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『千と千尋の神隠し』の作画を解説してみた

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千と千尋の神隠し

千と千尋の神隠し


どうも、管理人のタイプ・あ~るです。

さて本日、「金曜ロードショー」で千と千尋の神隠しが放送されます。ご存知、宮崎駿監督の人気劇場アニメで、2001年に公開されるや日本全国で大ヒットを記録!

最終的には316億8,000万円の興行収入を叩き出し、2020年に『劇場版「鬼滅の刃」無限列車編』が記録を更新(404億円)するまで、20年近くにわたり歴代興収第1位を維持し続けた作品です。

そんな『千と千尋の神隠し』ですが、内容については過去に色んなところで語られ、考察もされていると思うので、今回は観客を魅了した見事な「作画」や制作に関わった「アニメーター」などについて色々解説してみますよ。


作画監督:安藤雅史
作画監督」とは文字通り作画の監督であり、キャラクターの顔を整えたり動きをチェックするなど、絵のクオリティを保つために欠かせない重要なポジションです。

千と千尋の神隠し』で作画監督を務めたのは安藤雅史さんですが、安藤さんといえば1990年にスタジオジブリに入社し、宮崎駿監督の短編アニメ『On Your Mark』で初めて作画監督に抜擢。

当時から優秀なアニメーターとしてズバ抜けた才能を発揮していた安藤さんは、超大作アニメ『もののけ姫』でも作画監督を任され、躍動感あふれる大胆な描写が話題になりました。

その後、『千と千尋の神隠し』の作画監督を担当するわけですが、制作終了後にジブリを退社し、以降はフリーのアニメーターとして様々な作品に関わっています。

新海誠監督の『君の名は。』でも作画監督を務め、安藤さんのストイックな仕事ぶりを見た新海監督は「出社したら、お茶を飲む前に鉛筆を走らせ始め、帰る直前までずっと机に向かって仕事を続けてるんです。その真剣な姿勢に感激しました」と絶賛。

安藤さんが作画監督として関わった『もののけ姫』や『千と千尋の神隠し』や『君の名は。』などはいずれも大ヒットしていますが、このような真面目な仕事ぶりが作品に良い影響を与えていたのかもしれません。

●安藤雅史と宮崎駿
そんな安藤さんが『千と千尋の神隠し』に参加した際、困った問題が発生しました。それまでの宮崎アニメの主人公は、いわゆる「理想のヒーローやヒロイン」だったのですが、本作では宮崎監督から「どこにでもいる普通の10歳の少女を描きたい」と言われたのです。

そこで安藤さんは、敢えて「丸顔で鼻が低くて目もそんなに大きくない普通の女の子」として千尋をデザインしました(今までのジブリヒロインとは明らかに顔の造形が違う)。

さらに動きにもリアリティを求め、これまでのアニメに良く見られた”漫画的な動き”ではなく、実在する子供のグニャグニャした動きや、「生々しい動作を表現しようと思った」とのこと。

生々しい子供というのは、今までの宮崎さんの作品には出て来てないんです。子供らしさを描こうとしている時でも、どこか背筋をシャンと伸ばした、凛とした姿を求めてしまう気持ちが宮崎さんの中にはあると思います。

となりのトトロ』のメイがしゃがみ込むポーズなんかでも、子供の動きとしては理解できるんですが、本当の子供が持っているラインは入ってないと思うんです。これは全部、俺の個人的な感想なんですが。

俺の好きな漫画家で高野文子さんという人がいて、この人の絵は線を整理して、とことん減らす方向で絵を描きながら、生々しいラインはちゃんと残ってるんです。これはすごく憧れるところで、今回はそういう生々しさを描いてみたいというのがありました。
ロマンアルバム千と千尋の神隠し』より)

このように、安藤さんは「リアルで生々しい子供」を描くつもりで『千と千尋の神隠し』に取り組んだそうです。

ところが、キャラクター設定を描いて宮崎監督に見せたら「う~ん、なんか違うなぁ」と言われたらしい。宮崎監督のオーダーは”普通の少女”だったのですが、やはりどこかに宮崎監督の理想が加わっていなければならなかったのでしょう。

しかし、安藤さんの中では「リアルな少女を描きたい」という意識が強く、宮崎監督との間で”方向性のズレ”が発生してしまったのです。

それでも、序盤は宮崎監督も安藤さんのやり方に合わせていたらしく、千尋のグズグズした動きがいい感じで表現されていました(動作もリアル)。

しかし、今までそういう主人公を描いたことがなかった宮崎監督は、徐々に我慢ができなくなったようで、中盤以降はどんどんキビキビとした動きになり、結局「いつも通りの宮崎ヒロイン」に近づいていったのです(宮崎監督が自ら作画を修正していた模様)。

●安藤さんの髪の毛が…!
そんな状況の中でも安藤さんは作画監督としての職務を全うすべく、毎日頑張って仕事を続けていましたが、現場のストレスは想像以上に凄まじかったようで、プロデューサーの鈴木敏夫さんは以下のように語っていました。

安藤は並々ならぬ覚悟で『千と千尋』の作画作業に取り組みました。宮さんは宮さんで還暦目前とは思えぬほどの作業量をこなし、毎晩夜中の12時まで原画マンがあげてきたカットに修正を入れていました。でも、安藤はまだ30歳。体力には自信があります。宮さんが帰ったあと、さらに朝までかけてブラッシュアップを加えていったのです。

最初、宮さんは安藤がやっていることに気付きながらも我慢していました。でも、次第に二人の間に火花が散り始めます。老境にさしかかったベテラン監督と、若きアニメーターの熾烈な戦い。プロデューサーとしてはハラハラしつつも、どこか剣豪の名勝負を見ているような面白さもありました。そして、二人のせめぎ合いの結果、『千と千尋』の画面には、ある種の迫力がみなぎることになったのです。

宮さんはこのとき自分の衰えを実感したかもしれません。でも、一方の安藤も無傷ではすまなかった。精神的にも肉体的にも自分に最大限のストレスをかけ続けた結果、作画を終えたときには、髪の毛がぜんぶ抜けていました(苦笑)。そして、やりきった満足感とともにジブリを去って行ったのです。
(「ジブリの教科書12 千と千尋の神隠し」より)

なんと、フサフサだった安藤さんの髪の毛が、『千と千尋』の作業が終わる頃にはすっかり無くなっていたそうです…!一体どれほど凄いストレスだったんでしょうか…恐ろしい!

●謎の食べ物:米林宏昌

千と千尋の神隠し

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さて、『千と千尋の神隠し』には数多くのアニメーターが参加していますが、その中の一人が米林宏昌さんです。

米林さんといえば、1996年にジブリに入社し、短編アニメ『空想の空とぶ機械達』で初作画監督を務め、『ゲド戦記』で作画監督補、そして『借りぐらしのアリエッティ』ではついに監督に大抜擢!

2010年に公開された『借りぐらしのアリエッティ』は興行収入93億円の大ヒットを記録し、以降も『思い出のマーニー』や『メアリと魔法の花』など、次々と新作アニメを監督しています。

ちなみに、「カオナシのモデルは米林さん」という噂がありますが、本人によると「モデルというより僕が描いていたカオナシを見て、宮崎さんが”麻呂にそっくりじゃないか”とおっしゃって、そういうふうに言われるようになったんです」とのこと。

そんな米林さんが『千と千尋』で担当したシーンは物語序盤、千尋の父と母が店に並んでいる食べ物を勝手に食べ始める場面です。

ここで気になるのは、父親が食べている丸くてブヨブヨした奇妙な食べ物で、映画の公開当時から「あれはいったい何なんだ?」と話題になっていました。

ところが数年前、このシーンを描いた米林さん本人がツイッター「お父さんが食べているブヨブヨした食べ物はシーラカンスの胃袋」と告白。「長年の謎が解けた!」とファンの間で大騒ぎになったんですが、でもシーラカンスの胃袋って…?

●豚になる父:田村篤

千と千尋の神隠し

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田村篤さん米林宏昌さんと同期入社のアニメーターで、「豚になったお父さんを見て悲鳴を上げる千尋」を描いた他、ハクと出会った千尋が目を擦りながら周囲を確認するシーンなどを担当。

なお、田村さんは『猫の恩返し』で作画監督補を務め、『ハウルの動く城』や『崖の上のポニョ』や『風立ちぬ』など多くの作品に関わった後、ジブリを退社してフリーになりました。

その後、『ガンダム Gのレコンギスタ』や『機動戦士ガンダム THE ORIGIN』などで作画監督を務めていましたが、2019年公開の新海誠監督作品『天気の子』でキャラクターデザイン&作画監督に抜擢!美麗な画面作りに貢献し、映画も大ヒットしました。

ちなみに、田村さんによると「『天気の子』は、最初は原画のつもりでスタジオに入って”誰が作画監督をやるんだろう”と思っていたら、ある日、プロデューサーに呼ばれて”作画監督やりませんか?”と(笑)」「最初から作画監督を依頼されていたら責任重大すぎて断っていたと思うが、その時にはもう逃げられない状態だった」とのこと(笑)。

●ボイラー室の釜爺:大平晋也

千と千尋の神隠し

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「ボイラー室に入った千尋が釜爺と出会うシーン」を描いたのは、アニメ業界では超有名な大平晋也さん

大平さんといえば、80年代のTVアニメの時代から活躍している大ベテランで、ジブリ作品にも『おもひでぽろぽろ』や『紅の豚』、『ホーホケキョとなりの山田くん』、『千と千尋の神隠し』、『ハウルの動く城』、『風立ちぬ』など数多く参加しています。

しかし、その作風があまりにも個性的すぎるため、どんな作品に参加しても「あっ!このシーンは大平さんだ!」と一目で分かってしまうのですよ(アニメに詳しくない人でもたぶん分かる)。

たとえば『千と千尋』の場合、大平さんが描いた原画はこんな感じです↓

千と千尋の神隠し

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非常に独特な線で描かれており、千尋の顔も「誰?」という感じですが(笑)、動きがメチャクチャに上手く、アニメーター仲間や作画マニアの間では「天才」と呼ばれているそうです。

なお、作画監督を務めた安藤さんも大平さんの大ファンで、原画の良さを残すために敢えて作監修正は最小限にとどめたらしく「キャラクターを整える程度で通していったので、ああいう感じで個性が残っています」とのこと。

●湯婆婆登場:田中敦子

千と千尋の神隠し

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湯婆婆が登場するシーンを描いたのは、宮崎アニメではお馴染みの凄腕アニメーター:田中敦子さんで、インパクトありまくりの名場面に仕上がっています。

田中さんといえば、『ルパン三世 カリオストロの城』で「ルパンと次元がスパゲッティを奪い合うシーン」や「城の屋根を駆け下りて大ジャンプするルパン」などを描いたことでも知られています。

また、『となりのトトロ』では「メイがトトロのお腹の上で眠ってしまうシーン」とか、『魔女の宅急便』では「デッキブラシにまたがったキキが勢いよく飛び上がるシーン」など、ジブリ作品では割と印象的なシーンを担当してるんですよね(※なお、田中さんはジブリ所属のアニメーターではありません)。

そんな田中さんは『千と千尋』で湯婆婆を描いたんですが、「湯婆婆の部屋は設定がなかったので、宮崎監督の絵コンテをもとに机上の小道具や本棚や絨毯の柄などはこちらで適当に描いた」とのこと。えええ!?

さらに「湯婆婆の指輪はキャラ表では両手で6個だったが、宝石をたくさん描きたかったので8個もつけてしまい、動画や仕上げの方にご迷惑をおかけしてしまった」そうです。田中さん、だいぶ自由にやってますねぇ(笑)。

ただ、そうやってディテールを増やしたことで画面が華やかになり、安藤さんも「湯婆婆の登場シーンは原画さんの素晴らしい力量で見どころと言ってもいいほどの出来になっている」と絶賛していました。

というわけで、『千と千尋の神隠し』の作画について、いくつか印象的なシーンを取り上げてみましたが、いかがだったでしょうか?なお、本作にはまだまだ見どころがたくさんあるので、機会があれば他のシーンも解説してみたいと思います。


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