どうも、管理人のタイプ・あ〜るです。
先日、50年以上もテレビで映画を放送していた老舗の映画番組「日曜洋画劇場」が終了しました。それに伴い、「あ〜、地上波の映画放送枠がまた一つ終わったか〜。これでまた映画を観る人が減っちゃうんじゃないかな〜」という記事を書いたら、「いやいや、そんなことはないと思いますよ〜」的なご意見をいただいたんですよ。
まあ確かに、今はレンタル屋へ行けば好きな映画を借りられるし、動画配信サービスへ加入すれば定額で好きな映画を見放題という時代ですから、TVで映画を観る理由が薄まっているのは間違いないでしょう。でも、「じゃあ今テレビで映画を放送する意義って何だろう?」という点が気になったんですよね。
個人的には、TVで映画を観て育った世代ですから思い入れもありますが、放送する側はそれだけでは続けられないだろうと。そこで本日は、長年にわたって地上波で映画を放送し続けている『午後のロードショー』で、実際に番組を製作している人たち、つまり「作り手側が現状をどう考えているのか」について書いてみることにしました。
ちなみに現在、地上波で定期的に映画を放送している番組は、『金曜ロードSHOW!』と『午後のロードショー』の2つだけ。しかも、『午後のロードショー』はテレビ東京の関東ローカルのみなので、知らない人の方が多いかもしれません。
簡単に説明すると、月曜日から金曜日まで毎日2時間(13:50 - 15:55)ひたすら映画を放送しているという他に類を見ない番組なんですよ。しかも「今の時代、映画を観る手段はいくらであるのに、わざわざテレビで映画を観る人なんているのかな?」という疑念を覆し、常に3〜6%の安定した(?)視聴率を稼いでいるのだから凄すぎる(平日の昼間なのに誰が観てるんだ?)。
どうやら、人気の秘密は独特のラインナップにあるようで、例えば「今月はサメ特集だ!」と決めたら、毎週木曜日はサメが出て来る映画ばっかり放送してるんですよ。しかも『ジョーズ』とか『ディープ・ブルー』みたいなメジャーな作品じゃなくて、『シャーク・ナイト』とか『フライング・ジョーズ』とか『シャークネード サメ台風』など、あまり聞いたことがない映画をガンガンぶち込んで来る剛腕ぶり。
しかし、それが番組の個性として認知され、多くのファンから支持されるようになり、昨年は番組開始からついに20年目に突入!そして「祝!20周年記念特集」と題して『酔拳2』、『コラテラル・ダメージ』、『沈黙のテロリスト』など、相変わらずB級感満載なラインナップを次々と繰り出し、「さすが俺たちの午後ローやで!」と称賛されたそうです(笑)。
そんな『午後のロードショー』を製作している夏目健太郎プロデューサーと高柴隆一ディレクターが20周年記念のインタビューを受けた際、「テレビで映画を放送する意義」について語っている個所があったので、以下にその一部を引用させていただきます。
・今やTVで映画を観る文化は壊滅状態です。そのことにTVマンとしてお2人はどう思われますか?
夏目:壊滅してしまったのは”視聴者の選択”という部分もあると思うんです。プロ野球中継がTVで観られなくなってきたのと時を同じくして、映画も純粋にTVで観る機会はもうなくなってきていると思います。実際、今キー局で反響がある映画番組は、その局のドラマの映画版の放送という状況ですので。製作者が力を抜いてきたのも理由にありますが、それでも一番大きいのは、TVをリアルタイムで観る視聴者が離れてきてしまったという部分でしょうね。
高柴:ディレクターとしては、それでも自分が観たことがない映画に出会える喜びを感じて欲しいと思って作っています。その出会いの場所の一つが「TVの映画番組」だと信じているんです。でも、ネット配信やスマホなどで気軽に映画が観られたり、ノーカット版を観たいという声が大きくなってきたこととの葛藤もあります。僕としては、TVで観た映画体験を通じて映画好きになって欲しい。それこそ『THE GREY』のような作品に事故的に出会って衝撃を受けてもらいたいんです。
・TVで映画を観る層にとって、『午後ロード』は最後の砦ですからね。
夏目:月〜木曜日とやっていくなかで、金曜日もやって欲しいという声が高まって、4月から放送枠が金曜まで広がりました。ということは、このまま『午後ロード』を続けて数字が伸びていけば、ゴールデンタイムに進出することも出来るんじゃないか?と思ってるんです。平日午後で5%の視聴率が取れるなら、夜なら10%いくんじゃないか?と。次の延長線上は、もしかしたらゴールデンタイムや休日にあるのかもしれない。
・夜にやっても『午後ロード』ですからね(笑)。
夏目:こうして派生していくチャンスが生まれるということは、視聴者が支持してくれてのものですから、それが映画界全体のチャンスにも繋がるかもしれない。キー局ができないなら、地方のローカル局から積極的にロードショー番組を作って欲しい。だから、『午後ロード』はそれを実現するための前例を作る意味でも、数字を取っていかなきゃいけない。決して狙っているわけではないんですけど、全部意図してやってますので、そういう流れを平日昼間のローカル局から作り出せる可能性があるということを考えると、まだまだ映画番組も捨てたものじゃないですよね。
・かつて毎晩放送されていたTVの洋画劇場の役割が、今は形を変えて『午後ロード』にすべて凝縮されている感じがします。
夏目:責任重大ですね(笑)。少なくとも、CSと比べてラインナップも色分けされてますし、方向性や売りも視聴者に受け取りやすい形でパスを出しているつもりです。そのパスを出し続けることで放送枠も広がり、そのパスが大きくなれば「なぜテレビ東京だけが映画を頑張ってるんだ?」と他局が研究し始めて、映画番組が増えて活性化して欲しいと思っているんです。
・テレビ東京系のネット局は『午後ロード』を流していないんですよね。
夏目:ないです。ただ、『午後ロード』の視聴率情報はローカル局にも流れていますので、「この映画をウチでも放送したい」とローカル局から問い合わせが来ることがあります。そういう良いエッセンスが少しずつ地方にもちゃんと届いている実感がありますし、番販会社の方も「『午後ロード』でこんなに数字が取れていますよ」と地方局にセールスできているみたいなので、『午後ロード』を続けること自体がキックになっている部分があると思います。私たちが『午後ロード』を続けることで、映画離れを食い止めたい。映画離れを食い止めるためには、やり続けなければ。そうしなければ何も始まらないんですよ。 (「映画秘宝 激動の20年史」より)
というわけで、インタビューの一部を抜粋してみたんですけど、驚いたのは「意外とみんなテレビで映画を観てるんだなあ」ってことですね。特に、最近の傾向としてはSNSとの連動効果が大きいらしく、ツイッターで「今TVで○○○って映画を放送中!」とつぶやいたら、それを見て興味を持った人がテレビに流れて来るパターンも増えているそうです。
とは言え、基本はやっぱり”劣勢”なんですよ。このインタビューでも言及していますが、80年代にレンタルビデオが登場して以降、動画配信サービスやBS・CS等、家庭で映画を観る選択肢は一気に増えました。その結果、地上波で映画を観る機会が減少し、日曜洋画劇場も終了するなど、今やTVの映画枠はその”存在意義”すら脅かされています。
ところが、そんな厳しい状況の中でも『午後のロードショー』はなぜか安定した視聴率を稼ぎ出し、「次はゴールデン進出だ!」とやる気満々。個人的には「さすがに『シャークネード サメ台風』でゴールデンはキツイだろう」と思わざるを得ないのですが(笑)、それにしても”壊滅状態”と言われるほどの逆境にもかかわらず、どうしてここまで前向きでいられるのでしょうか?
理由の一つは、夏目プロデューサーがインタビューで「『午後ロード』を続けることで、映画離れを食い止めたい。映画離れを食い止めるためには、やり続けなければ」と語っているように、番組の作り手側に「地上波の映画枠が無くなると、映画離れが進んでしまうかもしれない。だから番組を続けることで映画離れを食い止めたいんだ!」という強い思いがあるから。
そしてもう一つは、高柴ディレクターの「観たことがない映画に出会える喜びを感じて欲しい」という言葉の通り、「テレビでたまたま流れていた映画を観たことがきっかけで素晴らしい作品に巡り合えた」という”偶然の出会い”を提供したいと。「世の中にはまだまだ面白い映画がいっぱいあることを知って欲しい」と。そのような確固たる信念を持っているからなんですね。
地上波で映画を流してくれることの何がありがたいって、普段映画を全く見ない人が、映画館やレンタル屋で絶対に借りないような作品に触れられるということ。そこから映画への入口が開けるということ。子供の頃テレビで映画いっぱいやってくれたおかげで今の僕がある。感謝。#ミスト#午後ロー pic.twitter.com/tTa8DZfTqH
— ウラケン【ulaken. com】 (@ulaken) 2017年3月14日
こういう「テレビをつけたらたまたまやっていた」という”偶然の出会い”は誰にでもあるんじゃないでしょうか?確かに、今の時代はレンタルや動画配信サービスなどが充実していて、「観たい映画があれば自由に観ることが出来る環境」ですが、逆の言い方をすれば「観たくない映画は観ない」ということでもあります。
自分にとって興味がない映画は、当然レンタル屋で借りることもなければ映画館で観ることもないでしょう。テレビの映画番組は、そういう「知らない作品に触れられるきっかけ」を与えてくれる場でもあるわけで、「自分が観たい映画を選ぶサービス」とは違った価値を持っているのです。
ちなみに、僕はリドリー・スコット監督の『エイリアン』を子供の頃にテレビの映画番組で初めて観たんですよ。当時の僕はホラー映画が大の苦手で(今でも多少苦手ですがw)、例えレンタルビデオ屋があったとしても、「自分からホラー映画を選ぶ」ってことはまずあり得ませんでした。
ところが、たまたまその日はテレビをつけたら『エイリアン』をやっていて、しかも映像的には”SF”ですから、何も知らない子供の僕は「宇宙船のメカがかっこいいな〜」とか思いながら呑気に観てたわけですよ。そしたらまあ、怖い場面が出るわ出るわ(笑)。あまりの衝撃でお腹が痛くなったことを今でもハッキリ覚えています(^_^;)
でも、映画自体は本当に面白くて、それ以来「もっと面白い映画はないか!?」と今まで観なかったような映画も片っ端から観るようになりました。ある意味、テレビの洋画劇場が僕の中の”マニア魂”に火を付けたと言っても過言ではないでしょう。
恐らく地上波の映画枠を取り巻く環境は、今後も厳しさを増していくと思います。ただ、「レンタルや動画配信サービスがあるし、テレビの映画なんてどうせ誰も観ないよな〜」みたいな気持でやっていたら、視聴率だって上がらないし、テレビで映画を放送する意義も無くなってしまうでしょう。
だとすれば、結局のところ「意義あるものになるかどうか」は番組を作っている人たちの”心意気次第”なのではないかと。その点『午後のロードショー』は「今後映画を観る人が減ってしまうかも…」と作り手側が危機感を感じ、「我々の手で食い止めたい!」と切望している。そしてその心意気を受け止め、支えてくれる大勢のファンがいる。だからこそ、存続していられるのではないでしょうか。
今や”風前の灯”真っ只中の地上波映画枠ですが、このような”映画愛”を持って真摯に番組作りに取り組んでいる人たちを僕は支持したいし、もし本当に映画離れを食い止められるのであれば是非とも頑張っていただきたいなと、一映画ファンとしてそう思っています(^_^)
●人気記事一覧
・これはひどい!苦情が殺到した日本語吹替え版映画ワースト10
・まさに修羅場!『かぐや姫の物語』の壮絶な舞台裏をスタッフが激白!
→ トップページへ