どうも、管理人のタイプ・あ〜るです。
現在、全国の劇場で絶賛上映中の戦争映画『ダンケルク』は、クリストファー・ノーラン監督の最新作として全国444スクリーンで公開され、オープニング2日間の観客動員数が22万人、興行収入3億2000万円を記録しました。
これは、最終的に12億5000万円を記録した『インターステラー』(2014年)と比較した場合168%の好スタートで、さらにIMAX上映版を鑑賞する人の割合も多く、最終興収は20億円以上が期待できる状況だそうです。
今のところ公開6週目ですが、動員数は100万人を突破し、興収も16億円に迫る勢いで増え続け、まだまだ客足は衰えを見せていません。
そんな『ダンケルク』、僕は初日に観に行って「面白い!」と思ったんですが、意外と世間の評価は賛否両論真っ二つ…というか、ハッキリ「つまらない」と批判している人も少なくないんですよね。
実は、一緒に観に行った友人の江須田君(仮名)も「つまらない」という評価で、しかもその理由を聞くと「う〜ん、そうか…」と思えるような意見だったんですよ。
ちなみに江須田君は「映画を観る前に出来るだけ情報を入れない主義」の人で、映画の内容や設定などはもちろん、予告編すらも「ネタバレになるから見ない!」というぐらい徹底しているのです。
もちろん、「新鮮な気持ちで映画を楽しむために可能な限り白紙の状態で鑑賞したい」という、その姿勢自体を否定するつもりはありません。
しかしながら今回の『ダンケルク』に限っては、江須田君の「あらゆる事前情報を完全に遮断するスタイル」が逆効果になってるような気がするんですよねえ。
というわけで本日は、『ダンケルク』に関する僕(管理人)と江須田君の感想を対話形式で取り上げ、「どこがどうつまらなかったのか?(あるいは面白かったのか?)」を検証してみたいと思います(なお、江須田君は口は悪いけど根はいいヤツなので、ダンケルク・ファンの人も生温かい目で見てあげてくださいw)。
■あらすじ『フランス北端ダンケルクに追い詰められた英仏連合軍40万人の兵士。背後は海、陸・空からは敵。そんな逃げ場なしの状況でも、生き抜くことを諦めないトミーと若き兵士たち。一方、母国イギリスでは海を隔てた対岸の仲間たちを助けようと、民間船までもが動員された史上最大の救出作戦が動き出そうとしていた…。フィン・ホワイトヘッド、ハリー・スタイルズ、アナイリン・バーナード、ジャック・ロウデンら若手俳優たちが目覚ましい活躍を見せ、ケネス・ブラナー、キリアン・マーフィー、マーク・ライランス、トム・ハーディらベテラン勢が彼らを支える絶妙なキャストが実現したクリストファー・ノーラン監督の最新作!』
※以下の文にはネタバレが含まれています。未見の方はご注意ください!
管理人:江須田君は、この『ダンケルク』を観て「つまらない!」って言ってたじゃん?具体的にどこがどんな風につまらなかったの?
江須田:ん〜、いくつか理由はあるんだけど、まず「圧倒的に説明が足りてない」ってところかなあ。冒頭、いきなり主人公が逃げてる場面から始まるじゃない?彼が今どういう状況に置かれてて、周りはどんな戦況になっているのか、娯楽映画なら当然あるべき説明がほとんどない。「もの凄く不親切な映画だな」と思ったよ。
管理人:まあ、確かに説明的な場面はないし、セリフ自体が極端に少ない映画だからねえ。でも、ノーラン監督は敢えてそういう説明シーンを排除して、戦場の兵士たちが体験した恐怖をダイレクトに伝えたかったわけだから…。
江須田:いや、確かに「いきなり戦場へ放り込まれた時の恐怖を観客に体験させたい」って狙いは分かるんだけど、だとしてもやっぱり全体的な状況が分かり難いよね。
管理人:う〜ん、だったら「ダンケルクの戦い」がどういうものなのか、1940年代のドイツ・フランス・イギリスの情勢や、時代背景を事前にチェックしておくべきだったんじゃないかな?
江須田:オイオイ、なんで映画を観る前にそんなことをいちいち調べなきゃいけないんだよ!そもそも戦争映画の歴史について調べたりしたら、話のオチが全部分かっちゃうじゃん!完全にネタバレだよ!
管理人:ええ〜?だったら第二次大戦の映画を観ている人に「日本が負けるぞ」って教えたらネタバレになるの?「織田信長は本能寺の変で死ぬぞ」って言うのもネタバレ?歴史的事実にネタバレもクソもないだろ(笑)。
江須田:いいや、納得できない!こっちは初めて観る作品の感動を存分に味わいたいがために、出来るだけまっさらな状態で鑑賞しようとしてるのに!
管理人:まあ確かに、「映画を観る前にはなるべく作品の情報を入れたくない」って気持ちは分かるけどさ。でも、『ダンケルク』の場合は、ある程度の予備知識を入れておいた方が楽しめる、そういうタイプの映画だからねえ。
江須田:説明不足の責任を観客に押し付けるのかよ!?だいたい、この映画ってストーリーが地味すぎるだろ。「大勢の兵士がイギリスへ撤退する」だけじゃん。戦争映画なのに、主人公側が反撃するシーンもほとんど無いし。
管理人:だって、それが「ダンケルクの戦い」だもの(笑)。「ドイツ軍に追い詰められたイギリス兵たちが本国への撤退を余儀なくされる」という前提がまずあって、彼らを救出するための「ダイナモ作戦」を描いた話だから、「逃げてるだけ」なのは当り前だよ。要は、「戦争映画」というより「脱出映画」なんだよね。ノーラン監督も「『ダンケルク』は時間との戦いを描いたサスペンスであり、人々が生き残ろうとする姿を描いたスリラーだ」と言ってるし。
江須田:いや〜、いくら実話ベースと言っても登場人物は”創作”じゃんか?だったらもっとキャラの背景を掘り下げるとか、活躍シーンを増やすとか、描き方次第でいくらでも面白く見せられるでしょ?って言いたいわけよ。普通、”娯楽映画”って「困難な状況に直面した主人公が、内的・外的な成長を経てクライマックスで活躍する」みたいな展開がセオリーじゃない?でも、本作にはそういうカタルシスが一切ない。若い兵士(トミー)はただ「故郷へ帰ろう」と右往左往しているだけで、自らの意思で主体的に状況を変えるような展開が全くないからね。結局、あいつ何もしてないやんけ!と。だから、最後まで観ても「なんじゃこりゃ?」って感想しか出て来ないのよ。
管理人:なるほど、つまり君は「起承転結のハッキリしたコテコテの痛快娯楽戦争アクション」を観たかったわけか。確かに『ダンケルク』はそういう映画ではないかもね。
江須田:やっぱ問題はキャラクターだよ。特に主人公の若い兵士。あいつ何考えてるか分からないもん。セリフも少ないし、バックボーンもはっきりしないしさ。パイロットやボートで救助に向かうおっさん(ドーソン)はまだいいんだよ。行動を見てると気持ちが分かるから。でも、あの若い奴には全然感情移入できなかった。もうちょっと主人公らしいことしろよ!ってイライラするんだよね。
管理人:え〜、そうなの?僕は逆にトミーのこと好きだけどなあ。冒頭の歩いてるシーンで、ドイツ軍が空からばら撒いたビラを手に取るじゃない?何かと思ったら、いきなりズボンを降ろしてウンコしようとするんだよね。「なるほど、ケツを拭く紙か!」と(笑)。今までの戦争映画でそういう描写は観たこと無かったからとても斬新だった。「そりゃ戦争中でもウンコはするよな」って(笑)。結局そこではウンコ出来ず、海岸まで移動するんだけど、そっちでも人に見つかって気まずい空気になったり、もの凄く人間的なキャラクターとして描かれてて、僕は凄く好きなんだよねえ。
江須田:あと気になったのは、ドラマ性が薄いこと。何の起伏もないんだもん。例えば、「主人公と仲間の兵士との間に友情が芽生えるものの、彼がドイツ軍の捕虜になってしまう。そこで主人公は大切な友人を助けるために危険を顧みず、命懸けの戦いに身を投じる!」とか、そういう”熱いドラマ”が欲しかった。
管理人:それもう完全に『ダンケルク』じゃなくなってるよ!
江須田:いや〜、史実を元にした戦争映画でも、起承転結は必要だと思うぞ。盛り上がるところでしっかり盛り上げてくれないと、退屈でしょうがないもの。
管理人:迫力満点の戦闘シーンに興奮しなかった?僕はずっと緊張感を持って観てたんだけど…。
江須田:正直、物足りなかった。イギリス兵側は一方的にやられているだけで”対戦”になってないし、派手に爆撃されても血しぶき一つ上がらないし。『プライベート・ライアン』や『ハクソー・リッジ』の壮絶な戦闘シーンに比べたら全然ショボいよ。
管理人:その辺もノーラン監督の意図なんだけどなあ。監督は『ダンケルク』を撮る前に『プライベート・ライアン』を観直して、「あれは今観ても素晴らしい戦争映画だけれど、自分の目指しているものとは方向性が違う」と判断し、敢えて残虐なシーンを外したんだよ。ただ、それでも映像的な迫力は十分にあったと思うけど…。
江須田:もちろん、「映像」や「音」は凄かったよ。でも、それはただ単に「起こった現象を見せているだけ」だから、こっちの感情は揺さぶられないんだよね。なんていうか、ドキュメンタリーを観ているような感覚に近いのかなあ…。つまり、”状況”を見せられただけでは”劇映画”としての感動は生まれないってわけ。やっぱ”劇映画”として制作する以上、「映像」や「音」だけでなく、「作劇」でも観客の心を揺さぶらないと意味がないと思う。「凄い!」と「面白い!」は違うんだよ。
管理人:う〜ん、分かったような分からないような…。
江須田:あと、「陸」「海」「空」それぞれの地点の時間軸をちょっとずつズラしながら見せてるじゃん?あの演出も酷かったな〜。最初に「防波堤 1週間」みたいなテロップが出るけど、あれだけじゃどういう意味なのか分かんねーよ!
管理人:いやいや、観てれば普通に理解できるでしょ(苦笑)。まあ、僕は事前に「時間軸の設定」を知ってたから混乱はしなかったけど。
江須田:そもそも、あんな構成にする必要あったのか?陸が1週間、海が1日、空が1時間という割合なら、まず陸の様子を6日分描き、7日目で海、そして最後に空の様子を順番に見せていけばいいじゃない。わざわざ時間軸を入れ替えて無駄に複雑な構成にしなくてもいいんだよ!
管理人:いや、僕はあれで良かったと思う。例えば、若い兵士(トミー)が海で死にそうになっている次のカットでパイロット(ファリア)の空中戦を描いたり、「これから起こる出来事」を先に見せてるじゃない?つまり、観客に「未来の状況」を断片的に見せることによって、「あ!さっき見たシーンはここに繋がるのか!」みたいな、映画の進行とともにパズルのピースが1個1個はまっていくような快感を得られるわけで、だからこそ劇中の緊張感が最後まで持続してるんだよ。もしあの構成じゃなかったら、最初の若い兵士のくだりを延々6日分見せられるんだよ?そっちの方がキツくない?
江須田:う〜ん、そう言われればそうかもしれないけど…。じゃあ、逆にお前はこの映画のどこが良かったと思う?
管理人:やっぱり本物のスピットファイアを使って撮影した空中戦かな。あれは本当に迫力があったなあ。3機揃って救助船の真上を飛んで行くシーンもカッコ良かったし、海のシーンでは当時のボートや本物の駆逐艦を浮かべて撮影してるし、全体的なリアリティが凄まじいよ。
江須田:ミリオタの感想じゃん!映画の出来とは関係ねーだろ!それに、ノーランの「本物志向」も俺は気に入らないんだよね。いや、「CGを使わずに実物で撮影」ってのはまだ分かる。でも、「当時使用されていた本物」を使う必然性はないんじゃないか?似た機体を加工したり、ミニチュア模型を使って撮影しても効果はそれほど変わらないだろ?「当時使われていた本物を使わなきゃこのリアリティは出せない」っていうのは単なる思い込みで、それはもうノーランの自己満足だよ!
管理人:デヴィッド・エアー監督の『フューリー』では本物のティーガーI戦車を使ったり、スピルバーグの『プライベート・ライアン』でも戦時中に使用されていた本物の軍服や装備や車両を使ったり、本物を使いたがる監督はノーランだけじゃないよ。黒澤明だって、時代劇を撮る時は出来るだけ本物を使ったっていうし、「リアルで精密なディテール」を追及したら最終的には本物に行き着く、ってことじゃないかな?そのこだわりが観客に伝わるかどうかは分からないけど、少なくとも作り手のモチベーションは確実に上がると思う。
江須田:だから、それを”自己満足”って言うんだよ!
管理人:それから、『ダンケルク』では40万人の兵士をエキストラで再現しようとしたら全く人数が足りなくて、仕方なくダンボールを人型に切り抜いて撮影してるからね。メイキングを見たら「舞台の書き割り」みたいなものをエキストラの人たちが運んだりしてて、とても大作映画とは思えない。そういう、アナログで手作り感が満載なところも良かったなと(笑)。
江須田:そんなことするなら潔くデジタルを使えよ!つーかCGの方がよっぽど早いし安上がりだろ!しかも全然40万人に見えないし!
管理人:あと、アレックス役のハリー・スタイルズが撮影初日に現場へ行ったら、ノーラン監督に「ブーツの紐の結び方が違う」と指摘されたんだって。「イギリス軍の兵士は紐を交差させず、ループ状に結ぶんだ」と。
江須田:細かすぎる!そんなの絶対に誰も気付かんぞ!
管理人:そして海のシーンで活躍したムーンストーン号は、1939年に建造された小型船を撮影用に購入し、美術チームが船室に当時の本や古い小物を集めて並べたんだって。ドーソン役を演じたマーク・ライランスが引き出しを開けたら、実際に1940年代の品々が入ってて驚いたらしいよ。引き出しを開けるシーンなんか無いんだけどね(笑)。
江須田:意味ねえだろ!
管理人:結局、ノーラン監督の「本物主義」っていうのは”物”だけじゃなくて、当時の”状況”までそのまま忠実に再現しようとしているところが凄いんだと思うな。ロケも本物のダンケルクの浜辺でやってるし、おまけに実際の「ダイナモ作戦」が実施された5月27日から6月4日に合わせて、わざわざ撮影スケジュールを組んだらしい。そこまで徹底的にこだわるからこそ、あれほどの臨場感が出せたんじゃないかなあ。「神は細部に宿る」って言葉があるけど、ノーラン監督が実践しているのはまさにそういうことなんだよ。
江須田:……マジかよ。クリストファー・ノーラン完全にどうかしてるな。
管理人:まあ、確かに「本物を使っているからいい映画」ってことではないと思う。それは映画の評価とは別だから。でも僕は「観客を戦場の真っ只中に放り込みたい」というノーラン監督の意図がきちんと伝わったので、十分に「面白い」と感じたけどね。
江須田:う〜ん、結局”そういう映画”として楽しむしかないのか…。
管理人:そもそもノーラン監督はこれを”戦争映画”として撮ってないからね。さっきも言ったように本作は「敵がどんどん迫り来る中、果たして主人公たちは逃げのびることが出来るか?」という”タイムリミット・サスペンス”なわけで、いわゆる「大勢の敵味方が入り乱れて戦う戦争映画」とは根本的にフォーマットが違うんだよ。恐らく『ダンケルク』を「つまらない」と感じた人って、そういう”一般的な戦争映画”をイメージしてたんだろうけど、実際に観てみたら「あれ?思ってたのと違う!」みたいな、ギャップに戸惑ったんじゃないかなあ。
江須田:なるほど…。「ラーメンを食べようと思って店に入ったらカレーを出された」みたいなもんか。それは確かにガッカリするわ。
管理人:あと、君は「ドラマ性が薄い」って言ってたけど、キリアン・マーフィーと少年のエピソードとか、燃料ギリギリのスピットファイアで飛んでいるトム・ハーディが、仲間たちを救うために限界まで戦闘を続けるシーンとか、ドラマ的な見どころも結構あったと思うよ。ラストの「燃えるスピットファイアを見つめる場面」なんかもグッときたし。
江須田:俺は、若い兵士がジャムを塗ったトーストを食べるシーンが印象に残ってる。「あのジャムパンうまそうだな〜」って。
管理人:そこかよ(笑)。