろこうしろ”と指示するのではなく、あくまでも作家の本音を引き出すのがポイント。新海監督がやりたいことを最も効果的な形で実現する、それがプロデューサーとしての僕の仕事だと思ってますから」とコメントしている。

こうした川村プロデューサーの意見に対し、新海監督は「ラストの展開は僕としてはもっと現実的な結末に収めるつもりでいたんです。でも川村さんたちの意見を聞いているうちに、”もう少し先があるのかも…”というのがぼんやり見えてきて、一生懸命答えを探すうちにあのラストが見つかった。”ああ、やっぱり先があったんだ”と。そうやって辿り着いたのが、今回の物語なんです」と最初の構想から大きく変化したことを認めている。

アニメを作り始めてから16年、かなりの紆余曲折もあったようだが、こうした試行錯誤の連続でどんどん観客の数を増やしていき、ついに最新作の『君の名は。』で100億円を突破したのだから、やはり「凄い!」としかいいようがない。もしかしたら、常に観客の反応を意識し、自分の作品に毎回改良を加えてきた新海監督にとって、今回の大ヒットはある種の必然だったのかもしれないし、「一人でも多くのお客さんに楽しんでもらいたい」という気持ちが何よりも強かったのかもしれない。

いずれにしても、『君の名は。』はインディペンデントの個人制作アニメからメジャーに至る過渡期の作品として、今後も新海誠のフィルモグラフィーの中で特別な意味を持ち続けることは間違いないだろう。


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新海誠監督の『ほしのこえ』がアニメ界に与えた影響と衝撃


同じ映画を何度も繰り返し観る人ってどうなの? → 凄すぎた!

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どうも、管理人のタイプ・あ〜るです。

いや〜、『君の名は。』の勢いが凄いですね!公開からすでに1ヶ月以上も経過しているのに、初登場の『ハドソン川の奇跡』(クリント・イーストウッド監督、トム・ハンクス主演)をぶっちぎりで突き放し、5週連続で興行成績ナンバーワンを獲得してしまいました。興収は累計で111億円を突破するなど、まだまだ快進撃は止まりそうにありません。

ちなみに、『ハドソン川の奇跡』がオープニング2日間で観客動員17万3000人、興収2億2500万円を記録しているのに対し、『君の名は。』の方は2日間で動員63万7000人、興収8億6000万円という途方もない数字を叩き出しています。これは「同じ映画を複数回観賞する人」、いわゆる”リピーター”が続出していることも大きな要因と考えられるでしょう。

この「同じ映画を何度も繰り返し観る」という行為は、もちろん映画好きなら普通にあり得ることで特別珍しいものではありません(僕も、気に入った映画があれば何度も劇場に通ったりしますから)。ただ、近年の傾向として特徴的なのは、これが「個人の行動」ではなく「大勢の観客による現象」として拡大し、さらに「観る回数が異常に増えている」という点なんですね。

このような傾向は、『マッドマックス 怒りのデス・ロード』や劇場版『ガールズ&パンツァー』の頃から特に顕著になり始め、「怒りのデス・ロード、5回観たぜ!」「俺は6回だ!」と観賞回数を競うように皆がSNSへ投稿しまくりました。それによって、「ファンの間で自分たちの好きな作品に対する意識を共有する」という現象が拡散していったと思われます。

まあ、これ自体は全然問題ないというか、むしろ映画業界的には歓迎すべきことであり、実際『シン・ゴジラ』や『君の名は。』の大ヒットも、こうしたリピーターの活躍(?)のおかげで達成できたわけだから、どんどん盛り上げてもらいたいとは思います。

ただ、何て言うか……「同じ映画を何度も繰り返して観る」という行為を周りに強くアピールするのは、「え?お前まだ2回しか観てないの?おいおい、ファンなら5回以上観るのが当然でしょ?」的な空気を醸し出し、「数多く観ている方がえらい風潮」になりがちなんですよね。それより少ない人は「すみません、僕まだ『シン・ゴジラ』3回しか観てません」みたいな、謎の敗北感を味わうという(笑)。

あと、映画ファン以外の一般人にしてみれば、「なんであの人同じ映画ばっかり観てんの?」と理解しがたい行動に映ってしまうわけで、会社や周りの人たちから変な目で見られてしまう可能性も無きにしも非ず。最終的には「その分のお金と時間をもっと有意義に使ったら?」と全く嬉しくないアドバイスまでもらってしまうなど、面倒くさい事態にもなりかねません。

まあ実際のところ、好きな映画を何回観ようがその人の自由なので、何の関係も無い人が文句を言う筋合いではないのですが、「極端に観賞回数が多いリピーター」を見ていると、映画ファンの僕ですら「何だろう?このモヤモヤする気分は…」となってしまうわけですよ。で、色々この件に関する意見を調べていたところ、以下のようなツイートを見つけました。

おお〜、なるほど!映画1本を2時間ぐらいとすると、その時間分だけ「まだ観ていない映画を観る機会」が失われている、というわけですか。確かに、そう言われればそうかも…。まあ、僕も同じ映画を2度3度と繰り返し観ることはありますけど、十数回となったらさすがに違う映画を観たいかなあ(笑)。

ちなみに、世間の人はどれぐらいの回数を繰り返し観ているのでしょうか?噂によると「最近では10回以上観る人も珍しくない」とのことで、気合いの入ったファンはもっと凄まじい記録を叩き出しているそうです。では、いったいどんな映画を何回ぐらい観ているんだろう?と調べた結果…

えええええ!?ひゃ、100回!?ガルパンばっかり100回も見てるの?ハンパねえな!ファンの人に「いくら使ったの?」と聞くのはナンセンスだからあまり言いたくないけど、敢えてお金に換算するなら、通常料金で観た場合は18万円ですよ!ガルパン代に18万円って!すごすぎる!

正直、「同じ映画を何回も観に行く人ってどうなんだろう?」とか思っていましたが、100回も観てるとなったら、もう何も言えません。完全に、素人には太刀打ちできない領域に達しています。参りましたッ!

江川達也、テレビの生放送で『君の名は。』を痛烈批判!

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本日、お昼の生放送番組『バイキング』の中で、漫画家の江川達也さんが大ヒット公開中の『君の名は。』を思い切り批判するというハプニング(?)が起こり、スポーツニッポンやサンケイスポーツなどのネットニュースに掲載され、話題になっているようです。

番組では坂上忍さんの他、タレントの泰葉さん、漫画家の江川さん、コメンテーターの岸博幸さん、司会進行役のフットボールアワーの後藤さんなどが、最近世間を賑わせているニュースを取り上げ、様々なトークを繰り広げていました。

そして、新海誠監督の『君の名は。』が大ヒットしている現象について各人に意見を求めた際、他のゲストが「いい映画だった」と絶賛しているのに、なぜか突然、江川さんだけが「薄っぺらい映画だよな〜」と批判し始めたので大騒ぎに(笑)。以下、その時の会話を書き起こしてみました。



江川:「まあ確かに、こりゃ売れるなとは思いましたよ。丁寧に売れる要素をぶち込んでて、まあ言ってみりゃ”大人のドラえもん”みたいなもんでね」

坂上:「ちょっと待って。何でそんなに不満げな言い方なの?」

江川:「いや〜、だってプロから見ると全然面白くないんですよ(笑)。作り手側から見ると作家性が薄くて、売れる要素ばっかりぶち込んでる、ちょっと軽いライトな映画って感じで。絶賛してる人はいるんだけど、そういう人が、面白くなかったという人に対して凄いディスってるんですよ。”みんな観なきゃダメだよ!”とか言って。だからある種、『君の名は。』はファシズム映画なんですよね

岸:「私は新海監督をデビューの頃からずっと知ってるんですが、その観点から言うと、実はアニメ業界の大御所の方も、江川さんの意見に近くて、”あれは映画じゃなくてミュージック・クリップだよな”って。でも実は、これが大事なポイントで、新海さんってすごく賢い方ですから、世の中のそういう傾向を分かった上で、ああいう映画にしたんです。もともと映画っていうのは、本来はじっくり観て考えるもの、それが映画だったんですけど、今の時代って、特にスマホ世代はサラっと見て気持ち良くなるのが好きで、まさにそういう嗜好に合わせてあるんですよ」

後藤:「なるほど、ちゃんと時代の風潮に合わせていけるというね」

江川:「ただ、それもプロデューサーが良く出来たものを作ってるんですよ、商売として」

坂上:「でもこれ、130億っていうのは異常な数字ですよ。それこそ、宮崎さんの映画みたいに、テレビ局と組んでデカい金で宣伝をバーンと入れたとか、そういうことではないじゃない。それは凄いことじゃないですか?」

江川:「まあ今はSNS時代で、口コミで広がった新しいタイプの宣伝方式だったとは思いますけどね」

岸:「この映画、最終的には200億超えると思うんですよ。凄いヒットですけど、じゃあ何でそれが出来たんだろうって考えると、新海さんは背景とか世界観を描くのは素晴らしい方なんですよ。それで、デビュー作とか初期のアニメでは彼が自分で絵を描いてたんだけど、主人公の顔とかに関しては背景ほど素晴らしくはなかった。それが今回、主人公などの絵は元ジブリのスタッフが描いてるんです。だから、登場人物は凄くジブリ的で魅力的な感じで、さらに背景は今までの新海さんの世界観や背景だから、当然その組み合わせは素晴らしいものになるわけですよね」

アナウンサー、『君の名は。』のあらすじを説明(中略)

坂上:「これ、要するに大林監督の『転校生』みたいなもんなの?」

江川:「そう。なのに、エロ度が少ないんですよ!

坂上:「いや、エロは別に必要ないでしょ?」

江川:「でも、リアルを追及すれば、若い女の子と入れ替わったら、やるべきことがあるじゃないですか、男としては(笑)」

坂上:「そこのリアリズムは求めてないんだよ!」

(中略)

岸:「新海監督の世界観って、基本的にはワンパターンなんですよ。だから、デビュー作からそんなに変わってないんですよね。で、実際、彼の前作は興行収入1.5億円ぐらいなんです。今回の100分の1なわけですよ。まあ今回の大ヒットは東宝もびっくりしたぐらいですから、色んな偶然はあったにせよ、ヒットしたのは素晴らしいことですよね」

坂上:「この監督さんって、結構、魅力的な人だよね」

アナウンサー:「そんな新海監督なんですが、今回の大ヒットに対してこのようにコメントしているそうです」

少し困ったことになったな。今回の作品がヒットしているのはたまたまだ


後藤:「監督自身も驚いている状態?」

江川:「要は、こんだけヒットしちゃったから、次も絶対ヒットするだろうって期待がかかちゃって、ヒットさせなきゃってプレッシャーで結局好きなもん作れなくなる…ってことでしょコレ?」

坂上:「これは、今後が大変っていうか…」

江川:「そう、これぐらいのヒットを…お金を期待されちゃう」

岩尾:「でも、次の作品が、また100分の1に戻るってことはもうないですよね?ファンも増えたし…」

江川:「いや、でも逆に次をまた観たいと思って行った時、そこで作家性を出すと、皆がケチョンケチョンに貶すかも」

坂上:「まあ批判の対象になってからが勝負ですよね。賛否は絶対にあるから」



というわけでこの後、番組内では全然別の話題に移っていったんですけど、CM明けに神妙な顔つきのアナウンサーから「あの〜、先ほど『君の名は。』の話をしていましたが、新海誠監督がツイッターを更新されてまして…」と報告があり、出演者一堂「えええ〜?」とびっくり。そのツイートがこちら↓

どうやら、本日の『バイキング』を新海監督が見ていたらしいのですが、これに対して江川さんは、「いや〜、実はフェイスブックにも結構(『君の名は。』の批判を)書いてて、ファンからディスられてるんですよね俺(笑)」と嬉しそうに笑っていました。う〜ん、自分の発言をあまり気にしてないのかなあ(^_^;)

なお、そんな江川さんの様子を見た漫画家の奥浩哉さんが痛烈な一言を…↓

うわー、きっつー(笑)。これはなかなか厳しいコメントですねえ。まあ、江川さんの「『君の名は。』は全然面白くない」発言は、一人の観客の感想としては何の問題もないと思います。ただ、「プロから見て…」という言い方をされると、まるでプロの意見を代表しているように聞こえてしまうし、「そもそも何のプロなんだ?」と。

もちろん、江川さんはプロの漫画家なんですが、過去に、下描き状態の未完成の原稿を雑誌に載せてファンから猛烈に非難されたり、その一方で、テレビに出演しては他のクリエイターが作った作品を批判したり、「ちょっとどうなんだろう?」と思うような行動が多いことから、同業者の漫画家さん達にも嫌われているようです。そういうところが問題なのかなあ。

う〜む、色々と闇が深そうですね(^_^;)

君は雨宮慶太監督のSF映画『ゼイラム』を知っているか?

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どうも、管理人のタイプ・あ〜るです。

さて本日は、「新しく発売される映画のブルーレイを予約しようと思ったら、想定外の状況になってて驚いた」という話をしてみたいと思います。

その映画のタイトルは『ゼイラム』。ここで有権者の皆さんにお聞きしたいのは、「あの『ゼイラム』がついにブルーレイ化決定!」という情報を聞いて、「ええっ!?あの『ゼイラム』が!?」と食い付く人が、果たして世の中にどれぐらいいるのか?ということなんですよ。

『ゼイラム』っていうのは、1991年に公開された日本のSFアクション映画です。この映画を撮ったのは雨宮慶太監督で、雨宮監督と言えば、今では特撮ヒーロー番組『牙狼-GARO-』シリーズが有名ですよね(パチンコにもなったし)。その雨宮監督の劇場デビュー作が『ゼイラム』だったのですよ。

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バンダイビジュアル (2016-12-22)

しかしながら公開当時は全くヒットせず、一部のマニアを除いて多くの映画好きからはスルーされ、知名度的にも当然『牙狼-GARO-』には及びません。おまけに25年も前の映画であることから、「今さらブルーレイを発売したって、誰も知らないんじゃないの?」と、そんな風に思ってました。

なので「やれやれ仕方ないなー、かわいそうだから僕が一つ買ってやるか」と上から目線でリンクをポチってみたところ、いきなり「ベストセラー1位」の文字が…。ん!?どういうこと?

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驚いて「売上ランキング」的なページを確認すると、なんと日本映画の売れ筋ランキングで堂々の1位になってるじゃありませんか!いやいや、ちょっと待って!『ゼイラム』ってそんなに知名度が高かったっけ?

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僕が驚いたのはまさにこの点でして、意外な状況にビックリ仰天。『ゼイラム』という映画は、少なくとも僕の中では「低予算のマイナーな日本製特撮アクション」という認識しかなく、コアなファンはいるでしょうけど、ブルーレイがそんなに売れるほど一般的に知られていたとは思えなかったんですが…。なんでだろう?

実は「マイナーだ」と思っていたのは僕だけで、世間的には誰もが知っている超有名作品だったりするんでしょうか?僕の周りの映画ファンは、『ゼイラム』の存在すら知らなかったんだけどなあ(^_^;)

なお、知らない人のために解説すると、本作は「宇宙の刑務所を脱走した凶悪犯ゼイラムが辺境の惑星:地球へ辿り着く。そして、ゼイラムを捕えるために賞金稼ぎのイリアも地球にやって来て、壮絶なバトルを開始!しかし、その戦いに二人の地球人が巻き込まれて大変な状況に…!」という内容です。

邦画には珍しいSFアクションで、しかも主人公がエロいプロテクターに身を包んだ森山祐子(これまた微妙な知名度ですよねw)。普段は地味なマントを羽織っている彼女が、戦闘シーンになった途端、戦闘用プロテクターを蒸着し、ハンドガンやマシンガンを連射しまくり、敵のビームを素手で弾き返すという凄まじさ!

僕の知る限り、「かっこいいヒロインが様々なSF的ガジェットを駆使して宇宙からやってきた恐ろしいモンスターと対決する日本映画」っていうのは、本作以外に存在しません。海外の映画なら、ミラ・ジョヴォヴィッチのアレとか、シガニー・ウィーバーのアレとか、いくつも同系統の作品は見かけますが、邦画でこの手のジャンルムービーは滅多にないんですよねえ。

だからこそ余計に貴重なわけで、僕なんかはビデオテープの時代からソフトを買い、レーザーディスクが発売されたら迷わず買い、DVDが出たら当然のように買い、メディアが変わる毎に何度も購入してきたわけですよ。それぐらい好きな作品です。

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本作の魅力を説明すると、まず「バジェットの安さをアイデアでカバーしているところ」でしょう。なんせこの作品、当初はオリジナルビデオとして発売する予定だったため、制作費がほとんどありませんでした。途中から劇場用に変わったものの予算の規模は変わらず、なんとたったの3000万円!

しかし雨宮監督は「どんなに低予算でも自分の撮りたい映画を撮るんだ!」と決意し、様々な創意工夫で苦境を乗り切ったのです。例えば、登場人物が多すぎるとキャストの費用が増えるため、「主人公が”ゾーン”と呼ばれる特殊な空間を作り出して、そこにゼイラムを閉じ込める」という設定を考案。

こうすれば、普通の街を異空間に見立てることが出来るし、他の人間はゾーンに入れないから、主人公とゼイラムと二人の地球人という、たったの4人だけでストーリーを進めることが可能になるわけです。なんという発想!

さらに予算を節約するため、スタッフは千葉県山中のつぶれたスーパーマーケットに泊まり込み、そこの駐車場でオープン撮影を行っていたそうです。ただし、水も電気も来ていなかったので、スタッフは毎日ポリバケツを持って近所の民家まで水をもらいに行き、その水を飲んで喉の渇きを癒し、さらに顔を洗い歯を磨いていたという。

とてもプロの撮影現場とは思えないほどの貧乏ぶりに「自主制作映画並じゃん!」という声が聞こえてきそうですが、最近は大学の映画サークルでさえ、もう少しリッチな制作環境になっていることを考えると、もはや「自主制作以下」かもしれません。

ちなみに、雨宮監督の現場の悲惨さは業界では知れ渡っているらしく、『タオの月』という映画を撮影した際は、スタッフのホテル代が出なかったため、なんと近所の健康ランドに泊まって我慢したとのこと。しかし、さすがに「宴会場の大広間で全員ザコ寝」という状態が1ヶ月続いた時は、スタッフから苦情が出たそうです(当り前だw)。

タオの月 [DVD]
バンダイビジュアル (2003-10-24)

ところが、この悲惨なエピソードを聞き付けた樋口真嗣監督がなぜか興味を示し、『ガメラ3 邪神<イリス>覚醒』の京都炎上シーンを撮影する際に、「そこへ泊ってみよう!」と言い出したのですよ。状況を知っているスタッフは慌てて反対したものの、「ホテル代を節約できる」と喜ぶ制作部の勧めもあって、とうとう無謀なプランが採用されてしまいました。

こうして”悪夢の健康ランド宿泊”が再び実現!その結果、翌朝に撮影現場へやって来た樋口監督と『ガメラ3』のスタッフ達は、まだ仕事を始める前なのに早くも根こそぎ体力を奪われ、疲れ果てた表情をしていたそうです。恐るべし健康ランド!いや、健康ランドに罪はありませんが(笑)。

そんな感じで、『ゼイラム』の撮影は決して裕福とは言えない環境で行われました。にもかかわらず、出来あがった映画は、激しい銃撃戦あり、ワイヤーアクションあり、爆発シーンあり、特撮あり、ミニチュア撮影あり、ストップモーションアニメあり、特殊メイクあり、CG映像あり、オプチカル合成あり、様々なSFガジェットあり等、「どこにそんな金があったんだ?」と驚くほど豪華な内容になっているのですよ。素晴らしい!

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一般的に日本の映画は海外に比べて製作費が安く、費用がかかりそうなアクション映画やSF映画は「企画自体が通りにくい」と言われています。そんな中で『ゼイラム』は、少ない予算を最大限に有効活用するため、設定の段階から工夫を凝らし、お金をかける部分はしっかりかけて、それ以外は思い切って省くという判断を下しました。

最近、「ハリウッドは大金をかけて撮ってるんだから凄くて当たり前だ!」とか、「日本は予算が無いんだから仕方ねーだろ!」などと不満をぶちまける映画関係者が多いようですが(まあ気持ちは理解できなくもないんですが)、その一方で雨宮監督のように、少ない予算でも創意工夫で面白い映画を撮ろうと頑張ってる人もいるわけで、そういう姿を見ると「結局、やる気とセンスの問題なのでは?」という気がしなくもありません(もちろん、お金は無いよりあった方がいいけどねw)。

それから、「登場キャラが面白い」という点も本作の大きな魅力でしょう。主人公イリアとゼイラムとの戦いに巻き込まれる地球人として、神谷(蛍雪次朗)と鉄平(井田州彦)の電気屋コンビが活躍するんですが、この二人、すごくキャラが立ってるんですよ。特に蛍雪次朗さんが芸達者で、常に変なことをやらかしてくれるため、会話シーンやリアクションが抜群に面白いんですよね(この人『平成ガメラ』三部作にも出演してます)。

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さらにキャラの面白さで言うと、この映画は強いイリアと強いゼイラムが激しいバトルを繰り広げる物語なんですけど、同時に「異文化交流SF」の側面も描かれていて、最初は「弱い地球人は引っ込んでて!邪魔よ!」などとツンツンしていたイリアが、必死に戦う二人の姿を見ているうちに、「ふ〜ん…、地球人もなかなかやるじゃない」とデレるみたいな(笑)、三人の関係性が徐々に変化していくんですよ。そういう人間ドラマも見どころではないかと。

ちなみに、映画の冒頭シーンで街を歩いているイリアとぶつかる通行人役として、『ウイングマン』や『電影少女』などの漫画家:桂正和先生が出演しているのでお見逃しなく(笑)。雨宮監督とは阿佐ヶ谷美術専門学校時代の後輩にあたり、『ゼイラム』のアニメ版(『イリア THE ANIMATION』)のキャラクターデザインも務めているので要チェック。

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あとはやっぱり、ゼイラムの恐ろしさをしっかり描いている点ですね。とにかくゼイラムが強い!しかも戦闘が激しくなるにつれて、『ドラゴンボール』のフリーザ様ばりに形態を変化させるのだからたまりません。やっつけてもやっつけても姿を変えて主人公たちに襲いかかって来る、そのしつこさたるや「あと何回変身するんだよ!?」とウンザリするほどです。だが、それがいい!

その他、雨宮監督が重度のガンマニアなせいで、登場する銃火器が全てオリジナルのデザインになっており、ガンエフェクトコーディネーターとして『ゼイラム』に参加した栩野幸知さんも「日本のSF映画で、ここまで大量に架空のプロップガンを作った映画は他にない」と驚いていました。

なお、イリアが撃っているハンドガンは、当時、組み立てキットが再販されたばかりのコルト・ローマン(MGC)をベースに製作されたそうですが、コルト系はS&W系に比べてトリガーが重いので、森山祐子さんの指の力では連射ができなかったらしい。そこで、急遽現場でトリガーガードをカットし、2本指で引き金を引けるように改造したそうです。

また、低予算ムービーにしては爆発の規模が非常識に大きいところも『ゼイラム』の特徴でしょう。なんせ宇宙人の兵器で戦ってますから、破壊力が尋常じゃありません。そこら中でドッカンドッカン大爆発が巻き起こり、凄まじい迫力なんですよ。特に、鉄平が原チャリで逃げるシーンは、スタントマンじゃなくて井田州彦さん本人がバイクを運転しているのに、躊躇なく至近距離で大量の火薬を爆破!もう「頭おかしいんじゃないの?」というレベルです。

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というわけで本作は、特撮ヒロインものの雰囲気をベースにしつつ、『ターミネーター』や『エイリアン2』や『遊星からの物体X』や『バック・トゥ・ザ・フューチャー』などの要素をうまい具合に取り入れた娯楽映画として、非常に見応えのある内容だと思いました(特に『エイリアン2』の影響が分かりやすいw)。

難点を挙げるとすれば、映像が全体的に貧乏くさいことと(まあ実際に貧乏ですからねw)、あとは森山祐子さんの演技力が多少(かなり?)気にかかる、という点でしょうか(笑)。しかし、かっこいいアクションとエロいコスチュームを堪能できると考えれば、さほど問題にはなりません。未見の方はぜひ一度ご覧ください(^_^)


なぜ『ルパン三世 カリオストロの城』の話は矛盾しているのか?

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どうも、管理人のタイプ・あ〜るです。

昨夜、金曜ロードSHOW!にて宮崎駿監督の『ルパン三世 カリオストロの城』が放送されました。非常に知名度が高い人気アニメなので、何度も観ている人も多いんじゃないでしょうか(僕もですw)。

ただし、以前から「『ルパン三世 カリオストロの城』はストーリーに整合性がない」と言われていることに関しては、意外と知られていないかもしれません。

これは僕も気付かなかったんですけど、2004年にNHKで放送された「BSアニメ夜話」という番組内で指摘されているのを見て初めて知ったんです。

この番組は「毎回一つのアニメ作品を取り上げて議論する」という非常にマニアックな内容で、カリオストロの回を見たら、コラムニストの唐沢俊一氏(「トリビアの泉」のスーパーバイザー等)が、「『カリオストロの城』はストーリーに整合性が無くて矛盾だらけだ!」と批判していたんですよ。

例えば、映画の冒頭でルパンは国営カジノから大金を盗み出すんですが、その直後に偽札(ゴート札)ということに気付いて全部車から投げ捨ててしまう。つまり「俺は偽札なんかいらねえよ!」という意思表示なわけです。

ところが、その後、ルパンは興味がないはずの偽札を探るためにカリオストロ公国へ侵入してるんですよ。「価値がない」と判断して捨てた偽札なのに、どうしてそれを求めて海外まで行くのか?そもそもルパンの目的は何なのか?

しかも、ラストシーンでは原版を盗んだ峰不二子を見て「あっ!偽札の原版じゃん!お友達になりたいわ〜!」などと興味を示している。だったら、最初に盗んだ偽札を捨てるなよ!ルパンの行動は明らかに矛盾してるじゃないか!

……とまあ、こんな感じで唐沢俊一氏は『ルパン三世 カリオストロの城』における論理矛盾を次々と指摘し、「ルパンの行動には必然性がないし、カリオストロ伯爵が自分の所有している時計塔にあんなデカい仕掛けがあったことに気付かないというのも、そもそもおかしいし。全ての場面が矛盾だらけだ!」と力説していました。

ただ、唐沢氏がこのように主張している理由は単に作品を批判したいからではなく、「これだけシナリオに欠点があるのに、それを無視して”最高だ!”と褒め称える声が多い状況に違和感があるから」だそうです。以下、唐沢氏のコメントから抜粋↓

ですから、これは逆に言うと、これだけミスがあってもあれだけ見事なアニメを作ったということは、宮崎駿の演出家としての腕の確かさなので、そこら辺を、このミスを認めるということが、すなわち宮崎駿の演出の腕を褒めるということになるのではないかと。


私はそう思ったんですが、ま、その諸般の事情とか知らずに、特に評価が定着してからこの作品に接した人たちっていうのは、全てをひっくるめて絶賛しようとするんですよ。だから、どう考えても穴があるところに、自分なりに色々と理屈を、裏の設定を自分で作ってね、「こうだったに違いない!」。違いないって言っても(笑)、そんなことはね、あんたが勝手に考えただけでしょうということであって。


だから、どうなんでしょうね?これは『カリオストロ』に限らず、アニメ全般なんですけど、欠点を含めて愛するということが、日本人は下手ですよね。どちらかというと絶賛する傾向になり、欠点を一切言わないとか、指摘してはいけないとか。


欠点に盲目的になるか、あるいは頭の中で無理して裏設定作って補完して、完全無欠な傑作だと思い込む。でも、それじゃつまらんですよ。この作品の真価は、僕は穴だらけのストーリーにあると思うんですよね。普通、これだけ矛盾とか欠点があると、話がつながらなくなるんだけど、それをつなげて何ら違和感がない。


僕だって、最初に観た時は全然気が付きませんでしたからね。ノートに感想とかストーリーを書き出してみて、初めて「あれ?」と思った、その時からですから。要するに、それこそが宮崎駿さんの腕の証明なんだと。欠点をむしろ言い立てろと。それでスゴイ大きな穴があればあるほど、宮崎駿の演出家としての才能、天才性というものが称揚されることになるんだから、というようなことを主張したわけで。 (「BSアニメ夜話」より)


このように、唐沢氏は「『カリオストロ』の本当の凄さとは、こんなにストーリーが穴だらけなのに、それを観客に全く気付かせないところなんだ」と述べており、そこが宮崎駿監督の天才たる所以なのだと言ってるわけなんですね。

では、どうして『ルパン三世 カリオストロの城』はこんなに矛盾だらけのストーリーになってしまったのでしょうか?実はこの作品、当初は複数の脚本家によって作られたプロットを映画監督の鈴木清順が監修し、1979年の3月にはすでに第1稿が完成していたのだそうです。

ところが、それを読んだ作画監督の大塚康生さんが難色を示して宮崎駿監督に相談したらしい。すると宮崎監督は自分でプロットと設定資料を作り、最終的には自分で監督もやることになったのです(この時点で鈴木清順監督の脚本はボツになってしまいました)。

そして、新たに山崎晴哉さんが脚本家としてスタッフに加わり、宮崎監督のプロットをもとに第2稿を執筆したものの、宮崎さんはその脚本が気に入らなかったらしく、結局、絵コンテの方でストーリーをどんどん描き替えていったそうです(そのため、クレジットが宮崎氏と山崎氏の共同脚本になっている)。

このように、『カリオストロ』のストーリーは元々別の人が書いていたものがボツにされ、さらに次の人が書いた脚本も(宮崎監督の判断で)全く違う内容に変更されるなど、かなりの紆余曲折を経た挙句にやっと決まったものだったようです。

なお、この時のエピソードを、当時、鈴木清順監督と共に脚本の第1稿を作り上げたスタッフの一人が詳しく記録し、『私の「ルパン三世」奮闘記』という本に書いていたので読んでみました。それによると、会社側から「江戸川乱歩の『幽霊塔』のような、大きな時計塔や古城を舞台にしたサスペンスを考えて欲しい」とのオファーがあり、その指示に従ってプロットを考えたらしい。

幽霊塔
江戸川 乱歩
岩波書店

宮崎駿のカラー16ページに及ぶ口絵が収録されている。

後年、宮崎監督は「どれほど自分が『幽霊塔』に影響を受けたか」を語り、三鷹の森ジブリ美術館では「幽霊塔へようこそ展」まで開くほど”幽霊塔好き”をアピールしていましたが、鈴木清順監督の第1稿の時点で、すでに幽霊塔の要素は入ってたんですね。

ちなみに、せっかく書いた『カリオストロの城』のシナリオをボツにされた最初のスタッフは宮崎監督のことを恨んで(?)いたらしく、『カリオストロの城』の公開後、東京ムービーで「死の翼アルバトロス」を作る際に実施された宮崎監督との打ち合わせの様子を、『私の「ルパン三世」奮闘記』の中で書いていました。

それによると、鈴木清順監督が宮崎監督の絵コンテを見ながら「何を描きたいのか伝わってこないし、判らない」と厳しく批判。すると、宮崎監督は複雑な表情を見せながら「テレビなんて、こんなもんです」と答えたらしい。

その言葉を聞いた著者は「鈴木監督にズボシを突かれたから、強がりを言っているのだ。クソッ!偉そうに、何様だと思ってるんだ!」と宮崎監督に対して煮えくり返る思いだった、と告白しています。かなり鬱屈した気持ちだったようですねえ(^_^;)

私の「ルパン三世」奮闘記: アニメ脚本物語
飯岡 順一
河出書房新社

『ルパン三世』シリーズの製作秘話を記した記録集なんですが、著者が宮崎駿のことを嫌っているせいなのか、かなり偏った意見が見受けられますw

そんなわけで、結局『ルパン三世 カリオストロの城』のシナリオは、宮崎監督が絵コンテで全て修正したため、実質的に「存在しない」ことになってしまいました(山崎晴哉の脚本ではグスタフやジョドーなどのセリフがもっと多かったが、絵コンテの段階で全部削除)。

さらにスケジュールの都合上、後半部分は自分で描いた絵コンテまで容赦なく削っていったせいで、物語の辻褄が合わなくなってしまったのです。こういう、「脚本家の考えたシナリオを宮崎監督が描き直す」という行為について、作画監督の大塚康生さんは次のように説明していました。

どんなに良いシナリオが仕上がってきても、宮崎さんの頭の中の、やりたいことが最優先になってしまうから、お話が変わっていってしまったり(笑)。そんなこんなで、本当にシナリオを全然見ないで絵を作る。ですから、辻褄の合わない部分が出て来ることもあり得ますよね。


だから宮崎さんの場合は、彼の構想を脚色せずにそのまま文章化する専門家というのかな、スクリプトライターのような人を呼んでくればいいわけです。普通のシナリオ作家さんの場合は自らの主張があるわけですから、『カリオストロ』のような仕事は依頼しない方がいいってことですね(笑)。 (「BSアニメ夜話」より)


というわけで、『ルパン三世 カリオストロの城』のシナリオについて色々な裏話を検証してみたんですけど、まあ正直「ストーリーに整合性がない!」とか「矛盾だらけだ!」とか言われても、全然ピンと来ないし、今改めて『カリオストロの城』を観ても、やっぱりメチャクチャ面白いわけですよ。

これはつまり、「ストーリーに少々おかしな部分があったとしても、監督の能力が優れていれば、面白い映画に仕上げることは十分可能である」ってことなんじゃないでしょうか?「例えシナリオが穴だらけだとしても関係ない。面白い映画は面白いんだよ!」と。そういう意味でも『ルパン三世 カリオストロの城』は、宮崎駿の類い稀なる演出力で物語の矛盾をねじ伏せた、真の傑作アニメと言えるかもしれません(^_^)


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宮崎駿監督『ルパン三世 カリオストロの城』の壮絶な制作秘話!


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ウォルト・ディズニー・ジャパン株式会社 (2014-08-06)

映画『ズートピア』に仕組まれた10の娯楽要素がすごすぎる!

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■あらすじ『幼い頃から警官になることを夢見ていたジュディは、懸命な努力を続けた結果、動物たちの楽園「ズートピア」で、史上初のウサギの警察官となった。しかし周囲は「小さなウサギに務まるはずがない」と半人前扱い。そんな時、謎の連続行方不明事件が発生し、ついにジュディにも捜査のチャンスが巡ってくる。しかし与えられた時間はたったの2日間。しかも失敗すればクビという厳しい条件が課されてしまった。そこでジュディは、この街をよく知るキツネのニックに協力を依頼、2人で少しずつ事件の核心へと迫っていくが、そこには驚くべき真相が隠されていた!「アナと雪の女王」や「ベイマックス」のディズニーが贈る夢と感動のアドベンチャー・ファンタジー・アニメーション!』

※今回の記事にはネタバレがあります。未見の方はご注意ください。

どうも、管理人のタイプ・あ〜るです。

激しく”今さら感”が漂いますけど(笑)、ようやく『ズートピア』を観賞しました。本作は今年のゴールデンウィーク・シーズンに日本で公開され、興収76億円の大ヒットを記録。その時点では、2016年の映画の中でナンバーワンを記録していたのですよ(『君の名は。』に抜かれてしまいましたがw)。

それほどの人気作にもかかわらず、どうして観なかったのか?と言うと、「動物たちが人間のように立って喋って生活しているアニメ」と聞いて、「ああ、完全に子供向けのディズニー映画だな」と思い込み、あまり興味が湧かなかったんですよね。

いや、ディズニー映画自体は好きなんですよ。『アナと雪の女王』や『ベイマックス』も映画館へ観に行きましたから。でも今回は「オール動物キャラ」ということで、1994年の『ライオン・キング』みたいな世界観を想像し、「さすがにちょっと子供向け過ぎるかな〜」と。

そんな理由で敬遠してたんですけど、想像を遥かに超える面白さにビックリ仰天!「まあ、単純明快なファミリー・アニメだし、どうせ大したことないだろう」と見くびっていた自分を叱責したいほどの素晴らしい完成度で、本当に驚きました。

では『ズートピア』の何がそんなに面白かったのか?それは、この映画が「複数の娯楽要素をぶち込んだ極めて質の高いエンターテインメント作品である」という点なのです。いや〜、実に凄い!普通、こういう映画の場合、娯楽要素的にはせいぜい2つか3つぐらいなのに、本作は少なくとも以下の10個の要素が入ってるんですよ。


(1)擬人化した動物たちが活躍する愉快で楽しいファンタジー・アニメーション

(2)夢を抱いて都会へやって来た少女が、懸命に努力して成功を掴むサクセス・ストーリー

(3)即席コンビが協力して難事件を解決するバディ・ムービー

(4)真犯人は誰だ?主人公が謎の凶悪犯罪に挑むクライム・ミステリー

(5)現代社会における偏見や差別の問題を鋭く描いた社会派ドラマ

(6)各動物の特徴を生かした個性的なギャグが面白いハートフル・コメディ

(7)様々な映画ネタを取り入れたパロディ映画

(8)架空の街「ズートピア」を舞台に繰り広げられるアクション・アドベンチャー

(9)身近な人(動物)が突然凶暴になって襲いかかって来るサスペンス・ホラー

(10)偶然出会った男女が行動を共にするうちに特別な感情が芽生えていく恋愛物語


もちろん、これらの要素が均等に入っているわけではなく、ベースはあくまでも動物を主人公にしたファンタジー映画です。しかし、一つの作品の中に様々な要素をぶち込みつつ、それらを違和感なく成立させることは容易ではありません。

しかも、このような複数のカテゴリーをわずか108分という限られた上映時間の中できっちり描き切っているのがまた凄い!ディズニー・アニメの底力を思い知らされました。では、いったい『ズートピア』はどのような構成になっているのか?具体的に見てみましょう。


●ファンタジー・アニメ要素

この映画の根幹を成すパートであり、「喋る動物たち」というディズニーお得意のジャンルでもあります。だから僕も最初は「良くあるファミリーアニメか」と油断してたんですが、中身は恐ろしいほどにハイレベルな超絶ファンタジーでした(笑)。

もちろん、普通にファミリーアニメとして観ても十分楽しめるんですけど、本作が『ライオン・キング』など他の動物アニメと異なっているのは、「動物アニメの疑問に自ら突っ込みを入れるメタ的な視点を持っている」という点なのです。

例えば、動物アニメで良く見るこういうシーンも…↓

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現実ではこうなるはずです(笑)↓

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このような「肉食動物と草食動物が仲良く共存する世界の疑問点」について自ら突っ込み、それ自体をネタにして映画を作ってしまうという発想が素晴らしい。しかも、今まで散々そういう動物アニメを作ってきたディズニーが(笑)。いや〜、”ファンタジー”に対するアプローチも、どんどん斬新になってますねえ(^_^;)

●サクセス・ストーリー要素

物語の冒頭から序盤にかけて、主人公のジュディが警察官に憧れる様子や、厳しい訓練を経てようやく試験に合格する場面などが描かれます。そして、住み慣れた田舎町を出て大都会「ズートピア」で働き始めたものの、夢と現実のギャップに悩む日々…。

この辺の展開はほぼ宮崎駿監督の『魔女の宅急便』テイストで、「落ち込んだりもしたけれど、私は元気です」をそのまま映像化したような感じ(笑)。中盤から終盤にかけては別の要素も入ってきますが、最終的には彼女の成長と成功を描いたサクセス・ストーリーとなっています。

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ウォルト・ディズニー・ジャパン (2012-12-05)

●バディ・ムービー要素

ようやく行方不明者の捜索を任されたジュディ。しかし、期限は48時間!そこで彼女は詐欺師のニックに協力を依頼し、二人で難事件に挑みます。典型的なバディ・ムービーの流れであり、ウォルター・ヒル監督の『48時間』を意識していることは間違いないでしょう(ジュディとニックって名前も、エディ・マーフィとニック・ノルティから採ったのかな?)。

●クライム・ミステリー要素

最初は「単なる行方不明者捜し」と思っていると、次第に状況が怪しくなり、やがて「何者かが仕組んだ犯罪計画」ということが分かってきます。いったい真犯人は誰なのか?わざかな手掛かりをもとに事件の謎を解き明かすミステリーとしても秀逸な本作。ラストの「黒幕はお前だったのか!?」というサプライズも含め、非常にオーソドックスな展開で楽しめました。


●社会派ドラマ要素

本作における最大の特徴は、「偏見や差別などから起きる社会問題を堂々と描いている」という点でしょう。もちろん、過去にもそういう映画はありましたが、子供が観るファミリーアニメで、こういうセンシティブな問題をここまで分かりやすく伝えていることに驚きを禁じ得ません。

すでに多くの映画評論家や映画サイトなどがこの件について検証しているため、今回は詳しい説明は省きますけど、可愛らしい動物キャラを使って道徳的なテーマを丁寧に描いてみせた『ズートピア』は、アニメーションとしても、そして映画史的にも非常に価値がある作品だと思います。


●ハートフル・コメディ要素

「ハートフル」なのはあくまでも映画全般の雰囲気であり、本作で繰り広げられる「笑い」は結構シニカルで風刺が効いています。例えば、レミングス達が務めている「レミングス・ブラザーズ」は、明らかに金融破たんしたリーマン・ブラザーズを意味しており、レミングスの習性になぞらえて揶揄してるんですね。

他にも、免許センターの職員が全員「ナマケモノ」で、待合所にもの凄い行列が出来ているという場面は、「実際の役所も仕事が遅くて大勢の市民を待たせている」という現実世界の状況を皮肉っている等、動物の特徴を生かしたギャグがどれも面白くて秀逸でした。

なお、ニックが狼たちを見て「あいつらすぐに遠吠えするよな」というシーンがあるんですけど、家で『ズートピア』のDVDを観ていたら、飼っている犬が「狼たちの遠吠えシーン」に反応して一緒に遠吠えを始めてしまう、という動画が面白かったので貼っておきます(笑)。

●パロディ映画要素

『ズートピア』には、実に様々な映画やドラマのパロディが仕込まれています。分かりやすい例を挙げると、ネズミのマフィア「ミスター・ビッグ」の元ネタはフランシス・フォード・コッポラ監督の『ゴッドファーザー』。防護マスクを被った羊のドグは『ブレイキング・バッド』。

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また、警察署のボゴ署長がジュディに説教するシーンで、「人生は簡単に夢が叶うミュージカルのアニメとは違うんだ!」と言ったり、「Let it go」というフレーズや「ハンス」という名前のケーキ屋さんが出てくるなど(ハンス王子のこと)、『アナと雪の女王』のパロディが非常に多い。

その他、道端で売られている海賊版DVD(ディズニー・アニメでこんなギャグをやっていいの?w)のタイトルも全て映画のパロディになっていたり、細かい所まで小ネタが満載!ちなみに、『Pig Hero 6』っていうのは『ベイマックス(Big Hero 6)』のパロディなんだけど、パッケージを見て『紅の豚』かと思いました(笑)。

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●アクション・アドベンチャー要素

泥棒イタチを追いかけて街中を爆走したり、ブラックジャガーに追いかけられて森の中を逃げ回ったり、猛スピードで電車を走らせながら悪党たちと戦ったり、適度なアクションシーンが散りばめられた本作。特に、キアヌ・リーブスの『スピード』を彷彿させるようなクライマックスの電車アクションが良かったです。

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●サスペンス・ホラー要素

登場するキャラが動物ばかりなので気付かないかもしれませんが、良く考えるとこの映画ってかなり怖いんですよ。「身近にいる人たちが急に凶暴になって自分に襲いかかって来たら…」と想像してみてください。それって『ドーン・オブ・ザ・デッド』や『28日後…』みたいな状況じゃないですか?

まあ、噛まれたら感染するってわけじゃありませんが、ジュディとニックがブラックジャガーのマンチャスに話を聞きに行って襲われる場面は、「さっきまで普通に会話していた人が突然怪物化する」という、ホラー映画にありがちなシチュエーションを上手く取り入れていました。

●恋愛物語要素

”恋愛”と書きましたが、正確に言うとジュディとニックの関係性は”友情”に近いと思うんですよね。ただ、キアヌ・リーブスとサンドラ・ブロックが主演した映画『スピード』でも、電車を暴走させている時点の二人はまだ恋人同士ではないけれど、その後、恋人になりそうな予感を示しつつ終わってるんですよ。

なので本作でも、そういう雰囲気を漂わせつつ物語を締めくくっているところが、逆に恋愛の可能性を示唆しているようで良かったなと(「俺のこと本当は好きなんだろ?」というニックの問いかけに、ジュディは否定も肯定もしていない…というか、むしろ肯定している)。

あと、公式がこういう動画(↓)を公開していることからも、今後の展開次第で二人が恋愛関係に発展するのでは…と思わなくもありません。いずれにしても、これだけ面白い映画ならぜひ続編を作って欲しいですね(^_^)

実写映画『デスノート』が2部作になった理由とは?製作秘話!

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どうも、管理人のタイプ・あ〜るです。

本日、金曜ロードSHOW!にて『デスノート 逆襲の天才』が放送されますが、この番組は2006年に公開された実写映画『DEATH NOTE』と『DEATH NOTE the Last name』の2部作をベースに、明日10月29日から公開される最新作『デスノート Light up the NEW world』へ繋がる新たなシーンを加えて再構築した”特別編集版”だそうです。

実は、2006年に後編の『the Last name』を公開する際にも金ローで前編を放送し、その宣伝効果で後編が大ヒットしたんですよね。なので今回も同じ手法なのかなと。ただ、元の映画は前編と後編を合わせて266分もあるのに、それをどうやって114分以内(放送時間内)にまとめるんだろう?気になるなあ(笑)。

※追記

実際に観てみたら、「ほとんどのシーンをナレーションで説明する」という荒技を駆使してました(笑)。

というわけで、本日は前作の『DEATH NOTE デスノート』がどのようにして製作されたのか、その裏事情的なエピソードを取り上げてみますよ。



『デスノート』の映像化に関しては、当時、多くの会社が色々な方式を検討していましたが、日本テレビの佐藤貴博プロデューサーは「まず連続ドラマを放送し、それから劇場作品を作ろう」と考えていたそうです。なぜなら、原作のストーリーは非常に複雑で、緻密な頭脳戦が繰り広げられるため、2時間程度の映画では描き切れないだろうと。

しかし連続ドラマにすることで、キャラクターたちの心情や背景をしっかり掘り下げられるし、さらにTV放送で認知度が高まれば、映画化した際に良い効果を期待できるのではないかと。そう考えて集英社に企画を提案したところ、見事に映画化権を獲得!喜んで会社に報告しました。

ところが、「幅広い層の視聴者が見る地上波のTVドラマとして、”ノートに名前を書かれた人間が死ぬ”という内容は不適切だ」との理由で、日テレ社内の許可が下りなかったのです。集英社と交わした条件のうち「連続ドラマ化」が崩れたことで、いきなりプロジェクトは暗礁に乗り上げてしまいました。

当然、集英社としては「話が違う!」となり、他局との交渉を始めることに…。そこで、佐藤プロデューサーが新たに提案した企画が「前後編2部作の連続公開」だったのです。この”奇策”によって何とか契約は成立したものの、社内外で「本当にそんな方法が成功するのか?」との疑念が噴出。

何しろ、それまで1作目がヒットしてから2作目を作るパターンはありましたが、最初から2部作を前提にした映画製作は前例がない。今でこそ当たり前になっている前後編公開も、当時はフォーマット自体が存在しないという、まさに邦画史上初の試みでした。

しかも、当初はTVドラマ化の予定だったため、映画製作の準備が全く整っておらず、さらに集英社から「2006年5月に漫画の連載が終わるので、映画は6月に公開して欲しい」と要望され、佐藤さんはパニック状態!その時点で公開日まで1年を切っていたからです。

脚本も出来ていないし、キャスティングも未定だし、そもそも監督を誰にするか、全く何も決まっていませんでした。ただし、主人公の夜神月役の藤原竜也さんだけは、かなり早い段階で決まっていたそうです。月の狂気をリアルに演じられるのは彼だけだろうと。

一方、L役のキャスティングには時間がかかり、松山ケンイチさんに決まったのは撮影開始の直前ギリギリ。当時の松山さんはまだ無名の俳優で、知名度的にはイマイチでした。しかし、無名だからこそ、観客に先入観を与えることなく原作のLを演じられるのではないかと判断したらしい。

こうして他のキャスティングも徐々に決まっていき、本格的に脚本作りが始まったのが2005年の11月頃。でも、来年の6月には映画を公開しなければならないため、じっくりストーリーを練っている時間はありません。そこで、とりあえず前編のストーリーだけを考えることになりました。

そして肝心の監督も、12月に入ってからどうにか決定。ここでようやく映画の制作態勢が整ったものの、この段階でもまだ脚本は完成しておらず、金子修介監督も他の仕事が忙しくてなかなか『デスノート』の準備に入れません。佐藤プロデューサーは脚本家と打ち合わせをしながら年末年始の間もひたすらシナリオ修正を続けるはめに…。

ところが、年が明けて2006年の1月になってもまだ最終決定稿が上がらないという非常事態が勃発!製作部の方も、脚本が上がらなければロケハンが出来ないので焦りまくり、「とりあえず確実に撮影する場面はどれだ!?」と見切り発車的に動かざるを得ませんでした。

さらに『デスノート』の撮影条件はただでさえ厳しいため、なかなか最適なロケ地が見つかりません。特に困難を極めたのが「地下鉄のシーン」で、そもそも撮影許可が下りないのですよ。そうこうしているうちにクランクインの日がどんどん迫って来て、「もうこのシーンは諦めるしかないか…」という雰囲気が漂い始めた頃、奇跡的に福岡の市営地下鉄でOKをもらえたそうです。

そして、遅れていた脚本もようやく完成!何もかもがギリギリのタイミングでしたが、やっと2月1日から『デスノート』の撮影が本格的に始動しました。とは言え、後編の結末をどうするか、トリックはどのように仕掛けるかなどの具体案は何も決まっていなかったため、脚本家は大変な苦労を強いられたそうです(打ち合わせの時間が足りないため、北九州でロケした際は、東京から現地まで呼び出されたとか)。

ちなみに、藤原竜也さんの撮影終了日と松山ケンイチさんの撮影初日が一緒になってしまい、藤原さんは既に長期間の撮影を経てキャラが仕上がっているのに対し、松山さんはまだキャラを掴めておらず、しかも被っているカツラも上手く馴染んでなくて非常に悔しかったそうです。

その悔しさを挽回するため、松山さんは現場で監督やスタッフと何度も緻密なディスカッションを繰り返し、その中で「Lはどんな動きをするのか?」「どんなお菓子を食べるのか?」など、Lのキャラクターを作り上げていったとのこと。

こうして前編は3月23日に何とか撮影完了。しかし休む間もなく編集作業に突入し、同時に後編の脚本を仕上げるというハードな状態が続きました。後編のストーリーがどうなるか分からないまま、前編をスタートさせたため、当然のごとくシナリオ作りは難航し、ダビングの時期になってもまだ結末が決まらず、「ダビングルームで脚本を直す」という突貫作業を余儀なくされたそうです。

結局、6月1日の後編クランクイン直前までシナリオ作成作業は続き、またしても「ギリギリで間に合った」とのこと。そして、後編を撮影している途中の6月17日には前編が公開、出演者や俳優は舞台挨拶に出かけ、「全国的に朝から満員!」との嬉しい知らせを受けたことで現場が活気づき、残りの撮影を無事に乗り切ったそうです。



というわけで、実写映画版『DEATH NOTE デスノート』の当時の制作状況を振り返ってみたんですけど、この作品が画期的なのは、「前後編2部作で後編の方が前編よりもヒットした」という点なのですよ。その実績は、前編が28億5000万円で後編が52億円。実に前編の2倍近くの興行収入を叩き出し、業界を驚愕させたのです。

2本合わせた製作費は20億円で、興収が合計80億5000万円ですから、これはもう「大成功」と言わざるを得ません。このメガヒットが以降の邦画に多大な影響を与え、『GANTZ』、『寄生獣』、『のだめカンタービレ』、『るろうに剣心』、『ちはやふる』、『進撃の巨人』、『SPEC結』、『ソロモンの偽証』、『64-ロクヨン-』など、今ではすっかり「前後編2部作」の公開スタイルが定着してしまいました。

しかしながら、基本的にどの作品も前編より後編の成績は下がり気味で、『進撃の巨人』に至っては「ほぼ半減(51.7%)」という大惨敗を喫しています。トータルで黒字になっているとは言え、今のところ、後編が前編を大きく上回った例は『DEATH NOTE デスノート』しか存在せず、そういう意味でも画期的な作品と言えるでしょう。

では、なぜ『デスノート』だけがこんなに成功したのか?その理由は間違いなく金曜ロードショーです。後編の公開日直前に金曜ロードショーで放送された『デスノート(前編)』は24%という高視聴率を達成し、後編の宣伝媒体として絶大な効果を発揮しました。しかし、これは業界的には”掟破り”とも言える手法だったのです。

映画には、劇場公開、ソフト発売、そしてテレビ放送という厳然とした順序があり、今まではそれが守られていました。もちろん、法律に定められているわけではありませんが、「テレビ放送は劇場公開から少なくとも1年以上の間を空けましょう」というのが業界内の”暗黙のルール”だったのです。

それを日本テレビはあっさりと破ってしまった。6月に公開した映画を、いくら宣伝のためとはいえ、わずか4カ月後の10月末にテレビで放送するなんて通常はあり得ません(DVDすら発売されていないのに)。この前代未聞の事態に業界からは批判が殺到したものの、結局、なし崩し的に容認されました。

つまり、本来は”掟破り”とされる手法を使ったおかげで、『デスノート』2部作は成功したとも言えるわけです。もし『デスノート』がコケていれば、その後、2部作映画がここまで数多く作られることはなかったでしょう。すなわち、邦画に「前後編2部作」のスタイルが定着したのは「金曜ロードショーのせいだった」といっても過言ではないのですよ。いや〜、すごい影響力だなあ(^_^;)


なぜアニメーターは貧乏なのか?ブラックすぎる実態に批判殺到!

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どうも、管理人のタイプ・あ〜るです。

先日、以下のような記事が話題になっていたので読んでみました。

アニメ制作会社の雇用条件や賃金の実態、暴露情報が流出!非難殺到で炎上

ざっくり内容を説明すると、「ピーエーワークス(P.A.WORKS)」というアニメ制作会社に所属しているアニメーターが、自社の劣悪な雇用状態をTwitterで暴露したところ、あまりにも安い賃金や過酷な業務内容が話題となり情報が拡散。

このアニメーターは「動画」の仕事をやっていて、「原画」への昇格を目指し、日々頑張っていたそうです。ところが、昇格試験に落ち続けて3年が経過すると「机代として月に6000円会社に払うことになった」らしい(本人曰く「『才能がないやつは出ていけ』という圧力がやばい」とのこと)。

さらに、自身の収入をTwitterで公開したのですが、1ヶ月の賃金が44,139円で、そこから税金やら何やらを引かれ、なんと手取り1,477円!その3ヶ月後には「お賃金3ヶ月で67倍になった」と喜んでいるものの、控除後の支払額は67,569円でした。67万じゃなくて6万7千円ですよ!

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しかも、これらをツイートした直後、「会社クビになりました。みんな、さようなら…」というつぶやきを最後に、突如アカウントが削除される事態に。どうやら会社にバレて解雇されてしまったようですが、この状況を見たネットユーザーから「ピーエーワークス」に対して批判が殺到!

元々「ピーエーワークス」は、「アニメ作りは色々大変なこともあるけれど、とても素晴らしい仕事なんですよ!」的なことをアニメで描いた『SHIROBAKO』という作品を制作していました。なので余計に、「『SHIROBAKO』で訴えていたことは何だったんだよ!」「ただのブラック企業じゃねえか!」と炎上してしまったのでしょう。

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ワーナー・ブラザース・ホームエンターテイメント (2016-11-23)

しかし、この騒ぎを知ったピーエーワークス側はすぐに以下のような謝罪文を公式サイトに掲載しました。どうやら、炎上が拡大する前に事態の収拾を図ろうとしたようです。

この度の弊社スタッフのSNSの投稿につきまして

ところが内容を読むと、「今回、SNSに支払明細を投稿した弊社スタッフを見つけて事実確認を行った。こちらから契約を解除した事実はなく、またSNSのアカウントの削除を依頼した事実もない」とのことで、詳しい内容についてはよく分からないんですよね。

そして、これに対する世間の反応は「賃金の問題等に一切触れてないところがまさにブラック企業」「火消しに必死で何の説明にもなってない」など、ますます不信感を募らせている模様。う〜ん…

ただ、こういう批判に対して「いや、それはちょっと違う」という意見もあるようです。何が違うのかと言うと、「確かに一般的な常識から考えればピーエーワークスの賃金形態は良くないかもしれないけれど、アニメ業界の中ではかなりマシな方だ」というのですよ。

つまり、「アニメーターの低賃金を指摘するなら、一つの会社だけを叩くのではなく、アニメ業界全体の問題として考えるべきだ」ということらしい。

実際、アニメーターの劣悪な労働環境は以前から問題視されていて、「アニメーション制作者実態調査報告書2015」によれば、業界全体の平均年収は332.8万円、最も低いのが111.3万円(動画)、最も高いのが648.6万円(監督)になるそうです。

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このうち「動画」のセクションは、主に1年目の新人アニメーターが担当するんですけど、完全出来高制で、単価は1枚たったの200円なんですね(現場によっては200円以下のところもある)。

さらに、新人だから1枚描くのに時間がかかるし、失敗してリテイク(描き直し)を食らったら、その分のギャラはもらえません(あくまでも出来高制)。

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なので、どんなに頑張って描きまくっても月産500枚程度が精一杯。これは昨今の「絵柄(デザイン)」にも原因があるようで、例えば『ドラえもん』とか『オバケのQ太郎』みたいな30〜40年前のシンプルな絵だったら、1枚にかかる手間は少なくても済むでしょう(実際、当時のアニメーターは1ヶ月にかなりの枚数をこなしていた様子↓)。

このツイートを例にとると、『銀河鉄道999』の動画を3人で1ヶ月6千枚描いていたそうです。ということは、一人当たり2千枚。当時の動画単価は1枚120円とのことなので、2,000×120円で240,000円。確かにこの金額なら、十分に生活できそうですね。

しかし、デザインがリアルで線が多く、ディテールが異常に細かい最近のアニメでは、1枚を仕上げるための時間が全然違うんですよ(非常に手間がかかるため、1日に描ける限界は20枚ぐらい)。さらに、今のアニメオタクは作画にこだわるから、必然的に絵のクオリティを上げざるを得ません。

・なんせ昔のアニメがコレで↓

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・今コレですからね。200円じゃ無理だよ!↓

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そうなると当然、その皺寄せがアニメーターを直撃し、1枚描くための手間や時間が膨大にかかり、月産500枚ぐらいしか上げられず、×200円として月収10万円。さらに年収120万円の中から税金やら何やらを引かれると手元に残るお金は…てな感じで「アニメーター極貧物語」の出来あがりですよ(苦笑)。

つまり、ピーエーワークスのアニメーターだけが特別に待遇が悪いわけではなく、今、アニメ制作に携わっているほとんどの動画マンが似たような低賃金で働いている、というのが実情なのです(ただし、一部のアニメスタジオでは動画も給料制になっているらしい)。

でも、こんな状況ではアニメーター生活を長く続けられるはずがなく、新人アニメーターの3年以内の離職率は、なんと80パーセントを超えているという。そして現在、動画の多くは中国・台湾・韓国・タイ・インドネシアなどの海外へ発注され、日本国内のアニメーターが減少するという「空洞化」が起こっているそうです。

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こういう現状に対し、現役のアニメ関係者の中には「原画や動画の単価をもっと上げるべきだ!」と主張する人も現れているみたいですね。

おお、動画1枚600円!もしこれが実現すれば、仮に1ヶ月400枚しか描けなくても、400×600円で240,000円になりますね。税金等を引かれても手元にかなり残るから、人並みの生活ができそう。つーか、普通に考えて何でギャラのアップを要求しないのよ?って感じなんですけど、色々事情があるんでしょうねえ。

う〜ん、アニメーターの低賃金問題はもう何年も前からテレビ等でも取り上げられていますが、一向に改善する兆しが見えないんですよね。にもかかわらず、アニメの制作本数だけはどんどん増え続けているというこの矛盾。果たして解決する日は来るのでしょうか(^_^;)


日本のアニメが崩壊寸前?ヤバい現場にありがちな10のポイント

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どうも、管理人のタイプ・あ〜るです。

先日、「日本で働いているアニメーターの多くは低賃金に苦しんでいる」「あまりにも環境が過酷なため、3年以内の離職率は8割を超えるらしい」みたいな記事を当ブログで書きました。

なぜアニメーターは貧乏なのか?ブラックすぎる実態に批判殺到!

要は、動画の工程をコストが安い海外へ外注するようになると国内の人材が育たなくなり、日本のアニメーターはどんどん減ってしまう…という悪循環に陥っているわけです。これだけなら、「今後ますますアニメが作り辛くなるだろうな〜」という程度の話でしょう。

ところが、そんな現状を無視するかのように、新作テレビアニメはどんどん増え続け、今年の10月から始まったアニメの数はなんと75本!さらに来年の1月から開始される新作も37本が予定されるなど、まさにアニメラッシュの様相を呈してるんですよ。

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(「うずらインフォ」より)

常識的に考えて、「アニメーターが不足しているのに、こんなに作品数を増やして大丈夫なの?」と誰もが疑問に感じると思いますが、案の定、ぜんぜん大丈夫じゃなかったです。それどころか、日本のアニメは今や崩壊寸前の大ピンチ!その兆候は以前から現れていました。

事の発端は今年の7月。放送を開始したばかりの『レガリア The Three Sacred Stars』というTVアニメが、わずか4話で「いったん終了させて頂きます」という公式アナウンスを発表し、シーズンの途中でいきなり中断してしまったのです。

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現在は無事に再開しているものの、ファンの間では「オンエアが始まった段階で早くもスケジュールが破綻し、現場がにっちもさっちもいかなくなったらしい」などと噂され、さらに「他のアニメもヤバいのでは?」と、その頃からすでに不穏な雰囲気が漂っていたそうです。

そしてついに、恐れていたことが起きました。10月から放送を開始したアニメ『ろんぐらいだぁす!』が、第3話で早くも「制作上の都合」により放送を延期、なんと第1話を再放送するという非常事態が勃発してしまったのです。

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しかも、1週飛ばして第4話が放送された後、またしても第5話が延期される異例の事態に!本作を担当していたアニメスタジオ「アクタス」によると、「制作スケジュールの遅れによるもの」とのことですが、短期間に2度も放送が飛んでしまうとは尋常じゃありません。

さらに、『第502統合戦闘航空団ブレイブウィッチーズ』や『夏目友人帳 伍』といった他のアニメ番組も、「制作スケジュールの遅れ」などを理由に次々と放送延期を発表。いったいなぜ、ここまで立て続けに延期や中断が発生しているのでしょうか?

あるアニメ業界関係者によると、「アニメ番組の制作本数が増え過ぎて、業界全体のキャパシティを超えつつあるからだ。今までは、少ないアニメーターが仕事を掛け持ちするなどして何とかやりくりしてきたが、それがとうとう限界に達してしまったのだろう」とのこと。

ハッキリ言って、これは「異常事態」と言わざるを得ません。確かに、今までにもスケジュールが厳しいアニメはたくさんありましたが、「放送に穴を空けることだけは絶対に避けなければ!」という作り手側の意地とプライドで、何とか納期を守ってきたのです。

たとえ作画が悪くなろうが総集編を入れようが、「何が何でも放送日に間に合わせる!」という信念を貫き、オンエアを死守してきました。それに対してアニメファンも「ああ、また総集編か。現場は今、大変なんだろうな〜」と生温かい目で見守っていたわけです。

ところが、昨今の制作現場は状況が悪化し過ぎて、スタート直後からすでにスケジュールが破綻し、もはや総集編すら流せないほどの危機的状態に陥っているらしい(さすがに3話目で力尽きたら総集編どころじゃないよなあw)。

実は(ちょっと前の話ですが)2014年に『進撃の巨人』がアニメ化された際にも、似たような”事件”が起きていました。恐ろしいことに『進撃の巨人』は、4月6日から放送を開始したにもかかわらず、4月22日の時点で早くもアニメーターの数が足りなくなったらしいのです。

その結果、なんとキャラクターデザインと総作画監督を務めた浅野恭司さんが、「どこかにアニメーターはいませんか?」「力を貸して下さい!」とツイッターで呼び掛けるという、前代未聞の事態が勃発したのですよ。

もう放送がスタートしている段階でアニメーターを募集するなんて、通常はあり得ません。幸いにもこの時は「放送に穴を空ける」という最悪の事態だけは免れました。しかし福岡放送や北海道テレビやテレビ大分では、一部が”他局と異なる内容”でオンエアされたそうです(第4話と第5話)。

その際、本来はキャラクターの全身が映っているはずのシーンが顔のアップに差し替えられていたり、作画ではなく背景がやたらと多かったり、不自然な映像になっていたようですが、これは福岡放送などの3局だけが他の局より納品日が早かったため、「未完成状態で放送せざるを得なかった」ということらしい。ギリギリやないか!

まあ、今も昔もテレビアニメのスケジュールは常にギリギリで、「放送日の前日に納品」なんてのはまだマシな方。酷い時には「当日納品」とか、「放送の2時間前納品」なんてのもあったそうです。伝説の「24時間テレビ手塚治虫アニメ」に至っては、「前半部分を放送している間に、大急ぎで後半部分のフィルムを現像していた」という信じ難い逸話まで残っているほどですから。

ただ、昨今のアニメが昔と違うのは、「ギリギリでも何とか納品できていた時代」とは異なり、「制作本数の増加」や「深刻なアニメーター不足」などによって、「オンエアに間に合わせることさえも難しくなってきている」という点でしょう。

1本だけならまだしも、2本3本と立て続けに放送延期が発生するとは、いよいよ現場が回らなくなってきている証拠ではないかと。とうとう”最終局面”に突入した感がありますねえ(もう、毎週1本アニメを放送できる状態じゃないのかも…)。

ちなみに、アニメの制作現場はどのような段階を経て修羅場と化していくのでしょうか?あくまでも個人的な印象ですけど、「万策尽きたー!」となるまでの兆候やポイントを10項目に分類し、以下にその具体例を挙げてみましたよ。


●レベル1:総集編回が入る

過去に放送した映像を再編集して新たな1話を作ってしまう技を「総集編」と呼び、アニメファンの間では主に「制作が逼迫してきた目安」にされている。ただ、総集編を作るにも”ある程度のスケジュール”が必要なので、この段階では「まだ余裕がある」と言えるかもしれない。

なお、近年は2クールの中に総集編を入れることが織り込み済みとなっているため特に問題視されないが、『ガールズ&パンツァー』の場合は1クールなのに2度も総集編をぶち込んだことで、さすがに「マジか?」とファンがザワついたそうだ。


●レベル2:「第二原画」が増える

原画・動画・第一原画・第二原画などの説明はWikipedia等を見てもらうとして(原画についての解説はコチラ)、アニメーションの制作工程において脚本、絵コンテ、レイアウトが遅れると、連鎖的にその後の工程にも支障が出る。

その結果、確保していた原画マンが他の作業を入れてしまい、リテイクが発生してもアニメーターに戻す時間がなくなり、どんどんスケジュールが切迫…という悪循環に陥ってしまうのだ。このため、最近はやたらと第二原画が目に付くケースが増えている(大量の二原撒き)。

これは「人数が多いから余裕あり」という意味ではなく、「スケジュールがヤバいから人海戦術で乗り切ろう」としている状態なのだ(本来は一人で行うのが望ましい作画監督も、時間が無い現場では総作画監督や作画監督補佐など、作監が異常に多くなる)。

まあ、「二原が増えたら即現場崩壊」ってわけでもないのだが、昔のテレビアニメは「作監一人に原画が数人」という小規模な体制で作れていたことを考えると、「こんなに大勢のアニメーターを動員しなければ間に合わない今の現場」が、いかに厳しいか分かるだろう。

●レベル3:ツイッターでアニメーターを募集する

今のところ『進撃の巨人』以外に聞いたことはないんだけど、総作画監督自らそんなことをやっている時点で、相当に追い詰められていることは間違いない(今後、こういう例が増えるかも…)。


●レベル4:監督が自腹で作り直す

海外に発注した作画が酷い仕上がりで全然使えない → 仕方なく国内のスタッフで描き直す…という流れは割と良くあるらしいが、もっとも悲惨な例は『ふしぎの海のナディア』第34話「いとしのナディア」ではないだろうか。

なんせ、韓国のアニメスタジオから戻って来た原画が目も当てられないほどメチャクチャな出来栄えで、ブチ切れた庵野秀明総監督が絵コンテごと捨ててしまったのだから。

しかし、新たに描き直す予算は全く無い。なので仕方なく、庵野監督がポケットマネーで一本丸ごと作ってしまったという。過去のフィルムの再利用・再編集で新規の絵はほとんど入っていないとは言え、まさか監督が自腹でアニメを作るとは…。

↑今見ると、これはこれで割と面白いし、これだけの映像をたった2週間で作り上げた庵野秀明は「やっぱり凄い!」と言わざるを得ない。


●レベル5:作画が崩れる

制作状況の悪化に伴い、映像のクオリティが著しく下がってしまう現象を「作画崩壊」と呼ぶ。単に「アニメーター不足」だけでなく、「スケジュールの遅延」や「海外スタジオへの発注」など、その要因は様々だが、いずれにしても現場的にはかなり危険な状況だ。

過去に作画崩壊したアニメは枚挙に暇がなく、有名な例としては『夜明け前より瑠璃色な』(第3話)と『ロスト・ユニバース』(第4話)がツートップだろう。中でも『ロスト・ユニバース』の場合は「第1話の放送時点でオープニングが未完成」という大惨事を引き起こしており、もはや「最初から破綻していた」と言った方がいいかもしれない。

●レベル6:制作進行が脱走する

以前、制作進行を主人公にした『SHIROBAKO』というアニメが話題になったが、実際の仕事はあれの数倍しんどいらしい。テレビ版『超時空要塞マクロス』では、あまりのキツさに耐えられなくなった制作進行が、会社の車を路上に乗り捨てたまま行方不明となり、その車をメカ作監の板野一郎が引き取りに行った、という凄まじい逸話が残っているほどだ(アニメ業界的には…というより人としてアウトやろw)。

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●レベル7:原画だけで撮影する

制作進行がいなくなると、現場はたちまち大混乱に陥る。作業の進捗状況を管理する人間がいなくなるからだ。その結果、原画の回収もままならず、当然、動画も上がらない。そこで原画だけを撮影したフィルム(原撮)を編集して強引に放送するという、最終手段に打って出る(色は塗っているので原撮そのままではない)。

動画が入ってないから動きがカクカクして、アニメファンからは「紙芝居のようだ」と揶揄されるが、納品が間に合わずに落とすよりはマシだ。さすがに近年は見かけないものの、過去には何度か放送事故スレスレの作画崩壊がオンエアされていたのだから恐ろしい。

↑今や伝説と化している『超時空要塞マクロス』の第11話「ファースト・コンタクト」。動画を抜いて原画だけで撮影されたアクションシーンは、当時、多くのアニメファンに衝撃を与えた(今ならネットで炎上間違いなし)。


●レベル8:作画監督がぶっ倒れて入院する

スケジュールが足りなくなり徹夜作業が続くと、やがてアニメーターの疲労はピークに達する。中でも、全ての原画をチェックする作画監督の激務は熾烈を極め、体力の限界を超えて働いた結果、病気で倒れてしまう人もいたらしい。

たとえば、『機動戦士ガンダム』の作画監督を務めた安彦良和は、第34話「宿命の出会い」の作業中にぶっ倒れて入院。診察した医者が驚いて、「こんな無理しちゃいけない!」と言ったエピソードは有名である(この時、安彦氏はアニメーターを辞めようと思い、病院のベッドで小説を書いていたという)。

優秀な作画監督の離脱によって、ただでさえ遅れ気味だった『機動戦士ガンダム』のスケジュールは壊滅状態となり、当時サンライズの第1スタジオで働いていた板野一郎や他のアニメーターたちは、安彦氏が描いた修正原画をかき集め、拡大したり縮小したりしながら懸命に制作を続けたそうだ。

しかし、そんな程度で安彦氏が抜けた穴を埋められるはずもなく、スタジオは破綻寸前の大ピンチに!最終的には、富野由悠季監督が自分で原画を描かねばならないほどに追い詰められ、現場は修羅場と化したらしい(最後まで落とさなかったのは奇跡に近い)。

ちなみに、アニメーターの板野一郎も『超時空要塞マクロス』の作監作業中は半年間も家に帰れず、血尿が出るまで働かされた挙句、血を吐いて倒れて病院に運び込まれた。しかし『マクロス』のスケジュールがギリギリで、休みたくても休めない。すると医者に”病名が山ほど書かれたカルテ”を突き付けられ、「これをあんたの上司に見せろ!それでも入院させてもらえないんだったら、俺が上司を説得しに行く!」とまで言われたそうだ。


●レベル9:未完成でもいいから納品する

いよいよ現場が切羽詰まってくると、作品のクオリティよりも何よりも、とにかくテレビ局へ納品することが最優先になる。ギリギリのタイミングで持って行ったら、向こうも内容をチェックする時間が無いので、上手くいけばそのままオンエアされるかもしれない(もう、この段階になるとそんなことしか考えられなくなっている)。例えどんな手を使おうとも、最終的に「落とさなければよかろう」なのだァァァ!

……みたいな状況が1990年代後半ぐらいまではまかり通っていたんだけど、さすがにテレビ局側も「いいかげんにしろ!」と堪忍袋の緒が切れて、あまりにも出来が酷いアニメは納品を拒否すること、そして「落としてしまった場合」は違約金と代替番組の手配料を請求すること、などを決定。現在では「未完成でもいいから納品する」技は使用禁止になっているそうだ。


●レベル10:放送に間に合わない

いわゆる「万策尽きた」という状態。世のアニメ制作者たちは皆「絶対に落としたくない!」と必死で頑張ってはいるものの、色んな事情で間に合わない、ということも現実的に起きてしまう。最近は総集編を作る余裕も無くて、第1話を再放送したり、オリジナルビデオを流したりしているようだが、それすら出来ない場合はどうなるのか?

アニメ版『愛の戦士レインボーマン』(1982年)の場合は、なんと最初の第1話目からいきなり落としてしまい、その代替えとして同じ放送枠の『超時空要塞マクロス』を2話分一気に放送するという暴挙に出た(このせいで『マクロス』のスケジュールがガタガタになる)。

また、とあるアニメでは監督と声優が急遽テレビに出演し、作品の内容を自ら解説する「特別番組」を放送するなど、「いったい制作管理はどないなっとんねん!?」と言いたくなるほど酷いアニメがいくつも存在したそうだ。

もしかすると、今の状況は単に全体の作品数が増えたから落ちるアニメも増えただけで、「昔よりも悪くなっている」とは一概に言えないのかもしれないが、いずれにしても「アニメ業界の未来は明るい」とは全く思えない(少なくともアニメーターを取り巻く環境が改善されない限りは)。果たして、日本のアニメ産業は今後どうなる?

宮崎駿監督、ついに劇場用長編アニメの制作へ復帰か?

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どうも、管理人のタイプ・あ〜るです。

先日、NHKでドキュメンタリー番組「NHKスペシャル 終わらない人 宮崎駿」という番組が放送されたので見てみました。宮崎監督と言えば、2013年に長編アニメ制作からの引退を宣言して以来、ほとんどメディアに登場していませんでしたが、同番組では宮崎さんが短編アニメ『毛虫のボロ』を制作する姿を約700日にわたって完全密着。さらに、長編アニメ制作への復帰を目指している様子も映し出していました。

『毛虫のボロ』とは、宮崎監督が『紅の豚』の次回作として「一匹の毛虫が街路樹から街路樹へ旅をする物語」を90分かけてじっくり描きたい、と考えて立てた企画です。ところが、プロデューサーの鈴木敏夫さんが「あまりにも内容が地味すぎるし、宮崎さんの年齢的にも今は活劇映画を作るべきだ」と猛反対。その代わりとして提案したのが『もののけ姫』だったのですよ。

元々『もののけ姫』は、『ルパン三世 カリオストロの城』の次回作として宮崎監督が考えた初のオリジナル企画で、宮崎さん自身も非常に力を入れていました。しかし、当時は「宮崎駿」の知名度は無きに等しく、様々なテレビ局や映画会社に売り込んでみたものの、「こんな映画、ヒットするわけないだろ」と全く相手にされなかったそうです。

でも鈴木さんは、「『紅の豚』が大jヒットした今ならネームバリューも高まっているし、絶対に勝算があるはずだ」と考え、必死で宮崎さんを説得しました。結局、悩んだ末に宮崎監督も鈴木さんの提案に従ったのですが、それでも『毛虫のボロ』を諦め切れなかったらしく、その後も企画書をまとめ直していたとのこと。そんなこんなで20年以上が経過した現在、ようやく念願の映画に取りかかれることになったわけです。

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しかし、宮崎さんが引退宣言した後、ジブリのスタッフは解散し、今はスタジオにアニメーターがいません。宮崎監督が新作アニメを作っていた頃は、全体で300名を超える社員が在籍していたのですが、”宮崎駿の後継者的な人材”は現れず、『思い出のマーニー』制作終了後に制作部門は解体。ただし、ジブリを去ったアニメーターはその後、他社の作品でも目覚ましい活躍を見せています。

特に、新海誠監督の『君の名は。』では作画監督の安藤雅司さんを筆頭に、黄瀬和哉さん、橋本敬史さん、稲村武志さん、田中敦子さん、賀川愛さん、井上鋭さん、本間晃さん、箕輪博子さん、廣田俊輔さんなど、過去にジブリ作品に関わったベテラン・アニメーターたちが多数参加し、その見事な作画技術が話題となりました(『君の名は。』には元ジブリの動画マンも多く関わっているらしい)。

でも、そういう凄腕アニメーターを全員手放してしまったせいで、今のジブリは手描きアニメを作れる環境ではなくなってしまいました。そこで鈴木さんは「CGで作ったらどうですか?」と勧めたそうです。ただ、宮崎さんとしてはCGで作ったキャラクターがどういう動きになるのか分からない。

ここで登場するのが、CGディレクターの櫻木優平さん。過去に岩井俊二監督の『花とアリス殺人事件』や『009 RE:CYBORG』などに関わり、自身もCGアニメの監督を務めるなど、CGに関してはエキスパートだそうです(ちなみに凄いイケメン…つーか美形ですねw)。

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そんな櫻木さんがジブリへやって来て、フルCGで作った『毛虫のボロ』を宮崎監督に見せることになりました。いや〜、これは緊張したでしょうねえ。なんせ相手は世界の巨匠:宮崎駿。長年、一枚一枚の絵を自分の手で描き続けてきた宮崎さんですから、「ふざけるなッ!人の心を感動させられるのは手描きのアニメだけだ!お前はアニメのことを何もわかっていないッ!」と海原雄山ばりに激怒する可能性もあるわけですよ(無い)。

ところが意外や意外。CGで作られた毛虫の動きを見て、「なるほど、面白いね」と満更でもなさそうな反応を見せているじゃありませんか!特に、毛が一本一本自然に動いている様子に感心し、「これは空気抵抗とか全部計算して処理してます」と説明されると、「はあ〜、さっぱり分からん(苦笑)」「でも凄いね!」とかなり気に入った様子。

こうして、短編アニメをCGで作ることに決めた宮崎さん。最初は出来あがっていくCGを珍しそうに見ていたので順調にいくのかと思いきや、案の定、次第にこだわりが炸裂し出します。特に、生まれたばかりのボロが初めて世界を見回す冒頭シーンが気に入らないらしく、容赦ないダメ出しが次々と(笑)。

「振り向き方が大人になってる」「こんなに”キッ”と向かない」とダメな個所を指摘しますが、微妙なニュアンスが上手く伝わりません。自分で原画を描いて「こういう動きにして欲しい」とスタッフに見せても、CGに変換する過程でそのニュアンスが失われてしまうのです。

しまいには、宮崎監督が自らタブレットを使ってCGを修正し始める始末。でも、使い方が分からないので「あれ?画面が真っ赤になっちゃったぞ?」とアタフタしまくり(笑)。この辺を見てて思ったんですけど、もう宮崎さんが手描きで全部描いた方が早いんじゃないですかね?

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原画を自分で描いて、動画はどこかに外注して、その他の工程をデジタルで処理すれば、12分ぐらいの短編なら十分に作れそうな気がするんだけど。新海誠監督は25分のアニメをたった一人で作ったわけだし、宮崎監督なら余裕じゃないのかなあ。

そんな感じで、もどかしい気持ちを抱えたまま何度も何度も修正を繰り返し、CGディレクターの櫻木優平さんやスタッフたちは宮崎さんの要望に応えようと頑張って作業を続けていました。しかし、とうとう櫻木さんが体調を崩して病院へ…。宮崎さんは「気の病です」とか言ってるけど、あんたのせいやろ(笑)。

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まあ、幸い櫻木さんはすぐに現場へ復帰したようですが、毎日宮崎監督から厳しい指導を受けるスタッフたちのストレスは相当なものだったでしょうねえ(苦笑)。そんなある日、「IT企業でCGを開発している人たち」がやって来ました。そして、ドワンゴ会長の川上量生さんが宮崎さんの前でプレゼンを始めたのです。

それは、「人工知能で行動を学習させたキャラクターが画面の中を動きまくる」というもので、非常に不気味なキャラが映し出されていました。川上さんは「この動きが気持ち悪いんで、ゾンビゲームの動きに使えるんじゃないか」などと得意げに解説してるんですけど、それを見ている宮崎さんの表情がどんどん曇ってきて…。そして、ついに宮崎さんの怒りが爆発!

「僕には身体障害者の友人がいるんですよ。体の筋肉がこわばってて、ハイタッチするだけでも大変なんです。その彼のことを思い出してね。僕は、これを面白いと思って見ることができないですよ。これを作ってる人たちは、痛みとか何も考えないでやってるでしょう?極めて不愉快ですよね。そんなに気持ち悪いものをやりたいなら、勝手にやっていればいいだけで、僕はこれを自分たちの仕事と繋げたいとは全然思いません。極めて、何か生命に対する侮辱を感じます!」

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そして、このシーンがテレビで放送されるとネットを中心に物議を醸しました。「あれしきのことで怒るなんて大人げない」「人として無礼だ」などと批判する人や、「自分が不愉快だと感じたものをハッキリ伝えただけで、宮崎さんは何も間違っていない」「さすが俺たちのパヤオさんや!」などと称賛する人まで、様々な意見が飛び出したようです。

なお、個人的にこの場面を見て思ったのは、「どうしてこんな映像を宮崎駿に見せようと思ったんだろう?」ってことでした。宮崎さんが言っているように、「気持ち悪いもの(ゾンビゲーム)をやりたいなら勝手にやればいい」だけの話で、わざわざ宮崎監督に見せる意味が分かりません。

ましてや、川上さんは鈴木敏夫さんのところへ「プロデューサー見習い」として弟子入りしていて、普段から宮崎監督に接する機会が多いはずなのです。であれば「どういう対応をすると宮崎さんの機嫌が悪くなるか」ということも推測できそうなのに…。などと疑問に思っていたら、なんと川上量生さんがネットに記事を投下、「この時の状況を詳しく解説する」という前代未聞の事態が勃発したのですよ。すげえ!

めっちゃ怒られているのがテレビで放送されてしまった

この記事を読むと、宮崎監督にあのCGを見せた理由は、「CGの世界でどういう技術が開発されようとしているかを知って欲しかったから」だそうです。もしかすると鈴木さんか、あるいはスタッフの誰かから、「今、宮崎さんがCGアニメを作っていて非常に悩んでいる」みたいな話を聞いたのかもしれません。

そこで、「何らかのヒントや刺激になれば…」という気持ちと、さらに「否定的な反応だろうというのは事前から予測して…」とも書いてあるので、どうやら「怒られることを覚悟した上で、敢えてあのゾンビ映像を宮崎監督に見せたのだ」ってことらしい。

なるほど、そういう事情なら理解できなくもないですね。ただ映像では、宮崎監督に怒られた川上さんがもの凄く困って動揺してるように見えるんですけど、事前に予測していたなら、どうしてあそこまで困った表情になっていたのでしょうか?川上さんは以下のようにコメント↓

想定していたよりも、かなり、めちゃくちゃ怒られた。

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なんと、”宮崎監督の怒り”が川上会長の想定を遥かに上回ってた!そりゃあんな顔になるわ(笑)。しかも、放送では短くカットされていますが、どうやら現場ではもっと長く宮崎さんから説教を食らっていたようです。う〜ん、良かれと思ってやったことが、まさかこんな結果になってしまうとは…(^_^;)

ところが、この一件の後、どうやら宮崎監督の中で何らかの変化が起こったらしく、ある日、鈴木さんのところにやって来て一つの企画書を差し出しました。その表紙には「長編企画」の文字が…!うわあああ!ついに宮崎監督が新作アニメーション映画を作る気になったの!?もしかして川上さんの件も「計画通り」だったりして(笑)。

宮崎監督が復帰する気になったのは、意外と川上さんのおかげかも(笑)。ただし、そのスケジュールを良く見ると、2017年の6月頃までには絵コンテを完成させて、2019年の前半には公開するという、かなり厳しい計画になっているようですが…。しかもCGじゃなくて「手描きでやる」との文字まで!あんなにスタッフを働かせておいて、結局、CG使わないのかよ!さすが宮崎さんだなあ(笑)。

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というわけで、この放送直後には「宮崎駿監督、長編アニメ制作に復帰か?」と話題沸騰。もし事実であれば2013年の引退宣言を撤回することになるわけで、「わざわざ記者会見まで開いたのに、あの時の発言は何だったんだ?」と言わざるを得ませんが、個人的には観てみたいというか、公開されたら絶対に観るでしょう。たとえ「辞める辞める詐欺」と言われても、いつまでも映画を作り続けていただきたいと思います(^_^)


メナヘム・ゴーランの『キャノンフィルムズ爆走風雲録』感想

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どうも、管理人のタイプ・あ〜るです。

先日、レンタルビデオ店内で映画を物色していると、気になるタイトルを発見したので観てみました。

作品名は『キャノンフィルムズ爆走風雲録』

キャノンフィルムズ?爆走?何だか良く分からないけど、勢いだけは凄そうですねえ(笑)。というわけで本日はこの「映画制作にまつわるドキュメンタリー」のお話です(完全にネタバレしてるので悪しからず)。

なお、「キャノンフィルム」で検索すると、カメラメーカーの「キヤノン」ばっかり出て来るんですが、全く関係ないのでご注意ください(^_^;)

さて「キャノン・フィルムズ(Cannon Films)」とは、1967年に設立されたキャノン・グループの一部門で、独立系の映画会社です。

規模は小さいものの、低予算かつ観客に受ける映画を製作してヒットを生み出し、80年代に入ってから新作映画を次々と公開するようになったキャノン・フィルムズは、一気にメジャーグループに迫るほどの急成長を成し遂げました。そのラインナップはこんな感じ↓


●チャック・ノリス主演作

『地獄のヒーロー』、『地獄のコマンド』、『デルタ・フォース』など

●チャールズ・ブロンソン主演作

『スーパー・マグナム』、『必殺マグナム』、『バトルガンM‐16』など

●ジャン=クロード・ヴァンダム主演作

『ブラッド・スポーツ』、『キックボクサー』、『サイボーグ』など

●ショー・コスギ主演作

『ニンジャ』、『ニンジャII / 修羅ノ章』、『デス・オブ・ザ・ニンジャ/地獄の激戦』など

●シルヴェスター・スタローン主演作

『コブラ』、『オーバー・ザ・トップ』など


個人的には非常に懐かしいというか、「午後のロードショー」辺りで放送したら喜ぶ人もいるんじゃないかと思うんですけど、ぶっちゃけ微妙なセンスだなあと(笑)。

実は、80年代のこういう雰囲気を現代風にブラッシュアップしたものが『エクスペンダブルズ』シリーズなわけで、出演者の顔ぶれがシルヴェスター・スタローン、ジャン=クロード・ヴァンダム、チャック・ノリスなのも、ある意味、キャノン・フィルムズのノリを再現してるんですね。

そんなキャノン・フィルムズの創設者:メナヘム・ゴーラン監督は、子供の頃から映画作りに目覚め、通っていた小学校で自主制作映画を上映するほどのめり込んでいたそうです。

そしてメナヘム監督には、ヨーラム・グローバスという従弟がいました。ヨーラムの父親は映画館の経営者でしたが、ある日、「息子が1日中映画館へ入り浸って困っている」とメナヘムへ相談。

ヨーラムは映画のポスターを作ったり、チラシを配ったり、映画を売ることが大好きで、6歳の頃から劇場でチケットを売っていたという。

それを聞いたメナヘム監督は、一緒に映画会社を運営しようと持ちかけます。映画の仕事を夢見ていたヨーラムは大喜びでメナヘムの元へ。

こうして、「メナヘム・ゴーラン&ヨーラム・グローバス」の名コンビが誕生!母国イスラエルで様々な映画を撮って大成功を収めた後、次に目指したのがハリウッドでした。

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はるばるロサンゼルスへやって来た二人は小さなアパートを借りて「キャノン・フィルムズ」を立ち上げ、色んな映画を企画するものの、設立間もない小さな映画会社ではなかなか実現に至りません。

そこで彼らは「質より量」の作戦を実行しました。低予算のB級映画を大量に作ったのです。しかも、他のメジャースタジオよりも何倍も早いスピードで!

通常、1本の映画を制作するには、企画から完成まで、最短でも1年以上はかかると言われています。規模の大きな映画になればなおさら時間がかかり、公開まで5〜6年を要する場合も珍しくありません。

ところが、キャノン・フィルムズは製作時間が異常に早く、『ブレイクダンス』という映画を作る際は「ブームが起きている今がチャンスだ!」と突貫作業を強行。

その結果、アイデアを思い付いてから劇場公開まで、なんとたったの3ヶ月という驚異的なスピードを叩き出し、業界関係者を唖然とさせたそうです。

また、製作費の安さも特筆すべきで、メナヘム・ゴーラン監督は「3000万ドルかけて映画を作る?まさか!」「映画1本にそんな大金を注ぎ込むなんて出来ないよ」「30本作ることは出来るけどね」などと公言し、敢えて低予算ムービーを量産しました。

さらに、作品内容も”低俗で単純明快な娯楽映画”に徹し、「銃撃戦」「大爆発」「流血」「お色気シーン」などを必ず盛り込み、多くの大衆の心を鷲掴みにしたのです。『ホステル』や『キャビン・フィーバー』のイーライ・ロス監督もその一人でした。

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「子供の頃、キャノンフィルムの映画に夢中になった。キャノンフィルムといえば銃撃戦にエロシーンにバイオレンス。まさに”ヤバイ映画の代名詞”だったね。あんな映画会社は他にないよ。ユーチューブも無い時代、僕が教わったのは、チャック・ノリスとチャールズ・ブロンソンと忍者だ(笑)」


「キャノンの映画は大半がゴミと言われてたけど、いまだに賛成できないね。タランティーノは自宅に『レッドコブラ』のフィルムを持ってて一緒に観たことがある。世界有数の監督が絶賛する映画なんだぜ?面白いに決まってるだろ!」 (イーライ・ロス監督のコメント)


やがてキャノン・フィルムズの評判が高まってくると、色んな人が興味を示し始めました。ある日、メナヘム・ゴーラン監督が奥さんとフレンチレストランで食事をしていると、若くてハンサムなウエイターが近づいて来たそうです。

両手にスープが入った皿を持った彼は「ゴーラン監督ですか?」と尋ね、本人だと確認すると、いきなり監督の頭上スレスレをキック!しかもスープを一滴もこぼさずに!そのウエイターこそ、当時無名のジャン=クロード・ヴァン・ダムでした。

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翌日、監督のオフィスに招かれたヴァン・ダムは、上着を脱いで上半身を見せ、「どうですか、この筋肉は!」と猛アピール。さらに、椅子を二つ並べて股割を披露したり、空手の型を見せたり、必死に自分を売り込んだそうです。

しかし、ゴーラン監督は「まあ、落ち着け」とヴァン・ダムを椅子に座らせ、「いいかい?私が求めているのは演技力だ。その筋肉と開脚は役に立たないよ」と不採用の理由をゆっくり説明したそうです。

でもヴァン・ダムは諦め切れず、「お願いです!何でもしますから映画に出させて下さい!」と懸命に懇願し、その場に泣き崩れました。

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すると、それを見たゴーラン監督はしばらく考え込んで、「そんなに映画に出たいのか?」「よし、俺がお前をスターにしてやる!」と断言。こうしてヴァン・ダム初主演作『ブラッドスポーツ』の出演が決まったのです。

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その後も、『地獄のヒーロー』や『スーパー・マグナム』など次々とヒット作を生み出し、ついには全米興行収入の約20%がキャノン社の売上になるほどの大躍進を遂げました。

さらにヨーロッパ全域で1000スクリーン以上の映画館を所有し、わずか50万ドルで設立した小さな会社の時価総額が、なんとたったの7年で10億ドルを突破!

ただし、映画評論家からの評価は散々で、「彼らは所詮”セールスマン”だよ」「一度も名作を生み出したことはない」と酷評されまくっていたらしい。

それを聞いたゴーラン監督は「クソ!じゃあ次は賞を獲って評価を高めてやる!」と闘志を燃やし、ジョン・ヴォイトが『暴走機関車』でゴールデン・グローブ賞の主演男優賞を受賞した時は大喜びしていたらしい。

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20世紀フォックス・ホーム・エンターテイメント・ジャパン (2009-05-22)

さらに、カンヌ国際映画祭に47作品も出品し、総額10億フランも投資するなど、世間の評価を高めようと必死になっていたそうです。

そして次にオファーしたのが、当時トップスターだったシルベスター・スタローンでした。「ギャラは600万ドルだ」と言われたゴーランは「600万は払いたくない」と拒否。「なぜだ?」と聞かれると「1000万ドル払うからだ」と答えて相手を仰天させたという。こうして作られた『オーバー・ザ・トップ』でしたが、興行成績は惨敗。

この映画の製作費は4000万ドルで、キャノン・フィルムズの映画としては破格の予算です。しかしスタローン自身も「こんな地味な映画がヒットするのだろうか?」と不安を感じていたらしい。この不安が的中し、全米では全くヒットせず、スタローン主演作品としては過去最低の成績になってしまいました(結構好きな映画なんだけど…)。

この頃から、メナヘム・ゴーランとヨーラム・グローバスとの仲がギクシャクし始めたようです。ヨーラムは資金を集めるプロでしたが、メナヘムが映画製作ですぐに使い果たしてしまうため、会社にお金が無くなっていたからです。

元々キャノン社は「低予算映画を数多く作る」ことで利益をあげていたのに、いつしか会社のイメージを良くするために大作映画を作り始めていました。そこで、銀行から多額の融資を受けてることになったんですけど、なかなかヒット作が出ず、徐々に首が回らなくなってきたのです。

このピンチを、メナヘム監督は映画を撮ることで挽回しようとしました。「20本撮ってヒットが出ないなら、あと50本撮ればいい」という謎のロジックを振りかざして。ヨーラムが「一度、映画作りを休んでじっくり考えよう」と提案するものの、メナヘムは全く聞く耳を持たず、狂ったように映画を撮り続けたのです。

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人気アメコミ映画『スーパーマン4 最強の敵』は、そんな絶望的な状況の中、起死回生の一発逆転を狙って作られたのですが、結果は大失敗!そもそもこの映画を作る時点でキャノン・フィルムズにはほとんど資金がなかったため、費用がかかるオプチカル合成を省いて安いビデオ合成で済ませるなど、徹底したコストカットを実施したそうです。

その結果、ビジュアルが全シリーズ中で最もショボくなり、1700万ドルの製作費に対して興行収入はわずか1570万ドルという大爆死状態に。会社の評価は猛烈な勢いで下がり続け、45.50ドルあった株価が、たったの1年で4.75ドルまで落ち込んでしまいました(この映画は本当にヒドいので観ない方がいいです)。

スーパーマンIV 最強の敵 [Blu-ray]
ワーナー・ホーム・ビデオ (2012-11-07)

そして、ついにヨーラム・グローバスの忍耐が限界を突破。「一生映画作りの資金集めに追われる生活を送りたくない」と訴えたところ、メナヘム監督は「だったら俺が会社を辞める!」と激怒。

周りのスタッフも説得しましたが「俺は映画を作りたいだけなんだ!」と言い残し、とうとう会社を去って行ったのです。こうして1989年、30年間を共にしてきた二人は完全に決別してしまいました。

結局、メナヘム・ゴーラン監督は「映画を作りたい」という思いが強すぎたんでしょうねえ。本当はヨーラムも彼と一緒に映画を作り続けたかったようですが、あまりにも強引なメナヘム監督に付いていけなくなったのでしょう。

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その後、ヨーラムは会社に残って事業の立て直しを進め、MGMや他の映画会社を買収するなど、活躍の場を広げていきます。一方のメナヘムは単独で映画の製作に着手するものの、取引銀行から見放され、資金集めもままならず…。

それから数年後、ヨーラムの方もその後トラブルが発生し、結局、会社を辞めて故郷のイスラエルへ戻り、新しく映画スタジオを建設。そして、メナヘムもまた、「どこで映画を作るのが一番最適か」を考え、イスラエルに戻って来たのです。

こうして二人は数年ぶりに再会。また一緒に映画を作るのかと思いきや、互いに歳を取り過ぎたようで「我々二人は完璧なコンビだった。二人で世界の映画を作った。数々の賞も受賞した。実に残念だよ」と過去を振り返り、新作映画を作ることはなかったそうです。

というわけで、このドキュメンタリーは「二人の映画好きがコンビを組んで地元で映画を作り始め、やがてハリウッドで大成功を収めるものの、その栄光は長く続かず、失敗してコンビを解消、地元へ帰り再び出会う」という物語です。

映画はそこで終わるんですが、エンディングが流れ始めると、二人が映画館で映画を観ている場面が映るんですよ。広い映画館に二人だけが並んで座って、今まで彼らが作ってきた映画を一緒に観てるんです。このシーンが良かったですねえ。

「この女優、覚えてるかい?」「もちろん」「映画を観るのは楽しいな」「あの頃は忙しすぎて映画を楽しむ余裕が無かったよ」など、ポップコーンを食べながら実に楽しそうに会話してるんです。まさに映画好きの”映画愛”が詰まった名場面と言えるでしょう。

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ちなみに、キャノン・フィルムズの映画で個人的に好きな作品は以下のような感じになります。

コブラ 日本語吹替音声追加収録版 ブルーレイ [Blu-ray]
ワーナー・ブラザース・ホームエンターテイメント (2016-09-07)

スタローン扮するマリオン・コブレッティ刑事がひたすら暴れまくる痛快アクション。なおヒロインのブリジット・ニールセンと撮影前に結婚し、撮影後に離婚したらしい(は?)

マスターズ 超空の覇者 [DVD]
ジェネオン エンタテインメント (2003-12-20)

ドルフ・ラングレンの記念すべき初主演作。ヘンテコな衣装を着て熱演するその姿に目頭が熱くなる(嘘)

スペース・バンパイア HDリマスター版 [DVD]
20世紀フォックス・ホーム・エンターテイメント・ジャパン (2014-08-02)

全国の巨乳好きを大興奮させたSFホラーの怪作(ただし一部貧乳マニアは除く)

まあ、キャノン・フィルムズの映画はどれも低俗で暴力的でB級テイストに満ち溢れてるんですが、それが他の映画にはない魅力だと思います(^_^)

川村元気が語る『君の名は。』大ヒットの秘訣とは

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現在、全国で大ヒットしている新海誠監督の最新作『君の名は。』の興行収入が、ついに200億円を突破したそうです。興収が200億円を超えた邦画作品は、2001年の『千と千尋の神隠し』(宮崎駿監督)以来、なんと15年ぶりという快挙であり、改めて「すごい!」と言わざるを得ません。

5日には『ハウルの動く城』の196億円を突破し、邦画歴代2位の新記録が伝えられたばかりですが、8月26日の公開から9週連続で興収1位を獲得し続け、公開開始から102日で観客動員1539万人、興収200億618万8400円(12月5日時点)と、またもや邦画史に残る金字塔を打ち立てたわけですな。

しかも日本だけじゃなく、アメリカで開催された『第42回ロサンゼルス映画批評家協会賞』ではアニメ映画賞を受賞。これは「アカデミー賞の前哨戦」としても注目されており、実際に2002年にこの賞を獲得した『千と千尋の神隠し』は、2003年のアカデミー賞で長編アニメ映画賞を受賞しました。

また、大手映画批評サイト「Rotten Tomatoes」でも97%(5日時点)という高評価を獲得しており、11月24日から公開が始まったイギリスでは「The Guardian」、「EMPIRE」、「The Telegraph」の3誌がそろって5つ星の最高点を与えています。

さらに、今月2日から公開された中国でも、週末興行ランキング1位、公開初日の興収が7596.5万元(約11.3億円)、週末3日間で約2.8億元(約42億円)という驚異的な数値を叩き出し、中国で封切られた日本映画としては最高記録を樹立するなど、海外でも高い評価を得ているらしい。

ただし、このような大ブームについて新海誠監督は「なぜこんなにヒットしているのか、さっぱり分からない」「今回はたまたま今の若い人たちが求めている巨大な需要にマッチしただけで、幸運やタイミングがうまく重なった結果でしょう」と困惑している様子。

一方、『君の名は。』でプロデュースを務めた川村元気さんは、ヒットの理由を冷静に分析しているようです。川村元気さんと言えば、細田守監督と組んだ『おおかみこどもの雨と雪』や『バケモノの子』、さらには『告白』『悪人』『怒り』『モテキ』『バクマン』など、話題作・ヒット作を数多く手掛ける敏腕プロデューサーとして近年評価が高まっていますが、本作にはどのように関わったのでしょうか?以下、インタビュー記事より↓


例えば、新海さんなら彼のやりたい物語の要素がたくさんあるんです。その流れが悪くなっているところを切ったり入れ換えたりする、という作業です。


新海さんに後からお礼を言われたのは、主人公の二人が入れ替わったことを(観客に)どのぐらい分からせるか分からせないか、という打ち合わせをしていた時、僕が「ギリギリ観客が追い付かないぐらいのスピードでやろう」と言ったらしいんですよ。憶えてないんですけど。


出だしから置いていって置いていって、奥寺先輩とデートのときに入れ替わりが起きずに瀧君がデートに行っちゃって、「私なんで泣いてるんだろう?」という三葉のシーンで、初めて観客が追い付く。そこで登場人物と同じ気持ちになるように設計しました。こうすると、観客が必死にのめり込んで付いてきてくれるという、いい作用も起きるんです。


といっても、作っているときはそこまで意識的ではなく、感覚的だったんですけど。観客の理解と同じスピードで進むものは面白くないんですよ。しかし、早すぎるとわからないから、感情移入が落ちる。遅いと退屈に感じる。どこを取ればいいんだろう?というのはずっと考えています。 (「週刊文春エンタ!」より)


川村元気プロデューサーによると、映画は「ギリギリ観客が追い付かないぐらいのスピードで展開させること」が、物語にのめり込ませるコツらしい。実際、新海監督が書いた最初のシナリオでは、尺が2時間近くもあったのに、川村さんの指示に従ってテンポアップした結果、107分に縮まったそうです。

さすが「稀代のヒットメーカー」と言われるだけありますが、川村プロデューサーとしては自分の好みを押し付けるのではなく、「他人のフェティッシュや作家性をどれだけ歪な形で残しながら、テンターテインメントの作法に則ったものを作るか」にこだわっているという。

例えば『君の名は。』では、「口噛み酒」や完璧すぎる奥寺先輩のキャラクターなど、「新海さんのフェティッシュが出過ぎちゃっているところを、逆に落とさないように気を付けました。新海さんの内側から出て来るものの味をなるべく薄めず、より良い並びに構成したかったんです」とのこと。

今まで新海誠作品の興行成績は、最大でも1億5000万円程度しかなかったのですが、『君の名は。』で一気に200億円を超えました。それはもしかしたら、川村プロデューサーと組んだおかげで、新海監督がもともと持っていた独特の作家性を、より多くの観客へ届くように上手くブラッシュアップできたからなのかもしれませんね。


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どうも、管理人のタイプ・あ〜るです。

いよいよ2016年も残すところ後3週間ほどになりましたが、皆さんいかがお過ごしでしょうか?

というわけで、毎年この時期の恒例行事(?)となっている「男の魂に火をつけろ!」のワッシュさん主催の「好きな映画ベストテンを選ぶ企画」に、今年も参加させていただきますよ。なお、今回のテーマは「戦争映画」だそうです。

「男の魂に火をつけろ!〜戦争映画ベストテン〜」

ちなみに世間では今、『この世界の片隅に』が話題になってて、「それを観てから決めようかな」と思ってたんですけど、なかなかタイミングが合わずに観に行けなかったため(というか近所の映画館でやってない!)、仕方なく普通に選んだら、割と定番ばかりのランキングになってしまいましたよ、トホホ(^_^;)


1位:『プライベート・ライアン』

この映画は、まず劇場で初めて観た時のインパクトが凄かったですね。特に、有名な”オマハ・ビーチ”の戦闘シーンでは、兵士が次々と吹き飛ばされる阿鼻叫喚のビジュアルと、四方八方から飛んでくる銃弾の様子をリアルに再現した凄まじい音響効果にド肝を抜かれました。

しかも、これだけ臨場感たっぷりに戦場を描いた場合、普通ならもっとシリアスで陰惨な内容になりそうなものですが、実話(ナイランド兄弟)を元にした極めてエモーショナルなドラマとして結実させるという見事な構成に驚嘆。さすがスピルバーグや!

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2位:『地獄の黙示録』

今さら説明の必要はないと思いますが、フランシス・フォード・コッポラ監督の傑作戦争映画です。本作を好きな理由は、混沌とした内容もさることながら、撮影環境自体がまさに”戦場”さながらの混乱状態に陥っていた、という点なのですよ。

クランクイン直後にメインキャストのハーヴェイ・カイテルが突然降板し、代わりに起用されたマーティン・シーンも心臓麻痺でぶっ倒れ、大型台風の直撃でセットが全て吹き飛び、我儘なマーロン・ブランドによって脚本が改稿されまくる等、トラブルを数え上げたらきりがありません。

初見では「何だこの妙な映画は?」と迷走気味のストーリーに困惑したものの、このような裏事情を知った後に観直すと「あ〜、なるほどね」と納得できたりするわけで(笑)。個人的には、本作を観賞する場合、撮影時のメイキングを収録したドキュメンタリー映画『ハート・オブ・ダークネス』も一緒に観ることをおすすめします(^_^)

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3位:『U・ボート』

映画ファンの間には昔から「潜水艦映画にハズレなし」という言葉がありまして、『眼下の敵』や『深く静かに潜航せよ』など、名作・傑作は数知れず。そんな中でも本作は、映画史に残るほど優れた潜水艦映画と言えるでしょう。

限界深度を大きく超えて深く海の底へ潜って(沈んで)行く潜水艦内部の緊張感や、外部と完全に遮断された密閉空間における極限の人間ドラマなど、後の戦争映画に与えた影響は計り知れません。まさにマストな1本です。


4位:『ブラックホークダウン』

1993年にソマリアで実際に起こった壮絶な市街戦を、敢えてドラマチックな演出を付加せずに淡々と描いた戦争アクション。敵地のど真ん中に墜落したヘリコプターの乗組員たちを、果たして救出できるのか?という緊迫感が凄まじい。ジョシュ・ハートネット、ユアン・マクレガー、トム・サイズモア、エリック・バナ、ウィリアム・フィクトナー、オーランド・ブルーム、トム・ハーディなど、出演している役者も豪華ですよ。

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5位:『ハートロッカー』

イラク戦争におけるアメリカ軍爆弾処理班の活躍を描いた本作は、第82回アカデミー賞にて、作品賞・監督賞・脚本賞・編集賞・音響編集賞・録音賞の最多6部門を受賞し、キャスリン・ビグローが女性監督として史上初のオスカーを獲得したことでも注目されました。砂埃舞う炎天下で黙々と爆弾を処理するジェレミー・レナーが渋い!


6位:『スターシップ・トゥルーパーズ』

ロバート・A・ハインラインが59年に発表したSF小説『宇宙の戦士』を、『ロボコップ』のポール・バーホーベン監督が壮大なスケールで映画化した本作。戦争映画というよりSF映画なんですが、アメリカにおける”戦争の概念”を、戦意高揚に見せかけた痛烈なブラックジョークとして描いている点が嫌みで面白い。なお、バーホーベン監督は本作の撮影が終わるまで原作の『宇宙の戦士』を一度も読んだことがなかったそうです(笑)。

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7位:『イングロリアス・バスターズ』

巨匠クエンティン・タランティーノ監督が、ナチス壊滅を企てる秘密部隊の活躍を鮮やかなタッチで描いた痛快アクション。本作で初めてクリストフ・ヴァルツを見た時、「すげえ!」と仰天しましたよ。英語、ドイツ語、フランス語を流暢に喋り、抜群の存在感を放つランダ大佐を完璧に演じ切った力量に脱帽です。


8位:『火垂るの墓』

これまた説明不要の有名戦争アニメですね。公開当時は『となりのトトロ』との同時上映でしたが、可愛いトトロを目当てに観に行った子供たちが恐怖で泣き叫ぶという事故発生。以降、「やってはいけない二本立て」としてアニメ史に名を残しました(笑)。

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9位:『オーガストウォーズ』

↑この予告編を見て「ああ、よくある『トランスフォーマー』のパチもんか」と感じた人が多いと思いますが、全く『トランスフォーマー』ではありません。本作は、2008年8月8日に南オセチアで勃発したグルジア軍とロシア軍との戦闘を描いた”正真正銘の戦争映画”なのですよ。

「じゃあ、あの巨大ロボットは何なんだよ?」という疑問が当然出て来るでしょうけど、それは実際に映画を見て確かめてください(予告編の中にもチラッとヒントが出てるw)。とにかく、ロシア軍の全面協力によって実現した、本物の戦車や重火器による迫力満点の戦闘シーンは必見です。


10位:『ローン・サバイバー』

2005年6月、アフガニスタン紛争時に起きた「4人のアメリカ海軍特殊部隊の悲劇」を映画化した物語。アフガニスタンの山岳地帯で現地の武装集団に取り囲まれたネイビー・シールズですが、文字通り”命懸けの攻防戦”を描いた本作を観て、「あんな状態になってもまだ生きてるのか!?」と生命力の強さに驚愕しました。

なんせ、迫り来る100人以上の敵から大量の銃弾を浴びせられ、高い崖の上から何度も落下し、硬い岩に全身を打ちつけ、手足を骨折して見るも無残なボロボロ状態に成り果てながら、それでもなお生き延びて仲間に救出され、一命を取り留めたというのですから凄すぎる(ただし生き残ったのは一人だけ)。

原作の『アフガン、たった一人の生還』も読んだんですけど、実際はもっと酷いことになっていて、満身創痍で瀕死の重傷だったそうです。しかも現地の人からもらった水を飲んだら悪性のバクテリアに感染し、「体の傷よりも胃のダメージの方が深刻だった」というのだから恐ろしい(この辺のエピソードは映画版ではカットされてますが)。いや〜、ネイビー・シールズの強靭さには驚かざるを得ませんよ(^_^;)


というわけで、僕が選んだ戦争映画ベストテンはこのような感じになりました。


1. プライベート・ライアン(1998年 スティーブン・スピルバーグ監督)

2. 地獄の黙示録(1979年 フランシス・フォード・コッポラ監督)

3. U・ボート(1981年 ヴォルフガング・ペーターゼン監督)

4. ブラックホークダウン(2001年 リドリー・スコット監督)

5. ハートロッカー(2008年 キャスリン・ビグロー監督)

6. スターシップ・トゥルーパーズ(1997年 ポール・バーホーベン監督)

7. イングロリアス・バスターズ(2009年 クエンティン・タランティーノ監督)

8. 火垂るの墓(1988年 高畑勲監督)

9. オーガストウォーズ(2012年 ジャニック・フェイジエフ監督)

10. ローン・サバイバー(2013年 ピーター・バーグ監督)


一つだけSF映画(『スターシップ・トゥルーパーズ』)が混じっていますけど、基本的に戦争映画というものは、「実際に起きた戦争」をベースにフィクションとして物語を構築するか、あるいは実話を映画化したものが大半なんですよね。なので(個人的にはSFっぽい戦争モノも好きなんですが)、割と定番のタイトルばかりになりました。

ちなみに今回ベストテンには入らなかったものの、『シン・レッド・ライン』『日本のいちばん長い日』『戦場のピアニスト』『ワルキューレ』『遠すぎた橋』『ヒトラー最期の12日間』『プラトーン』『カジュアリティーズ』『フルメタル・ジャケット』『ワンス・アンド・フォーエバー』『7月4日に生まれて』『ハンバーガー・ヒル』『父親たちの星条旗』『硫黄島からの手紙』『野火』『史上最大の作戦』『戦争のはらわた』『スターリングラード』『ゼロ・ダーク・サーティ』『アメリカン・スナイパー』『グリーン・ゾーン』『戦火の勇気』『スリー・キングス』『ジャーヘッド』『フューリー』など、他にもお勧めしたい名作・傑作はたくさんあるので、機会があればぜひご覧ください(^_^)


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『この世界の片隅に』がヒットした4つの要因

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現在、片渕須直監督の劇場アニメ『この世界の片隅に』が異常なヒットを記録している。「異常な」というのは、「通常のヒットの仕方とは明らかに異なる奇妙な経緯で」という意味だ。

普通、映画の興行成績は「初週の動員で決まる」と言われており、例えば土曜日に封切られた作品の場合、土日2日間の状況を見て、もし業績が悪ければ「この映画はこの程度の稼ぎか」と劇場側が判断し、翌週から小さなスクリーンに移されたりするという。

このため、公開直前になると主演俳優がテレビに出まくったり、各種メディアに映画の情報を載せまくるなど、映画会社は初週の動員を獲得しようと必死で宣伝活動を展開する。もしランキング上位に入れば、ヒットの可能性が高くなるからだ。

逆に微妙な順位の場合は、もうそこから上昇する可能性がほとんどないから、「最終的な興行収入は○億円ぐらいだろう」との予測が立ち、ある程度見切りをつけられてしまうらしい(低い順位から上がることは滅多にない)。

ところが『この世界の片隅に』は、公開第1週目にランキング10位という不利なスタートだったにもかかわらず、3週目に6位へアップし、さらに4週目には4位になるという、映画史上稀に見る逆転現象を巻き起こしたのだ。

この異例とも言えるヒットに伴い、公開当初はわずか63館だった劇場数が、68館 → 82館 → 87館と徐々に増え続け、現時点では90館を突破!年明けにはなんと公開時の3倍を超える190館での上映が決定しているというのだから凄まじい。

では、いったいなぜ『この世界の片隅に』は、こんなにヒットしているのか?もちろん「いい映画だから」という意見に異論は無い。だが、単に「いい映画」だけの理由で、ここまでヒットするものだろうか?例えば、片渕須直監督の前作『マイマイ新子と千年の魔法』もいい映画だったと思うが、公開時は全くヒットせず、わずか3週間で打ち切られている。

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エイベックス・ピクチャーズ (2010-07-23)

しかし、観た人の評価は非常に高く、熱心なファンたちによって上映継続を求める署名運動が行われ、その想いに賛同したいくつかの映画館が上映継続を決定した結果、2年間に及ぶロングランを成し遂げたのだ。

こういう例を見ると、単に「いい映画」というだけでは、世間で話題になるほどの大ヒットには結びつかないのでは?と思ってしまう。というわけで、『この世界の片隅に』がヒットした要因をいくつか取り上げ、その内容を検証してみたい。


●作品自体の完成度が高い

まず、「映像作品として優れている」ということがヒットの大前提であることは言うまでも無いだろう。どんなに宣伝費をかけても、あるいはどんなに口コミで広めようとしても、そもそも作品自体の出来が良くなければどうにもならない。

その点、本作は極めて完成度が高く、魅力的なキャラクターや、細部に至るまでこだわり抜かれた正確な時代考証、そしてこうの史代の原作漫画を丁寧な筆致で描写した素晴らしい世界観など、どこをとっても見事なアニメーションで、ヒットの要素は十分満たしていると言える。


●監督の執念

片渕須直監督がこの作品にかけていた執念は凄まじく、当初は映画の製作資金が集まらなかったため、自腹で作っていたらしい。本人は「企画が成立するまでの立て替え」と考えていたようだが、いつまでたっても資金調達のめどが立たず、最終的には貯金額が4万5000円まで目減りしたという。

この頃はさすがに「もう限界かも…」と挫折しそうになったらしいが、どうしても映画化を諦め切れず、プロデューサーから子供の学費を借金し、「一家4人で一食100円」という超極貧生活を耐え忍んでいたそうだ(一人100円ではなく、4人の食費が合計100円!)。

こういう情報が伝わったことで、「なんて凄い執念だ!」「片渕監督を応援したい!」と考える人が増え、観客動員に繋がったと思われる。つまり、劇中の登場人物さながらの苦労話が、人々の心を動かす感動的な”ドラマ”として機能していたのだ。


●クラウドファンディング

2010年頃から本作の企画を練っていた片渕監督だが、なかなか製作が進展しない。そこで2015年にクラウドファンディングを使ってパイロット・フィルムの制作費用を調達しようとしたら、開始直後から支援者が殺到。

わずか8日間で目標額の2000万円に到達し、最終的には日本全国から3374名、3912万1920円の支援金が集まり、当時国内のクラウドファンディング映画ジャンルとして史上最多人数、最高額を記録したそうだ。

さらに、もともとパイロット・フィルムを作るためのクラウドファンディングだったが、この手法が注目されたことで「映画を観たがっている人がこんなにいる」という状況が可視化され、出資に協力する企業が現れたのである。それが最も大きな効果だったという。


●”のん”にまつわる圧力疑惑

普通、新作映画が公開される際は、宣伝活動の一環として出演者や声優がテレビ等に登場する機会が増えるものだが、本作の場合はなぜかメディアへの露出が極端に少ない(当初はNHKと一部の地方局のみだった)。この不自然な状況に対し、「事務所から圧力がかかっているのでは?」との批判が噴出した。

実際、主人公すずの声優を務めた女優”のん”は、もともと所属していたレプロエンタテインメントに無断で個人事務所を設立し、契約中であるにもかかわらず勝手に独立したためレプロ側が激怒。「能年玲奈」という芸名の使用を禁じられ、東京地裁で現在も係争中らしい。

こういう事情から「事務所の圧力疑惑」が出たと思われ、不公平な扱いに憤りを感じた映画ファンや能年玲奈(のん)ファンが「理不尽な圧力に屈するな!」「メディアが取り上げないなら俺たちの手で宣伝してやる!」とばかりにSNSを通じて拡散していったようだ。

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というわけで、ヒットの要因をいくつか考えてみたのだが、本来ならこういう映画を東宝みたいな大手の映画会社が率先して作り、多くの劇場で上映して大勢のお客さんに観てもらうのが最も望ましいのではないか?と思う。

しかし、片渕須直監督が最初にこの企画を提案した時、賛同してくれる会社は皆無だったそうだ。理由は「売れる保証が無いから」。つまり映画会社が映画を作る際には「確実に当たるもの」、あるいは「当たる可能性が高いもの」が最優先されるのだ。

そして多くの場合、「人気のある原作かどうか?」「過去に実績のある監督かどうか?」「有名な役者やアイドルがキャスティングされているかどうか?」などを判断材料にするという。

そんな中で『この世界の片隅に』は、「いい作品にはなるだろうが、当たるかどうかは分からない」「恐らく当たらないだろう」とジャッジされたらしい。要は「ヒットする可能性の低い映画に金は出せない」というわけだ。

確かに、一般的な感覚で言えば『この世界の片隅に』は”非常に地味な映画”に見えるだろう。若い男女の美しい熱愛とか、感動的なドラマとか、派手な音楽とか、かっこいいアクションシーンとか、観客にウケそうな(ヒットしそうな)ポイントが何もない。

だから多くの映画会社はリスクを恐れ、この手の映画にお金を出そうとしなかったのだが、本作の成功によって”映画界のセオリー”が覆された。片渕監督の執念や、クラウドファンディングによって可視化されたファンの熱意が、マーケティング主導の映画作りにカウンターパンチを食らわせたのである。

振り返ってみると、今年は”異例の大ヒット”という言葉をよく聞いたような気がする(ピコ太郎とかw)。話題になった『君の名は。』も、新海誠監督の過去の実績が1億数千万円程度だったため、「ヒットしてもせいぜい10億円ぐらいだろう」と全く期待されていなかったらしい。

また、庵野秀明監督の『シン・ゴジラ』も、「こんな難しいセリフばかりの内容で客が喜ぶわけがない!主人公の恋人や家族たちの人間ドラマをもっと入れてくれ!」と東宝のプロデューサーから要求され、大変なストレスを感じていたそうだ。

『この世界の片隅に』と同じく、この2作品も当初は「そんなにヒットしないだろう」と思われていたのだが、予想に反して大ヒット!これは、「過去の実績」や「マーケティング」に頼った従来の映画制作スタイルが既に通じなくなってきていることの表れなのかもしれない。

いずれにしても、監督が作家性を存分に発揮した映画を作り、観客がそれをしっかり評価して世に広めた結果、映画会社も想定できないほどのヒット作がいくつも生まれたという意味で、2016年は映画ファンの記憶に残る年になったと言えるだろう。


ついに『シン・ゴジラ』のBlu-ray&DVD発売決定!

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『新世紀エヴァンゲリオン』の庵野秀明監督がCG技術を駆使して作り上げた超大作『シン・ゴジラ』。今年の夏に公開され、全国で大ヒットを記録した怪獣映画が、ついにブルーレイ&DVD化されることになりました(来年3月発売予定)。

いや〜、今回のゴジラは中身が濃いというか、ストーリー的にも映像的にもディテールが細かいので、ソフトが出たら家でじっくり確認したいと思ってたんですよね。

あと、日本のゴジラとしては「初のフルCG」という点もポイントでしょう。いきなりCGを作るのではなく、最初に精密な雛型を作って、それを3Dスキャンすることでデジタル・ゴジラを生み出したという。

今回、ゴジラの雛型を作った竹谷隆之さんは、庵野秀明さんから「背びれから尻尾にかけては、骨が露出しているようなイメージでお願いします」と言われ、「だったら本物の骨を使ってやろう」と考えて、キツネやイタチなどの骨を埋め込んだそうです(尻尾の先端部分は魚や蛇の骨)。

なお、フルCGのゴジラといえば、1988年にアメリカで作られた『GODZILLA』(通称エメゴジ)や、2014年の『GODZILLA ゴジラ』(通称ギャレゴジ)が既にありますが、それらはゴジラを「巨大生物」に見立てたものでした。

そして『シン・ゴジラ』のCGスタッフたちもギャレゴジのような動きを想定し、「筋肉シミュレーション」みたいなプログラムを頑張って組んでいたそうです。ところが、庵野さんは着ぐるみテイストを望んでいたため、それらのCGが全部却下されてしまいました。

動きをチェックする際も、「違う!そんな生物的な動きじゃなくて、もっと着ぐるみっぽい感じで!」と何度もリテイク。そのため、質感のパラメーターを全部「ゴム製の素材」に変更するなど、予期せぬ苦労を強いられたそうです。

また、本作には自衛隊の現用装備が多数登場しますが、本物とCGが混ざっているらしく、CGの場合は演習場にスキャニング用カメラを持ち込んで、実機の周りをグルグル回りながらスキャンしたとのこと(1機のデータを撮るのに1時間半以上かかったらしい)。

今回の『シン・ゴジラ』には、そういった裏話や苦労エピソードが山ほどあるみたいなので、ぜひともメイキング映像をじっくり確認したいですね(^_^)



あと、豪華メイキング本『ジ・アート・オブ シン・ゴジラ』ももうすぐ発売されるので、こちらも要チェックですよ(^_^)


アレの元ネタ?SFアニメ『メガゾーン23』ネタバレ解説

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■あらすじ『1980年代の東京で暮らす矢作省吾は、ある日偶然出会った美少女・高中由唯と恋に落ちる。しかし、盗んだバイクで走り出した結果、謎の集団から襲われることに。実は、そのバイクは軍が開発した重要機密で、ロボットに変形する最新兵器「ガーランド」だった。省吾はガーランドの存在を公表すべく、人気アイドル・時祭イヴのテレビ番組への出演を試みるが、逆に軍の罠にはまってしまう。軍の特殊部隊から追跡された省吾は、ロボットに変形したガーランドで応戦。何とかピンチを切り抜けたものの、想像を絶する衝撃の事実が彼を待ち受けていた…!好景気の社会で青春を謳歌する青年が、ロボットに変形するバイクを手に入れたことから世界の真実に気付かされる、SFロボットアニメの金字塔!』



どうも、管理人のタイプ・あ〜るです。

本日、WOWOWで『メガゾーン23』が放送されます。しかもシリーズ全3作品を一挙に放送!ここで「え?『メガゾーン23』?」となった人、正しい反応です(笑)。僕もなりました(^_^;)

映画じゃなくてオリジナルビデオ、おまけに30年以上も昔のアニメがなぜ今(クリスマス前に)WOWOWで放映されるのか?理由は全く分かりませんけど(一応、劇場公開されたから”映画”扱いなのかな?)、なんとも懐かしいですね〜。

ここで『メガゾーン23』を知らない人のためにざっくり説明すると、本作は1985年に製作されたオリジナル・ビデオ・アニメーションで、セルアニメの価格が1本2万円近くもした時代に26,518本という驚異的な売り上げを記録した伝説的アニメなのですよ。

元々はテレビアニメ『機甲創世記モスピーダ』の後番組として企画され、そのため「バイクがロボットに変形して敵と戦う」という基本設定を踏襲したそうです。ところが『モスピーダ』が打ち切りになったことで、必然的に後番組の企画もボツになってしまいました。

しかし、せっかく考えた企画をこのまま捨ててしまうのはもったいない。そこで急遽、OVAとして売り出すことに決定。当時のOVAはまだ未知数のメディアで、ビジネスとして成り立つのかどうかすらも分からない状況でしたから、これは大英断と言えるでしょう。

そして、『メガゾーン23』の企画を立てた会社(アートミック)は、『超時空要塞マクロス』の主要プロダクションだったアートランドと組んでさっそく製作を開始。しかしその当時、『マクロス』のスタッフは劇場版(「愛おぼえていますか」)の作業が終わったばかりで疲れ果てていたのに、「次はこれやってくれ」と無理やり仕事を入れられて大変だったそうです。

『メガゾーン23』のメインスタッフには、『マクロス』の作画監督や、後に『戦え!イクサー1』のキャラクターデザイン及び監督を務めた平野俊弘(現:平野俊貴)。そして同じく『マクロス』のキャラデザを担当した美樹本晴彦や、メカ作画監督の板野一郎などが再び結集しました(監督も『マクロス』の石黒昇)。

さすが『超時空要塞マクロス』のスタッフがほぼそのままスライドしているだけあって、「メカ」「美少女」「アイドル」「恋愛」「変形ロボ」「巨大宇宙船」など、『マクロス』の基本コンセプトもそっくり受け継いでいる感があり、その辺が『メガゾーン23』の大きな特徴となっています。

中でも最大の見どころと言えば、やはり主役メカ「ガーランド」の変形機構でしょう。ガーランドをデザインした荒牧伸志さんは大のバイク好き&ロボット好きで、『モスピーダ』のライドアーマーや『メガゾーン23』のガーランド、そして『バブルガムクライシス』のモトスレイヴなど、気付いたら「ロボットに変形するバイク」ばかりをデザインしていたそうです。

荒牧さんにとって、変形ロボットの仕組みを考える行為は「複雑なパズルを解き明かすような知的快感がある」とのことで、難しい反面、「苦労の末に面白い変形を思い付いた瞬間はもの凄く嬉しい」そうです(逆に、後になってアイデアが浮かんだ場合、「どうしてあの時思い付けなかったんだ!」と非常に悔しい気持ちになることもあったとか)。

特にガーランドはとても苦労したようで、まず木で模型を作り、それを切ったり曲げたりしながら「どうすればスムーズに無理なく変形できるか?」など何度も試行錯誤を繰り返したという(当初はテレビシリーズを想定していたため、おもちゃ会社へ「完全変形可能なメカ」をプレゼンすることが前提だった)。

こうして完成したガーランドは、スタイリッシュなデザイン性とも相まって、「すごい可変バイクだ!」「かっこいい!」と多くのアニメファンから絶賛されました。ただし、劇中では変形シーンが早すぎて、どのようなプロセスなのかイマイチ分かり難いんですけど(笑)。

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それから、『マクロス』と同じく”アイドル歌手”が物語のキーポイントになっていることで、劇中で流れる音楽にもこだわりが感じられます。作曲者は、『新世紀エヴァンゲリオン』や『シン・ゴジラ』など庵野秀明作品でお馴染みの鷺巣詩郎さん!どの曲も魅力的ですが、個人的には「淋しくて眠れない」が好きですね〜(^_^)

ちなみに、庵野秀明さんも『愛おぼえていますか』の作業が終わった後、『メガゾーン23』に作画スタッフとして参加しています(ストーリー終盤の激しいバトルシーンを担当。ガーランドがビルに突っ込んで次々と爆発が起こったり、上からガラス片が降って来るカットの原画を描いた)。

さらに本作で注目すべきポイントは、その設定及びストーリー展開でしょう。ここからラストのネタバレになりますが、実は主人公たちが暮らしていた世界は本物の東京ではなく、「作られた東京」だったのですよ。

500年ほど前、世界で大規模な戦争が勃発し、地球環境は破壊されました。生き残った人々は巨大な宇宙船に乗って地球を離れ、宇宙船の内部に「1980年代の東京」を完璧に再現し、人々は情報操作で「地球である」と思い込まされていたのです。

この「本物の世界はとっくに滅びているのに、機械によって作られたニセモノの世界を本物と信じていた」という設定って、何かに似てると思いませんか?そう、『マトリックス』です。『マトリックス』はSFアニメ『攻殻機動隊』の影響を受けていて、ウォシャウスキー監督もそれを認めてるんですけど、実は『メガゾーン23』の方がもっと似てるんですよね。

その他、『メガゾーン23』にはロボットアニメ初のベッドシーンとか(いや『超時空世紀オーガス』があったかw)、リアリティ溢れる東京の描写とか、色々気になるポイントが多いんですけど、最大の衝撃は主人公・矢作省吾の声を演じているのが、「ワクワクさん」こと久保田雅人である、という点でしょう。

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いったいどうしてこんなことに…。意外過ぎて脳内で声のイメージが結びつきません。まあ、続編の『メガゾーン23 パート2 秘密く・だ・さ・い』では矢尾一樹に変更されているので、何か事情があったんでしょうね(笑)。

ちなみに、『メガゾーン23』が大ヒットして続編の製作が決まった時、前作でキャラデザをやった平野俊弘さんは「もうやりたくない!」と断って『イクサー1』の現場へ行ってしまいました(よほど辛いことがあったのだろうか?)。

そこで、新たなキャラクターデザイナーとして、当時『機動戦士Zガンダム』のオープニング等で注目されていた梅津泰臣さんが参加することに。ところが、当初はパート1の絵柄に近いラインでやろうとしたものの、梅津さんの絵が特徴的すぎて、全然似せることが出来ません。

仕方なく、梅津さんのデザインで統一することになったのですが、1作目のファンからは「キャラが違いすぎて誰が誰だか全然わからない!」と批判が殺到したそうです。続編でこんなに絵が変わったアニメも珍しいよな〜(^_^;)

※同一人物ですw↓

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まあ、パート2は今見ると色々アレですけど、作画の描き込みが笑っちゃうほど凄まじいので一見の価値ありですよ。あ、パート3は……見なくてもいいかな(笑)。


2016年に観た映画の中からベスト10を選んでみた

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さあ、いよいよ大晦日になってしまいましたよ。皆さん、新年を迎える準備は整いましたか?というわけで年末恒例の「今年2016年に観た映画ベストテン」を書いてみたいと思います。といっても、今年は例年以上に豊作揃いで良い映画がたくさんあり、1位とか2位とか順位をつけ難いため、順不同で10本を選出してみました。



●『シン・ゴジラ』

「今年一番印象に残った映画は何か?」と問われれば、僕の場合はやっぱりこれになるでしょうねえ。まあ、以前から庵野秀明監督の実写映画を観ていた身としては、正直そんなに期待していたわけじゃないし、ゴジラを扱った映画も過去にたくさんあるし、「特に目新しい要素は無いだろうな」ぐらいのテンションで観に行ったわけですよ。

そしたら何と!いきなり見たこともような化け物が出て来てビックリ!あの第二形態(通称”鎌田くん”)と初遭遇した時の衝撃たるや、いまだに忘れることが出来ません。さらに膨大なセリフを素早いカット割で畳み掛ける「岡本喜八風」の編集や、成長したゴジラから放たれるプロトンビームばりの放射熱線など、全編に渡って見どころだらけ!

超大手のハリウッド映画が、200億円近くの巨費を投じ、最新CG技術を駆使してリアリティ溢れるゴジラを作り上げたのとは対照的に、庵野監督は敢えて昔の「着ぐるみ風怪獣」を再現し、日本の役人が”ゴジラ”という巨大な災害に必死で立ち向かう姿をシミュレーションして見せたのです。

それは、間違いなく「3.11」を体験した日本人の心情を意識していると思われ、同時に、昨今の邦画界に蔓延する「人気アイドルや有名なタレントを起用して、お涙頂戴の人間ドラマや甘〜い恋愛ドラマを突っ込んでおけばそこそこヒットするやろ」的な雰囲気に真っ向から異議を唱えるかのような痛快さでした。

そういう意味でも『シン・ゴジラ』は、マーケティング主導が常態化した従来の映画制作手法にカウンターパンチを叩き込むような衝撃作であり、そして庵野監督の「見ろ!これが本物の怪獣映画だ!」という熱い想いが最も理想的な形で結実した渾身の一作だと思います。


●『ブリッジ・オブ・スパイ』

「アメリカとロシアが互いのスパイを橋の上で交換する」という、1957年の実話を映画化した本作。監督はスティーブン・スピルバーグ、脚本はコーエン兄弟、主演はトム・ハンクスという時点で完成度は保証付きですが、実際に観てみると予想以上に面白くて驚きました。改めてトップ・クリエイターたちの真髄を見せつけられた感じです(^_^)

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●『ズートピア』

いや〜、正直ナメてましたね。「ディズニーだし、所詮は子供でも楽しめる単純明快な動物アニメだろ?」と。すみません、完全に僕が間違ってました!『ズートピア』は、様々な娯楽要素が目一杯詰まった、非常に奥深い最上級のエンターテインメントです。1本の映画にこれだけ多種多様な表現をぶち込みながらも、一切破綻することなく完璧にまとめ上げるバランス感覚が本当に凄い!まだ観てない人はお正月休みにぜひどうぞ(^_^)


●『レヴェナント:蘇えりし者』

これはねー、面白さを伝えるのがちょっと難しいんですよ。大雑把に説明すると、「熊に襲われて大ケガした主人公(レオナルド・ディカプリオ)が、仲間とはぐれてズタボロになりながらも必死で仲間のところへ戻る」という話です。

途中で仲間の一人に息子を殺され、その”復讐心”から想像を絶するパワーが出ている、ということもあるのでしょうが、それにしても「こんな状況になってもまだ生きてるのか!?」と驚愕間違いなしの凄まじい生命力であり、それ自体が本作の見どころになっているのですよ(「実話」っていうのがまた凄いw)。

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●『ヘイトフル・エイト』

クエンティン・タランティーノの最新作ですが、残念ながら日本ではほとんどヒットしなかったようですねえ(苦笑)。予告編を見ると「偶然、雪の山小屋で一夜を過ごすことになった見知らぬ8人。だが、その密室で殺人事件が起きる。いったい犯人は誰なのか?」という、推理小説でありがちな「雪の山荘ミステリー」だと思うでしょう。

でも違うんです。そもそも「観客が真犯人を推理する要素」がほとんど無いんですよ(序盤で一人が死ぬけど犯人は分かってるし、その後に数人がまとめて死ぬから残りは少なく、犯人当ての醍醐味が無い)。じゃあ何が面白いのか?っていうとタランティーノお得意の”会話劇”が超面白い!

サミュエル・L・ジャクソン、カート・ラッセル、マイケル・マドセン、ティム・ロスなどの「タランティーノ映画常連組」に加え、ベテラン女優ジェニファー・ジェイソン・リーが参加した本作は、まあとにかく登場人物が喋る喋る(笑)。僕は非常に面白かったんですが、確かにこの内容ではヒットし難いかもしれないなあ(^_^;)


●『アイアムアヒーロー』

昔から「ゾンビ映画」っていうのは世界中で作られてるんですが、基本的に低予算で貧乏臭い映像がほとんどです(もちろん日本で作られるゾンビ映画も同様)。ところが、本作は大作映画並の予算が掛けられ、さらに海外ロケまで行うなど、多分「日本で一番お金を掛けたゾンビ映画」なんですよ。

そういう意味では「良く作ったな」と。いくら人気漫画を原作にしているとは言え、こんなにグチャグチャドロドロな内容で、しかもR15指定で興行的に不利な状況であるにもかかわらず、多額の製作費を投じてスケールの大きな大作映画として作り上げた、その覚悟が素晴らしいなと思いました。


●『スポットライト 世紀のスクープ』

一言で言うと「もの凄く堅実な映画」です。実話ベースということもあり、必要以上にドラマチックな演出は無いし、過剰にサスペンスを盛り上げる場面もありません。悪い言い方をすれば「地味な映画」で、ただひたすらに「真相を追い求める新聞記者たちの一途な姿」を淡々と描写していく、だけどその姿が最高に渋くて、映画全体に揺るぎない説得力を与えています。マーク・ラファロ、マイケル・キートン、レイチェル・マクアダム、スリーヴ・シュレイバー、スタンリー・トゥッチなど、キャストも豪華ですよ(^_^)


●『オデッセイ』

「たった一人、火星に取り残された男の話」ですが、絶体絶命のピンチに陥りつつも、映画の雰囲気は常にポジティブで、あまり悲壮感を感じさせないところが本作最大のポイントでしょう。逆境に追い詰められた人間の「生きる力」を、「80年代のヒット曲」と共にSFというジャンルで軽快に描いて見せたリドリー・スコットの手腕も見事(誰かが「宇宙版『鉄腕!DASH!』とか言ってたけど、まさにそんな感じですねw)。

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●『君の名は。』

ぶっちゃけて言えば「スゲー完成度が高い映画」ではないし、アニメーションとしての評価も『この世界の片隅に』の方が高いと思われますが、「200億を超える大ヒット」はやはり驚愕せざるを得ません。『この世界』の片渕須直監督も「なぜ『君の名は。』があれほどのメガヒットを実現出来たのか、真面目に検証しなければならない」とインタビューで答えたほどですから(笑)。

実際、漫画家の江川達也氏も「プロの目から見ると全然面白くない。そりゃあ、これだけ売れる要素ばかりブチ込んだら、ヒットするに決まってるよ(笑)」とテレビの生放送で堂々と批判していました(直後に大炎上w)。しかし、そういう批判に対して「そんなに容易なことなら、皆さんやってみればいいんじゃないかなー」と冷静に反論した新海誠監督。大人ですねえ(笑)。


●『ローグ・ワン/スター・ウォーズ・ストーリー』

いや、色々言いたいことはあるんですよ。特に前半部分は主体性の無いキャラが多くて「お前ら状況に流されすぎだろ!」とか、イラっとする場面も多々ありました。しかし、後半部分の盛り上がりがそれらの不満を一気にブッ飛ばしてくれるわけですよ。中でもラストのアレはテンションMAX間違いなし!『スター・ウォーズ』ファンで、あの場面を観て「うおおお!」と興奮しない人は皆無でしょう。


とまあ、上位10作品はこんな感じでしょうか。その他の映画としては、『マネー・ショート 華麗なる大逆転』『シビル・ウォー/キャプテン・アメリカ』『デッドプール』『10クローバーフィールド・レーン』『ボーダーライン』『ゴーストバスターズ』『ハドソン川の奇跡』『ロスト・バケーション』『イット・フォローズ』『ルーム』『エクス・マキナ』『サウルの息子』『トランボ ハリウッドに最も嫌われた男』『帰ってきたヒトラー』『この世界の片隅に』『怒り』『ピンクとグレー』『海よりもまだ深く』『リップヴァンウィンクルの花嫁』『淵に立つ』『SCOOP!』『64-ロクヨン-』『ディストラクション・ベイビーズ』『ヒメアノ〜ル』なども良かったです。

これを見て「え〜?あの映画がベスト10に入らないのかよ?」と思う人もいるでしょうが、冒頭で書いた通り、今年は特に豊作だから、選んだ10本以外の映画も十分に面白いんですよ。中でも『この世界の片隅に』などは、映画ファンの間でも非常に評価が高く、今年のベストに挙げる人が多いと思います。まあ、僕が選んだ10本は単なる好みの問題なので、その辺はあまり気にしないでください(^_^)

さらに「一応観たけどオススメするほどでもないかな〜」って感じの映画は、『ドラゴンブレイド』『ザ・ウォーク』『スティーブ・ジョブズ』『バットマンvsスーパーマン ジャスティスの誕生』『X-MEN:アポカリプス』『スーサイド・スクワッド』『ジェイソン・ボーン』『スター・トレック BEYOND』『マネーモンスター』『エンド・オブ・キングダム』『ジャック・リーチャー NEVER GO BACK』『インフェルノ』『ザ・ガンマン』『デスノート Light up the NEW world』『ガルムウォーズ』『疾風ロンド』『クリーピー 偽りの隣人』『僕だけがいない街』『ちはやふる(上の句・下の句)』『ミュージアム』などでした。

これまた、「え〜?あの映画は面白かったろ!ふざけんな!」と納得いかない人もいるでしょうが、別に「面白くない」という意味ではなくてですね、「面白かったシーンもあるけれど、あまり積極的に人にオススメする映画じゃないな」という、それぐらいの感じなんですよ。『ジャスティスの誕生』なんかも、ワンダーウーマンが登場する場面は最高だったんですけどね(^_^;)

その一方、「これはいくら何でもひどいだろ」という映画は、『テラフォーマーズ』『X-ミッション』『インデペンデンス・デイ:リサージェンス』などでしょうか。まあ、『テラフォーマーズ』の場合はこちらもある程度の覚悟を持って観てるからダメージ的にはそれほどでもなかったんですけど、『X-ミッション』と『インデペンデンス・デイ:リサージェンス』はその予想すらも軽々と超えてくるひどさに愕然としましたよ(笑)。特に『リサージェンス』に関しては「不覚にもちょっとだけ期待してしまった」という点が敗因かもしれません(^_^;)

あと、『バイオハザード:ザ・ファイナル』と『海賊と呼ばれた男』はたぶん年明けに観ると思います(観ないかもしれませんがw)。それから『ドント・ブリーズ』を観たいんだけど、うちの近所じゃやってないんですよねー(調べたら上映してる劇場が全国で30館ぐらいしかなかったよ、トホホ)。

というわけで、2016年に観た映画をざっくりと振り返ってみました。来年も面白い映画に出会えるといいな〜などと願いつつ、本年はこれにて終了とさせていただきます。それでは皆さん、よいお年を!(^O^)/

2016年で最もアクセス数が多かったブログ記事10選!

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新年明けましておめでとうございます。昨年は当ブログを読んでいただき、誠にありがとうございました。2017年もよろしくお願いいたします!というわけで本日は、2016年にアクセス数が多かった記事の中から特に反響の大きかったものを10本選び、内容をざっくりと振り返ってみましたよ。



●日本映画のレベルが低くなったのはテレビ局のせい?

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去年の日本映画界は、『君の名は。』の爆発的な大ヒットによって6年ぶりに興行成績が過去最高記録を更新し、さらに『シン・ゴジラ』や『この世界の片隅に』なども話題になったことで大いに盛り上がりました。

しかし、イギリスの映画製作会社で代表を務めているアダム・トレルさんが、「昔は日本映画の評価は高かったけど、最近はレベルがどんどん下がっている。ちょっとヤバいよ」などと発言したんです。

すると、日本の映画関係者が「予算の無い現場でスタッフがどれほど頑張って作品を作ってるか、その苦労を知ってんのか!?」と激怒。これを聞いた映画ファンからは「現場の苦労と作品の良し悪しは関係ない!」と批判が殺到するなど、議論が紛糾しました。

僕個人の意見としては、「邦画にもいい映画や悪い映画があるだろう」って感じなんですけど、「なぜ外国人の目にはレベルが下がったように見えるのか?」「もし下がっているとすれば、その要因は何なのか?」という点が気になったので、調べて記事にしてみようと思った次第です。

その結果、この記事には400個近くのブックマークが付き、さらにツイッターやフェイスブックなどでも大量に拡散され、1日で71,000以上のPVを記録しました。ありがとうございます(^_^)

日本映画のレベルが低くなったのはテレビ局のせい?



●新海誠監督の『ほしのこえ』がアニメ界に与えた影響と衝撃

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2016年最大のメガヒット作『君の名は。』の新海誠監督が、まだ無名時代に作った自主制作映画『ほしのこえ』。この小規模なアニメーションが世間に与えた影響と衝撃はいかなるものか?という事に関して詳しく解説した記事です。なお、1980年代に登場した伝説的自主制作アニメ『DAICON?』についても書いているので、興味のある方はご覧くださいませ。

新海誠監督の『ほしのこえ』がアニメ界に与えた影響と衝撃



●庵野秀明監督と岡本喜八監督の貴重な対談

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かなり以前に書いた記事ですが、『シン・ゴジラ』の大ヒットと共に急激にアクセスが増え始め、SNSでもメチャクチャ拡散されました。どれほど庵野監督が岡本喜八作品に影響を受けているか、この対談を読めば分かるんじゃないかと思います。

庵野秀明監督と岡本喜八監督の貴重な対談



●同じ映画を何度も繰り返し観る人ってどうなの? → 凄すぎた!

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近年、自分が気に入った一つの作品を何度も繰り返し観に行く人たち、俗に「リピーター」と呼ばれる観客が増えていて、『ガルパン』や『マッドマックス 怒りのデスロード』を「30回観た」「俺は40回だ!」などとSNSで報告し合う現象が目立っています。が、その視聴回数は僕の想像を遥かに超えてて、凄まじいことになっていました(^_^;)

同じ映画を何度も繰り返し観る人ってどうなの? → 凄すぎた!



●『君の名は。』へ至るまでに新海誠監督が辿った16年の軌跡

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新海誠監督が『君の名は。』以前に作った映画について、一作品毎に解説した記事です。インディーズから出発した無名のアニメーション作家が、どのような過程を経て200億円を超える超特大のヒットを生み出したのか?その秘密が明らかになる!…かもしれません(^_^)

『君の名は。』へ至るまでに新海誠監督が辿った16年の軌跡



●庵野秀明監督『シン・ゴジラ』ネタバレ映画感想/評価

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『新世紀エヴァンゲリオン』の庵野監督がゴジラ映画を撮った!それだけでもファンは興味津津ですが、本作の凄さは「エヴァを知らない一般層まで関心を示した」という点でしょう(安倍晋三首相や小池百合子東京都知事までもが『シン・ゴジラ』に言及しててビックリ)。

この記事では、庵野監督が大学生時代に撮った自主制作怪獣映画などを解説しながら、『シン・ゴジラ』に散見する岡本喜八監督の影響やアニメ・特撮の元ネタを検証。さらに撮影現場の裏話やスタッフの苦労話など、様々なエピソードを盛り込んでみました(^_^)

庵野秀明監督『シン・ゴジラ』ネタバレ映画感想/評価



●芸能人で日本語吹替えするならせめてこういう人を使ってくれ

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以前、「苦情が殺到した日本語吹替え版映画ワースト10」という記事を書いてかなりの反響をいただいたんですけど、この記事では逆に「こういう日本語吹替え版なら納得できるかもしれない」という目線で書いてみました。自分的には「うむ、なかなかいいチョイスだ」と思ってます(^_^)

芸能人で日本語吹替えするならせめてこういう人を使ってくれ



●これは危ない!あり得ないほど危険な撮影が行われた映画10選

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アクション映画などでは観ていてハラハラするような危ない場面が出て来ますが、多くの撮影現場ではしっかり安全対策が施されているため、まず危険性はありません。しかし中には、「これ人が死んでるんじゃないの?」としか思えない映画が存在するのですよ(実際に死人が出てる場合もある)。そういう”危険極まりない映画”をいくつか取り上げてみました。

これは危ない!あり得ないほど危険な撮影が行われた映画10選



●ネタバレ!細田守監督『バケモノの子』がモヤモヤする16の理由

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去年の7月に『バケモノの子』がテレビで初放送された際、「個人的に気になった部分」を記事にしたら、意外と好評だったようです。ただし、非常にネガティブな意見が書いてあるので、この映画が好きな人は読まない方がいいかも(^_^;)

ネタバレ!細田守監督『バケモノの子』がモヤモヤする16の理由



●なぜ『ルパン三世 カリオストロの城』の話は矛盾しているのか?

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去年の10月にテレビで『ルパン三世 カリオストロの城』が放送された際、「実はこの映画のストーリーは矛盾してるんだよッ!」という記事を書いたら「え〜!嘘だろ!?」的なコメントが殺到(笑)。いや、僕が思ってるんじゃなくて、某コラムニストがそう言ってるんですけどね(^_^;)

なぜ『ルパン三世 カリオストロの城』の話は矛盾しているのか?

『シン・ゴジラ』へ至るまでに庵野秀明と樋口真嗣が辿った30年

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どうも、管理人のタイプ・あ〜るです。

先日、以下のブログ記事が話題になっていたので読んでみました。

庵野秀明は樋口真嗣から映画を奪った・シンゴジラ簒奪劇のすべて。

記事の内容をざっくり説明すると、「『シン・ゴジラ』はもともと樋口真嗣が監督する予定で、庵野秀明は脚本と編集ぐらいしか関わらないはずだった。ところが、庵野監督は”樋口にまかせていたらこの映画は駄作になる”と考え、強引に現場へ介入して『シン・ゴジラ』を樋口監督の手から奪い取ったのである!」みたいなことが書いてあるんですよ。

事実だとすれば非常にセンセーショナルな話ですが、この記事は昨年末に発売されたメイキング本『ジ・アート・オブ・シン・ゴジラ』を読んだ筆者が、本に掲載されているインタビューから勝手に推測したものなので、本当に庵野さんがこんなことを考えていたのかどうかはわかりません。

ただ、世間に公表されている撮影現場の状況や関係者の証言を見聞きする限り、「庵野監督のこだわりが強すぎて大勢のスタッフが困惑していた」のは事実のようです。では、主導権を奪われた樋口監督はどうして文句を言わなかったのか?そもそも庵野秀明と樋口真嗣はどういう間柄なのか?その辺の関係性が気になるところでしょう。

というわけで本日は、庵野さんと樋口さんが関わってきた今までの仕事や、二人の知られざる(?)エピソード等をいくつかご紹介しますよ。



●二人の出会い

まず、樋口さんは高校を卒業後に『ゴジラ』(1984年版)の現場でアルバイトをしながら、常に「自分でも映像作品を作りたいなあ」と考えていたそうです。そんな時、たまたま『DAICON FILM』の上映会に行く機会があり、「素人がこんなに凄いものを!?」と衝撃を受けました。

その上映会で初めて庵野秀明と対面したそうです。庵野さんは、樋口さんが『ゴジラ』の現場で働いていることを聞くや、「今、大阪で怪獣映画を作っているから、一緒にやらない?」と勧誘。こうして樋口さんは撮影所のバイトを辞めて、大阪へ行くことを決めたらしい。

ちなみに当時、庵野さんは『メガゾーン23』等の作業で忙しかったため、仕事が終わるまで動くことが出来ません。そこで樋口さんが予定を聞いたところ、「もうちょっとで終わるから、すぐに行こう」との返事が。

しかし、その言葉を信じて庵野さんの仕事場(アニメスタジオ「グラビトン」)へ行ってみると、全然「もうちょっとで終わりそう」な状況ではなく、そのまま2日間もグラビトンで待たされたそうです(笑)。


●八岐之大蛇の逆襲

ようやく庵野さんの仕事が終わり、樋口さんも一緒に大阪へ出発。当時は二人とも貧乏だったので、青春18きっぷを買って電車で東京から大阪へ向かいました(車内が混んでいたため、車両を連結している周辺の床に二人並んで寝ていたらしい)。

『八岐之大蛇の逆襲』の現場へ行くと、素人の集団ながらも特撮に対する愛情と、創意工夫でかっこいい映像を作ろうとしている熱意が感じられ、樋口さんは一気に引き込まれたという。結局、1年半も大阪で暮らすことになったものの、家出同然で東京を出発したため、実家では捜索願が出るなど大騒ぎになっていたそうです(笑)。


●王立宇宙軍 オネアミスの翼

『八岐之大蛇の逆襲』の作業が終わった後、庵野さんと樋口さんは再び東京へ戻って『王立宇宙軍 オネアミスの翼』に関わることになりますが、庵野さんは「作画班」、樋口さんは「演出班」にそれぞれ部署が別れたため、二人共通のエピソードは特にありません。

ただし、『オネアミスの翼』を制作中、樋口さんは美術スタッフの女性(高屋法子)をナンパし、こっそりデートを繰り返していたらしい。さらに、その現場を庵野さんや他のスタッフ達に目撃されてしまい、なんとガイナックスの社内報で大々的に公表されるという恥ずかしい仕打ちを受けるハメに!結局、樋口さんはその女性と結婚することになったそうです。


●トップをねらえ!

『トップをねらえ!』といえば「第1回庵野秀明監督作品」として知られていますが、実は企画当初は「樋口真嗣監督作品」として準備を進めていたそうです。しかし同じ頃、実相寺昭雄監督が『帝都物語』を撮ることが決まり、樋口さんの興味はそっちへ移ってしまったのですよ。

そして悩んだ末に「すみません!『帝都物語』をやります!」と樋口さんが一旦ガイナックスを抜け、その結果『トップをねらえ!』の企画は宙に浮いてしまいました。そんな時、たまたま脚本を読んだ庵野さんが「これは凄い!」と感激し、すぐに樋口さんに電話して「僕が監督してもいい?」と確認したらしい。

こうして『トップをねらえ!』は庵野さんの初監督作として世に出ることになったわけです。一方、樋口さんも絵コンテ等で協力し、「自分が途中で放り投げたものを、庵野さんがきちんと素晴らしい作品にしてくれて本当にありがたい」と、後に感謝の言葉を述べたとか。

ちなみに、本作の主人公:タカヤノリコの名前は、樋口真嗣の奥さん(高屋法子)の名前をそのまま使用しているそうです。


●ふしぎの海のナディア

このアニメは、庵野秀明さんの第2回監督作品ですが、ガイナックスにとっては初のTVシリーズ(しかもNHK!)ということで非常に苦労したらしい。とにかくペース配分がメチャクチャで、NHKからもらった予算とスケジュールを1話と2話でほとんど使い切るというデタラメぶり。

それでもスタッフは頑張って作業を続けていましたが、「どう考えても最後まで持たない」「中盤で破綻する」ということが早い段階から確実視されていました。そんな切羽詰まった状況の中、助っ人として呼び寄せられたのが樋口真嗣です(笑)。

庵野さんは「内容は任せるから、23話以降の監督をやってくれ。俺は35話以降の作業に専念したい」とだけ樋口さんに伝え、23話から33話までは一切関知しませんでした(クレジットでは「総監督:庵野秀明」となっているが、いわゆる「島編」のストーリーは全て樋口さんが考え、庵野さんはノータッチだったらしい)。

こうして『ナディア』の監督を任された樋口さんは「好きにしていい」という言葉を真に受けて、まさにやりたい放題の暴走状態!本人曰く、「NHKの脚本を勝手に書き直して、全然違うストーリーに作り変えてましたからね。国民の皆さまからいただいた受信料で何て事をしてしまったんだと(笑)。完全にテロ行為ですよ(笑)」と申し訳ない気持ちになったらしい。

しかし樋口さんによると、「なぜ自分が『ナディア』の監督に抜擢されたのか、いまだに理由が分からない」そうです。「何で俺だったんでしょうね?こんな仕事を引き受けるような迂闊なヤツは、俺しかいなかったのかなあ(笑)」とのこと。


●新世紀エヴァンゲリオン

ご存じ、庵野秀明監督の大ヒットアニメで、樋口さんは第8話と第9話の絵コンテ、及び第17話と第18話の脚本を担当しています。「アスカ、来日」の”弐号機八艘飛び”や、「瞬間、心、重ねて」の”シンクロ攻撃”など、軽快なアクションが印象的でした。

あと、本作の主人公:碇シンジの名前が、樋口真嗣(ヒグチシンジ)さんの名前から付けられているというのは有名な話ですね。


●新世紀エヴァンゲリオン劇場版 Air/まごころを、君に

その『エヴァンゲリオン』が映画化される際、声を担当した声優さん達が役者として登場する「実写パート」を作ることになり、その担当がなぜか樋口さんだったという(笑)。


●ラブ&ポップ

庵野さんが初めて撮った商業実写映画で、樋口さんは「友情特殊技術」という謎のポジションを担当(笑)。ちなみに仲間由紀恵、浅野忠信、森本レオなど、キャスティングは割と豪華です。


●キューティーハニー(実写版)

『ラブ&ポップ』『式日』に続く庵野監督の実写映画3作目。樋口さんは企画協力と絵コンテで参加していますが、そもそもこの企画は樋口さんが自分で監督する予定だったのですよ。

2000年に公開された『さくや妖怪伝』の完成披露試写会の二次会で、酔っ払った樋口さんが「次はキューティーハニーをやりましょう!主演は広末涼子で!」と叫んだ一言がきっかけだったとか。

ところが、その飲み会にはなぜか庵野さんも同席していて、樋口さんがトイレに立った隙にどういうわけか「庵野さんが監督をやる」という話にすり替わり、当人がトイレから戻って来ると実写版『キューティーハニー』は既に”庵野秀明監督作品”として承認されていたという。当然ながら樋口さんは「ええっ!?何で?」とワケが分からなかったそうです(笑)。


●ガメラ3 邪神<イリス>覚醒

樋口さんが特技監督を担当した人気シリーズの3作目で、庵野さんは本作のメイキングビデオ『GAMERA1999』を撮っています。しかも、単なるメイキングじゃなくて、制作中に起きた色々なトラブルを赤裸々に映したドキュメンタリーとして非常に見応えがありました(ぜひDVDを出して欲しい!)。

なお、庵野さんは1作目の『ガメラ 大怪獣空中決戦』を初めて観た時、樋口さんの素晴らしい仕事ぶりに心を打たれ、感動のあまり号泣したそうです。以下、当時のコメントより。

古い言葉ですけど、あの映画で僕は樋口の男を見た気がしたんです。初号の時にこっそり紛れ込んで見たんですけど、泣けました。樋口の仕事に泣かせてもらったという感じがありましたから。あれこそいわゆる”男泣きに泣いた”ってやつですよ。結構、撮ってる最中は現場のグチとか言いに僕のところへ来たりしてましたから、そういう辛い思いを全部飲み込んで、ちゃんと形にしたというのは凄いなって思ったんですよ。だから見ていて感動させられたんです。 (「アニメージュ・スペシャルGaZO Vol.2」より)


●ローレライ

樋口真嗣監督初の超大作本格潜水艦映画で、庵野さんは戦闘シーンの絵コンテを描いています(駆逐艦とのバトルや潜水艦同士の戦い、そしてクライマックスの爆撃機B29の撃墜シーンなど、52枚に及ぶ絵コンテを執筆)。

ちなみに、樋口さんが庵野さんに絵コンテを依頼した際、「もう(実写映画は)3本やってるから、歩留まりの中でやるよ」と言われ、「震えるほど頼もしい一言だった」「いつか俺も言ってみたい」と思ったそうです。


●日本沈没

2006年に公開された樋口真嗣監督作品。庵野さんはメカデザインを担当していますが、「山城教授の娘婿役」として出演もしています。ちなみに、「山城教授の娘役」は奥さんの安野モヨコ。


●MM9-MONSTER MAGNITUDE-

MM9 Blu-ray BOX
キングレコード (2016-07-27)

2010年に放送された特撮テレビドラマで、樋口さんは製作総指揮及び監督を務めています。怪獣を”自然災害”の一種と考え、気象庁が対応するという異色の物語は、低予算ながらも独特の世界観が人気を博しました。尾野真千子、高橋一生、松尾諭、中村靖日、皆川猿時、松重豊、橋本愛など、今見ると出演者が異様に豪華ですね。なお、庵野さんは第6話に「通行人」として出演しています。


●ヱヴァンゲリヲン新劇場版:序

庵野秀明監督作品で、樋口さんはクライマックスの「ヤシマ作戦」の絵コンテを担当。このシーンは完全新作となるため、「どうすれば旧作を超えられるのか?」と悩んだそうです。さらに、樋口さんはこの新劇場版に関して以下のようにコメントしていました。

『新世紀エヴァンゲリオン』を作った後、庵野さんはアニメというもの自体に絶望したのか、実写や特撮などの別の世界というか、俺のナワバリ(笑)に来ちゃったわけですけど。『式日』や『ラブ&ポップ』や『キューティーハニー』といった実写作品を作りながらも、正直、悶々としている時期も長かった。そういう姿を見て、もしかしたら彼はアニメへ帰りたいのに帰る道を見失っているのかもしれない…と思ってたんですよね。そんな時に『ヱヴァンゲリヲン新劇場版』をやることになって、「良かったじゃん!」って素直に嬉しかったし、彼が作り続ける以上は、俺もそれに付き合いたいと思いました。 (「ヱヴァンゲリヲン新劇場版:序 ENTRY FILE 1」より)


●ヱヴァンゲリヲン新劇場版:破

新劇場版の2作目。本作でも樋口さんは絵コンテ・イメージボードなどで参加していますが、制作現場では大変なことが起きていたようです。なんと、絵コンテ完成後にシナリオが大幅に変更され、樋口さんの描いた絵コンテがほとんど使えなくなってしまったのですよ。

樋口さんがこの事実を知ったのは、『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:序』の完成記念慰安旅行(in沖縄)の席上で、美味しくビールを飲んでいる時にいきなり庵野さんから「悪いんだけど、『破』の絵コンテを描き直してくれないかな」と言われ、「ウソでしょ!?」と仰天したらしい。


●ヱヴァンゲリヲン新劇場版:Q

新劇場版の3作目。本作でも樋口さんは庵野監督のために絵コンテ・イメージボード・デザインワークス・アニメーションマテリアルなど、多岐に渡って協力しているようです。

●巨神兵東京に現わる

製作・脚本:庵野秀明、監督・絵コンテ:樋口真嗣のコンビによる特撮短編映画です。元々は『特撮博物館』のイベント上映用に作られた作品ですが、『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:Q』を公開する際に同時上映されました。

ちなみに本作は短編映画ということで予算が限られており、当初、庵野さんが書いたシナリオには東京タワーが壊れるシーンは無かったそうです。ところが、打ち合わせ会議に出席したスタジオジブリの鈴木敏夫さんが「東京タワー壊さないの?」と発言したことで、急遽”東京タワー破壊シーン”が追加されました。

しかし新しく作る予算は無いので、『ゴジラ×モスラ×メカゴジラ 東京SOS』で使った東京タワーを引っ張り出して来て再利用したらしい(他にも大量のミニチュアが使われているものの、ほとんどが既存模型の流用で、新規で制作したものは少ない)。

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というわけで、庵野秀明さんと樋口真嗣さんが『シン・ゴジラ』へ至るまでに歩んで来た30年以上に及ぶ経歴をざっくり振り返ってみたんですけど、本当に仲がいいというか、お互いにリスペクトし合っている感じが伝わってきますねえ。

個人的感想ですが、『シン・ゴジラ』という映画は、庵野さんと樋口さんのコンビネーションが良かったからこそ、あれほどのクオリティに到達できたと思うんですよ。庵野監督単独では、周囲の反発が大きすぎて成立しなかった可能性が高いし、逆に樋口監督だけで撮っていたら、たぶん『進撃の巨人』の二の舞になっていたでしょう(笑)。

そういう意味でも、庵野さんが自分の作家性を存分に発揮し、樋口さんがそれを全力でフォローするという今回の制作態勢は、実に効果的だったと言わざるを得ません。まさに最良のコンビであり、この二人がタッグを組んで作った映像作品を、今後もっと観てみたいですねえ。なお、樋口さんは自分と庵野さんの関係を以下のように語っていました。

やっぱりね、庵野秀明に出会ったのが大きいっていうか、彼と会わなかったら自分はたぶんアニメの仕事をしてないでしょうね。気が付いたらね、人生の半分以上を一緒にいるって……お互い気持ち悪い(笑)。 (「Cut 2012年8月号」インタビューより)


なぜ『君の名は。』ばかり批判されるのか?

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どうも、管理人のタイプ・あ〜るです。

先日、「キネマ旬報ベストテン」が発表され、日本映画では1位が『この世界の片隅に』、2位が『シン・ゴジラ』という、個人的には非常に納得できる結果で嬉しかったんですけど、大ヒット作『君の名は。』がランクインしてないことに対して「何でだよ!?」とファンの批判が殺到したらしい。

まあ、キネマ旬報のこれまでの傾向を考えれば「当然」というか、むしろ『この世界の片隅に』や『シン・ゴジラ』が上位に入っている方が「異例」の事態なんですが、それはともかく、どうも世間の評価は『君の名は。』に厳しいような気がするんですよねえ。

一般の人が酷評するだけなら、まだ分かるんですよ。でも『君の名は。』の場合、映画監督とか漫画家とか小説家など、いわゆる”クリエイター側”からの批判がすごく多いんです。これは、『この世界の片隅に』ではほぼ見られない現象であり、「なぜ『君の名は。』ばかり批判されるんだろう?」と。実際、どんな感じで批判されているのか、以下にいくつか意見を取り上げてみました。



●是枝裕和(映画監督)

「この2作品(『シン・ゴジラ』と『君の名は。』)は、観ていますよ。周囲でも話題になっていましたからね。両作ともヒットの理由は、とても理解できます。とくに『君の名は。』は、当たる要素がてんこ盛りですからね。ちょっとてんこ盛りにし過ぎだろ、とは思いましたけど。この映画に限らず、女子高生とタイムスリップという題材からはそろそろ離れないといけないのではないか、と思います」

「現代ビジネス」より)


●江川達也(漫画家)

「まあ確かに、こりゃ売れるなとは思いましたよ。丁寧に売れる要素をぶち込んでて、まあ言ってみりゃ”大人のドラえもん”みたいなもんでね」「ただプロから見ると全然面白くないんですよ(笑)。作り手側から見ると作家性が薄くて、売れる要素ばっかりぶち込んでる、ちょっと軽いライトな映画って感じで。絶賛してる人はいるんだけど、そういう人が、面白くなかったという人に対して凄いディスってるんですよ。”みんな観なきゃダメだよ!”とか言って。だからある種、『君の名は。』はファシズム映画なんですよね」

(10月6日放送フジテレビ「バイキング」より)


●矢田部吉彦(東京国際映画祭ディレクター)

「『君の名は。』は、日本的な風景や文化を数多く盛り込んだことで成功した例ではあるものの、是枝さんも指摘していたように、“女子高生とタイムスリップ”はもう十分なんじゃないかなと個人的には思っています。若い人たちが作る自主映画を観ていても、夏の青空と入道雲とセーラー服を映した作品があまりに多くて、少々辟易としています。

もちろん、そういう作品を撮るなというつもりはないし、『君の名は。』は素晴らしい成功例だとは思います。ただ、海外のクリエイターの作品と較べると、幼稚な題材が目立つこともある。もう少し、大人の成熟した視点で作られた作品があっても良いのでは」

「Real Sound」インタビューコメントより)


●富野由悠季(アニメーション監督)

荒木:『君の名は。』はいい映画だと思います。

富野:そうかな?サザンオールスターズやミスチルだって、20〜30年もってるでしょ?でも『君の名は。』は今の流行りものであって、5年後も見られるかどうかは、かなり怪しいよ。今の時代は通じるけど、もうその後はダメといった可能性も、演出家は考える必要があるし、覚悟しないといけない。 それで言うと、『シン・ゴジラ』はこれ以降もずっと残りそうな要素がある。

荒木:消えていくか残っていくかはともかく、出てきた瞬間はある程度、流行りものになる必要がありますよね?

富野:もちろん、まずは流行らないといけない。観客である第三者が評価してくれるからこそ、価値が出るんだからね。

荒木:熱狂的なファンを得ていることは同じでも、「こっちは残る」「こっちは残らない」という、その違いは何でしょう?

富野:それは『君の名は。』が今の気分だけで作っているように見えるからじゃないかな?(中略)作家タイプの一番の問題は、プログラムピクチャーを作れないのね。『月光仮面』や『ウルトラマン』や『スーパーマン』みたいなシリーズものを。新海くんは、自分の趣味性の部分だけで作っている感じがある。そこにゲームやCGの仕事を覚えていくプロセスの中で、多少SFチックな要素を入れる方法を身に付けたのかもしれないけれど、今後、3年後とか5年後の気分を射程に入れて、ファッショナブルな映像作品が作っていけるか?という話ですね。

(「月刊アニメージュ 2017年2月号」荒木哲郎との対談より)


●石田衣良(小説家)

「たぶん新海さんは楽しい恋愛を高校時代にしたことがないんじゃないですか。それがテーマとして架空のまま、生涯のテーマとして活きている。青春時代の憧れを理想郷として追体験して白昼夢のようなものを作り出していく、恋愛しない人の恋愛小説のパターンなんです。

付き合ったこともセックスの経験もないままカッコイイ男の子を書いていく、少女漫画的世界と通底しています。宮崎駿さんだったら何かしら、自然対人間とか、がっちりした実体験をつかめているんですが、新海さんはそういう実体験はないんでしょうね。実体験がないからこそ作れる理想郷です

「NEWSポストセブン」インタビューより)


●高橋秀樹(放送作家/日本放送作家協会・常務理事)

「『君の名は。』は多くの若い人にきっと単純なラブストーリーとして見られているのであろう。だが筆者のようなひねくれた大人(けっこう多いはずだ)は単純なラブストーリーとしてみることは出来ない。なぜなら、ストーリーを展開するための”とってつけたような設定”が目につきすぎるのである。ヒロインの女子高生・宮水三葉は女系で継いできた神社の長女であるが、その伏線が唐突に出てくる。

三葉の父親がいま町長選挙に出ているという設定はなぜ必要なのか。相手役の男子高校生・立花瀧のバイト先の先輩奥寺ミキ(声・長澤まさみ)の存在はなぜ必要なのか。立花は入れ替わったときに記憶した風景のスケッチだけを頼りに三葉の住む糸守町を探しに行くが、探しても探しても見つからないのにラーメン屋で唐突に見つかるのは都合良すぎないか?」

「メディアゴン」より)


●江口寿史(漫画家)


●入江奈々(映画ライター)

「2016年の映画界は原作を持たないオリジナル・アニメ『君の名は。』旋風が吹き荒れた。昭和のラジオドラマ『君の名は』と元ネタ比較しても面白みないし、いっそ『転校生』や『ディープ・インパクト』と比較してみては、と思ったがそれも嫌みだからやめておこう。『君の名は。』に1ミリも感動できなかった身としては爆発的ヒットが面白くない気がしてしまうが、アニメ作品のヒットの呼び水となってくれたことも確か」

「『君の名は。』に1ミリも感動できなかったライターが選ぶ2016年のベスト10」より)


●井筒和幸(映画監督)

マツコ:私なんか『君の名は。』もまだ観てないしね…。

井筒:あんなオタクのオナニー動画を、1000万人が観るようになったら、オレは終わりやと思うけどね。あれは「映画」ちゃうから。

マツコ:確かに言えてる。アニメって、ヘンタイさんが後ろ指さされたり、白い目で見られながらも、コツコツと築いてきた特殊な文化じゃない。でも、これだけメジャーになっちゃうと、いつか破綻するよね。

井筒:これは大島渚監督の受け売りやけど、「敗者は映像を持たない」って言葉があるんよ。つまり、原爆の映像も全てアメリカ側の映像で、負けた日本側の撮った映像は何も残ってないというわけよ。

マツコ:なるほど〜!

井筒:オレはそれがずっと続いてると思うね。全て勝者の国のマネ。アニメの顔を見たら、そこに日本人の顔は一人もいないやろ。

マツコ:そうよね。みんな目が大きくて、金色みたいな髪を風でなびかせて、そんなわけないだろって!

井筒:日本人は、負けた日本人のリアルな顔が見たくないねん。それが常に深層にあって、根づいてしまったいうことよ。

マツコ:そっかぁ。昭和の映画に出てくる女優さんも日本人離れしたバタ臭〜い顔の人が多かったしね。最近は最近で、無味無臭な顔ばっかりだし…。

井筒:だから、日本のドラマでも映画でもアニメでもたとえクソ真面目に脚本書いたところで、ニセモノの顔しか出てこないから、結局は薄っぺらいねん。どこの国の話か不明やもん。

マツコ:日本はアニメの顔っていう、特殊な世界を作っちゃったんだね。

井筒:アニメの聖地巡礼って片腹痛くなるわ。マジでアホちゃうかと。そこにあんな目玉のデカい女子はおりまへんがな!

「アサ芸プラス」マツコ・デラックスとの対談より)


●堀田延(放送作家)


というわけで、様々な分野で活躍しているクリエイター達の評価を見てみたんですけど、皆さん『君の名は。』に関しては厳しい意見が多いというか、石田衣良さんに至っては、もはや「作品に対する評価」というより、「新海誠監督の人間性」をディスってますよね(苦笑)。

要するに「新海誠は学生時代に女の子と付き合った経験がないから、こんな映画しか作れないんだ」って言ってるわけでしょ?ちょっと酷いんじゃないかなあ。さすがにこれには新海監督も頭に来たらしく、「なんで見ず知らずの人にそこまで言われなきゃならないんだ!」と怒っていたようです。

まあ作品がヒットすれば、それに応じて批判的な意見が増えるのも仕方がないことではあるんでしょうけど、『君の名は。』の場合は、特にクリエイターの気持ちを刺激するような何らかの要素が含まれているのかもしれませんねえ(^_^)


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