どうも、管理人のタイプ・あ~るです。
本日、金曜ロードショーで『トイ・ストーリー』が放送されます。本作は1995年に公開された世界初のフルCG長編アニメーション映画で、当時その斬新な映像表現が話題になりました。
さらに感動的なストーリーも見どころで、アカデミー賞の脚本賞やオリジナル主題歌賞・作曲賞などにノミネートされ、アカデミー特別業績賞を受賞。最終的に全世界で3億6千万ドルを超える興行収入を叩き出し、フルCGアニメの素晴らしさを世間に知らしめたのです。
そして『トイ・ストーリー』を作ったアニメ制作会社の「ピクサー」は、その後『バグズ・ライフ』や『モンスターズ・インク』などヒット作を連発し、凄まじい勢いで急成長していったわけですが、実は『トイ・ストーリー』の公開直前まで大変な経営難に陥っていたことはあまり知られていないかもしれません。
というわけで本日は、ピクサーという会社を経営的な側面から詳しく描いた『世界一のアニメーション企業の今まで語られなかったお金の話』という本をご紹介しますよ。
この本の著者であるローレンス・レビー氏は、シリコンバレーの某IT企業で最高財務責任者として働いていました。そんなローレンスのもとへ1994年11月のある日、1本の電話がかかって来たのです。その電話をとると…
「もしもし、スティーブ・ジョブズです」
ローレンスはビックリしました。当時のスティーブ・ジョブズといえば、1985年にアップルを追放された後、新会社「NeXT」を立ち上げるものの今いち業績が芳しくない…そんな状況が続いていたのです。
しかしシリコンバレーでは相変わらず有名人で、ローレンスも「あのスティーブ・ジョブズがわざわざ僕に電話をかけてくるなんて…。NeXTの経営に関する相談だろうか?」と興味を持ったそうです。ところが、スティーブの口からは思いもかけない言葉が飛び出しました。
「実は”ピクサー”という会社のことなんだけどね」
ローレンスは再びビックリしました。「え?ピクサー?聞いたこともないぞ、そんな会社…」と動揺しましたが、とにかくスティーブと話をしたかったので「なるほど、それは面白そうですね。会って詳しく教えていただけますか?」と提案。
そして電話を切った後、急いでピクサーについて調べてみると、とんでもない会社であることが判明しました。
元々ピクサーは、『スター・ウォーズ』の監督:ジョージ・ルーカスが特殊効果制作会社「ILM」の中のCGアニメ部門として立ち上げた組織で、『スタートレックII カーンの逆襲』や『ヤング・シャーロック/ピラミッドの謎』などに携わり、CGキャラクターを作ったりしていました。
そして1986年、アップルを退職したスティーブ・ジョブズがルーカスフィルムからこの部門を買収し、「ピクサー」と名付けて独立させたのです。
当初スティーブは、ピクサーでCG制作の専用コンピュータとそれに関連するソフトウェアを開発し、政府や企業に販売するつもりでしたが、全く売れなかったらしい。
そこで自社製品の性能をPRするために、ピクサーの社員だったジョン・ラセターたちが短編のCGアニメーションを作ることになったのです。その結果、『ルクソーJr.』や『ティン・トイ』などの優れた作品が生み出され、アカデミー短編アニメ賞を受賞するなど高く評価されたものの、残念ながら短編映画は単独では劇場公開されないため興行収入は得られません。
仕方なくCM映像制作の仕事で食いつないでいましたが、ハードも売れずソフトも売れず、さらにCGの開発には莫大なコストがかかるため、毎月毎月ピクサーは赤字を垂れ流している状態でした。
しかもその赤字の穴埋めを、なんとスティーブ・ジョブズが自腹で補填していたのだから凄すぎる!その額、トータルで5000万ドル!「これだけ突っ込んでもまだ赤字を出し続けているとは、ピクサーってなんてヤバい会社なんだ…」と驚愕するローレンス。
実際、スティーブに会って話を聞くと「ジョージ・ルーカスから買収して以来、ピクサーはほとんど利益を上げていない。だから君に何とかして欲しいんだ」と言われましたが、どう考えても現時点ではリスクしかありません。
そしてスティーブから「近いうちにピクサーを見に来てくれないか?」と言われたローレンスは「断るべきか…」と悩みましたが、家に帰って奥さんに相談すると「よく考えもせずに断るような話じゃないでしょ。もう少し検討してみたら?決めるのはそれからでも遅くないわよ」と言われ、一応ピクサーの事務所を見てみることにしました。その数日後…
「ここがピクサーか……」
当時のピクサーはローレンスの自宅から車で2時間以上もかかる辺鄙な田舎町にありました。何の変哲もない平屋建てのビルで玄関ロビーはショボく、部屋の中も暗くて小さい。おまけに駐車場も狭いときている。
「最新のコンピューター・グラフィックスを開発している会社がこれなのか…?」と事務所のドアを開けながらローレンスは思ったそうです。中へ入るとさらに悲惨で、床のカーペットは擦り切れ、壁には何の飾りも無く、照明も不足していました(だから部屋全体が暗い)。
そしてピクサーの共同創業者エド・キャットムルに話を聞くと、「現在我々はディズニーから長編アニメーションの制作を請け負い、11月の完成を目指して作業しています。しかし、ご覧の通りお金がありません。毎月スティーブから小切手をもらい、それを運用資金にあてている状態なのです」とのこと。
それを聞いて、ローレンスは絶望的な気持ちになりました。正直、ピクサーの財政状況がここまで悪いとは思っていなかったからです。キャッシュはない。引当金もない。資金はスティーブ・ジョブズのポケットマネーのみ。会社としては、まさに破綻寸前の状態と言っても過言ではありません。
「ピクサーはもうダメだな…」
ローレンスがそう考えているとドアをノックする音が。エド・キャットムルの秘書が「試写室の準備が整いました」と知らせに来たのです。それを聞いてエドは立ち上がりながらローレンスに声をかけました。「じゃあ行きましょうか。いま我々が作っているものをお見せしますよ」
ピクサーの試写室は小さな映画館みたいな感じで窓が無く、正面に大きなスクリーンがあり、反対側には映写機が置かれていました。そして真ん中には、どこかで拾ってきたような古いカウチやひじ掛け椅子が並べてあったそうです。
「本気で映画を作っている会社の一番大事な部屋がコレかよ…?」とローレンスが呆れていると、「毎日ここにアニメーターたちが集まって、ジョン・ラセターと一緒に出来上がった映像をチェックしています」と説明するエド。
そして「これからご覧いただく作品は、シーンの全てが完成しているわけではありません。一部のキャラクターが未完成だったり光の処理が不十分だったり、時間も10分程度です。予めご了承ください」との注意を受けた後、部屋が暗くなり上映が始まりました。
それから約10分間、ローレンスはこのオンボロの試写室で、今にも倒産しそうなこの会社で、想像を絶するほどクリエイティブな、まるで魔法のように素晴らしい映像を体験することになったのです。
ウッディ、バズ、レックス、ポテトヘッド、ハム、スリンキーなど、画面に登場する様々なオモチャたちが、みんな圧倒的な実体感を持って生き生きと動いている!こんな映像見たことない!うわあああ!
上映が終わり、部屋が明るくなるとローレンスはボロい試写室のボロい椅子に座ったままでした。しかし確かに10分間、彼はどこか他の世界を体験したのです。オモチャが感情を持ち、生きている世界を。こんなものが作れるなんて、この会社には魔法使いがいるに違いない…!
ローレンスが感動で震えていると、「いかがでしたか?」とエドに尋ねられ、「いや…なんて言ったらいいんでしょう。すごいですね!こんなの見たことありません。信じられない!みんなビックリすると思いますよ。本当に素晴らしい!」と興奮して答えました。
つい10分前までは「この会社もうダメだろ」などと見切りをつけそうになっていたのに、こんな急激に考えが変わるとは(笑)。まあ、それほどピクサーの仕事ぶりがすごかったということなのでしょう。
その後、別室でジョン・ラセターと面会したローレンスは「すごかったです!ピクサーでこんな素晴らしいアニメーションが作られていたとは知りませんでした!」と絶賛し、「そういえば作品名を聞いてませんでしたね。何というタイトルなんですか?」と尋ねました。
その問いに対し、ジョン・ラセターはこう答えました。「実はまだタイトルは決まってないんですよ。ただ、我々は『トイ・ストーリー』と呼んでいます」
「『トイ・ストーリー』…!」
こうしてローレンスと『トイ・ストーリー』の長い付き合いが始まったのです。当初ピクサーに失望感を抱いていたローレンスは、あまりにも見事な『トイ・ストーリー』の映像美に魅了され、最終的に会社を辞めてピクサーに転職することを決断しました。しかしその後、様々な試練が彼を待ち受けていたのです…!
というわけで、『トイ・ストーリー』をめぐる本当のエピソードはここから始まるわけです。この本は一応ビジネス書に分類されてるんですが、ローレンスの人生は非常にドラマチックで波乱万丈!映画みたいで、とても面白かったですよ。気になる方はぜひ読んでみてください(^.^)