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なぜ『ルパン三世 カリオストロの城』の話は矛盾しているのか?

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どうも、管理人のタイプ・あ〜るです。

昨夜、金曜ロードSHOW!にて宮崎駿監督の『ルパン三世 カリオストロの城』が放送されました。非常に知名度が高い人気アニメなので、何度も観ている人も多いんじゃないでしょうか(僕もですw)。

ただし、以前から「『ルパン三世 カリオストロの城』はストーリーに整合性がない」と言われていることに関しては、意外と知られていないかもしれません。

これは僕も気付かなかったんですけど、2004年にNHKで放送された「BSアニメ夜話」という番組内で指摘されているのを見て初めて知ったんです。

この番組は「毎回一つのアニメ作品を取り上げて議論する」という非常にマニアックな内容で、カリオストロの回を見たら、コラムニストの唐沢俊一氏(「トリビアの泉」のスーパーバイザー等)が、「『カリオストロの城』はストーリーに整合性が無くて矛盾だらけだ!」と批判していたんですよ。

例えば、映画の冒頭でルパンは国営カジノから大金を盗み出すんですが、その直後に偽札(ゴート札)ということに気付いて全部車から投げ捨ててしまう。つまり「俺は偽札なんかいらねえよ!」という意思表示なわけです。

ところが、その後、ルパンは興味がないはずの偽札を探るためにカリオストロ公国へ侵入してるんですよ。「価値がない」と判断して捨てた偽札なのに、どうしてそれを求めて海外まで行くのか?そもそもルパンの目的は何なのか?

しかも、ラストシーンでは原版を盗んだ峰不二子を見て「あっ!偽札の原版じゃん!お友達になりたいわ〜!」などと興味を示している。だったら、最初に盗んだ偽札を捨てるなよ!ルパンの行動は明らかに矛盾してるじゃないか!

……とまあ、こんな感じで唐沢俊一氏は『ルパン三世 カリオストロの城』における論理矛盾を次々と指摘し、「ルパンの行動には必然性がないし、カリオストロ伯爵が自分の所有している時計塔にあんなデカい仕掛けがあったことに気付かないというのも、そもそもおかしいし。全ての場面が矛盾だらけだ!」と力説していました。

ただ、唐沢氏がこのように主張している理由は単に作品を批判したいからではなく、「これだけシナリオに欠点があるのに、それを無視して”最高だ!”と褒め称える声が多い状況に違和感があるから」だそうです。以下、唐沢氏のコメントから抜粋↓

ですから、これは逆に言うと、これだけミスがあってもあれだけ見事なアニメを作ったということは、宮崎駿の演出家としての腕の確かさなので、そこら辺を、このミスを認めるということが、すなわち宮崎駿の演出の腕を褒めるということになるのではないかと。


私はそう思ったんですが、ま、その諸般の事情とか知らずに、特に評価が定着してからこの作品に接した人たちっていうのは、全てをひっくるめて絶賛しようとするんですよ。だから、どう考えても穴があるところに、自分なりに色々と理屈を、裏の設定を自分で作ってね、「こうだったに違いない!」。違いないって言っても(笑)、そんなことはね、あんたが勝手に考えただけでしょうということであって。


だから、どうなんでしょうね?これは『カリオストロ』に限らず、アニメ全般なんですけど、欠点を含めて愛するということが、日本人は下手ですよね。どちらかというと絶賛する傾向になり、欠点を一切言わないとか、指摘してはいけないとか。


欠点に盲目的になるか、あるいは頭の中で無理して裏設定作って補完して、完全無欠な傑作だと思い込む。でも、それじゃつまらんですよ。この作品の真価は、僕は穴だらけのストーリーにあると思うんですよね。普通、これだけ矛盾とか欠点があると、話がつながらなくなるんだけど、それをつなげて何ら違和感がない。


僕だって、最初に観た時は全然気が付きませんでしたからね。ノートに感想とかストーリーを書き出してみて、初めて「あれ?」と思った、その時からですから。要するに、それこそが宮崎駿さんの腕の証明なんだと。欠点をむしろ言い立てろと。それでスゴイ大きな穴があればあるほど、宮崎駿の演出家としての才能、天才性というものが称揚されることになるんだから、というようなことを主張したわけで。 (「BSアニメ夜話」より)


このように、唐沢氏は「『カリオストロ』の本当の凄さとは、こんなにストーリーが穴だらけなのに、それを観客に全く気付かせないところなんだ」と述べており、そこが宮崎駿監督の天才たる所以なのだと言ってるわけなんですね。

では、どうして『ルパン三世 カリオストロの城』はこんなに矛盾だらけのストーリーになってしまったのでしょうか?実はこの作品、当初は複数の脚本家によって作られたプロットを映画監督の鈴木清順が監修し、1979年の3月にはすでに第1稿が完成していたのだそうです。

ところが、それを読んだ作画監督の大塚康生さんが難色を示して宮崎駿監督に相談したらしい。すると宮崎監督は自分でプロットと設定資料を作り、最終的には自分で監督もやることになったのです(この時点で鈴木清順監督の脚本はボツになってしまいました)。

そして、新たに山崎晴哉さんが脚本家としてスタッフに加わり、宮崎監督のプロットをもとに第2稿を執筆したものの、宮崎さんはその脚本が気に入らなかったらしく、結局、絵コンテの方でストーリーをどんどん描き替えていったそうです(そのため、クレジットが宮崎氏と山崎氏の共同脚本になっている)。

このように、『カリオストロ』のストーリーは元々別の人が書いていたものがボツにされ、さらに次の人が書いた脚本も(宮崎監督の判断で)全く違う内容に変更されるなど、かなりの紆余曲折を経た挙句にやっと決まったものだったようです。

なお、この時のエピソードを、当時、鈴木清順監督と共に脚本の第1稿を作り上げたスタッフの一人が詳しく記録し、『私の「ルパン三世」奮闘記』という本に書いていたので読んでみました。それによると、会社側から「江戸川乱歩の『幽霊塔』のような、大きな時計塔や古城を舞台にしたサスペンスを考えて欲しい」とのオファーがあり、その指示に従ってプロットを考えたらしい。

幽霊塔
江戸川 乱歩
岩波書店

宮崎駿のカラー16ページに及ぶ口絵が収録されている。

後年、宮崎監督は「どれほど自分が『幽霊塔』に影響を受けたか」を語り、三鷹の森ジブリ美術館では「幽霊塔へようこそ展」まで開くほど”幽霊塔好き”をアピールしていましたが、鈴木清順監督の第1稿の時点で、すでに幽霊塔の要素は入ってたんですね。

ちなみに、せっかく書いた『カリオストロの城』のシナリオをボツにされた最初のスタッフは宮崎監督のことを恨んで(?)いたらしく、『カリオストロの城』の公開後、東京ムービーで「死の翼アルバトロス」を作る際に実施された宮崎監督との打ち合わせの様子を、『私の「ルパン三世」奮闘記』の中で書いていました。

それによると、鈴木清順監督が宮崎監督の絵コンテを見ながら「何を描きたいのか伝わってこないし、判らない」と厳しく批判。すると、宮崎監督は複雑な表情を見せながら「テレビなんて、こんなもんです」と答えたらしい。

その言葉を聞いた著者は「鈴木監督にズボシを突かれたから、強がりを言っているのだ。クソッ!偉そうに、何様だと思ってるんだ!」と宮崎監督に対して煮えくり返る思いだった、と告白しています。かなり鬱屈した気持ちだったようですねえ(^_^;)

私の「ルパン三世」奮闘記: アニメ脚本物語
飯岡 順一
河出書房新社

『ルパン三世』シリーズの製作秘話を記した記録集なんですが、著者が宮崎駿のことを嫌っているせいなのか、かなり偏った意見が見受けられますw

そんなわけで、結局『ルパン三世 カリオストロの城』のシナリオは、宮崎監督が絵コンテで全て修正したため、実質的に「存在しない」ことになってしまいました(山崎晴哉の脚本ではグスタフやジョドーなどのセリフがもっと多かったが、絵コンテの段階で全部削除)。

さらにスケジュールの都合上、後半部分は自分で描いた絵コンテまで容赦なく削っていったせいで、物語の辻褄が合わなくなってしまったのです。こういう、「脚本家の考えたシナリオを宮崎監督が描き直す」という行為について、作画監督の大塚康生さんは次のように説明していました。

どんなに良いシナリオが仕上がってきても、宮崎さんの頭の中の、やりたいことが最優先になってしまうから、お話が変わっていってしまったり(笑)。そんなこんなで、本当にシナリオを全然見ないで絵を作る。ですから、辻褄の合わない部分が出て来ることもあり得ますよね。


だから宮崎さんの場合は、彼の構想を脚色せずにそのまま文章化する専門家というのかな、スクリプトライターのような人を呼んでくればいいわけです。普通のシナリオ作家さんの場合は自らの主張があるわけですから、『カリオストロ』のような仕事は依頼しない方がいいってことですね(笑)。 (「BSアニメ夜話」より)


というわけで、『ルパン三世 カリオストロの城』のシナリオについて色々な裏話を検証してみたんですけど、まあ正直「ストーリーに整合性がない!」とか「矛盾だらけだ!」とか言われても、全然ピンと来ないし、今改めて『カリオストロの城』を観ても、やっぱりメチャクチャ面白いわけですよ。

これはつまり、「ストーリーに少々おかしな部分があったとしても、監督の能力が優れていれば、面白い映画に仕上げることは十分可能である」ってことなんじゃないでしょうか?「例えシナリオが穴だらけだとしても関係ない。面白い映画は面白いんだよ!」と。そういう意味でも『ルパン三世 カリオストロの城』は、宮崎駿の類い稀なる演出力で物語の矛盾をねじ伏せた、真の傑作アニメと言えるかもしれません(^_^)


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