どうも、管理人のタイプ・あ〜るです。
『シン・ゴジラ』が公開されて1ヶ月以上が経過しましたが、その勢いは全く衰えることなく、現在もランキング2位をキープ(なんと前回の3位から再浮上してる!)、累計興収60億1,723万9,800円、累計動員412万9,595人を突破したそうです。スゲー!
これにより、小栗旬主演『信長協奏曲(のぶながコンツェルト)』の興収(約46億円)を抜いて2016年公開の邦画実写作品中(現時点では)、ナンバーワンの作品になったとのこと。
さらに10月11日からは北米440館の劇場で公開されることも決定しており(吹き替えではなく英語字幕になるらしい。読むのが大変そうw)、『シン・ゴジラ』の快進撃は今後もまだまだ続きそうですね。
そんな『シン・ゴジラ』に関し、先日、以下の記事が話題になっていたので読んでみました。
・樋口真嗣監督がエヴァンゲリオンの盟友・庵野秀明総監督を語る「破壊しながら前に進む。彼こそがゴジラだった…」
記事の内容をかいつまんで説明すると、「『シン・ゴジラ』を制作する際、庵野秀明総監督の思い描いたイメージを可能な限り忠実に再現するため、映画会社からの”もっと人間ドラマを増やせ!”という要望を突っぱね、現場スタッフからの”こんなの出来ません!”という苦情もねじ伏せ、妥協することなく徹底的に初志を貫いた。だからこそ、あれだけのクオリティを実現できたのだ」という話です。
これはですね、やろうとしてもなかなか出来ることじゃないですよ。例えば、脚本一つとっても映画会社やプロデューサーは、常に「ヒットするためにはどうするべきか?」という視点から注文を付けてくるからです。
「女性客にアピールするには”恋愛要素”が不可欠だ」というセオリーに基づき、強引にラブシーンを加える、なんてのは当たり前。また、「感動的な人間ドラマも入れておいた方がヒットしやすい」との判断で、特に必要のない”親子ドラマ”が追加されることも珍しくありません。
事実、樋口真嗣監督の前作『進撃の巨人』では、町山智浩氏が書いた脚本には恋愛要素なんて無かったのに、現場の判断で急遽ラブシーンが追加され、試写を観た町山氏が「あれ?俺の書いた脚本と全然違うぞ!」とビックリする、という残念な事案も発生していました。
・町山智浩は実写版『進撃の巨人』をどのように評価しているのか?
映画は、作品の規模が大きくなればなるほど非常に多くの人間が関わる巨大プロジェクトになってしまうが故に、誰か一人の意見だけが優先されることはまずありません。スポンサーが「ああしろ」と言えばそれに従わざるを得ない場面も出てくるわけで、監督のイメージ通りに仕上がる保証は無いのです。
しかし、庵野秀明総監督はとにかく「滅多なことでは自分の意思を曲げない性格」らしく、『シン・ゴジラ』の制作中にも「セリフが多すぎるからカットしろ!」との要求に対して、「問題ない。全員早口で喋るから」と反論し、実際にもの凄い早口でセリフを喋らせ、2時間以内に収めてしまったのですよ。
普通の映画監督なら「カットしろ」と言われたら「どこをカットしようか?」と悩むものですが、庵野さんには最初から「カットする」という発想が無かったみたいですね。『シン・ゴジラ』の脚本も自分で執筆し、しかも撮影が始まる直前まで「もっとクオリティを上げたい」と書き直し続け、何度も何度も推敲を繰り返していたそうです。凄いこだわりだなあ。
ただ、これだけ自分のこだわりを貫き通すには、当然それなりの”覚悟”が必要です。「映画会社の偉い人やスタッフたちと喧嘩してでも、俺は自分のやりたいことをやり切るんだ!」という断固たる覚悟が。そうなると、人間関係に軋轢が生じることは避けられず、庵野さんは常にスタッフの誰かと対立していたそうです。
その”仲介役”を担当していたのが、樋口真嗣監督でした。以下、樋口監督のコメントより↓
僕が対立する前に、庵野総監督とスタッフの誰かが対立している。僕は、その間に入ってなだめすかす役目でした。(中略)彼は大半のスタッフを敵に回したけれど、それくらいじゃないと、この作品のレベルに達することはできない。
庵野監督がどんなにこだわりを持って映画作りに取り組んでいても、やはり一人ではどうにもならなかったはず。でも、周囲から飛んでくる反対意見を樋口真嗣監督が体を張って(?)防いでくれたおかげで、庵野さんは自分の作家性を存分に発揮することができたのでしょう。そう考えると、樋口監督の果たした功績は非常に大きいと言わざるを得ません。
さて、ではどんな感じでスタッフは庵野総監督と対立していたのか?映画が大ヒットしている現在では、さすがに文句を言う人はいないようですが(笑)、「庵野さんとの仕事はこんなに大変だった!」という証言があったので読んでみました。
・「シン・ゴジラ」最大の課題は、総監督「庵野秀明」のこだわり--制作裏話を聞いた
これは『シン・ゴジラ』で編集・VFXスーパーバイザーを手がけた佐藤敦紀氏と、VFXプロデューサーを務めた大屋哲男氏が制作の裏側を語った貴重なコメントで、佐藤さんの目から見た庵野さんはこんな感じらしい↓
やはり庵野氏が監督をするというのは、いろいろな意味で相当な覚悟を決めなければいけません。非常にこだわりが強い監督ですし、作品の質の向上のためならあらゆる努力を惜しまない人です。例えば本来であれば、ダビング中に尺をいじるのは御法度もいいところなんですが、庵野監督にはそれも通用しません。
通常、ダビング作業時には尺が確定しています。だから、ここで急にシーンの長さが変わると最初からダビングをやり直さなくてはならなくなるため、担当者は「やめてくれ!」と真っ青になるわけです(笑)。でも庵野さんは、そんなことお構いなしにガンガン変更を加えていったようで、スタッフの苦労が偲ばれますねえ(苦笑)。
また、編集作業はデータの守秘義務などの理由で東宝スタジオを使用するのが決まりだったようですが、庵野監督の要望でアニメスタジオ・株式会社カラーの編集室に移されたそうです。この前例のない出来事に佐藤さんも、「東宝もよく許したなと思います(笑)」と驚いていました。
特に、庵野監督の編集に対する執着心は常軌を逸しており、『シン・ゴジラ』の場合も「24分の1秒の1コマをカットするか?しないか?」、「画面のレイアウトを1ピクセル分下げるか?上げるか?」みたいなレベルで、異常に細かい指示を連発していたらしい(しかも公開日ギリギリまで作業が続けられたというのだから凄まじすぎる!)。
それに付き合わされるスタッフは当然、「ちょっともう勘弁して…!」という感じだったと思うんですけど、そこで「スタッフも気の毒だし、この辺で終わっておくか…」と妥協していたら、あれ程の完成度は望めなかったでしょう。まさに”こだわり”の成せる技!
というわけで、庵野監督のこだわりに振り回されたスタッフの苦労話をいくつか取り上げてみたんですが、今回、庵野監督が日本映画界に与えた影響っていうのは、かなり大きいと思うんですよね。恋愛要素や人間ドラマが無くても客は入るということを証明し、ハリウッドで採用されている「プリヴィズ」という手法を初めて本格的に取り入れ、編集作業も自社でやる等、これまでの旧態依然とした邦画の制作スタイルに大変革をもたらしました。
『シン・ゴジラ』が大ヒットしたことによって、今後の日本映画がどのように変わっていくのか?それはまだ分かりませんが、「一人の天才クリエイターの作家性を完璧にサポートする制作環境」が整えば、さらに凄い作品が生まれるかもしれない…そういう期待を十分に抱かせる出来事ではありますね(^_^)