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伝説のアニメーター、金田伊功について語る

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今から8年前の2009年7月21日、一人の偉大なアニメーターがこの世を去った。激しいパース、ほとばしる光線、叩きつけるような情熱的アクション。画面からはちきれんばかりの凄まじいエネルギーでアニメ映像史に革命をもたらした伝説の男、その名は金田伊功!

「金田伊功って誰?」「読み方がわからん」という人でも、『サイボーグ009』や『銀河旋風ブライガー』や『魔境伝説アクロバンチ』や『機甲創世記モスピーダ』などのオープニング原画を描いたアニメーターと言えば、分ってもらえるのではないだろうか?

あるいは、『風の谷のナウシカ』、『天空の城ラピュタ』、『となりのトトロ』、『紅の豚』、『もののけ姫』など、宮崎駿監督の作品で優れた原画を披露し、宮崎監督から「原画頭(げんががしら)」という称号をもらった唯一のアニメーター、といった方が伝わりやすいかもしれない(ちなみに「かなだよしのり」と読みます)。

まさに日本のアニメシーンにおけるアクション作画を一変させ、多くのアニメファンに動きの楽しさを伝えたカリスマ・アニメーターなのである。直接的にも間接的にも、彼の影響を受けた人は数多く、「金田伊功がいなければ、日本のアニメはまるで違ったものになっていただろう」と言われるほどだ。

個性的なポーズや怒涛のアクション、パースを強調したレイアウト、スピード感溢れる独特のタイミング、そして何より、それらが渾然一体となって生まれる動画の快感の素晴らしさ!金田伊功が描き出すアニメには、紙の上に描かれた絵が生き生きと自由奔放に暴れ回る感動とカタルシスがあったのだ。

ことに炎、爆発、光線といったエフェクトアニメーションの分野では、金田は理屈を越えたイメージを動きで表現し、不定形なものを生き物のように描いて観客を魅了した。ほとばしるエネルギーに満ち溢れた金田エフェクトは、人間の想像力を直接的に視覚へ転換した点で、まさに「純アニメーション」と呼べる芸術性を備えていたのである。『銀河旋風ブライガー』のオープニングには、そんな金田伊功の全てが詰まっていると言っても過言ではない。

ちなみに以前、NHKで放送された『BSアニメ夜話』(2004年9月6日放送回)にて、アニメ評論家の氷川竜介が『ブライガー』のOPを取り上げ、金田作画について詳しく解説していたことがある。それが結構面白かったので、以下にコメントの一部抜粋↓

コックピットに座ってるシーンがありますよね?このシーンを見ると一番手前にいるキャラは上からのアングル、奥のキャラは下から撮っている。そして女の人は、何だかよくわかんないけどニュートラルな位置にいます(笑)。


普通、こういうレイアウトだと絶対一枚の絵に収まらないはずなんですよ。でも、こんな絵を平然と描いてしまうところが凄い。しかも描くだけじゃなくて、このゆがんだパースのまま動かしてしまう。ゆがんだ絵がこうグルっと回る感覚が、普通のイマジネーションでは決して描けない金田さん独特のものなんですよ。

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通常、アニメーションにおける表現は、出来るだけ自然に見えるように描くものだ。しかし、金田伊功のアニメは彼自身のイメージとセンスが生み出した独特の空間と運動法則に基づいたもので、世界中で金田しか描けないと言ってよいほどのオリジナル世界を内包していたのである。

なお、金田伊功の描いたオープニングがあまりにも素晴らしすぎたため、当時は本編とのギャップに戸惑いを隠し切れないアニメファンが続出したらしい(島本和彦著『アオイホノオ』より↓)。

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そんな金田の画面作りは極めてユニークだった。手前にあるものを極端に大きく描いたり、人物を斜めに立てたり、ポーズも背中を丸めたり、ガニマタになったり、手首を異様な角度に曲げたり、必ずデフォルメして描いている。

さらに人物だけでなく、ジグザグに空間を乱れ飛ぶ光線や球になってはじけ飛ぶ爆発など、あらゆる動きにメリハリがついており、それが観る者に不思議な快感を与えていたのだ。

当時のアニメファンは金田伊功の描き出す特殊な動きやタイミングに酔い痴れ、テレビ画面に釘付けとなった。そして同時に、多くのクリエーター達に衝撃を与えたのである。では、金田伊功が生み出した革命的な作画技術とはいかなるものだったのか?以下、具体的に上げてみよう。


その1:金田パース

パースとは「遠近法(パースペクティブ)」のこと。金田の構図は超広角レンズ的で、手前の物はより大きく誇張され、奥行き感を広くとらえている。また構図の形としては安定感のある三角形が基本(ただし描いている本人は特に意識しておらず、「自然にこうなった」とのこと)。金田パースは空間が歪んでいるかのような錯覚すら与えるが、これが画面に奇妙な迫力を生み出しているのだ。

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その2:金田光

金田は光のとらえ方も特徴的だ。逆行で撮影したときに発生するレンズゴーストのような”丸”や”十文字”の光を特殊効果で入れ、それを微妙に動かすことで快感を引き出している。きっかけは『大空魔竜ガイキング』の最終話で、「何か面白いことできないかなあ」とセロテープの丸を利用して線を描いたことがきっかけらしい。以来、メカの人工的輝きや静止場面等に多用している。

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その3:金田爆発

”爆発の金田” それが最初に彼につけられた呼び名だった。なぜそれほど爆発にこだわったのか?金田曰く、「キャラはキャラ設定通りに描かなければいけないという原則がありますが、僕が描くと似ないんですよ(苦笑)。でも爆発には決まりがないから何をやってもいい。制約がないので自由に楽しんで描いてました」とのこと。

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エネルギーが開放され、炎が噴きあがってくる力強さはたしかに”爆発の金田”と呼ぶにふさわしい。爆発はうまく使えば画面を彩る”華”となり得る素材。金田は生命のないはずの炎や爆発も生き生きと動かし、観客を驚かせ、感動を何倍にも増幅させた。そのとらえ方も、球体を基本に吹き上げ、崩れる様が実に緻密。自然現象をベースにイメージで膨らませているのだろう。

その4:金田ポーズ(金田飛び)

金田の作画を語る時に欠かせない特徴が、キャラやメカの独特のポーズだ。拳を握り締め腕を広げ、ガニマタで小首をかしげるポーズは、無機質なメカをも魅力的に見せる。手首足首を思いっきり湾曲させ、ジャンプするときにも必ずガニマタになるなど、一度見たら忘れることができないほどの強烈なインパクトを放つ。ロボットアニメで定番のポーズもここから生まれたのだ。

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その5:金田カゲ

照明を意識した「光と影」の演出は映像の基本だが、金田の塗り分けによる表現は実にユニークだ。うねるように絡みつくように、迫力を優先して描かれたメカのハイライト。大胆にグネグネとした線でつけられた影。しかも、逆行ぎみにつけたり、表面に沿って亀裂が入ったように処理している。大きな金属の表面が、微妙なひずみで光の反射が圧縮され屈折する様子を、色の塗り分けで表現したのだ(この表現は、後に「ワカメ影」と呼ばれ、多くのアニメーターに模倣された)。

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その6:金田ビーム

金田のビームの描き方は”ほとばしる”といった、チカラのタメが感じられる。決してまっすぐには落ちず、まるでカミナリが地上に落ちるときのように、シグザグに乱れ飛ぶ光線。実にパワフルでメリハリの効いた走り方をしている。

まず発射光が膨れ、続いてパワーをタメるように光が広がり、収束して直線状に飛ぶ。最後に崩れるコマを入れることで光線の勢いを表現しているのだ。円形からいったん崩れて直線になる独特のビーム表現は、直線以外にも”タメ”を感じさせる歪んだパターンをランダムに取り入れ、迫力を強調している。

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その7:金田流線

金田は東映動画時代に劇画ブームの洗礼を受けたらしい。その結果、本来は静止したコミックの手法である集中線や流線をアニメに取り入れるようになった。激しく動く物体の残像や空気の流れ、物体がぶつかった時の衝撃、空間の奥行きなど、バトルの表現に流線が入ることで独特の迫力やスピード感が加わったのだ。

また、登場人物の驚きや感情の爆発など、精神的な描写にも使用されている。不可視なものを画面からほとばしるように表現するためのテクニックなのだろう。アニメの正統法ではないが、効果は間違い無く向上している。以後、様々なアニメで同様の技法が取り入れられた。

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このような金田伊功の作画テクニックはアニメ業界全体に衝撃を与え、80年代は金田の作画をマネるアニメーターが続出した。ひどい時には、『さよなら銀河鉄道999』が劇場で公開されたとたんに、テレビで女王プロメシュームのエフェクトが丸ごとパクられる、などということも日常茶飯事だったらしい。

当時は、どのスタジオでもアニメーターは皆「金田のコピー」という状況であり、金田の技術は物凄い勢いでアニメ界に浸透していったのである。それが「金田フォロワー」と称されるアニメーターたちだ。有名なクリエイターでも金田の影響を公言する人物は多く、後継として独自のエフェクトや動きを発見する者も出現。この流れがアニメ作画の歴史に劇的な進化をもたらしたのである。

金田の影響を受けたエフェクト・アニメーターと言えば、鍋島修、亀垣一、越智一裕ら直系の弟子筋たちを筆頭に、山下将仁、大張正己、摩砂雪、板野一郎、いのまたむつみ、橋本敬史、毛利和昭、吉田徹、逢坂浩司、わたなべひろし、上妻晋作、田村英樹、大平晋也、いまざきいつき、渡部圭祐、長谷川眞也など、枚挙にいとまが無い。

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山下将仁は金田系作画を『うる星やつら』に持ち込み、奇想天外なアクションで一世を風靡した。

そんな中で、ちょっと意外に思える人物が庵野秀明だ。ご存じ、大ヒット作『新世紀エヴァンゲリオン』の監督として有名な庵野だが、元々は超一流のエフェクト・アニメーターであり、『オネアミスの翼』のロケット打ち上げシーンなど、数々の優れた作画を担当している。

しかし、彼の描くアニメはどちらかと言えば”リアル志向”で、ハッタリ全開の金田アニメとは全く異なる印象を受けるのだ。本人も「僕のアニメの師匠は宮崎駿で、影響を受けたアニメーターは板野一郎です」と公言しており、金田伊功との接点はあまり感じられない。

だが、2009年8月30日に行われた「金田伊功を送る会」で、庵野秀明は多くの業界関係者と共に、金田とのエピソードについて語っている。『風の谷のナウシカ』で金田と一緒に仕事をした庵野秀明は、アニメーターとしてずっとあこがれだったことを話し、金田の作画がいかに素晴らしいか、涙を堪えながら語っていた(以下、その一部を引用↓)。

金田さんの作画をビデオに録って何度もコマ送りで見ました。もう何度見たか分かりません。しかし、コマ送りで1コマずつ模写して角度まで似せても、金田さんの描いた動きは再現できないんです。そっくり同じに描いているのに、どうしてもタイミングが合わない。結局マネしきれず、コマとコマとの繋がりは分かりませんでした。今でも分かりません。でも、だからこそ素晴らしいのだと思います!

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金田伊功がアニメーターとして世に登場してから既に40年以上が経過している。その間、アニメの技術は著しい進歩を遂げ、CGが全面的に導入されるなど作画環境は大きく様変わりしてきた。にもかかわらず、近年も金田は多くの若手アニメーターたちからリスペクトされる存在であり続けている。彼らは「金田フォロワー」を入り口として、更にオリジナルに遡って作画の研究を重ねた「孫世代」のクリエイターたちだ。

中でも、今石洋之、小池健、雨宮哲、村木靖、新井淳、吉成曜らは時に「本家」と見紛うばかりの強烈な作画を披露し、現在もなお、「金田流」を画面に生き続けさせている(今石の作画はリスペクトというよりもパロディの領域に達しているような気もするがw)。

誰もが憧れるスーパーアニメーター、金田伊功。その存在を一言で言えば「情熱のオーラ」だ。金田の描くアニメは単にテクニックが優れていただけでなく、1枚1枚の原画に燃えるような魂が込められている。自らも光を放ち、多くの人々を引き付けるアニメーションとは、こうした輝かしいオーラの結晶なのだろう。

たしかに金田伊功の作画は、「レイアウト至上主義」の現在のアニメ制作現場から見れば異端かもしれない(特に、丁寧な作画を最優先する今の環境では、アニメーターが個性を発揮するのは難しいと思う)。だが、その自由奔放なスタイルは、CG時代の今だからこそ必要とされるのではないだろうか?ぜひとも若きクリエイターたちの手によって今後も金田スタイルを継承し、日本製アニメのエフェクト・クオリティを向上させ続けていただきたい。


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