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映画『マトリックス』(1999年)はこうして作られた(撮影の裏側を解説)

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マトリックス

マトリックス


どうも、管理人のタイプ・あ~るです。

さて先日17日、超大作映画マトリックスレザレクションズ』がついに公開されました。ご存知、キアヌ・リーブス主演の『マトリックス』シリーズ最新作で、なんと前作『マトリックス レボリューションズ』から約18年ぶりの続編となります。

監督を務めたラリー&アンディ・ウォシャウスキー兄弟は、その間に性別適合手術を受けてラナ&リリー・ウォシャウスキー姉妹になりましたが、ファンを魅了した激しいアクションシーン等は今回も健在だとか。

思えば、初めてマトリックス』(1999年)が公開されてから、もう22年も経ったんですねぇ…。というわけで本日は、全世界に衝撃を与えた第1作目の『マトリックス』について、制作裏話や知られざるエピソードなど当時の状況を改めて振り返ってみたいと思います。


1960年代にシカゴで生まれたウォシャウスキー兄弟は、大学を中退したあと大工の仕事をしながらコミックの原作や映画の脚本を書いていました。

そして1994年、最初に書いた脚本『暗殺者』がシルヴェスター・スタローンアントニオ・バンデラス出演、リチャード・ドナー監督作品として映画化決定。

ワーナー・ブラザースウォシャウスキー兄弟と3本の映画を作る契約を結び、この時点で『マトリックス』の脚本も完成していたそうです。なので兄弟は「次は『マトリックス』を映画化したい!」と提案。

ところが、スタジオ側は脚本を読んで難色を示しました。

あまりにもストーリーが難解で映像化のハードルも高い…と判断されたからです。兄のラリー・ウォシャウスキー曰く、「当時ハリウッドで『マトリックス』の内容を理解してくれる人は誰もいなかった」とのこと。

そこでウォシャウスキー兄弟は初監督作品としてジェニファー・テイリー&ジーナ・ガーション主演のクライムサスペンス『バウンド』を制作。この作品で実力を認められた兄弟は、念願だった『マトリックス』の企画を改めてワーナーへ提示しました。

しかし、『バウンド』が製作費450万ドルの低予算映画だったのに対し、『マトリックス』は6300万ドルもかかることが判明。

さらに、「静止したキャラクターの周りをカメラがグルッと回り込む」などの斬新な映像表現を実現するための視覚効果やテクノロジーも、当時はまだ確立されていませんでした。

おまけに脚本を読んだ人たちは口を揃えて「意味が分からない!」と批判するなど、企画は暗礁に乗り上げてしまったのです。

ウォシャウスキー兄弟は少しでも分かりやすくするために何度もシナリオを推敲し、同時に「世界観をビジュアルで説明しよう」と考え、人気コミック作家のジョフ・ダロウやスティーブ・スクロースらに大量のストーリーボードを発注。

ジョフ・ダロウはネオが眠っている培養装置やネブカドネザル号を、スティーブ・スクロースはモーフィアスやトリニティーたちが披露するカンフーシーンなどを次々とストーリーボードに描いていきました。

マトリックス

マトリックス

これらを使って映画会社の重役にプレゼンテーションを繰り返したものの、なかなか成果が得られません。ラリー曰く、「僕らは3年近くワーナーのお偉方に『マトリックス』を説明してたんだけど、彼らはポカンとするだけだった」とのこと。

この時点で、普通なら諦めて20世紀フォックスとかユニバーサル・ピクチャーズなど色んな映画会社に企画を持ち込んでいたでしょう。しかし当時の彼らはワーナーと3本契約を結んでいたため、他の会社へ持って行けなかったんですね(結局、『マトリックス』の企画は3年ほど保留状態に…)。

そんなある日、ウォシャウスキー兄弟の企画に興味を示す人物が現れました。プロデューサーのジョエル・シルバーです。

ジョエル・シルバーといえば、『コマンドー』、『48時間』、『ストリート・オブ・ファイヤー』、『リーサル・ウェポン』シリーズ、『ダイ・ハード』シリーズ、『プレデター』シリーズなど、80年代から90年代にかけて大ヒット作品を連発した敏腕プロデューサーとして有名です。

リーサル・ウェポン (字幕版)

プライム会員は追加料金なしで視聴可

そんなジョエル・シルバーに、ウォシャウスキー兄弟はどうやってアプローチしたのでしょう?以下、ジョエル・シルバーの証言より。

兄弟が「これを観てくれ!」と言って攻殻機動隊のビデオを持って来た時は驚いたね。大胆かつ緻密で、いわゆるジャパニメーションの精華だと思うが、二人とも口を揃えて「これを実写で撮りたいんだ!」と熱っぽく語っていた。彼らは独自の美的解釈で、まさに『攻殻機動隊』の世界に生命を吹き込んだのさ。
(「スターログ日本版 第2号」より)

なんと、プロデューサー本人が『攻殻機動隊』をパク…いや影響を受けたことをハッキリ認めるとは(笑)。ちなみにモーフィアス役を演じたローレンス・フィッシュバーンも「断言するが『マトリックス』は『攻殻機動隊』の映画化だよ。クライマックスの銃撃戦も、スミスが銃を片手に着地する瞬間も、みんな『攻殻機動隊』なのさ」と証言していました(今だったら裁判沙汰になりそうw)。

GHOST IN THE SHELL/攻殻機動隊

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こうしてジョエル・シルバーが興味を示したことでようやく企画は動き始め、その後もウォシャウスキー兄弟が粘り強く交渉を続けた結果、1997年の春、ついにワーナーが映画製作のゴーサインを出したのです。

喜んだ兄弟は、さっそくキャスティングに取り掛かりました。当初、彼らはネオ役にウィル・スミスを、モーフィアス役にはヴァル・キルマーを起用しようと考えていたそうです。

ところが、ウィル・スミスに対して「あなたが敵の弾丸をかわそうとすると動きが止まり、カメラが周囲を360度グルッと回転するんです!」と一生懸命に説明したら、「何を言っているのかさっぱりわからない」と断られてしまいました(後にウィルは「『マトリックス』を断ったこと自体は後悔していない。そのおかげで名作が生まれたのだから」と証言)。

その後、ブラッド・ピットにオファーするものの「これは絶対に自分の役じゃないよ!」「他にもっと相応しい人がいるはずだ!」と断られ、レオナルド・ディカプリオにも「『タイタニック』が終わったばかりで、またすぐにVFXを多用するような映画には出たくない」と断られ…。

製作担当者のロレンツォ・ディ・ボナヴェンチュラは当時を振り返り、「数え切れないぐらい多くの俳優に声をかけたが、ことごとく断られた。もう絶望的な気分になったよ。しまいにはネオを女性キャラに変更してサンドラ・ブロックにやらせようという案まで出たぐらいだ。実際にサンドラにもオファーしたよ。断られたけどね(苦笑)」とコメント。

サンドラ・ブロック

サンドラ・ブロック

なんと、そこまでキャスティングが難航していたとは…(まぁ、全く前例のない映画なので無理もないかもしれません)。しかし何十人もの俳優にオファーを断られ、それでも諦めることなく探し続けた結果、ついに理想の俳優が現れました。それがキアヌ・リーブスです。

アンディ・ウォシャウスキー曰く、「キャスティングの最中に会った俳優は、誰もこの映画のコンセプトを理解していなかった。どんなに細かく説明してもわからなかったんだ。でも、キアヌは最初の面接の時にノート1冊分の質問を抱えて現れた」とのこと。

「彼はサイバーパンク小説の大ファンで、ウィリアム・ギブスンフィリップ・K・ディックなんかをたくさん読んでいた」「『マトリックス』のテーマも完璧に理解していて、僕らの世界にすんなり入って来たんだよ」と驚いたそうです。

キアヌ・リーブス曰く、「僕は元々SFが好きだったし、『マトリックス』の脚本も面白くて斬新なアイデアに溢れていた。こんな映画に出られるなんて滅多にないから興奮したよ。”『JM』と同じような役だと思われるんじゃないか?”って言う人もいたけど、その心配はなかった。誰もあの映画を観てないからね(笑)」とのこと。

ちなみにモーフィアス役のローレンス・フィッシュバーンも「最初に脚本を読んだ瞬間から出たいと思った」「俺は日本のアニメの大ファンなんだ。『攻殻機動隊』はもちろん、子供たちと一緒に何度『AKIRA』を観たことか」「頼むから俺を使ってくれ!って叫んだよ」と述べており、かなり早い段階で決まったらしい(笑)。

さて、ようやくキャストが決まると、以前から香港のアクション映画に強い関心を持っていたウォシャウスキー兄弟は「香港流アクションのエッセンスとハリウッドの素材をミックスさせたい」と考え、ユエン・ウーピンにアクション監督を依頼しました。

ユエン・ウーピンといえば、初監督作品の『蛇拳』や『酔拳』でジャッキー・チェンをブレイクさせ、『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・チャイナ』シリーズではジェット・リードニー・イェンと素晴らしいアクションシーンを作り上げた香港映画界のレジェンドです。

そこで、『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・チャイナ』を観て衝撃を受けたウォシャウスキーは、「是非ウーピンにアクション監督をやってもらおう!」と考えたわけですが、なぜか全く連絡が取れません。

実は1997年の7月頃に電話をした際、北京で『太極宗師』というドラマを撮っていたユエン・ウーピン「いま忙しいし、ハリウッドにも興味ないから放っておこう」と無視していたそうです(結局、2ヵ月ぐらい放置されたw)。

その後、ようやくドラマの撮影が終わり、ウォシャウスキー兄弟から脚本が送られてきたものの、全くやる気がなかったウーピンは断り続けていたらしい(本人曰く「2回断った」とのこと)。

しかし、香港の映画会社ショウ・ブラザーズのマネージャーに促されて脚本を読んだら「面白そうだ」と興味が湧き、ウォシャウスキーへ連絡したのが9月。そして11月、ついに渡米して直接打合せすることになりました。

ところが、「全く経験のないハリウッドスターたちにカンフーを指導してくれ」と言われたユエン・ウーピンはかなり困惑したようで、ラリー・ウォシャウスキー曰く「トレーニングの初日、ウーピンは部屋の隅っこに座り込んで頭を抱えてしまった。完全に絶望していた。自分の評判は傷付くし、ひどい映画になると思ったんだね」とのこと。

以下、当時のユエン・ウーピンのコメントより。

全然分かってない素人を1から訓練するんだから、最低でも3ヵ月はかかるって言ったんだ。でも結局4ヵ月半かかった。LAのバーバンクで3ヵ月、オーストラリアのシドニーで1ヵ月半。初めて彼らの動きを見た時はめまいがしたよ(笑)。

アジア人との肉体的な差もあるけれど、それよりカンフーに対する知識や勘が決定的に欠如している点が問題だった。特に全身の動きの切れ味が全然違う。どういうものかを身体が理解していない。

だから、基本の基本から時間をかけてじっくり教えていかなければならなかった。大変な作業だよ。どうすれば力のこもったアクションを見せられるか、どうすれば美しく拳を繰り出せるか…。おまけに、誰一人としてワイヤーで吊るされた経験なんてないからね。

でも、そういう人間が壁を走って身をひるがえし、華麗に着地を決める。スタントマンではなく、どう考えてもそんなこと出来そうにないスター本人がここまで見事なアクションを披露する、その驚きこそが、この映画の最大の魅力なんじゃないかな。
(「スターログ日本版 第1号」より)

こうして4ヵ月半に渡る厳しいトレーニングを終え、どうにか撮影本番スタート(モーフィアスとスミスのアクションシーンを撮っている時、ヒューゴ・ウィーヴィングが拳を骨折するなど、色んなアクシデントがあったようですが…)。

ちなみに、ネオがスミスに殴られて吹っ飛ばされ、壁に激突するシーンなどでキアヌの代役(スタントダブル)を務めたのが、後に『ジョン・ウィック』シリーズの監督となるチャド・スタエルスキです。

マトリックス』では、あまりにも激しいアクションで膝が割れ、さらに肩が外れて肋骨も折れるなど大変な目に遭ったチャドですが、最新作の『レザレクションズ』ではなんとトリニティーの夫役で出演!

チャド曰く、「ラナ・ウォシャウスキー監督から新作の話を聞いて”喜んで手伝いますよ”と言ったら脚本が送られてきたんです。僕は当然、アクション監督かスタントマンだろうと思って読んだのですが、全く予想外の役が書かれていて…。思わず”冗談ですよね?”と確認しました(笑)」とのこと。

チャド・スタエルスキとキアヌ

チャド・スタエルスキキアヌ・リーブス

そして『マトリックス』の特徴といえば、何と言っても斬新な映像表現でしょう。中でも「ネオが敵の弾丸をのけぞってかわしつつ、カメラが周囲をグルッと回転するシーン」は本作を代表する名場面となり、後に多くの作品がマネするほど強烈なインパクトを与えました。

視覚効果担当者のジョン・ゲイターがバレットタイムと名付けたこの印象的なヴィジュアルは、ワイヤーで吊られた俳優の周りに120台のスチルカメラをズラリと並べ、500分の1秒から1000分の1秒のシャッタースピードで撮影し、写っているワイヤーや不要物を1枚1枚消去し、さらに飛んで来る弾丸や背景などを合成して…という具合に、大変な手間をかけて作られたものなのです。

あまりにも手間がかかりすぎるために使用頻度は少ないものの、「バレットタイム」の効果は絶大でした。なお、この方法を生み出すまでに様々なテストが繰り返され、その中には”とんでもないアイデア”もあったらしい。

ウォシャウスキー兄弟によると「最初はカメラにロケットを取り付け、時速500キロで動かそうと考えていた」とのことで、キアヌ・リーブスも「確かにそんなものを作ろうとしてたけど、弁護士に止められたんだ。あいつら本当にクレイジーだよ(笑)」と証言(もし実現してたら一体どうなっていたのやら…恐ろしいw)。

バレットタイム撮影風景

バレットタイム撮影風景

こうして118日の撮影を終え、無事に完成した『マトリックス』は1999年の3月(日本では9月)に公開され、世界中で大ヒットを記録しました。

なお、当時はスター・ウォーズエピソード1/ファントム・メナスもほぼ同時期に公開されており、前作『ジェダイの帰還』から16年ぶりのシリーズ最新作ということで期待されてたんですけど、逆に全く期待されていなかった『マトリックス』の方が高い評価を得たのです。

その理由は何でしょうか?

確かに『ファントム・メナス』は最先端のデジタル技術を駆使した素晴らしい映像やハイレベルなVFXが注目され、大ヒットもしましたが、あまりにもCGに頼り過ぎた作風が違和感を生じさせたことも否めません。

一方、『マトリックス』はデジタル技術を使いつつも、同時に俳優本人がワイヤーで吊られてカンフーの技を繰り出すというアナログ感丸出しなアクションが満載で、しかも日本のアニメの影響や凄まじい銃撃戦、サイバーパンクSFや哲学的な物語など、観客の興味を惹きつける要素がテンコ盛り!

すなわちデジタルとアナログ、ハリウッドと香港、実写とアニメなど、異なる文化や要素を混ぜ合わせることで発生した”化学変化的な表現”がこそが『マトリックス』の魅力であり、そういう新感覚な作風が観客の心をとらえたのではないでしょうか。

これぞまさにエポックメイキングであり、ラリー&アンディ・ウォシャウスキー兄弟は映画史に残る画期的なジャンルを生み出したと言っても過言ではないでしょう。

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