ポン・ジュノ監督が『パラサイト半地下の家族』でこだわった映像（ネタバレ）

どうも、管理人のタイプ・あ～るです。
さて先日、金曜ロードショーでポン・ジュノ監督の『パラサイト半地下の家族』が地上波初放送されました。

本作は第72回カンヌ国際映画祭で最高賞のパルム・ドールを受賞し、第92回アカデミー賞では作品賞、監督賞、脚本賞、国際長編映画賞の最多4部門を受賞したことでも話題になった韓国映画です。

内容は「貧困」や「格差社会」などの現代的なテーマをシニカルかつコミカルなテイストで描き、地上波で流すには少々過激な表現も含まれていたため、放送前から「本当にノーカットでオンエアするのか？」「”時計回り”のシーンはどうなる？」などと盛り上がっていたらしい。

しかし、「貼られた伏線を次々と回収していく見事な脚本」や「意外なラストシーン」など観客の好奇心を刺激する仕掛けがあちこちに散りばめられ、公開時はそれらを解説するための考察サイトが多数アップされました。

今回の放送でも「最後になぜ刺したんだ？」「結局あの人はどうなったの？」「よくわからない」など衝撃的な結末に対して様々な意見や疑問が噴出したようですが、本日はそんな『パラサイト半地下の家族』でポン・ジュノ監督が特にこだわった”映像表現”について書いてみたいと思います。

もともとポン・ジュノは恐ろしいほど映像のディテールにこだわる監督で、韓国では「ポン（・ジュノ）」と「（ディ）テール」を組み合わせて「ポンテール」と呼ばれるぐらい、ヴィジュアルに関して全く妥協しない性格だそうです。

そして、大の”漫画好き”としても知られているポン・ジュノ監督は、学生時代から自分で漫画を描き続け、映画監督になってからも撮影前に必ず緻密なストーリーボードや絵コンテを描き、背景や構図はもちろん、俳優の動きや表情に至るまで細かく絵にしているらしい。

『パラサイト』でギウ役を演じた俳優のチェ・ウシクはその絵コンテを見て、「iPadで絵を描かれるんですが、キャラクターの細かい仕草まで全て描かれていてビックリしました。全てのヴィジュアルはポン監督の頭の中にあるんです」と証言。この言葉通り、ポン監督は自分の頭の中に浮かんだイメージを出来るだけ忠実に再現したいのでしょう。

そのためにポン・ジュノ監督は、絵コンテだけでなくロケ地やセット、照明や小道具一つに至るまで徹底的に神経を注ぎ込み、撮影前にはプリヴィズを使ってカメラワークを決め、映画の全体像を完璧に把握するそうです。

プリヴィズとは「pre-visualization」のことで、実際に映画を撮る前に作る「検討用の参考映像」みたいなものです（昔はスタッフたちが役者の代わりに登場人物を演じ、それをビデオで撮っていたが、最近は簡単なCGで再現することが多い）。

ちなみにジェームズ・キャメロンは『アバター』を制作する際、まず詳細な”ヴァーチャルセット”を構築し、その中を自身で歩き回ってカメラワークを決定したいと考え、ヴァーチャル空間と連動する特殊なカメラを開発しました（そのファインダーを覗けば、CGセットやキャラクターを自由自在に操作し撮影できるらしい）。

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ところが、この問題を解決する画期的なツールが誕生！それが「Unreal Engine」です。リアルなゲーム世界を構築する3次元ツールとして、ゲーム業界が開発した超高性能ソフトウェア「Unreal Engine」は、極めて安易かつ安価にハイクオリティなCG空間を作り出すことが可能で、建築などゲーム以外の分野からも注目を浴びているらしい。

ポン・ジュノ監督はこのソフトを使って『パラサイト半地下の家族』のプリヴィズを作成し、本番の撮影前に全てのシーンを徹底検証。「どういうカメラアングルで撮れば最も美しく見えるか？」「建物や小道具の配置はどこがベストなのか？」「どのようにキャラクターが動けば最大の効果を発揮できるか？」など、何度もシミュレーションを繰り返したそうです。

そしてこのシミュレーションの結果をもとに、様々なセットが作られました。主人公たちが寄生するパク一家の豪邸もその一つで、一見すると2階建ての豪華なデザイナーズハウスに見えますが、実際は1階だけしか作られておらず、2階部分は後からCGで合成していたのですよ。

ポン・ジュノ監督はこのセットを作るために細部までデザインしたスケッチを大量に描き上げ、プロダクション・デザイナーはそれを基に本物の建築家に設計を依頼しました。しかし、映画の意図を知らない建築家は監督のスケッチを見て「こんな家を建てるバカはいないよ。頭がおかしい！」と呆れていたそうです（笑）。

さらに貧乏なキム一家が住んでいる家もセットなんですが、映画の終盤、大雨の影響で完全に水没してしまうんですよね。しかも、周りの住居も全て水に沈んでしまうほどの凄まじい洪水。いったい、どうやってあんな映像を撮ったのでしょうか？

実は、あの街全体が巨大なプールの中に作られたセットだったのですよ！えええええ！？

このシーンは、”ウォータータンク”と呼ばれる超特大の水槽の中に約20棟のアパートや約40軒の家を美術スタッフが全てセットで作り上げ、最後に大量の水を流し込んで撮影したそうです（なんて大掛かりなw）。

ちなみに、この場面では見るからに汚い水がキムたちの家に流れ込んで来ますが、撮影に使用された水は顔などに塗る「泥パック」と同じ成分が使用され、実際はかなり綺麗で人体にも安全だったらしい（ギジョン役のパク・ソダム曰く「スキンケアに最適だったわ」とのこと）。

また、外の風景を映したシーンも単に「そのまま撮っただけ」ではありません。一見すると普通に見えますが、バックにブルー・スクリーンを張って別の風景をCGで合成していたのですよ。通常はイメージに近いロケ場所を探してくるものですが、ポン・ジュノ監督は自分のイメージを完璧に再現するためにCGで本物の風景を加工してしまうのです。こだわりが凄い！

さらに、監督のこだわりはこれだけでなく役者の演技にまで及び、常に最高の演技を求めて毎回30～40テイクぐらい平気で撮るらしい。以下、『母なる証明』に助監督として参加した片山慎三さん（『岬の兄妹』など）の証言より。

『母なる証明』の主演のキム・ヘジャさんは”韓国のお母さん”と言われるぐらい有名な女優さんなんですが、スパナで殴る芝居を60テイクぐらい撮ったんです。キムさんは、それを毎回全力でやるんですよ。70歳近い女優さんにあれだけテンションの高い芝居をさせるっていうのは、さすがだなと思いましたね（笑）。

そんなポン・ジュノ監督の演技に対するこだわりが最も極まったシーンが「豪邸でキム一家が酒盛りする場面」です。ここで、4人が酒を飲みながら会話する様子を長回しで撮ろうとしたのですが、一人がいい演技をしても他の人がイマイチだったり、なかなかイメージ通りの映像が撮れませんでした。

そこでポン・ジュノ監督はどうしたか？

なんと「数十テイクの映像の中から各俳優が最高の演技を見せた瞬間だけを切り取り、同じ画面内にそれらを合成した」のです。えええ！？確かに、こうすれば「4人の最高の演技を一つの画面に収めることが可能」ですけど、そこまでやりますか！？おまけに、映像を見ても合成しているとは思えないほど自然だし…こだわりが凄すぎる！