どうも、管理人のタイプ・あ~るです。
さて昨日、金曜ロードショーで『魔女の宅急便』が放送されました。
もはや説明不要の有名作品ですが、角野栄子さんの児童文学小説を宮崎駿監督が映画化した本作は「新米魔女キキの活躍を描いた物語」で、1989年の7月に公開され大ヒットを記録。
宮崎監督によると「思春期の女の子の話を作ろうと思った」とのことで、主人公は魔法使いだけど「地方から上京して来て生活している”ごく普通の女性”のストーリー」を目指し、日常描写に特に力を入れたそうです。
ただし、これが難しかったようで制作を担当した原徹さんも「宮崎さんは地に足のついた等身大の女の子を描きたいという考えがあった」「しかし最近のアニメはじっくりと生活描写を見せる作品が少なくなっているため、描けるアニメーターがなかなかいない」と苦労を語っていました。
そんな『魔女の宅急便』ですが、実はその1年前に公開された劇場アニメ『AKIRA』(1988年7月)とちょっとした関りがあることをご存知でしょうか?
『AKIRA』は大友克洋さんの原作漫画を大友さん自ら長編アニメ化したSF超大作で、当然ながら内容的には『魔女の宅急便』とは全く関係ありません。
では、どこに接点があったのかというと…
『AKIRA』の制作が佳境を迎えていた頃、現場は深刻なアニメーター不足に陥っていたらしく(作業量が膨大で進捗が遅れぎみだったこともあり)、「このままでは公開日に間に合わない!」というぐらい切羽詰まった状況だったそうです。
アニメーターの北久保弘之さんは当初、『AKIRA』に参加する予定ではなかったにもかかわらず、たまたまスタジオを訪ねたら「人手が足りなくて困ってる!」「原画をやってくれ!」と言われて急遽参加するはめになったとか。
北久保さん曰く、「よもや『AKIRA』に参加することになるとは思いもしなかった」「遊びに顔を出したのが運のつきという感じでした(笑)」とのこと(「アキラ・アーカイヴ」より)
そんな大変な状況の中、救いの手を差し伸べたのがジブリのアニメーターたちでした。当時、ジブリでは『となりのトトロ』と『火垂るの墓』の制作が終盤に差し掛かっており、手の空いた人が『AKIRA』の現場へ手伝いに来てくれたのです。
例えば、『となりのトトロ』で「オタマジャクシを見つけるメイ」や「急成長する樹」などを描いた二木真希子さんは、『AKIRA』では「完全な肉塊と化した鉄雄」などのグロテスクなシーンを描いています(トトロとのギャップがすごいw)。
また、同じく『となりのトトロ』で「母の病状を心配して大泣きするサツキ」を描いた大塚伸治さんは、『AKIRA』では「肉体が暴走し変形していく鉄雄」や「触手に捕らえられるカオリ」など、これまたグロテスクなシーンを担当。
さらに『火垂るの墓』で「B29による空襲シーン」を描いた高坂希太郎さんも、『AKIRA』では「小さな光の玉を両手で握りしめる金田」など主にラスト付近のシーンを担当しました。
このように、ジブリのアニメーターが応援に来てくれたことで(まぁ理由はそれだけではありませんが)終盤の作業量が上がり、何とか公開日に間に合ったそうです。
そしてこの後、ジブリでは『魔女の宅急便』に取り掛かるわけですが、今度は逆に『AKIRA』に参加していたアニメーターが”恩返し”として『魔女の宅急便』を手伝ってくれたのですよ。
例えば、『AKIRA』で作画監督補を務めていた森本晃司さんは以下のようにコメントしています。
(『AKIRA』の)最後の方ではジブリの人たちが応援に来てくれてね。『トトロ』とか『火垂るの墓』の時期だったんだけど、終わったら駆け付けてくれて。その恩返しにオレも次の『魔女の宅急便』を手伝いに行ったし。この業界、貸し借りで回ってるんだよ(笑)。
(「月刊ニュータイプ」2021年1月号より)
つまり、「『AKIRA』の時に世話になったから、『魔女の宅急便』でその借りを返しに来たぜ!」って感じなんでしょうか(笑)。まぁ実際、森本さんがジブリ作品に参加したのは後にも先にもこの時だけなので、”恩返し”という意味合いで間違いないのでしょう。
ちなみに、森本さんは序盤の「キキが先輩魔女と出会うシーン」などを担当したんですが、「普通の生活芝居が多かったので、僕自身とまどってしまって、逆に迷惑をかけてしまった」と語っています。
それから、森本さんの奥さんでベテランアニメーターの福島敦子さんも、『AKIRA』の後に『魔女の宅急便』へ参加し、「キキが部屋の床を掃除するシーン」などを作画しました(福島さんもジブリ作品はこれのみ)。
また、”カリスマ・アニメーター”の異名を持ち、『AKIRA』では「バイクに乗る鉄雄」など主に序盤のバイクアクションを手掛けた井上俊之さんは、『魔女の宅急便』でも「プロペラ付きの自転車にトンボと二人乗りするキキ」など印象的なシーンを描いています。
なお、井上さんは『魔女の宅急便』の仕事について以下のようにコメントしていました。
(キキの顔が)描きにくかったです。今までで一番描きにくいキャラでした。(特に難しかったのは)顔のバランスや配置ですね。キキは目鼻が小さいんです。だから、おのおのの形は似せられるんですが、置く位置によってずいぶん印象が変わるんです。
意外にキキって鼻が上にあるんですよ。分析してみると、目と目の間ぐらいにあるんです。それで、ずいぶん鼻の下が長いキャラクターになっちゃう(笑)。宮崎さんや作監の人が描くとバランスがとれてるのに。だから、アップが苦しかったですね。
さらに美術を担当した大野広司さんの場合は、もともと『AKIRA』で背景を描いていたんですが、「どうしても『魔女の宅急便』に参加したい!」という思いが強すぎて、なんと『AKIRA』の作業がまだ終わっていないのに『魔女の宅急便』をやることになったらしい。えええ!?
終わってからならともかく、途中で抜けて参加ということになれば、「ジブリが『AKIRA』のスタッフを引き抜いた」などと言われかねません。
そこで、話をするために徳間書店のプロデューサーが水谷利春さん(『AKIRA』の美術監督)を訪ねたところ、「僕にも『魔女の宅急便』の美術をやらせてくれませんか。大野くんがうらやましい」と言われたそうです。
実は水谷さんも児童文学に憧れていて、「『AKIRA』の仕事がなければ自分がやりたかった」と思っていたらしい。なので、大野さんが「『魔女の宅急便』に参加したいんですが…」と水谷さんに相談した時も、「こういう機会を逃すべきではない」「頑張ってきなさい」と喜んで送り出したそうです(いい上司だなぁ)。
というわけで『魔女の宅急便』と『AKIRA』は、それぞれストーリーも世界観も全く異なる作品ですが、こういう形で繋がりがあったんですね。