どうも、管理人のタイプ・あ~るです。
現在、全国の劇場で公開中の映画『空母いぶき』は、かわぐちかいじ氏の人気漫画を実写化した作品で、公開前から(色んな意味で)話題になっていました。
事の発端は、本作で総理大臣役を演じた佐藤浩市さんの「ある発言」(詳細は省きますが)で、これに対し某有名小説家がツイッターで激怒するなど、かなりの騒ぎになったのです。
実際に映画が公開されると初登場でランキング2位、興行収入は2日で3億3000万円という好成績を記録したものの、評価の方は賛否両論…というか明らかに批判的な意見が多数見受けられました。
では、本当に実写映画『空母いぶき』は駄作なのか?なぜこんなに批判されているのか?などについて、本日は具体的に検証してみたいと思います(なお、僕は原作を全部読んでいます)。
※以下、ネタバレしているので未見の方はご注意ください
●原作を改変している
まず、本作が”炎上”した直接の要因は「佐藤浩市さんの発言」によるものですが、それ自体は映画の出来・不出来に影響を及ぼすほどではありません(あくまでも”役作り”の範疇なので)。
最大の問題は、やはり「原作を大きく改変している」という点でしょう。これは人気漫画を実写化する際には必ず取り沙汰される問題ですけど、個人的には改変自体が悪いことだとは思わないんですよね。
大ヒットしている人気漫画ともなれば長期に渡って連載している場合が多く、そのままでは長すぎて映画化できないからストーリーを圧縮するために色んな部分を改変せざるを得ない…という事情は理解できますから。
ただ、その際は「どこをどんな風に改変するか?」が大事だと思うんですよ。それぞれの原作によって「変えちゃいけないポイント」みたいなものが絶対にあるはずなので。
そういうことを考えながら実写版『空母いぶき』を観てみたんですけど……原作は自衛隊と中国軍が戦う話なのに、「東亜連邦」という架空の国に変わってました(泣)。う~ん…、「変えなきゃ色々と面倒なことになる」というのは分かるんですが、『空母いぶき』を描く上において、ここは「最も変えちゃダメな部分」じゃないのかなあ?と。
なぜなら、”中国”という軍事的にも経済的にも極めて強大な国家が日本に脅威を与えてくるからこそ、「そのプレッシャーに我々日本人はどう立ち向かうべきか?」という命題が引き立つわけで、人口もGDPも分からないような謎の国(東亜連邦)が攻めて来たところでリアリティに欠けるというか、危機感がダイレクトに伝わって来ないんですよね。
まさしく漫画版の『空母いぶき』が画期的なのは、日本侵略を目論む敵対国として堂々と”中国”を名指ししている点だと思うので、そこは何とか変えないで欲しかった。
かわぐちかいじ先生は敵国を変更した理由について「今、世界の情勢はどんどん変化しているので、もし日本と中国が仲のいい時に映画が公開されたら困ると思った」などと釈明していますが、そんな心配は不要じゃないですかね?
●実写版オリジナルキャラはどうなのか?
それから、「原作にいないオリジナルのキャラが出て来る」っていうのも”実写化あるある”でして、本作でも本田翼や小倉久寛や斉藤由貴など、オリキャラがたくさん登場していました。
ただ、これに関しては悪くなかったですよ。特に本田翼さん演じる女性記者(本多裕子)は、たまたま自衛隊を取材するために乗った空母いぶきで初めて他国との戦闘を体験し、その衝撃を「ネットを通じて発信することで世界に影響を与える」という重要な役柄を演じていたり。
しかも原作では、新聞社の男性記者が沖縄まで出向き、最前線の写真を撮って公表することで世間に影響を与える…という展開だったのに対し、制作側が「男ばかりで画面に華が無い」と判断したのか、映画版では美人な本田翼さんになっていて良かったです(笑)。
その反面、中井貴一さん演じるコンビニ店の店長は物語への関連度が薄いせいでほぼサブエピソードのように見えてしまい、上手く機能しているとは思えませんでした(観客からも「あのシーン、いらねえだろ!」と批判が殺到した模様)。
まあ、激しい戦闘の直後にゆる~いコンビニ店の様子をぶっ込まれたらギャップに戸惑うのも無理ないと思いますが、あのシーンは「このような平和な暮らしの裏ではギリギリの攻防が繰り広げられていた」ということを現す場面なので、必要っちゃ必要なんですよね。
さらに、有事が報道されると大勢の人が一斉にコンビニに押し寄せ、商品を買い漁って店の棚が空っぽになる…という描写を入れることで、「現実に戦争が起こればこうなるかもよ」と示唆しているわけです(原作にも同様のシーンがある)。
なので少しでも関連を持たせるために、例えば「いぶき」に乗船している自衛官の一人が実は店長の身内だったとか、ベタでもいいからそういう設定で相互にドラマを繋げればもうちょっと観客の共感を得られたのではないか?と思うんですけどねえ。
●「おかしい」と言われてるシーンが実は原作通りだった
あとは、護衛艦「いそかぜ」の艦長:浮船武彦(山内圭哉)が主砲を撃つたびに「いてまえー!」と関西弁で絶叫するシーンを観た人から「あんな自衛官がいるわけないだろ!」と普通に突っ込まれていましたが、あのキャラは原作にいるんですよ(笑)。
もちろん、漫画版ではもっと年配で落ち着いた艦長なんですけど、シチュエーションはだいたい合ってます(映画版でなぜあそこまで”お笑いキャラ”になってしまったのかは分かりませんが)。
そして、この艦長が敵の撃ってきた主砲をかわすために「バックや!」と叫ぶシーンも、「いくらスクリューを逆回転させたところで、あんな大きな船が急にバックできるはずがない!」と批判されていましたが、残念ながらこれも原作通りです(笑)。
いや、「飛んできた砲弾をバックでかわす」なんてことが現実に可能かどうかは分かりませんけど、少なくとも原作ではそうなってるんだから、文句がある人は映画ではなく、かわぐちかいじ先生の方へお願いします(^^;)
さらに、潜水艦「はやしお」の艦長:滝隆信(高嶋政宏)の判断で、敵の潜水艦に「はやしお」をぶつける場面については「潜水艦同士を体当たりさせるなんてそんなバカなwww」などと嘲笑されていましたが、これも原作を再現しているだけなので悪しからずご了承ください(ちなみに漫画版で体当たりしているのは別の潜水艦です)。
●脚本がまさかの…!
今回、実写版『空母いぶき』を観て一番ビックリしたのは、脚本が伊藤和典さんだったこと。伊藤和典と言えば、 押井守監督と組んで『うる星やつら』シリーズや劇場版『機動警察パトレイバー』や『GHOST IN THE SHELL 攻殻機動隊』など、数々の名作アニメを手掛けたベテラン脚本家です。
特に『機動警察パトレイバー2 the Movie』は、「現職の自衛隊員がクーデターを企てる」というロボットアニメとは思えないほどハードなポリティカル・フィクションを臨場感たっぷりに描き出し、多くのアニメマニアから絶賛されました。
さらに実写映画では、「平成ガメラ」シリーズで全国の特撮ファンを熱狂させまくったことで知られており、中でも『ガメラ2 レギオン襲来』における自衛隊描写のリアリティたるや、いまだに語り草になるほどの素晴らしさ!
自衛隊の全面協力を得て撮影された迫力満点の戦闘シーンに至っては「本作が無ければ『シン・ゴジラ』も生まれなかっただろう」と言われるぐらいのカッコよさで、まさに「怪獣映画の歴史を塗り替えた」と評しても全く過言ではありません。
そんな伊藤さんが脚本を書いているとなれば、さぞかし凄いストーリーなんだろう…と思うじゃないですか?でも僕は映画を観終わって「え?伊藤さんが書いてたの?」と驚きましたからね。悪い意味で(^^;)
いや、正確に言うと今回は共同脚本なんですよ、伊藤和典さんと長谷川康夫さんの。長谷川康夫と言えば、織田裕二主演の『ホワイトアウト』を筆頭に、『ソウル(SEOUL)』、『亡国のイージス』、『ミッドナイト イーグル』など、邦画では珍しい”派手なアクション大作”を多く手がけている印象で、良く言うと「スケールが大きくて大胆」、悪く言うと「話が雑」みたいなイメージでしょうか(笑)。
まあ、世間ではあまり評判の良くない『ホワイトアウト』や『亡国のイージス』も僕は割と好きなんですよ。だから、「なるほど、自衛隊描写に定評のある伊藤和典と、派手な画を好む長谷川康夫が共同で脚本を書いたらこういう映画になるのか」という、ある種の”納得感”みたいなものはありました。しかし、「『ホワイトアウト』なんてつまらん!」と思っている人が観たら、当然厳しい評価になるでしょうね(^^;)
というわけで、実写映画版『空母いぶき』を検証した結果、”駄作”と呼ぶほど酷い出来とは思わなかったんですが、色々気になる点があったことも否定できません。
個人的には「中国軍と自衛隊が戦うという設定を変えたこと」と、もう一つはラストで各国の潜水艦が登場するシーンが気になりました。無難な決着の付け方で、悪くはないんだけれど今いちカタルシスに欠けるというか、モヤッとする終わり方なんですよね。原作がまだ完結していないので、独自のラストを考えなきゃいけない難しさはあったと思うんですが…。
ただ、過去から現在に至るまで「自衛隊が(架空とはいえ)他の国の軍とガチで戦う映画」はほとんど存在しないので、そういう意味では価値があるんじゃないかと思いました。ツッコミどころは多いですけど(笑)。