昨日、金曜ロードSHOW!にて『デイ・アフター・トゥモロー』が放送された。監督は、「人類が大変な災害に襲われてエラいこっちゃ!」な映画(いわゆるディザスター・ムービー)で良く知られているローランド・エメリッヒだ。
エメリッヒ監督といえば、超巨大UFOが地球に攻めて来るSF映画『インデペンデンス・デイ』で観客の度肝を抜きまくり、以降、良く言えばスケールのでかい、悪く言えば大雑把な映画ばかり撮っているイメージだが実際はどうなのだろう?
というわけで、本日はローランド・エメリッヒ監督の過去の作品歴について色々と書いてみますよ。
●『MOON44』(1990年)
ドイツ生まれのエメリッヒ監督は、地元の芸術大学を卒業後、映画アカデミーでプロダクション・デザインを学び、卒業制作として長編映画『スペースノア』を初監督。その後、マイケル・パレやマルコム・マクダウェルらを主演に迎えて撮ったSF映画が『MOON44』だ。
内容は「“44番目の月”と呼ばれる荒廃した惑星を舞台に、戦闘ヘリコプターを操る男の孤独な戦いを描いたアクション映画」で、この作品には後に脚本家としてコンビを組むディーン・デヴリンが俳優として参加している。
当時、アメリカで売れない役者をやっていたデヴリンは、出稼ぎでドイツへやって来て『MOON44』に出演することになったものの、あまりにもシナリオが酷かったため、「せめて僕のセリフだけでも自分で書き直していいですか?」とエメリッヒに確認し、OKをもらう。
すると数日後、デヴリンが泊っていたホテルの部屋にエメリッヒが訪ねて来て、「他の俳優達から”どうしてあいつだけまともなセリフを喋ってるんだ!”と苦情が出ている。悪いけど、他のセリフも全部書き直してくれないか」とデヴリンに依頼。こうして、監督:ローランド・エメリッヒ、脚本:ディーン・デヴリンの最強コンビが誕生したのである。
●『ユニバーサル・ソルジャー』(1992年)
『MOON44』はあまりヒットしなかったもののビデオがそこそこ売れたので、エメリッヒ監督はジャン=クロード・ヴァン・ダムとドルフ・ラングレン主演の『ユニバーサル・ソルジャー』をオファーされる(低予算ながらも実質的なハリウッド・デビュー作)。
本作でディーン・デヴリンは脚本のリライトを担当し、さらに制作現場に張り付いて全ての行程を体験(この経験をもとに次回作の『スターゲイト』ではプロデューサーも務めることになる)。なお、映画は1億200万ドルのスマッシュヒットを記録し、エメリッヒには次々と監督の依頼が舞い込むようになった。
●『スターゲイト』(1994年)
本作は大物監督の仲間入りを果たしたローランド・エメリッヒが手掛けた初の超大作映画である(製作費5500万ドル)。「古代エジプトの遺跡から、異星人の残した”スターゲイト”と呼ばれる謎のリングが発掘される」という、エメリッヒが学生時代から温めていたネタを、オカルト好きのディーン・デヴリンが脚本に書き直した。
また、本作は『2001年宇宙の旅』の影響も受けており、「スターゲイト」という名前は『2001年〜』の主人公が異星人の作ったワープ装置に突入して宇宙の彼方へ飛ぶシーンから拝借している。この作品は1億9600万ドルの大ヒットを記録し、エメリッヒの評価はますます高まっていった。
●『インデペンデンス・デイ』(1996年)
今でこそ有名な映画だが、当初20世紀FOXは『インデペンデンス・デイ』というタイトルに反対していたらしい。なぜなら、ワーナーブラザーズが『Independence Day』という恋愛映画を1983年に製作していたため、FOXはワーナーから題名の使用権を買い取らねばならなかったからだ。
しかし、すでにVFXその他で巨額の費用を投じており、FOXとしてはタイトルにまでお金を掛けたくなかった。そのため、公開ギリギリまで『Independence Day』という言葉を使わず、『ID4』という奇妙な略号がポスターや予告編に使われていたのである。
ちなみに、巨大宇宙船の攻撃でニューヨークの街並みが炎の海に飲み込まれるシーンは、当初CGで作られる予定だったが「費用が掛りすぎる!」と反対されたため、ミニチュア模型で作った街並みのセットを縦に設置し、カメラを真上にセットして下から炎を吹き上げる、という方法で撮影。
この「CGを使わないアナログ特撮」が見事な効果を発揮し、「F/A-18と小型宇宙船の追跡シーン」なども全てミニチュアで撮影された(なお、これを観た樋口真嗣は”ニューヨークの街並み”を”渋谷”に置き替え、『ガメラ3』でほぼ同じビジュアルを再現している)。
興行収入は日本だけで66億円、全世界で8億ドルを超える特大のメガヒットを記録し、エメリッヒ監督の評価は決定的なものとなった。
●『GODZILLA』(1998年)
日本が世界に誇る怪獣王ゴジラを、ハリウッドが完全リメイク!…などと公開前は期待が煽られたものの、出来あがった映画は「突然変異で巨大化したイグアナが米軍の攻撃から走って逃げる」という、全国のゴジラファンが「コレジャナイ!」と絶叫するような残念すぎる仕上がりだった。
エメリッヒ監督はエンパイア誌のインタビューにて、「ゴジラには全く興味がなかったので4回断った。しかしそれでも強く要望されたため、いい加減な脚本とデザインを提出し、”これなら向こうから断るだろう”と思っていたらゴーサインが出てしまい、仕方なく引き受けた」とコメント。ひどい話だ。
ただし、フルCGや巨大なアニマトロニクスで作られたゴジラの造形は非常に素晴らしく、「『ゴジラ』と思わなければそれなりに面白い」と擁護する声もチラホラ。なお、日本では興行収入30億円を超える大ヒットを記録している。
●『パトリオット』(2000年)
メル・ギブソンを主演に迎え、18世紀のアメリカを舞台に独立戦争におけるドラマを描いた歴史超大作。内容は悪くないが、「巨大UFO」も「巨大怪獣」も出て来ない”真面目な映画”だったため、今までのエメリッヒ作品を期待していたファンにはイマイチ受けなかった模様(1億1000万ドルの製作費に対し、興収は2億1000万ドルと微妙な結果に…)。
●『デイ・アフター・トゥモロー』(2004年)
「やはりローランド・エメリッヒ監督はディザスター・ムービーを撮らなきゃダメなんだよ!」と批判されたからなのか、再びお得意の災害映画へ挑んだ本作。さすがにパニック描写は迫力満点で、観客も大興奮。結果、全世界で5億4000万ドルを売り上げ、日本でも3週連続1位に輝き、52億円の大ヒットを記録した。なお、”デイ・アフター・トゥモロー”で検索すると、時々歌手のmisonoが引っ掛かってくるので要注意。
●『紀元前1万年』(2008年)
「紀元前1万年の世界を舞台に繰り広げられる壮大な歴史アドベンチャー!」と聞いて「さぞかしスケールの大きな物語なのだろう」と思いきや、意外と個人的な話で拍子抜け。観客の評価もイマイチで、興行的には『デイ・アフター・トゥモロー』の半分に留まった(フルCGのマンモスやサーベルタイガーは良かったが)。
●『2012』(2009年)
「ちくしょう!もうディザスター・ムービーしか受けないのかよ!?」と本人が思ったかどうかは分からないが、再度”人類滅亡系の映画”に挑んだエメリッヒ監督。破壊描写が極まり過ぎて、「もしかしてやけくそになってるのでは?」と不安になるほど、ビルの倒壊・火山の噴火・大規模な地割れ等、次々と繰り出される災害のビジュアルが凄まじい!結果、全世界で7億6900万ドルのメガヒットを記録し、「やっぱエメリッヒはコレだよな!」と改めて認識させられた。
●『もうひとりのシェイクスピア』(2011年)
…と思ったら今度は「史上最高の劇作家シェイクスピアは実は別人」という大胆な仮説に基づいた歴史ミステリーを製作。評価は悪くなかったものの「いやいや、エメリッヒ監督には誰もそういうの求めてないから」という世間の声を反映してか、興収わずか1500万ドルと大コケ。
●『ホワイトハウス・ダウン』(2013年)
SFでもディザスターでもなく、「ホワイトハウスがテロリストに占拠される」という”ホワイトハウス版ダイ・ハード”みたいな本作。割と面白かったが、「この手の映画は他の監督も撮ってるからなあ」という感じは否めない。
なお、同時期に『エンド・オブ・ホワイトハウス』というほぼ同じ内容のアクション超大作が公開され、「あれ?どっちの映画だっけ?」と混乱する観客が続出した模様。
●『ストーンウォール』(2015年)
1960年代、ゲイの若者たちがN.Y.グリニッジ・ビレッジに集い、苦悩と自由を叫んだ”ストーンウォ-ルの反乱”について、自身もゲイであることを公言しているエメリッヒ監督が力強く描いた愛と反乱の感動作。
しかし世間の評価はかなり厳しく、「頭が麻痺するほど粗末な映画」、「『紀元前1万年』よりも歴史考証が不正確」などと批判が殺到したらしい(興収はたったの29万ドルで、エメリッヒ監督の過去最低記録を叩き出す)。
●『インデペンデンス・デイ・リサージェンス』(2016年)
前作から20年後の世界を描いた続編だが、内容的には前作に遠く及ばない残念な出来栄えに…。ウィル・スミスが『スーサイド・スクワッド』の撮影で参加できず、死んだことにされていたのもガッカリ。なお、製作費は過去最高の1億6500万ドルを記録したものの、興行収入は前作の3分の1の2億7000万ドルしか稼げず撃沈している。
というわけで、ローランド・エメリッヒ監督のフィルモグラフィをざっくり振り返ってみたんだけど、「やはりこの人はディザスター・ムービーが一番得意なんだなあ」と思わざるを得ない。
よくマイケル・ベイ監督と比較されがちだが、エメリッヒ監督が時々”真面目な映画”を撮っているのとは対照的に、ベイ監督は一貫して派手なアクション映画を撮り続けている。
もしかするとエメリッヒ監督の中では「いつまでもそういう作風ばかりではダメだ」という思いがあるのかもしれないが、「真面目な映画を作る」 → 「コケる」 → 「派手な映画に戻る」というサイクルを何度か繰り返している印象だ。
なので、もうそろそろ開き直って「とことんディザスター・ムービーを極めてやるぞ!」的な体制になってもいいのではないだろうか。マイケル・ベイみたいに(^_^)