どうも、管理人のタイプ・あ~るです。
さて、先日は『THE FIRST SLAM DUNK』の「試合シーン」について、過去のアニメ版との比較を述べつつ、原作者の井上雄彦先生が何を目指して本作に取り組んだのか等を色々と書いてみました(詳しくはこちらの記事をご覧ください↓)。
そして本日は肝心の”内容”について書いてみようと思うんですが、世間の反応を見ると試合シーンはほぼ絶賛一色なのに対し、内容に関しては割と賛否両論あるみたいなんですよね。一体なぜか?
※以下、ネタバレしてます
まずオープニングが非常に素晴らしく、一言で言えば「最高!」でした。
真っ白な紙に鉛筆で湘北高校のメンバーが描かれていき、描き終わった途端にそのキャラたちが動き出すという、まさに『スラムダンク』の漫画がそのまま動き出したような臨場感!
さらに同じ鉛筆画で階段から降りて来るキャラが描かれ、誰かと思ったら何と山王工業のメンバー!「うわあああ!やっぱり山王戦をやるんだ!」と早くも興奮していると、カッコいい音楽と共にキャラがコートへ走り出し、そこから試合が始まるのです。展開が早い!いきなり山王戦か!でも嬉しい!
…などとテンション爆上がりでワクワク状態なんですが、その前に冒頭で沖縄の風景が映し出されるんですよ。え、沖縄?『スラムダンク』に沖縄のシーンってあったっけ?んん?宮城リョータの子供時代か?それにしても、やけにリョータの過去のエピソードが長いような……あっ!もしかして『THE FIRST SLAM DUNK』の主人公ってリョータなの!?
とまぁ、こんな感じで初見は色んな意味で非常にビックリしました。恐らく多くのファンが同じように驚いたんじゃないでしょうか?なにしろ、公式からは詳しい内容がほぼ何も発表されないまま映画が公開されましたからね。まさに衝撃のサプライズ!
原作漫画の『スラムダンク』の主人公は桜木花道ですから、当然ファンは桜木の活躍を期待して観に来ているはずです。にもかかわらず、宮城リョータが主人公になっていたら…(これは確かに公開前には何も発表できないよなぁw)。
結果的に、何も知らないまま観に行った僕はまんまとビックリさせられたんですけど、問題はこれをどう評価すべきなのか?という点でしょう。
個人的にはリョータが主人公でも全然いいんですよ。「リョータの目から見たスラムダンク」という解釈であれば、視点が違うだけでストーリーの流れはほぼ同じですから何の問題もありません。ただ、気になった点が2つほどありまして…。
まず1つ目は、本作を”リョータの物語”として観た場合、「他のキャラクターが(あまり過去のエピソードや背景等が掘り下げられていないにもかかわらず)目立ち過ぎているのでは?」という点です。
例えば、桜木花道がコート外の机に突っ込んで背中を痛め、安西先生が交代させようとした時、「オヤジの栄光時代はいつだよ?全日本の時か?オレは……オレは今なんだよ!」と叫んで再びコートに立つ、まさに『スラムダンク』屈指の名場面。
原作を知っていれば、桜木のこれまでの努力や懸命にプレーする姿が脳裏に浮かび、号泣間違いなしの感動シーンとなるでしょう。
しかしこの映画ではそこまでキャラのバックボーンが掘り下げられておらず、一応チラッと過去を見せてはいるものの、やはり「重要なエピソードとして語るには情報量が不足している」と言わざるを得ません。
また、ゲーム終了間際ギリギリで流川が桜木にパスを出し、桜木が自分の手で最後にシュートを決めるクライマックスシーンも、完全に「桜木花道が主人公」という前提で描かれているため、「宮城リョータが主人公」という視点で観た場合にどうしても違和感があるのです(直後の流川とのタッチも同様で、ここに至るまでの2人の関係性を示す情報が全然足りない)。
まぁ要するに「桜木や流川や赤木や三井のエピソードをもっと見せて欲しかった」ってことなんですけど(笑)。
もちろん、時間的な問題もあって色んなエピソードを描くのは難しいという事情は分かりますが、であるなら完全に「宮城リョータの物語」として最初から最後まで振り切った方が、中途半端に他のキャラを目立たせるよりもブレが少なくて良かったのでは?という気がしました(でもファンは納得しないだろうなぁ…)。
そしてもう一つ気になったのは、「作品全体のトーンが原作よりもシリアスになっている」という点ですね。
原作の『スラムダンク』はもっと軽い雰囲気で笑えるシーンも多く、例えば試合中に赤木が倒れた時になぜか魚住が大根を桂むきしながら現れたりとか、意識朦朧の桜木がいきなり晴子さんに「大好きです。今度は嘘じゃないっす」と告白したり(実際は「バスケットが好き」という意味)など、意表を突いたシーンが多々ありました。
残念ながら本作ではこれらのシーンはカットされており、まぁ急に魚住が出て来ても「お前誰やねん?」になってしまうのでカットされても仕方ないんですけど、『スラムダンク』の世界観ってもうちょっと(いい意味で)ふざけてるというか明るいイメージなんですよねぇ。
しかし、『THE FIRST SLAM DUNK』では宮城リョータの背景が深掘りされた結果、「兄と父を幼少期に亡くしている」という非常に重たい過去がクローズアップされ、それが作品全体のトーンを原作よりもシリアスにしているのです。
兄の遺品を整理しようとする母に幼いリョータが抵抗を示すシーンや、母宛ての手紙に「生きているのが俺ですみません」と書くシーンなど、あまりにもヘビーな描写の連続に「え?本当に『スラムダンク』なの…?」と若干戸惑ってしまいました。
これって、どちらかというと車椅子バスケを描いた漫画『リアル』の雰囲気に近いんですよね。僕は『リアル』も大好きで全巻読んでるんですが、要は「『リアル』のトーンで『スラムダンク』を描いたらこうなる」みたいな。
もちろん、それはそれで悪くないんですけど、「原作のあの雰囲気が好きだったのに…」と感じたファンも結構いるんじゃないでしょうか(この辺が賛否を分けている要因の一つなのかもしれません)。
とはいうものの、最終的に僕はとても満足しました。その理由は試合シーンの迫力と躍動感が文句のつけようがないほど素晴らしく、さらに宮城リョータの物語としても「バスケットボールを通じて家族の絆を再生するドラマ」がしっかりと描かれていたからです。
特に、深津と沢北の長身選手に行く手を阻まれたリョータが「ドリブルこそチビの生きる道なんだよ!」と心で叫び、己のハンデを武器にして果敢にディフェンスを突破するシーンは、亡き兄が果たせなかった夢を胸に秘めつつ、悲しみを乗り越えて前へ進もうとする”覚悟と力強さ”に満ち溢れ、大いに感動させられました。
原作と『THE FIRST SLAM DUNK』ではリョータの背負っているものが明確になった分だけ”シーンの意味合い”が微妙に変化していますが、原作者が自ら脚本を書いているだけあって違和感も無く、「さすが井上雄彦先生だ!」と感心しましたよ。
しかも、絶妙のタイミングで流れる10-FEETの『第ゼロ感』がメチャクチャにカッコよく、疾走感溢れまくりの楽曲と劇中のドラマが見事なシンクロ効果で場面を盛り上げ、何度でも観たくなる名シーンに仕上がっています。うおおお!
なお、この『第ゼロ感』は完成まで何と2年もかかったらしく、10-FEETは楽曲制作のエピソードを以下のように語っていました。
普段の楽曲作りは2ヵ月ぐらいなんですが、この曲は2年かかりました。制作期間が2年っていうのは自分たちの作品では絶対にないことです。
井上先生からの要望として、湘北高校にとってはピンチだけれど、相手チームもカッコいいチームなので、どちらも引き立つようにと言われました。
映画の情報は公開まで出さないってことを早い段階から聞いていたので、歌詞の内容は具体的に言い過ぎず、かつ作品にも寄り添っている言葉選びというのを一番大事にしました。
例えばバスケット用語を記号のように使っていたり、「クーアザドンイハビ」っていう歌詞が出て来るんですけど、これは元の言葉(ビハインド・ザ・アーク=3Pラインよりも後ろからシュートを打つこと)を逆から読んでるんです。
とにかく、歌詞も曲もじっくり丁寧に作り込んだので凄く時間がかかりましたね。
井上先生とは完成披露試写会でお会いしたんですけど、目が合った瞬間にバーッと僕らの方に近寄って来て「今回は素晴らしい楽曲をありがとうございます!」と言ってくださって…
まさか井上先生からそんな言葉をかけてもらえるとは夢にも思ってなかったので、メチャクチャ嬉しかったです。
(「ZIP!」2022年12月20日放送回より)
ちなみに『THE FIRST SLAM DUNK』の主人公がリョータになったことに関し、井上先生は「連載時に描き切れなかった心残りがあったので、宮城リョータのことをもっと描きたかった」と語っており、リョータの設定も最初から”沖縄出身”と決めていたそうです。
少し独特な沖縄バスケにもともと注目していたんです。アメリカの影響を受けているのもありますが、小柄な選手が運動量豊富に素早く動き回る。
僕が高校生になる数年前に”辺土名旋風”というのがあった。平均身長169cmの沖縄の辺土名高校がインターハイで3位になったんです。とても面白い存在で。
だから「沖縄がルーツで背の低いガード」というキャラクターイメージは早い段階からありました。だから苗字も沖縄に多い”宮城”にしたんです。
というわけで、結論は「『THE FIRST SLAM DUNK』最高!」でした。いくつか気になる点はあったものの、オープニングの高揚感と試合シーンのカッコよさがそれらを吹き飛ばすほど素晴らしかったので実質的に問題なし。井上先生、ありがとうございました!