どうも、管理人のタイプ・あ~るです。
さて先日ツイッターをやっていると、いま世間を賑わせている新型コロナウイルスの話になって、そこから(どういう流れか忘れましたが)、なぜか『最臭兵器』の話題になったんですね。
『最臭兵器』とは、大友克洋が製作総指揮を務めた短編アニメの一つであり、他2つの短編アニメ(『彼女の想いで』&『大砲の街』)と合わせて、オムニバス形式の『MEMORIES(メモリーズ)』というタイトルで1995年に劇場公開されました。
そこで僕としては「昔こういうアニメがあったんですよ~」的な軽い感覚で動画をツイッターに投稿したんですが、なんとメチャクチャ拡散されて5万件以上もいいねが付いてしまったのですよ。えええ!?なんで!?
本日、なぜか『最臭兵器』が話題になっていたので久しぶりに鑑賞。このアニメは1995年に公開されたオムニバス映画『MEMORIES』(大友克洋製作総指揮)の中の一作で、手描き作画の魅力が全面に満ち溢れ、特に「異臭を放つ主人公が自衛隊から総攻撃を食らうシーン」の迫力は今観ても素晴らしい。 pic.twitter.com/PflomFr6Jy
— タイプ・あ~る (@hitasuraeiga) February 21, 2020
いや~、25年も前のアニメにこんなに反響が来るとは思いませんでした。ちなみに、あらすじを簡単に紹介すると「薬品の研究所に勤めていた主人公が、ある日うっかり開発中のサンプル薬を飲んでしまい、それが政府に極秘で依頼されたヤバい薬品だったため、全身から異臭を放ち始め日本中がパニックに陥る」というコメディです。
そして取り上げた映像は、自分の身に何が起きたのか全く分からない主人公が、上司の指示に従って薬品の開発資料を本社まで運ぼうとするものの、途中で異臭がどんどん激しくなってきたため、「このままでは危険だ!」と政府が判断し、陸海空すべての自衛隊を出動させ、主人公に総攻撃を食らわせる…というシーンです(ムチャクチャだなあw)。
このツイートに寄せられた反応を見てみると、「懐かしい!」「このアニメ大好きでした!」などの意見が非常に多く、「こんなに古い作品なのに、意外とみんな観てるんだなあ」と驚きました(中には「小学校の授業で観た」という人も4~5人いて「どういうことだ!?」と混乱しましたけどw)。
また「初めて観た」「こんなアニメが25年前に作られていたなんて…」「面白そう!」という意見も多かったですね。なるほど、確かに若い人はまだ生まれていない頃なので、知らない人もいっぱいいるでしょう。
そこで調子に乗った僕は、『MEMORIES』の最初のエピソードにあたる『彼女の想いで』もツイートしたんですよ。こっちも素晴らしい作画で見応えがありますからね。そしたらなんと、11万件以上もいいねが!うわあああ!?
オムニバス劇場アニメ『MEMORIES』の1エピソード「彼女の想いで」より、凄腕アニメーター:沖浦啓之さんが描いたカット。制作当時の1995年はCGがまだ普及しておらずオール手描き作画なのだが、驚くほど緻密で今見ても全く色褪せていないどころか、むしろカッコよく見えるのは驚異的ですらある。 pic.twitter.com/93fYUqXhCh
— タイプ・あ~る (@hitasuraeiga) February 23, 2020
『彼女の想いで』は大友克洋が描いた同名の漫画を原作とし、「2029年に宇宙でスペースデブリの回収作業をしていた作業員たちが謎の宇宙船を発見し、中へ入って調査していると次々と不思議な現象が起こり始め…」というSFサスペンスです(ちょっと怖いんですが、切なくていい物語ですよ)。
スタッフも豪華で、『AKIRA』や『魔女の宅急便』などに参加したベテラン・アニメーター:森本晃司が監督を務め、『オネアミスの翼』や『走れメロス』などの超絶技巧で”カリスマ・アニメーター”と呼称される井上俊之が作画監督、『パーフェクトブルー』『千年女優』『パプリカ』などの監督として知られる今敏が脚本・レイアウト、『新世紀エヴァンゲリオン劇場版 Air』で弐号機と量産機の激闘シーンを描いた磯光雄が設定、そして『攻殻機動隊』や『人狼』など数多くの作品でリアルな描写を追求し続けている凄腕アニメーターの沖浦啓之が原画として参加しているのです(他にも巧い原画マンがゾロゾロとw)。
この映像に対しては「え?CGを一切使ってないの?」「全部手描きのセルアニメ?」「嘘でしょ!?」みたいな反応が最も多かったですね。最近はメカだけでなくキャラもCGで描くことが増えていますが、そんな中、CGを使わないオール手描き作画の緻密で自然な動きが印象的に映ったのでしょう。
そして3つ目のエピソード『大砲の街』についてもツイートで紹介しようかな…と思ったんですけど、こちらのアニメの場合はどこか特定のシーンがすごい!とかではなく、「全編23分をワンカットで描いている」という点が最大の特徴なんですよ。
まあ実写映画では、『カメラを止めるな!』の「37分ワンカット」や、現在公開中の『1917 命をかけた伝令』の「全編ワンカット撮影」など色々ありますが、アニメでこの手の長回しはあまり例がありません。なぜなら「描くのが大変だから」です。
基本的にアニメーターは1秒間に8枚~12枚ぐらいの(場合によってはもっと多い)絵を描いていて、秒数が伸びれば必然的に描く分量も増えるわけです。止まっている絵ならまだしも、動いている絵をずっと描き続けるのはさすがに至難の業でしょう。ましてや全編ワンカットなんて正気の沙汰ではありません!
当然ながら大友克洋さんがこのアイデアを提案した時、全スタッフが思いました。「そんなの、どうやってやるんだよ…?」と。この難題にチャレンジすることになったのが、後に『この世界の片隅に』で大ヒットを飛ばすことになる片渕須直さんです。
当時の片渕さんは『アリーテ姫』の制作準備のためにスタジオ4℃に出入りしてたんですが、ある日プロデューサーに呼び出され、「大友さんが全編ワンカットのアニメを作ろうとしている。ぜひ協力して欲しい」と告げられたのです。それを聞いた片淵さんは言いました。
「一体どうやって?」
こうして前代未聞の「全編ワンカットアニメ」に関わることになった片淵さんは試行錯誤するものの、当時はデジタル技術もまだ十分に普及しておらず、セルに描かれた絵を1枚ずつ撮影していたため、どう考えても実際に全編をワンカットで作ることなど不可能です。
そこで片淵さんは全体を30ぐらいのカットに分割し、それぞれの繋ぎ目が分からないようにフィルムをオプチカル合成することで「全編ワンカット(のように見える)アニメ」を作ることにしました(よく見ると「煙」や「黒バック」などを映すタイミングで場面を繋いでいる)。
とは言うものの、大友さんが描いた絵コンテはワンカット前提の描写となっており、キャラクターを追うカメラが常にあちこち動きまくり、一筋縄ではいきません。実写の場合は被写体に向けてカメラを振ればそれで済みますが、アニメの場合は撮影台を固定して絵の方を動かすため、動きが大きくなればなるほど大きな紙に絵を描かねばならないからです(あるアニメーターは紙がデカすぎて机に乗せられないため、床に置いて絵を描くはめになったらしい)。
また、カメラワークが複雑になると、それに合わせて背景も大きく描かねばなりません。なので普通のパネルに画用紙を貼っても全然面積が足りず、仕方ないからベニヤ板を買ってきて大きな画用紙を水貼りし、そこに背景を描くなど大変な苦労を強いられたそうです。
さらに長いカットを撮影するには「ライト」も問題でした。全編ワンカット(のように見える)アニメを作るためには、全シーンの明るさを統一する必要があります。しかし、撮影の途中でライトを消して、次にまたライトを点けると、厳密に同じ電流量にはならず、必ず僅かな誤差が生じます。この状態で撮影すると、ワンカットの途中で色味がパカパカと変わってしまうのですよ。
これを避けるためにはどうするか?なんと、1日の撮影が終わるとそのままライトを点けっぱなしで帰宅し、翌日またその状態から作業を再開したそうです(ただし、この方法も途中でライトが切れたら最初からやり直しになってしまうため、片淵さんは常にヒヤヒヤしていたというw)。
こうして何とか『大砲の街』を完成させた片淵さんは、その後『ちびまる子ちゃん』や『名犬ラッシー』など様々なアニメに携わり、21年後に『この世界の片隅に』で高く評価されることになったのです。
ちなみに『大砲の街』の内容は「巨大な大砲を備えた移動都市を舞台に、そこで暮らす主人公とその家族たちの姿を描いた物語」で非常にシンプルです。Amazonビデオで視聴できるので、興味がある方は『彼女の想いで』や『最臭兵器』と合わせてぜひ一度ご覧ください(^.^)