どうも、管理人のタイプ・あ~るです。
さて昨日、NHKのBSプレミアムでジョン・カーペンター監督の『遊星からの物体X』が放送されました。久しぶりに観たんですが、やっぱりいいですねぇ、気持ち悪くて(笑)。
『遊星からの物体X』といえば1982年に公開されたSFホラー映画で、日本ではほぼ同時期にスティーブン・スピルバーグ監督の『E.T.』が公開され、歴代1位の大ヒットを記録していました。
『E.T.』と『遊星からの物体X』は、どちらも「地球人と地球外生命体の遭遇」を描いた物語ですが、内容は全く正反対で「よくこの2作を同時期に公開したなあ」と今考えたらビックリですよ(笑)。
ちなみに『E.T』の方はうちの親に連れられて観に行った記憶があるんですけど、『物体X』は映画館では観ていません。恐らく「こんなもの子供には見せられない」と親が判断したのでしょう(正しい判断だw)。
そんな『遊星からの物体X』は、一体どうやって作られたのでしょうか?
原作はジョン・W・キャンベルの短編小説『影が行く』で、1951年にハワード・ホークスの製作により初めて映画化されました(タイトルは『遊星よりの物体X』)。
それから24年後の1975年に、ユニバーサル・ピクチャーズのプロデューサー:スチュアート・コーエンが原作の権利を買い取り、再び映画化を企画。その際にコーエンは、学生時代の友人だったジョン・カーペンターに声をかけたのです。
ところが、ユニバーサル側はカーペンターの起用に難色を示し、トビー・フーパーと契約してしまいました。そして、フーパーと脚本家のキム・ヘンケルは1年半に渡って作業を続けたのですが…。
スチュアート・コーエンは完成した脚本に納得できず、何度も書き直しが発生し、なかなか企画が進みません。
そうこうしているうちに、リドリー・スコット監督の『エイリアン』(1979年)が公開され、ユニバーサルも「恐ろしいエイリアンが人間を襲うSFホラー」の企画に一層の関心を示し始めました。さらに同じタイミングでジョン・カーペンター監督の『ハロウィン』が大ヒットを記録!
この成功によってカーペンターの手腕が認められ、『遊星からの物体X』の監督に決定したのです(トビー・フーパーは降板)。
しかし、この時点でフーパーとキム・ヘンケルが書いた脚本がほぼ出来上がっていたものの、カーペンターが気に入らず、全て書き直すことになりました。
1979年の8月には『OK牧場の決闘』のワイアット・アープ役などで知られる名優:バート・ランカスターの息子のビル・ランカスターが脚本家として加わり、カーペンターの意向を取り入れつつ『遊星からの物体X』のシナリオを作り上げていったのです。
こうして完成したストーリーは、原作『影が行く』では37人だった登場人物が12人になるなど変更点もありますが、1951年版(『遊星よりの物体X』)では不可能だった「他の生物そっくりに変形する」という原作の描写を見事に映像化。
これにより、「自分の隣にいる仲間が実は恐ろしい怪物かもしれない」というサスペンスが生まれ、南極観測基地という閉ざされた空間を舞台に、隊員たちに紛れ込んだエイリアンを見つけ出して退治するまでの死闘を描くというシンプルなプロットが際立つことになりました。
しかし「移動場面が基地の中だけ」という変化の乏しさに加え、「登場人物が全員むさ苦しいオッサンのみ」という極めて地味なビジュアルは、一見するとヒットしそうな要素が見当たりません(実際、公開当時は全然ヒットしなかったらしい)。
にもかかわらず、『遊星からの物体X』は長年にわたって映画マニアから支持され続け、現在に至るまでファンの記憶に残る作品となっているのです。いったいなぜか?
その理由はもちろん、常軌を逸した”物体X”の描写そのものにあるでしょう。
とにかく、初めて見た時はぶったまげました。最初は犬の姿をしていたものが、突然「バカッ!」と頭部が割れて中から「ピュルピュル!」と触手みたいなものを伸ばして襲い掛かってくるのだからたまりません!
第一発見者の観測隊員は「何だか分からないけどスゲェのがいるぞ!」と仲間に向かって叫びますが、たしかに「何だか分からないけどスゲェ」としか表現のしようがないほどの絶大なインパクト!
ちなみに、このシーンで物体Xは他の犬に「ビャーッ!」と謎の液体をぶっかけていますが、あれは”トゥインキー”というお菓子に使われている甘味料で全く無害だそうです(しかも撮影には動物愛護協会が立ち会っていたらしい)。
次に登場するモンスターは人間型で、ノリスという登場人物が変形してバケモノになることから通称「ノリス・モンスター」と呼ばれています。
心臓発作で倒れたノリスを助けるために医者が電気ショック用のパッドを胸に当てようとした瞬間、突然ノリスの胸が「ガバッ!」と開き、ジョーズみたいな巨大な牙で医者の両腕を食い千切ってしまう場面はトラウマものの衝撃!うぎゃああああ!
さらに、裂けた胸から人間の頭みたいなものが出てきて、「グニョニョニョ!」と首を伸ばしながら天井に張り付くのだから怖すぎる!初公開時は「なんじゃこりゃあ~!」と劇場中がパニックになったと言われる名場面(?)です。
なお、ノリス役を演じたチャールズ・ハラハンはごく普通の俳優なのに、このシーンの印象が強すぎたせいで、本作以降はどんな映画に出ても”物体”呼ばわりされるハメになったそうです(切ないエピソードだなぁw)。
そして天井にへばり付いたノリスモンスターを隊員たちが焼き殺そうとしている隙に、ベッドに横たわっているノリス本体の首が「ブチブチッ!」と胴体から千切れていきます。苦しそうに顔を歪めながらゆっくりと皮膚を引き裂き、やがてズルリと床に落ちるノリスの首。
この場面は今見てもゾッとする程良く出来ていて不気味さ満点!CGなど無い時代だから当然人形なんですが、逆にCGでは決して出せない”生の迫力”が表現されていると言えるでしょう。
さらにこの後、ノリスの口から出た長い舌が「ビュルルルッ!」とテーブルの脚に巻き付き、「ズルッ!ズルッ!」と頭を移動させながらテーブルの下に隠れるんですね。
すると、頭から触覚のような目玉と、クモのような足が「メリメリメリッ!」と生えてきてゴソゴソと歩き出すんですよ。いったい、何をどうしたらこんな珍妙なデザインを思いつけるのか想像もつきませんが、呆気に取られること間違いなし!
この”頭に足と目玉のようなものが生えた怪物”(名前はスパイダーヘッド)が、「ガサガサガサ」と逃げて行く姿を見つけた隊員が茫然とした顔で「こいつは何の冗談だ…?」と一言(そう言いたくなる気持ちは良くわかるw)。
実際の撮影現場では、直前までスパイダーヘッドのデザインを役者たちに見せず、いきなり本番に入ったとのこと。つまり、主人公たちのリアクションは演技ではなく、本当に心底驚いているのです。
さらに興味深いのは、首が取れる直前まではホラーなんですが、この場面では恐怖の表現が突き抜け過ぎてギャグになってるんですよ。
映画はこの後、誰がエイリアンかを見分けるために隊員たちをロープで縛って「人間かどうか」をチェックするシーンへと移り、その最中、突然一人の隊員の頭部が「バリバリバリッ!」と醜く変形し、他の隊員を襲撃!
「早く助けてくれ~!」と縛られたまま叫ぶ隊員。主人公は火炎放射機を発射しようとするものの慌てているので火が付かない!この場面も非常に緊迫感溢れるシーンなんですが、どう見ても「怖い」というより「可笑しい」という雰囲気の方が勝っちゃってるんですよね。いったいなぜ?
例えば『死霊のはらわた』や『ブレインデッド』などもそうなんですけど、あまりにも過剰な恐怖表現は「ある一線」を越えた瞬間にギャグへと転換するのです。サム・ライミやピーター・ジャクソンはそのことを自覚してわざとやっていたようですが、ジョン・カーペンターには恐らくそのような自覚はなかったのでしょう。
つまり、「製作者も予期しない可笑しさ」が生まれたことで、他のホラー映画とは一味も二味も違う独特な雰囲気の映画になったとも言えるわけで、それこそがまさに『物体X』の魅力の一つだと思います。
これら前代未聞のクリーチャー製作を一任されたのは、当時まだ22歳の特殊メイクアーティスト:ロブ・ボッティン。高校時代からリック・ベイカーの元で修業を積み、『ハウリング』の特殊メイクで一躍脚光を浴びた若き天才ですが、ボッティンにとっても『物体X』は初のメジャー大作で、クリーチャーのデザインは難航した模様。
当初、物体のデザインはもっとおとなしいものでしたが、「今までのモンスターとは完全に一線を画した、全てのモンスターの親玉とも言えるような凄まじいものにしたい!」とカーペンターが宣言。この一言によりSFXの方向性が決定したのです。
『物体X』を製作するにあたっては、当時の特殊メイク・テクニックがフル活用されました。
ケーブル駆動のメカニカル、空気袋を利用した変形装置(『アルタード・ステイツ』でディック・スミスが開発し、『ハウリング』でボッティンが多用したもの)や、ハンド・パペット、ワイヤーを使った遠隔操作等、ありとあらゆる技法を駆使して休む間もなく様々なクリーチャーが製作されたのです。
しかし、一日18時間以上ぶっ通しで働き続けたロブ・ボッティンが過労で倒れたため、急遽『ターミネーター』等で知られるスタン・ウィンストンが「ドッグ・シング」を担当するなどアクシデントも多発。さらに、実際の撮影も試行錯誤の連続だったそうです。
「ノリス・モンスター」の登場場面はわずか1分程度ですが、この短いシークエンスのために顔の表情を細かく変えるメカニカル・ダミーヘッドを6種類も製作し、千切れる首は風船ガム製の臓物の中に隠されたロッドを手で押して操作しました。
また、ノリスの頭が舌を使って移動するショットは、数人の操作係がモノフィラメントの釣り糸で舌を動かし、それを逆再生することで作り出したとのこと。スパイダーヘッドが机の下から逃走を図るシーンでは、ラジコン操作のメカニカルヘッドが使用されるなど、まさにSFXの見本市!
こうして、1年以上にも及ぶ特殊撮影を続けた結果、映画史に残る衝撃シーンが生まれたのです。
『遊星からの物体X』は、クリーチャーの表現が暴走しすぎて若干サスペンス部分とのバランスを欠いてはいるものの、「むしろそれがイイ!」という熱烈なフォロワーを生み出し、以降の映画や日本のマンガ・アニメ・ゲームなどに多大な影響を与えました。
この映画が公開されてからすでに40年経ちますが、CG全盛の現在でも全く色あせないどころか、物体Xのインパクトを超えるものは未だに現れていないのではないでしょうか?そういう意味でも、まさに金字塔的な作品だと思います。