先日、「アニメ史上最も作画がすごいシーンはここだ」というツイートが話題になっていた。
アニメ史上最も作画がすごいシーンはここだと思ってる。 pic.twitter.com/585NJWEqMf
— Yuuki@絵里🌸 (@Yuuki10210223) 2018年7月15日
ツイ主が挙げていたのは『ヴァイオレット・エヴァーガーデン』の第7話で、確かに美麗かつ緻密な作画が印象的である。
これに対して、「いやいや、アニメ史上最も作画がすごいシーンならこれだろ!」と色んな人が様々なタイトルを挙げていたのが興味深い。
「アニメ史上最も作画がすごいシーン」というツイートが話題になっていますが、参考までに、ピノキオ(1940年)の終盤シーンです。 pic.twitter.com/vMQeGPAm6C
— 作画を語るスレ公認巡回委員長 (@sakuga_thread) 2018年7月19日
なーにが「アニメ史上最も作画がすごいシーン」だよ、とりあえず「王立宇宙軍 オネアミスの翼」のロケット発射シーンだけ見てくれって pic.twitter.com/i4W7fysndj
— ド (@kotaniko98765) 2018年7月19日
まあ、こういうのは観る人の主観によって意見が異なるんだろうけど、そもそも「アニメ史上最も作画がすごいシーン」とは、どういう条件に基づいて選出しているのだろうか?
「すごい」の定義も人によって解釈がわかれると思うが、例えば僕の中では「すごい作画」を大きく以下のように分類している。
1:ディテールがすごい
2:動きがすごい
まず1は「絵の緻密さ」を比べたもので、「キャラのディテール」や「背景のディテール」など、「画面の密度がどれだけ高いか?」を評価基準にしたものだ。
「キャラのディテール」に関しては、80年代頃までは3段影や4段影を付けまくり「ひたすら画面の密度を上げる方向」に進化していたが、90年代以降は逆に「影なし」というシンプルなキャラへと変わっていった。
一方、「背景のディテール」に関しては、90年代以降もどんどん描き込みが増していき、最近では新海誠のように写真からトレースするパターンも定着し、「キャラがシンプルで背景はリアル」という状況がトレンドになっている。
つまり、「すごい作画」=「ディテールがすごいアニメ」と解釈している人は、近年流行りの「丁寧に描き込まれた緻密な作画」を好む傾向があるのかもしれない。
そして2の「すごい動き」に関しては、さらに3つぐらいの要素に分類できる。
●派手なアクション
まず1つ目は、メリハリの効いた派手な動きで観客を驚かせる「金田系のアニメ」だ。
70年〜80年代に活躍した伝説的なアニメーター:金田伊功が生み出した奇抜なアクションは、他の多くのアニメーターに絶大な影響を与えた。
みんなが金田の「すごい動き」をマネしたため、いつしか金田系の作画スタイルが業界を席巻していったのである。
現在でも今石洋之、小池健、新井淳ら凄腕アニメーターたちが金田系アニメを継承しているが、やはり「すごい作画」を選ぶとすれば、その源流の『バース』になるだろう。
●ぬるぬる動く
そんな金田系のシャキシャキした動きに対し、もっと柔らかくなめらかな作画を追及したアニメが、所謂「ぬるぬる動く」というやつだ。
元々、ディズニーアニメなどは1秒で24枚の絵を描く「フルアニメ」が主流なのだが、日本の場合は経費と時間を節約するため1秒で8枚(3コマ打ち)の「リミテッドアニメ」が多い。
そんな中、海外と同じく1秒24枚(1コマ打ち)や12枚(2コマ打ち)で作られたアニメを見ると、「おお!ぬるぬる動いてる!」「すごい作画だ!」となってしまうわけだ。
もちろん「作画枚数が多い方がいいアニメ」という意味では決してない。ただ、「すごい作画は何がどうすごいのか?」と問われた時、その根拠を示す上で「ぬるぬる動く」という表現は分かりやすいのだろう。
『AKIRA』は基本2コマ打ちで全てが「ぬるぬる動く」わけではないのだが、”すごい作画”には違いない
●芝居がリアル
派手なアクションがあるわけではなく、1コマでぬるぬる動いているわけでもない。でも、キャラクターの動きが自然でとんでもなくリアル!
そんなアニメも「すごい作画」と言われているが、数はあまり多くない。なぜなら、人間の自然な芝居を完璧に描けるような優れたアニメーターは限られているからだ。
昔、宮崎駿が『となりのトトロ』を作る際に「リアリティ溢れる芝居を描けるのは近藤喜文しかいない」と考え、アニメーターの近藤を作画監督に指名したところ、高畑勲も『火垂るの墓』に近藤を参加させようとしたため、両者の間で熾烈な”引き抜き合戦”が起きたのは有名な話である。
結局、近藤は『火垂るの墓』に参加することになるのだが、米を茶碗によそう時の、手首に付着した米粒を舐め食べる動作など、高畑アニメが追究する繊細でリアルな描写の実現は、天才アニメーター:近藤喜文の強く鋭い感受性があって初めて可能だったのだ。
他にも、沖浦啓之や安藤雅司や井上俊之や本田雄など、「芝居を上手く描けるアニメーター」は存在するが、派手なアクションに比べると見た目が地味なので、あまり目立たないのが残念である。
というわけで、「作画がすごいアニメは?」と問われた場合、大抵「ディテールがすごい」とか「動きがすごい」とか、自分の嗜好に合った”すごさ”を基準に選んでいると思われ、そのタイトルは当然バラバラになるだろう。
ただ、「アニメ史上最も作画がすごいシーンはここだ」というツイートに対するコメントを見てみると、『AKIRA』(前半のバイクシーン)、『オネアミスの翼』(ロケット発射シーン)、『マクロスプラス劇場版』(板野サーカス)などを挙げている人が多く、「すごい作画」のイメージもある程度は共通しているのかもしれない。
アニメ史上最も作画がすごいシーンってのはわかんないけど、好きな作画ならある。例えばAKIRA。全体的に人間ができる手間じゃない。 pic.twitter.com/tCRIgTjr0I
— りん¿う (@99_f4_asuka) 2018年7月19日
アニメ史上最も作画がすごいシーンって流行ってるらしいけど僕的にはマクロスプラスかなぁ
— オダンゴ (@odango0506) 2018年7月20日
5秒間にセル画161枚(うろ覚え)枚突っ込んだのってこれくらいだと思う pic.twitter.com/sFuhnv96Mg
アニメ史上最も作画がすごいシーンの話やけど日本のアニメに限って言うならイノセンスの沖浦啓之氏が担当したこのシーンやろうね、日本のアニメーターにこの天才を超える人は現れるのだろうか…? pic.twitter.com/4PZ4moVauA
— お肉大好き (@sakagami1989pi1) 2018年7月19日