どうも、管理人のタイプ・あ~るです。
さて本日、「土曜プレミアム」にて『バック・トゥ・ザ・フューチャー PART3』が放送されます。
ご存知、製作総指揮:スティーヴン・スピルバーグ、監督:ロバート・ゼメキスによる人気シリーズの完結編で、1990年に公開され世界中で大ヒットを記録。日本でも多くの観客が劇場へ押し寄せ、82億円の興行収入を叩き出しました。
そんな『バック・トゥ・ザ・フューチャー』、「最初はエリック・ストルツが主人公だった」というのは割と有名な話ですよね。
もともとゼメキス監督はマイケル・J・フォックスを希望していたんですが、スケジュールの都合で起用できず、不本意ながら第二候補のエリック・ストルツで撮影を開始。
しかし6週間にわたって撮影を続けたにもかかわらず、監督は「どうしても自分のイメージに合わない」「やはりマイケルでなければダメだ」と訴え、エリックを降板させマイケルで最初から撮り直す…という状況になったのです(詳しくはこちらの記事をご覧ください↓)。
これは極めて珍しいケースではあるんですけど、「撮影を開始してから主役(もしくは準主役級)が降板させられる」という事例が全くないわけではありません。
例えば、ジェームズ・キャメロン監督の『エイリアン2』の場合、最初に海兵隊のヒックス伍長を演じていたのは『ウォリアーズ』や『48時間』などのジェームズ・レマーでした。
当時、ウォルター・ヒル監督の作品によく出演していたジェームズ・レマーは、ウォルター・ヒルが製作総指揮を務めた『エイリアン2』でもヒックス役に抜擢されたのです。
ところが、当時のレマーは重度の薬物依存症を患っており、なんと撮影開始から2週間後にドラッグ所持の容疑で逮捕されてしまったのですよ。当然、現場は大慌て!ヒックスは重要なキャラなので、このままでは撮影が続けられません。
そこでキャメロン監督は、急遽『ターミネーター』でカイル・リース役を演じたマイケル・ビーンに連絡をとり、「今すぐ来てくれ!」と撮影現場のイギリスまで呼び寄せたのです。
プロデューサーのゲイル・アン・ハードから詳しい事情を聞かされたマイケル・ビーンは、その時ロサンゼルスで暮らしていたのですが、金曜日に電話を受けて月曜日の朝にはもうパインウッド・スタジオへ到着し、撮影に参加していたとのこと(早い!)。
また、『ロード・オブ・ザ・リング』の人気キャラクター:アラゴルンは、当初はスチュアート・タウンゼントが演じていました。
しかし、ピーター・ジャクソン監督が「アラゴルン役には若すぎる」と撮影を始めてから気がつき、なんとクランクインからたったの4日で降板させられてしまったのですよ(もっと早く気付いていれば…)。
そこで代役を依頼されたのがヴィゴ・モーテンセンです。当時のヴィゴは『カリートへの道』や『クリムゾン・タイド』など様々な映画に出演していたものの、まだそこまで注目されていませんでした。
なので、ついに巡ってきたチャンスに喜んだ…かと思いきや、なんと撮影が長期間に及ぶことを聞いて「家族と離れて暮らすのは嫌だ」と一旦は断ろうとしたそうです。しかし、たまたま『指輪物語』の大ファンだった息子が、「絶対にこの役を引き受けた方がいい!」と熱心に説得したことで、最終的に出演を決めたらしい。
さらに、日本映画でも「突然の主役交代劇」は起きています。角川春樹監督が製作費50億円を投入した超大作『天と地と』の主役に抜擢されたのは渡辺謙で、最大の見どころとなる川中島の合戦シーンを撮るためにカナダのカルガリーにて大規模なロケを敢行。
ところが、そのロケ中に渡辺謙が急性骨髄性白血病に倒れるというまさかの事態が勃発!病状の深刻さから「撮影続行は不可能」と判断、降板に至りました。
大変なのはその後で、製作費50億円の映画の主役が急にいなくなったわけですから現場は大混乱!角川春樹監督は急きょ東京へ戻り、成田空港近くのホテルで記者会見を開いて渡辺謙の降板を発表。同時に、その場で「代役の緊急オーディション」を行い、榎木孝明を抜擢し、どうにか最後まで撮影をやり切ったのです。
また黒澤明監督の『影武者』も、当初は勝新太郎が主演を務める予定でしたが、撮影開始直後のリハーサルの時から早くも互いの意見が衝突して険悪なムードに…。さらに翌日、「自分の演技を確認したい」と撮影現場へビデオカメラを持ち込もうとした勝新太郎に対して黒澤監督が激怒。
勝新太郎も怒って現場を飛び出し、自分のワゴン車に閉じこもってしまいました。その後、黒澤監督が説得を試みたものの話し合いは決裂し、最終的に「辞めてもらうしかない」と降板が決定。代役として仲代達矢が起用されることになったのです。
ちなみに映画が完成した後、仲代達矢は奥さんから「やっぱりあの役は勝新太郎の方が良かった」と言われてガッカリしたそうです(笑)。
このように、「撮影を開始してから主役が降板させられる」というケースはいくつかあるんですけど、『バック・トゥ・ザ・フューチャー』が特殊なのは「監督が最初からマイケル・J・フォックスを希望していた」という点なんですよね。
他の事例が”病気”や”逮捕”や”監督とのトラブル等”で降板を余儀なくされたのに対し、『バック・トゥ・ザ・フューチャー』の場合は「どうしてもマイケルでなければダメだ!」という理由で降板させられたわけですから、エリック・ストルツとしては「理不尽」としか言いようがないでしょう。
もともと脚本家のボブ・ゲイルがマイケルをイメージしてシナリオを書いていたため、他の役者では雰囲気が合わなかったようですが、それにしても…
一体なぜ『バック・トゥ・ザ・フューチャー』はこんなことになってしまったのか?
一般的に「良い脚本と優れた監督と演技力のある役者が揃えばいい映画ができる」と思われがちですが(まぁ決して間違いではないんですけど)、実は「演じるキャラクターがその役者で本当に合っているのかどうか?」という部分も重要なんですよ。
実際、エリックの演技力には全く何の問題もなく、ゼメキス監督も「むしろ彼の役者としての能力は非常に優れていた」と認めているぐらいです。
つまり、もはや「演技力云々」の問題じゃなくて、マイケル・J・フォックス自身がもともと持っている”人間性”とか”面白そうな雰囲気”みたいなものが『バック・トゥ・ザ・フューチャー』には必要不可欠だったということなのでしょう。
ちなみに昔、ブラッド・ピットが『マトリックス』のネオ役をオファーされた時、「これは絶対に僕がやるべき役じゃないよ。他にもっと相応しい人がいるはずだ」と言って断ったそうですが、そういうものを早い段階で見極められる感覚が大事なんでしょうね。