どうも、管理人のタイプ・あ~るです。
すっかり遅くなってしまいましたが新年明けましておめでとうございます!2020年もよろしくお願いします(^.^)
さて、年末年始に実家でのんびりテレビを見ていた人も多いんじゃないかと思いますが、昨年の大晦日にちょっと気になる番組が放送されたんですよ。
『実はカットされてました』という番組で、「世の中に存在するものは完成形の状態になるまで様々な部分がカットされている」「そのカットされた部分に注目し、一体なぜカットされたのか、経緯や状況を調査する」という内容でした。
出演者はお笑い芸人の和牛や、麒麟の川島さん、ジャニーズJr.の阿部亮平さん、アナウンサーの宇垣美里さんなど。そして取り上げられた話題は、映画『バック・トゥ・ザ・フューチャー』の主演俳優に関するエピソードです。
ここで、「え?『バック・トゥ・ザ・フューチャー』の主役ってマイケル・J・フォックスだよね?」「ちゃんと映像に残ってるじゃん」「カットされてたってどういうことなの?」と疑問に思う人もいるでしょう。
実はこの話、映画ファンの間では割と有名で知ってる人も多いんですけど、『バック・トゥ・ザ・フューチャー』の主人公って、元々は別の人が演じてたんですよ。それがエリック・ストルツという俳優さんです。
エリック・ストルツといえば、1982年の『初体験/リッジモント・ハイ』で映画デビューし、『マスク』や『恋しくて』、『ザ・フライ2 二世誕生』などで主演を務めたイケメン俳優です(ちなみに『初体験/リッジモント・ハイ』は、ジェニファー・ジェイソン・リー、ショーン・ペン、フォレスト・ウィテカー、ニコラス・ケイジなど意外と豪華キャストだった)。
後にゴールデングローブ賞にノミネートされたり、ブロードウェイで活躍するなど、その演技力が高く評価されるエリック・ストルツですが、デビュー当時はさほど注目されていたわけではありません。
しかし、ユニバーサルスタジオの当時の社長だったシドニー・シャインバーグがなぜかエリックを気に入り、「うちの映画にも出演させたい!」と熱望。そんな時に出てきた企画が『バック・トゥ・ザ・フューチャー』だったのです。
当初、監督のロバート・ゼメキスは主人公のマーティ役にマイケル・J・フォックスを希望していましたが、その頃のマイケルはTVドラマ『ファミリー・タイズ』の撮影で毎日大忙しでした。
そのため、出演交渉した際も「この番組を支えているのはマイケルだ。映画のために彼を現場から離すことは出来ない」と『ファミリー・タイズ』のプロデューサー(ゲイリー・デヴィッド・ゴールドバーグ)に断られてしまったのです。
つまり、この時点ではマイケル・J・フォックス本人に何も知らされないまま、『バック・トゥ・ザ・フューチャー』のオファーが蹴られてたんですね(マネージャーも「マイケルが興味を示すと困るから」という理由で脚本を見せなかったらしい)。
そこで仕方なく、ロバート・ゼメキス監督はシドニー・シャインバーグ社長の要望に従い、エリック・ストルツを主役に起用。すでに映画の公開日が7カ月後に迫っていたこともあり、急いで撮影が開始されました。
ところが、いざ撮影が始まるとロバート・ゼメキス監督は「なんか思ってたのと違うなあ…」と違和感を感じたそうです。
それでもスケジュールが押していたため撮影を続けたんですが、違和感は日に日に強まっていき、6週間後にとうとう我慢できなくなってスティーブン・スピルバーグを映写室に呼び寄せ、「どう考えても面白い映画になっているとは思えない。自分が間違ってるんだろうか?」と編集したフィルムを見せたそうです。
するとスピルバーグは映画を観終わって冷静に答えました。「いや、君の言う通りだ。完全に笑いの要素が死んでるよ」と。
なんと、エリック・ストルツが演じたマーティは全然面白くなかったのですよ!ゼメキス監督は『バック・トゥ・ザ・フューチャー』をコメディ映画として撮っていたのですが、意図したユーモアが全く発揮されていませんでした。つまりエリックの撮影シーンは、「面白くなかったからカットされた」のです。
普通、こんな状況はあり得ません。もちろん病気で主役がやむを得ず降板するとか、現場で監督とモメて降板させられるというパターンは過去にもありました。しかし、6週間も撮影を続けた挙句に「面白くないから」という理由でクビになった主演俳優は、恐らくエリック・ストルツだけでしょう。
ドク役でエリックと共演していたクリストファー・ロイドも「6週間演じ続けたのに降板なんて、私ならショックで立ち直れないよ」と当時の状況を振り返っています。せめて、もう少し早く指摘してくれればなあ…(-_-;)
それにしても、どうしてこんなことになってしまったのでしょうか?決してエリック・ストルツの演技が悪かったからではありません。むしろ「彼の役者としての能力は非常に優れていた」とゼメキス監督も認めています。
エリックは単にミスキャストだった。それは彼の才能とは全く関係ない。エリックは素晴らしい俳優だよ。けれど、彼のコメディ感覚が、この映画で私が思い描いたものとは決定的に違っていたんだ。もし映画をそのまま作っていたら、きっと大失敗しただろう。非常につらい決断だったが、映画のためには彼に降りてもらうしかなかったんだ。
いや~、「コメディ感覚が違っていた」と言われても…(苦笑)。それはもう演技力云々ではなく、「資質」とか「センス」とか、そういう問題ですよねえ。しかし、このことはゼメキスやスピルバーグだけでなく、なんと当のエリック本人も「自分はマーティ役に合ってないのでは…?」と薄々気付いていたようです。えええええ~!?
どうやら監督や他のスタッフたちの反応を見て「何か違うな…」と思っていたらしく、でも主役なので自分から「降ろしてください」とは言い出せず、そのまま6週間経ってしまったと。だから監督に呼び出されて「申し訳ないけど、君の仕事は今日で終わりだ」と告げられた時も「ああ、やっぱりそうなったか…」という気持ちだったらしい。う~ん、つらいなあ(-_-;)
さて、エリックが降板したことで『バック・トゥ・ザ・フューチャー』の制作は振り出しに戻ってしまいました。そこで「今度こそマイケル・J・フォックスに出演してもらわなくては!」と再び『ファミリー・タイズ』のプロデューサー:ゲイリー・デヴィッド・ゴールドバーグに交渉するロバート・ゼメキス監督。
驚いたのはゲイリーです。「あの映画はエリック・ストルツ主演で撮影してたんじゃないのか?なに、降板させた?6週間も撮ったのに?正気か?で、マイケルで撮り直したいだと?ユニバーサルの社長はそれを認めたのか?信じられない…」と呆れ返っていたそうです。
しかし、「それほどまでにマイケル・J・フォックスを必要としているのか…」とゼメキス監督の熱意に心を打たれたゲイリーは「正直マイケルがいなくなるのは困るが、こんな大きな仕事のチャンスを2度も奪うことはできない。『ファミリー・タイズ』の撮影を優先してくれるなら、この脚本をマイケルに渡そう。後は彼の判断に任せる」と答えました。
そしてゲイリーはオフィスにマイケルを呼び寄せて『バック・トゥ・ザ・フューチャー』の脚本を渡し、「スピルバーグとゼメキスの新作だ。最初はエリック・ストルツで撮影していたが納得いかなかったらしい。どうしても君を主役にしたいそうだ。読んでみて、もし気に入ったなら出演すればいい」と説明。するとマイケルは脚本を受け取るやいなや「もちろん!喜んでやらせてもらうよ!」と即答したそうです。
こうしてついにマイケル・J・フォックスの出演が実現したわけですが、すでに撮影が終わった場面のセットは撤去されており、それらを再び建て直すコストや他の出演者たちを再度招集するためのギャラなど、追加撮影だけで8億円の費用がかかってしまいました。うわあああ…
なお、エリック・ストルツが『バック・トゥ・ザ・フューチャー』に与えた影響は、これだけではありません。
まず、マーティの母親ロレイン役を演じたリー・トンプソンは、1984年の『ワイルド・ライフ』でエリックと共演していて、それを観たゼメキスが「二人の相性は良さそうだ」と判断し、本作に起用したらしい。
つまり、最初にエリックがキャスティングされていなければ、リー・トンプソンも起用されなかったかもしれないのですよ(ちなみにエリックとリー・トンプソンは『BTTF』の後の『恋しくて』でも共演している)。
また、いじめっ子のビフ・タネン役は元々、ビフの手下のスキンヘッド役を演じたJ.J.コーエンが演じる予定でした。ところが、エリックの身長が180センチ以上もあったため、一緒に並ぶとコーエンが小さく見えてしまう。そこで、大柄な俳優としてトーマス・F・ウィルソンが起用されたそうです。
さらに、ヒロインのジェニファー役はクローディア・ウェルズにオファーされたものの、マイケル・J・フォックスと同じくTVドラマの撮影時期と重なっていたため、代わりに『彼女に首ったけ!』や『幸せになるための27のドレス』などのメロラ・ハーディンが起用されました。
しかし、マイケルの出演が決まると今度はマイケルの身長が低すぎて、メロラと並んだ時のバランスが悪いことが発覚。そこで再びクローディアに出演を依頼したところ、ちょうどドラマの撮影が終わってスケジュールの都合がついたため、最初の予定通りジェニファー役を演じることができたのです(メロラは降板)。
このように、『バック・トゥ・ザ・フューチャー』の出演者は最終的な形に決まるまで、何人も降板したり役が入れ替わったり、様々な紆余曲折を経た末にようやく実現した配役なわけで、まさに「奇跡のキャスティング」と言えるんじゃないでしょうか。なお、エリック・ストルツはその後、監督として大成功を収めたそうです(^.^)