どうも、管理人のタイプ・あ~るです。
さて、当ブログでは過去に何度か押井守監督の書籍を取り上げていて、前回は『映画の正体 続編の法則』をご紹介しました(前回の記事はこちら↓)。
『映画の正体 続編の法則』や『押井守の映画50年50本』は非常にいい本で割とオススメなんですけど、今回ご紹介する『押井守監督が語る映画で学ぶ現代史』は、「押井監督が映画について語っている」という点は同じなんですが、ちょっと趣が違うんですよね…。
まず、取り上げている作品が『世界大戦』(1961年)、『007 ロシアより愛をこめて』(1963年)、『エレキの若大将』(1965年)、『仁義なき戦い』(1973年)、『野生の証明』(1978年)、『DEAD OR ALIVE犯罪者』(1999年)、『キャプテン・アメリカ ウィンター・ソルジャー』(2014年)、『ゲーム・オブ・スローンズ』(2011年~19年)など。
ラインナップを見て分かる通り昔の日本映画が多くて、その理由を押井監督は以下のように語っています(本書「まえがき」より)。
私たちが昔の映画を、特にひと昔前の邦画を観るときに覚える気恥ずかしさ、お尻がムズムズするような、あの妙な気分は、実は通り過ぎてきた過去の日本の社会が抱えていた価値観や、かつての自分自身の欲望と向き合った時の居心地の悪さに由来します。
(中略)
戦後の復興から始まって高度経済成長、所得倍増の時代を経てバブルを膨らまし、弾けさせてそのまま現在の停滞に至る、その道筋をあれこれの映画とともに辿ることができるはずです。本書はそのためのお気楽なガイドブックです。
とまぁ、こういうコンセプトで作られた本なんですよね。それ故に昔の日本映画が多くなってるんですが…
『映画の正体 続編の法則』と『押井守の映画50年50本』は洋画が多く、割とメジャーなタイトルを取り上げていたので読みやすかったのに対し、本書はちょっと好みが分かれるかもしれません(『エレキの若大将』とか、さすがに観たことないしw)。
そんな中、「海外ドラマシリーズ」として『ゲーム・オブ・スローンズ』と押井監督自身の実写ドラマ『THE NEXT GENERATION -パトレイバー-』について語っている箇所があり、個人的にはこの辺が印象的でした。
押井監督はある時、『CSI:科学捜査班』や『フリンジ』など海外のドラマシリーズを観始めたところ、「日本のドラマなんてお呼びじゃないぐらい面白い」と気付き、一気にハマってしまったそうです。
そして「どうやって脚本を書いて、どうやって撮影して、どういう風にシリーズのメリットを活かしてるんだろう?」などの部分に興味が湧き、研究しながら観ていたらしい(以下、押井監督のコメントより)。
海外ドラマを観ていて思ったのは、初期投資にお金をかけられるんだよね。最初にガーンと(毎回使える)設定まわりにお金をかけちゃうんですよ。例えば『CSI:科学捜査班』だったらラボのセットを作っちゃう。
(中略)
これは素晴らしい方法論だと思った。だから実写ドラマ版『パトレイバー』もそれを真似して、セットの初期投資に金を使おうと思ったわけ。それででっかい倉庫を借りて、特車二課のハンガーを作るところから始めたんだよ。
特車二課のセットを倉庫に組んじゃって、6割ぐらいはそこで撮ろうぜと。そのために実寸で全部作っちゃう。レイバーも搭乗するタラップも、リボルバーカノンもロッカーも全部実寸。これ、映画だったらなかなか成立しないよ。でも、12本で割ると採算が合うんだよね。
つまり、映画の場合はお金をかけてセットを組んでも1回で終わってしまうけれど、ドラマシリーズの場合は一度セットを作れば全話数でそれを使い回せるからコスパがいい…というわけですね。
そこで、実写版『パトレイバー』では実寸大のレイバーを2機作り、一つはハンガーに立たせて固定し、もう一つはトレーラーに乗せてあちこち移動させ、さらに現場でデッキアップまでさせることが出来たのです(宣伝にも使った)。
押井監督に言わせると「だからシリーズを12本やった方が映画1本撮るよりもお金が使えるんですよ。回収も効率がいいし。ブルーレイで売ったら2本セットで1枚と、映画版1枚と値段は同じなんだもん。シリーズをやれば6枚できる」とのこと。
「映画1本撮るよりもお金が使える」と押井さんは言っていますが、じゃあ実際どれぐらいの費用がかかったのか?というと、なんと総額22億円!山崎賢人さんが主演を務めた実写映画『キングダム』の制作費(宣伝費を除く)は約10億円と言われてますから、とんでもない金額ですよ。
しかも実写版『パトレイバー』は、ドラマで使ったセットをそのまま利用して映画まで撮ってますからね(メチャクチャ効率がいい!)。まぁ、映画を作ることは最初から決まっていたようですが、映画だけだったらここまでの予算はかけられなかったでしょう。
「最初に実寸大レイバーや巨大なセットを作り、それを12本のドラマと映画で使い回せば相当な費用対効果が見込める」という考えがあったからこそ、22億円という巨額の制作費を投じることが出来たわけで、これはなかなか画期的な方法なんじゃないでしょうか。
というわけで、本日は『押井守監督が語る映画で学ぶ現代史』という本をご紹介しました。
なお、「台湾で『ケルベロス-地獄の番犬』を撮ったらスタッフ全員下痢になるし交通事故は日常茶飯事だし、知らない爺さんがいつの間にかファインダーをのぞいてるし、もうメチャクチャだった」など、他にも面白エピソードが満載なので興味がある人はぜひどうぞ(^.^)