どうも、管理人のタイプ・あ〜るです。
先日、「キネマ旬報ベストテン」が発表され、日本映画では1位が『この世界の片隅に』、2位が『シン・ゴジラ』という、個人的には非常に納得できる結果で嬉しかったんですけど、大ヒット作『君の名は。』がランクインしてないことに対して「何でだよ!?」とファンの批判が殺到したらしい。
まあ、キネマ旬報のこれまでの傾向を考えれば「当然」というか、むしろ『この世界の片隅に』や『シン・ゴジラ』が上位に入っている方が「異例」の事態なんですが、それはともかく、どうも世間の評価は『君の名は。』に厳しいような気がするんですよねえ。
一般の人が酷評するだけなら、まだ分かるんですよ。でも『君の名は。』の場合、映画監督とか漫画家とか小説家など、いわゆる”クリエイター側”からの批判がすごく多いんです。これは、『この世界の片隅に』ではほぼ見られない現象であり、「なぜ『君の名は。』ばかり批判されるんだろう?」と。実際、どんな感じで批判されているのか、以下にいくつか意見を取り上げてみました。
●是枝裕和(映画監督)
「この2作品(『シン・ゴジラ』と『君の名は。』)は、観ていますよ。周囲でも話題になっていましたからね。両作ともヒットの理由は、とても理解できます。とくに『君の名は。』は、当たる要素がてんこ盛りですからね。ちょっとてんこ盛りにし過ぎだろ、とは思いましたけど。この映画に限らず、女子高生とタイムスリップという題材からはそろそろ離れないといけないのではないか、と思います」
(「現代ビジネス」より)
●江川達也(漫画家)
「まあ確かに、こりゃ売れるなとは思いましたよ。丁寧に売れる要素をぶち込んでて、まあ言ってみりゃ”大人のドラえもん”みたいなもんでね」「ただプロから見ると全然面白くないんですよ(笑)。作り手側から見ると作家性が薄くて、売れる要素ばっかりぶち込んでる、ちょっと軽いライトな映画って感じで。絶賛してる人はいるんだけど、そういう人が、面白くなかったという人に対して凄いディスってるんですよ。”みんな観なきゃダメだよ!”とか言って。だからある種、『君の名は。』はファシズム映画なんですよね」
(10月6日放送フジテレビ「バイキング」より)
●矢田部吉彦(東京国際映画祭ディレクター)
「『君の名は。』は、日本的な風景や文化を数多く盛り込んだことで成功した例ではあるものの、是枝さんも指摘していたように、“女子高生とタイムスリップ”はもう十分なんじゃないかなと個人的には思っています。若い人たちが作る自主映画を観ていても、夏の青空と入道雲とセーラー服を映した作品があまりに多くて、少々辟易としています。
もちろん、そういう作品を撮るなというつもりはないし、『君の名は。』は素晴らしい成功例だとは思います。ただ、海外のクリエイターの作品と較べると、幼稚な題材が目立つこともある。もう少し、大人の成熟した視点で作られた作品があっても良いのでは」
(「Real Sound」インタビューコメントより)
●富野由悠季(アニメーション監督)
荒木:『君の名は。』はいい映画だと思います。
富野:そうかな?サザンオールスターズやミスチルだって、20〜30年もってるでしょ?でも『君の名は。』は今の流行りものであって、5年後も見られるかどうかは、かなり怪しいよ。今の時代は通じるけど、もうその後はダメといった可能性も、演出家は考える必要があるし、覚悟しないといけない。 それで言うと、『シン・ゴジラ』はこれ以降もずっと残りそうな要素がある。
荒木:消えていくか残っていくかはともかく、出てきた瞬間はある程度、流行りものになる必要がありますよね?
富野:もちろん、まずは流行らないといけない。観客である第三者が評価してくれるからこそ、価値が出るんだからね。
荒木:熱狂的なファンを得ていることは同じでも、「こっちは残る」「こっちは残らない」という、その違いは何でしょう?
富野:それは『君の名は。』が今の気分だけで作っているように見えるからじゃないかな?(中略)作家タイプの一番の問題は、プログラムピクチャーを作れないのね。『月光仮面』や『ウルトラマン』や『スーパーマン』みたいなシリーズものを。新海くんは、自分の趣味性の部分だけで作っている感じがある。そこにゲームやCGの仕事を覚えていくプロセスの中で、多少SFチックな要素を入れる方法を身に付けたのかもしれないけれど、今後、3年後とか5年後の気分を射程に入れて、ファッショナブルな映像作品が作っていけるか?という話ですね。
(「月刊アニメージュ 2017年2月号」荒木哲郎との対談より)
●石田衣良(小説家)
「たぶん新海さんは楽しい恋愛を高校時代にしたことがないんじゃないですか。それがテーマとして架空のまま、生涯のテーマとして活きている。青春時代の憧れを理想郷として追体験して白昼夢のようなものを作り出していく、恋愛しない人の恋愛小説のパターンなんです。
付き合ったこともセックスの経験もないままカッコイイ男の子を書いていく、少女漫画的世界と通底しています。宮崎駿さんだったら何かしら、自然対人間とか、がっちりした実体験をつかめているんですが、新海さんはそういう実体験はないんでしょうね。実体験がないからこそ作れる理想郷です」
(「NEWSポストセブン」インタビューより)
●高橋秀樹(放送作家/日本放送作家協会・常務理事)
「『君の名は。』は多くの若い人にきっと単純なラブストーリーとして見られているのであろう。だが筆者のようなひねくれた大人(けっこう多いはずだ)は単純なラブストーリーとしてみることは出来ない。なぜなら、ストーリーを展開するための”とってつけたような設定”が目につきすぎるのである。ヒロインの女子高生・宮水三葉は女系で継いできた神社の長女であるが、その伏線が唐突に出てくる。
三葉の父親がいま町長選挙に出ているという設定はなぜ必要なのか。相手役の男子高校生・立花瀧のバイト先の先輩奥寺ミキ(声・長澤まさみ)の存在はなぜ必要なのか。立花は入れ替わったときに記憶した風景のスケッチだけを頼りに三葉の住む糸守町を探しに行くが、探しても探しても見つからないのにラーメン屋で唐突に見つかるのは都合良すぎないか?」
(「メディアゴン」より)
●江口寿史(漫画家)
いやー「この世界の片隅に」よかったわ。能年玲奈さんが素晴らしかったわ。アニメ映画はめったにみないけど、いや、今年あの話題のアレはいちおう見たけど。アレの良さは全然わからなかったけど。
— 江口寿史 (@Eguchinn) 2016年10月18日
●入江奈々(映画ライター)
「2016年の映画界は原作を持たないオリジナル・アニメ『君の名は。』旋風が吹き荒れた。昭和のラジオドラマ『君の名は』と元ネタ比較しても面白みないし、いっそ『転校生』や『ディープ・インパクト』と比較してみては、と思ったがそれも嫌みだからやめておこう。『君の名は。』に1ミリも感動できなかった身としては爆発的ヒットが面白くない気がしてしまうが、アニメ作品のヒットの呼び水となってくれたことも確か」
(「『君の名は。』に1ミリも感動できなかったライターが選ぶ2016年のベスト10」より)
●井筒和幸(映画監督)
マツコ:私なんか『君の名は。』もまだ観てないしね…。
井筒:あんなオタクのオナニー動画を、1000万人が観るようになったら、オレは終わりやと思うけどね。あれは「映画」ちゃうから。
マツコ:確かに言えてる。アニメって、ヘンタイさんが後ろ指さされたり、白い目で見られながらも、コツコツと築いてきた特殊な文化じゃない。でも、これだけメジャーになっちゃうと、いつか破綻するよね。
井筒:これは大島渚監督の受け売りやけど、「敗者は映像を持たない」って言葉があるんよ。つまり、原爆の映像も全てアメリカ側の映像で、負けた日本側の撮った映像は何も残ってないというわけよ。
マツコ:なるほど〜!
井筒:オレはそれがずっと続いてると思うね。全て勝者の国のマネ。アニメの顔を見たら、そこに日本人の顔は一人もいないやろ。
マツコ:そうよね。みんな目が大きくて、金色みたいな髪を風でなびかせて、そんなわけないだろって!
井筒:日本人は、負けた日本人のリアルな顔が見たくないねん。それが常に深層にあって、根づいてしまったいうことよ。
マツコ:そっかぁ。昭和の映画に出てくる女優さんも日本人離れしたバタ臭〜い顔の人が多かったしね。最近は最近で、無味無臭な顔ばっかりだし…。
井筒:だから、日本のドラマでも映画でもアニメでもたとえクソ真面目に脚本書いたところで、ニセモノの顔しか出てこないから、結局は薄っぺらいねん。どこの国の話か不明やもん。
マツコ:日本はアニメの顔っていう、特殊な世界を作っちゃったんだね。
井筒:アニメの聖地巡礼って片腹痛くなるわ。マジでアホちゃうかと。そこにあんな目玉のデカい女子はおりまへんがな!
(「アサ芸プラス」マツコ・デラックスとの対談より)
●堀田延(放送作家)
『この世界の片隅に』
— 堀田 延 (@nobubu1) 2016年11月14日
素晴らしい作品でした。そのひとことに尽きます。お話は淡々と進むし、とくに盛り上がる仕掛けもないけれど、細部に宿る悲しさ、切なさ、やりきれなさ、そして愛、思いやり、など…同じアニメでも例の大ヒットしてるアレとは別次元の素晴らしい映画でした。もう一度行きます。
女子高生の胸を(ギャグという言い訳で)やたら揉みしだく。バスケやってる女子高生の胸がやたらポヨンポヨン揺れる。そういった秋葉原テイストの萌え演出を全国ロードショー映画で普通にやってのける「知的レベルの低い」映画が本当に嫌い。宮崎駿も押田守も片淵須直もそんな演出一切存在しないからw
— 堀田 延 (@nobubu1) 2016年12月10日
あんなものがこんなに大ヒットして、若い子たちが「人生で観た中で最高の超名作でした」とか本気で言っている状況に「国家的危機」を感じている。
— 堀田 延 (@nobubu1) 2016年12月10日
というわけで、様々な分野で活躍しているクリエイター達の評価を見てみたんですけど、皆さん『君の名は。』に関しては厳しい意見が多いというか、石田衣良さんに至っては、もはや「作品に対する評価」というより、「新海誠監督の人間性」をディスってますよね(苦笑)。
要するに「新海誠は学生時代に女の子と付き合った経験がないから、こんな映画しか作れないんだ」って言ってるわけでしょ?ちょっと酷いんじゃないかなあ。さすがにこれには新海監督も頭に来たらしく、「なんで見ず知らずの人にそこまで言われなきゃならないんだ!」と怒っていたようです。
最近は実に様々なお言葉いただきますが、なぜ面識もない方に僕の人生経験の有無や生の実感まで透視するような物言いをされなければならないのか…笑。いやもう口の端にのせていただくだけでもありがたいのですけれど!
— 新海誠 (@shinkaimakoto) 2017年1月4日
まあ作品がヒットすれば、それに応じて批判的な意見が増えるのも仕方がないことではあるんでしょうけど、『君の名は。』の場合は、特にクリエイターの気持ちを刺激するような何らかの要素が含まれているのかもしれませんねえ(^_^)
マイウェイ出版 (2017-01-11)