どうも、管理人のタイプ・あ~るです。
さて本日、BS12で劇場アニメ『メトロポリス』が放送されます。
本作は、原作:手塚治虫、脚本:大友克洋、監督:りんたろうなど豪華スタッフが参加した超大作SFアニメで、2001年に全国の映画館で公開されました。
劇場版『銀河鉄道999』や『幻魔大戦』で知られるりんたろう監督は、もともとTVアニメ『鉄腕アトム』を制作したスタジオ(虫プロ)の出身ですが、「僕がアトムをやっていた頃はとにかく1週間に1本作ることだけで精一杯で、表現や技術にこだわることが出来なかった」「演出家として、それがずっと心残りだった」とのこと。
そんなりんたろう監督が、たまたまNHKの「手塚治虫特集」で大友克洋と対談した際、「手塚アニメにけじめを付けるために、もう一度自分の手で再構築したい」という思いが湧き上がり、大友さんと共に長編アニメーションを作ることを決意したそうです。
そして、「多くの手塚漫画はほとんどアニメ化されているが、初期の作品はまだ残っている」「やるならその辺しかないだろう」と考え、大友克洋も「初期の三部作『ロストワールド』『来るべき世界』『メトロポリス』には手塚さんの世界観の全てが詰まっている」「どうせ作るなら、そういう”一番味の濃いところ”をやるのがいい」と同意。
こうして、手塚治虫が1949年9月15日に発表した名作『メトロポリス』のアニメ化が決まりました。
ただ、原作の『メトロポリス』は差別や人工生命、そして科学に対する警鐘など、様々なテーマを含んだ大作ですが、1949年の作品なので描かれている内容をそのままアニメ化するのはやや難しい。
そう考えた大友克洋は「自分なりに少し解釈を変えて、手塚さんの原作にあるエッセンスを上手く現代風に描写できればいいな…という思いでストーリーを再構成しました」とのこと。
そして大友さんは「人とロボットが共存する未来都市メトロポリスで原因不明の火災が発生。主人公のケンイチはそこで謎の少女ティマと出会うが、過激派組織マルドゥク党の総帥ロックに狙われてしまう。果たして彼女の正体は…?」という脚本を書き上げ、各キャラの扱いもかなり変更されました。
そんな本作の見どころは、何と言っても”圧倒的に素晴らしいヴィジュアル”でしょう。「初期の手塚治虫の絵を、高度な作画技術と最新のCGテクノロジーを使って完璧に再現したい」と考えたりんたろう監督は、まずキャラクター・デザインを名倉靖博に依頼。
名倉さんといえば、押井守監督の『天使のたまご』で作画監督を務め、「原画マンが逃げ出すぐらい大変な作画でも粘り強く描いていた。あいつは凄い!」と押井監督が認めるほどのスーパーアニメーターですが、そんな名倉さんですら手塚キャラをデザインするのに1年以上かかったらしい。
りんたろう監督曰く、「手塚治虫の初期の絵は、線をちょっと間違えただけで全く違うキャラになってしまうので調整がもの凄く難しい。しかも手塚イズムでもなく、名倉イズムでもない。”その中間を描け”という無理難題をふっかけたんです。さすがにキャラクターを作るだけで1年以上かかりましたね」とのこと。
名倉さんも「メインキャラクターのスタイルが確立されない限り、サブキャラクターのデザインに移行できないんです。まるで暗闇の中で散乱したパーツを一つ一つ手さぐりで探し当てるような、困難極まりない作業が延々と続きました」と大変さを語り、その間に描いたラフデッサンはスケッチブック数十冊に及んだそうです。
そして、1997年から本格的な作画作業が始まったんですけど、そこからがまた苦労の連続でした。キャラのディテールが非常に緻密でそれだけでも大変なのに、りんたろう監督は上がった原画に対して、実写並みの”さらなる細かい動きやアクション”を要求したのです。
その結果、総作画枚数は15万枚に達し、膨大な物量が発生しました。本作のために集められたアニメーターは小松原一男、沖浦啓之、川名久美子、村木靖、安藤真裕、野田卓雄、橋本晋治、遠藤正明、井上鋭、仲盛文、笹木信作、戸倉紀元、反田誠二、川崎博嗣、箕輪豊、高坂希太郎、川尻善昭、金田伊功など、業界屈指の凄腕原画マンばかりですが、それでも前代未聞の作業量に手を焼いたという。
中でも特に苦労したのがモブシーンで、りんたろう監督と打ち合わせをしていた時に大友さんが、「手塚治虫といえばモブシーンでしょう。アニメ化するならこれをやらなきゃ!」と言って原作の”モブシーンが見開きいっぱいに描かれたページ”を見せたそうです。
しかし、りんたろう監督は「脚本は”何百人”って言葉で書けば済んじゃうけど、描く方は実際に何百人のキャラを描かなきゃいけない。これは大変ですよ。野田卓雄さんって僕より年上のベテランアニメーターの方が引き受けてくれたんで、どうにか出来たんですけど、もう二度とやりたくないですね(苦笑)」と語っており、相当な苦労があった模様。
一体どれぐらい大変だったのか?というと、たとえば冒頭の「ジグラット完成レセプションのシーン」では、24分の1秒(わずか1コマ)を撮影するためにAセルからZセルまで26枚の原画が描かれ、積み上げられたセルの厚さが数十センチに達するほどでした。
当然、この厚さでは撮影台に乗せて撮影できません。そこで活躍したのがデジタル技術で、当時アニメ会社が導入し始めていたコンピューターを駆使して1枚1枚の原画をスキャンし、大勢のキャラを一つの画面に合成したのです。
こうして、ようやく手塚治虫の原作を再現した見事なモブシーンが完成!試写を見た大友克洋も「地上世界の綺麗さもさることながら、地下のゴチャゴチャした世界がまたすごくて、あそこまで描けていれば文句なし」と絶賛するほどの出来栄えだったそうです(ただしアニメーターの負担は凄まじく、ワンカットを作るのに半年以上かかったらしい)。
また、本作では背景も重要な要素で、手描きの美術の他に3DCGも多用されました。当然、その作業も困難を極め、超高層ビル「ジグラット」の映像は、3Dモデルを細かく作り込んだ上で、その中のワンフレームを静止画としてレンダリングし、そこにさらに細かいディテールを描き加え、出来上がった絵をテクスチャーとして3Dモデルに貼り付ける…という非常に複雑な工程を経てようやく完成したものなのです。
ビルのディテールを描き足す際も、窓への映り込みや影などを別々にレンダリングしており、なんと2万枚以上の画像を統合したカットもあるという。すげー!
一方、手描きの美術の方も尋常でない手間暇がかけられ、りんたろう監督の要望で、同じシーンでも角度を変えた背景画を何枚も描かされたらしい。美術監督との平田秀一さん曰く、「描いても描いても終わらないという状況が何年も続きました」とのこと。ツラすぎる…
というわけで、りんたろう監督や大友克洋さんのこだわりが全編に渡って炸裂した劇場アニメ『メトロポリス』は、公開当時、その驚異的なヴィジュアル&作画技術に多くのアニメファンがド肝を抜かれました(僕も映画館で観た時、驚いたw)。
しかし興行的にはイマイチで、15億円の製作費に対し、興行収入は7億5000万円と惨敗(海外の評価は割といいようですが、果たして回収できたのだろうか…?)。まあ、クライマックスの大崩壊シーンとか、映像的な見どころは満載なので未見の人はぜひ一度ご覧ください。