■あらすじ『冷酷非道なテロリスト:キャスター・トロイ(ニコラス・ケイジ)に幼い息子を殺されたFBI捜査官ショーン・アーチャー(ジョン・トラボルタ)は、6年の歳月を復讐のためだけに生きてきた。そしてついにキャスターを捕えたものの、意識不明の重体に!しかもキャスターは、ロサンゼルスを壊滅させる強力な時限爆弾を仕掛けていた。キャスター以外に爆弾の在りかを知る者は、弟のポラックスのみ。そこで、「キャスターの顔を移植して彼に成りすまし、ポラックスから情報を聞き出せ」との指令が下る。アーチャーは悩みつつもこの極秘任務を引き受けるが、その直後、昏睡から目覚めたキャスターがアーチャーの顔を自分に移植し、任務を知る人間を一人残らず抹殺してしまった。こうしてアーチャーに成りすましたキャスターは、FBI捜査官としての権限を手に入れ、一方のアーチャーは犯罪者として刑務所の中へ…。この世で自分が最も憎悪する”顔”をつけた2人の男は、運命に操られるかのように再び死のチェイスを繰り広げるのだった!『男たちの挽歌』のジョン・ウー監督が、ハリウッド進出3作目にしてついに自らの映像美学を貫き通したガンアクション映画の大傑作!』
どうも、管理人のタイプ・あ〜るです。
本日、午後のロードショーにてジョン・トラボルタ&ニコラス・ケイジ主演の『フェイス/オフ』が放送されます。本作は、香港映画界の巨匠:ジョン・ウー監督が、ハリウッドで撮った3本目の作品であると同時に、真の意味で「ジョン・ウー・スタイル」が発揮された記念すべき作品なのですよ。
ジョン・ウー監督と言えば、香港時代に『男たちの挽歌』や『狼/男たちの挽歌・最終章』などの優れたアクション映画を次々と発表し、「男同士の熱い絆」を描いた情感溢れる作劇と、様式美を極めた激しい銃撃戦で人気を博し、”香港ノワール”という新語まで生み出しました。
特に、”2丁拳銃”や”スローモーション”を多用した独特のガン・アクション・シーンが観る者全ての度肝を抜きまくり、クエンティン・タランティーノやマーティン・スコセッシやロバート・ロドリゲスなど、海外の映画監督にも絶大な影響を与えたのです。
そんな凄いクリエイターをハリウッドが放っておくはずがありません。実は、ジョン・ウー監督が香港で『狼たちの絆』を撮影している頃、すでに「アメリカへ来ないか?」という誘いを受けていたらしい。
ジョン・ウーを誘ったのはオリバー・ストーン監督で、わざわざ撮影現場まで会いに来るほど熱心に勧誘していたようですが、当時は次回作の『ハードボイルド/新・男たちの挽歌』の撮影が決まっていたため、実現しませんでした。
しかし、『ハードボイルド/新・男たちの挽歌』を撮り終えたジョン・ウー監督は、翌1993年にジャン=クロード・ヴァン・ダム主演の『ハード・ターゲット』でついにハリウッド・デビュー!サム・ライミが製作総指揮を務めたこの映画は、公開初登場でいきなり全米ナンバー1の大ヒットとなり、一躍ジョン・ウーの知名度を押し上げたのです。
ちなみに『ハード・ターゲット』は、ヴァン・ダムの華麗なアクションも見どころなんですけど、『エイリアン2』のビショップ役で有名なランス・ヘンリクセンや、『ハムナプトラ/失われた砂漠の都』のイムホテップ役で注目されたアーノルド・ヴォスルーなど、個性的な役者たちも魅力的でした。
そして、さらにスケールをアップさせた次回作『ブロークン・アロー』でもっと凄い映画に…と言いたいところなんですけど、これがちょっとイマイチなんですよねえ。
クリスチャン・スレーターとジョン・トラボルタ主演のアクション超大作で、ヘリは墜落するわ、核弾頭は爆発するわ、派手なシーンの連続で確かに凄い迫力でした。でも、ジョン・ウーらしさがあまり感じられないのですよ。
どうやら映画会社の規制が厳しかったようで、前作の『ハード・ターゲット』の時にはサム・ライミがジョン・ウーの熱狂的なファンだったから、ある程度自由に撮らせてくれたのですが、『ブロークン・アロー』では自分の思い通りに作れなかったらしい。やはりハリウッドの壁は厚いのか…。
だがしかし!ジョン・ウー監督は諦めませんでした。『ブロークン・アロー』を撮った後、ハリウッドの強大な映画産業システムに対して果敢に闘争を挑み続け、ついに勝利を収めたのです。これってもの凄い快挙なんですよ!
なんせプロデューサー主導型のハリウッドで、脚本の修正権、キャスティング権、撮影現場での自由裁量権、編集権など、まさに”全権委任”ともいえる絶対的な権限を勝ち取り、全てを思うがままに操れるポジションを獲得してしまったのですから!
こうして、映画全体をコントロール出来るようになったジョン・ウー監督は、本来の”驚くべき大胆さ”を思う存分に発揮し、映画史上かつてない前代未聞のアクション巨編を誕生させたのです。それがこの『フェイス/オフ』なのですよ!
では、いったいどんな映画なのか?というと、「2人の男が互いの顔を入れ替える」という、「なんじゃそりゃ?」としか言いようのない破天荒な設定でして(笑)。それもそのはず、なんと元々は映画学校の生徒が書いた脚本だったんですね。
どうやら最初に脚本を読んだジョン・ウー監督自身も「なんじゃそりゃ?」と思ったらしく、一度オファーを断ってるんですよ。当初は「200年後のアメリカを舞台にしたSF映画」だったので、「全くやる気が出なかった」そうです。
しかし、「善と悪が入れ替わるという設定には興味があった。これは私の持論だが、100%良い人や100%悪い人間はいない。人は必ず両方の面を持っているはずで、この脚本にはそういう私のテーマが描かれていたんだ」とのこと。
そこでジョン・ウーは、監督の権限を利用して脚本を大幅に書き直し、登場人物の内面に人間性を与え、さらに家族の絆をめぐる感動的なドラマを付け加えたのです。こうして”映画学校の生徒が書いた脚本”とは全然違うストーリーが完成しました(笑)。
そしてこのストーリーを、ニコラス・ケイジとジョン・トラボルタという、色んな意味で濃い俳優2人が演じ、他にもニック・カサベテス、ジョアン・アレン、ジーナ・ガーション、ドミニク・スウェインなど、個性的なキャストがズラリと集結!そんな本作の見どころを、以下に箇条書きしてみます。
●キャスター・トロイ登場シーン
飛行場に現れたキャスターは、ロングコートを風になびかせながら車から降り立ち、悠然と歩きつつ背中の2丁拳銃を見せる。それは24金が施されたゴールド仕上げのカスタム・ガバメントで、グリップには龍まで彫られたド派手なハンドガン!しかもその間、画面はずっとスローモーション!痺れるぜ!
●飛行場での銃撃戦
ジェット機とヘリの激しいチェイスの後、格納庫に逃げ込んだキャスターを追って熾烈なバトルを繰り広げるアーチャー。「2丁拳銃を撃ちながらの横飛び」や、ジョン・ウー作品でお馴染みの「互いに銃を突きつけ合う2人の男(メキシカン・スタンドオフ)」も炸裂!
●顔の入れ換え
元はSF映画の脚本でしたが、「政府の要人を安全に保護するために顔を変える技術を研究中」という設定に変更してリアリティを高めたそうです。特殊メイクを使った手術シーンは結構グロい(しかし、ジョン・トラボルタとニコラス・ケイジでは顔の大きさが違い過ぎるんじゃないだろうか?)。
●刑務所を脱獄
『フェイス/オフ』のユニークなところは、中盤の展開が「脱獄不可能と言われる最新鋭の刑務所からいかにして脱出するのか?」という囚人映画になっている点。特殊な靴を履かされた囚人たちは、スイッチ一つで足が床に固定されて動けなくなど、変な設定も満載です(笑)。普通ならこれだけで1本映画を作れそうですが、単なるワンエピソードとして描いているのが贅沢ですね。
●オーバー・ザ・レインボー
何とか刑務所を脱走したアーチャーでしたが、犯罪者扱いされているため自宅には戻れません。そこで、キャスターの仲間の所でかくまってもらうことに。しかし、そこへFBIが突入!激しい銃撃戦が繰り広げられる中、バックには「オーバー・ザ・レインボー」が流れるという斬新すぎる演出に驚愕せざるを得ない!
ここでこの曲を流したのはジョン・ウー監督のアイデアですが、映画会社が著作権使用料の支払いを渋ったため、ウーさんが自腹で支払ったそうです(なお、この曲を選んだのは、監督が生まれて初めて観た映画『オズの魔法使い』の主題歌だったから)。
●鏡を挟んで撃ち合い
いくつもの鏡が設置された部屋で互いを撃ち合うキャスターとアーチャー。「鏡に映った憎い相手の顔に銃を突き付ける」という変則的なメキシカン・スタンドオフが面白い。なお、このシーンは映画会社から「予算が無いので撮影できない」と断られたものの、「俺の監督料からその分を引いてくれ!」とジョン・ウーが説得し、何とか撮り切ったらしい。
●教会でのガンアクション
白いハト、2丁拳銃、スローモーション、体をクルクル回しながら発砲する回転撃ち、「1対1」ではなく、何人もの人間が同時に銃を突きつけ合う複雑すぎるメキシカン・スタンドオフなど、この教会シーンに”ジョン・ウー的映像美学”が全て詰まっている名場面!サイコーだッ!
●モーターボート・チェイス
いよいよラストの大アクションシーン。「出し惜しみはしないぜ!」と言わんばかりに壮絶なボート・チェイス&大爆発の連続!「流れ弾が当たってガスボンベが木っ端微塵」とか、爆発しなくてもいいようなものまで敢えて爆発させてるし!最後はボートに乗った2人が吹き飛ばされるんだけど、どう見てもスタントマンなんだよね(笑)。でもジョン・ウー監督はそんなこと一切気にしてない。勢いで突っ走ればOKなのだ!
というわけで、最初から最後まで熱いアクションがてんこ盛りの『フェイス/オフ』。設定的にはやや(かなり?)無茶なシーンがあるものの、間違いなくジョン・ウーがハリウッドへ渡ってからの最高傑作であり、彼の全フィルモグラフィーの中において重要な位置を占める作品だと言っても過言ではないでしょう。