本日、金曜ロードSHOW!で『ラ・ラ・ランド』が地上波初放送されます。
本作を撮ったのは、ドラム演奏に全てを懸ける若きジャズ・ドラマーが主人公の映画『セッション』で一躍脚光を浴びたデイミアン・チャゼル監督。
『セッション』は第87回アカデミー賞で5部門にノミネートされ、助演男優賞を含む3部門で受賞するなど大変な高評価を獲得し、同時に監督への注目度も一気に高まりました。
『ラ・ラ・ランド』は、そんなデイミアン・チャゼル監督が大好きなジャズを中心に、リアルで切ない男女のロマンスを魅惑的な歌とダンスで描き出した珠玉のミュージカル映画です。
当初は、『セッション』よりも『ラ・ラ・ランド』の方を先に製作する予定でしたが、「ジャズなんかやめて主人公をロックミュージシャンに変更しろ」とスポンサー側から要求されたため、「だったら撮らない!」とオファーを断ったそうです。
つまり、それだけ”自分の好きな音楽”にこだわっていたわけで、映画を観るとジャズとミュージカルに対する監督の熱い想いがヒシヒシと伝わってきますよ。
なお、本編には主人公のセバスチャン(セブ)が、生活のために嫌々ながらa-haの「テイク・オン・ミー」を演奏するシーンが出て来ますが、ジャズを愛する監督の心情をセブに重ねていたのかもしれませんね。
そんな『ラ・ラ・ランド』のあらすじは、「ジャズ・バーの経営を夢見ている売れないピアニストのセバスチャン(ライアン・ゴズリング)と、カフェで働きながら女優を目指しているミア(エマ・ストーン)の出会いと別れを描いた甘く切ないラブストーリー」です。
舞台は、”LA LA LAND(夢の国)”という愛称を持つ街・ロサンゼルス(LA)。そのハイウェイで大渋滞が発生し、多くの車が停車している中、一人の女性がカーラジオから流れる曲に合わせて突然踊り始める。
そのリズミカルな歌とダンスは、瞬く間に周囲の人々にも広がり、いつしか大スケールのミュージカルシーンへ…!現実から夢の世界へ誘う心地よい飛翔を、ワンカットの長回し撮影によって実現したこの冒頭場面がまず圧倒的に素晴らしい。
デイミアン・チャゼル監督によると、「ロサンゼルスという車社会だからこそ、現実的な渋滞の騒音から、幻想的なミュージカル・サウンドへと昇華させたかった」とのこと。
しかし実際の撮影は大変で、本物のフリーウェイを2日間全面封鎖し、入念なリハーサルを繰り返した後、いざ本番に挑んだものの、8月のLAは凄まじい暑さで、車の表面温度がとんでもないことに!
なんせオープニングのダンスでは、ボンネットに寝そべったり、車体の上で身体をスピンさせるパフォーマンスをこなさなければならないため、演者たちはヤケドに耐えながら踊っていたそうです。熱ッ!
そして映画はこの後も、穏やかなジャズのメロディ、鮮やかなテクニカラー風の街並みや衣装などを次々と映し出し、観客を”夢の国”の虜にするのですよ。
一方、ストーリーの方はさすがアカデミー賞6部門を受賞しただけあって大絶賛…というわけでもなくて、意外と感想は賛否両論だったらしい。
批判的な意見の中には「ジャズピアニストが主人公の映画なのに、監督はジャズのことがわかってない!」と怒ってる人もいたようですが、特に物議を醸したのがラストシーン。
「最後に男女の愛が成就してハッピーエンド」かと思いきや、セブは念願だったジャズバーを手に入れ、ミアはハリウッド女優として大成功、しかし他の人と結婚して子供を産んでいる。つまり、二人は別れて別々の人生を歩むことになるのですよ。
このラストに”定番のラブストーリー”を想定していた人は、「思ってたのと違う!」と不満を漏らしたようですが、問題は「果たしてこれはアンハッピーエンドなのか?」ってことなんです。
確かに、愛する者同士が結ばれなかったこと自体は「悲しい結末」なのかもしれません。しかしこの映画は「愛も夢も両方手に入れてハッピーエンド!」みたいな安易なラブストーリーじゃないんですよね。
映像的には”王道のミュージカル”だけど、「夢を実現する代わりに、大切な何かを失ってしまう切なさ」を描いた物語なのです。
極めつけは、5年後に二人が再会するシーンで流れる”走馬灯”のような映像。人生には「もしもあの時、違う決断をしていたら…」という場面がありますが、この映像はまさに「ミアとセブの”あり得たかもしれないもう一つの人生”」を走馬灯のように映し出していました。
最終的に二人は別れてしまうのですが、自分の人生を変えてくれる人と出会えたことは彼らにとって重要な意味があり、だからこそこの物語は夢のように美しく、たまらないほど切ないのです。
さて、そんな『ラ・ラ・ランド』は劇中で流れる様々な音楽も見どころ(聞きどころ)なわけで、特に印象的な曲をいくつかピックアップしておきますよ(^.^)
●オープニングのダンスシーン(Another Day of Sun)
渋滞で停まっている車からカーラジオやCDなど様々な音が聞こえてくるが、やがて一つの曲が急に力強く鳴り響き、歌声が乗り、そして集団で躍るダンスへと繋がっていくという、非常にダイナミックなオープニングシーンです。
●ミアを誘うルームメイトたち(Someone In The Crowd)
オーディションに落ちたミアを元気付けようと、ルームメイトのトレイシーとアレクシスとケイトリンがクリスマス・パーティーに誘うシーン。
●セバスチャンとの出会い(Mia & Sebastian’s Theme)
パーティーからの帰り道、通りかかったバーから偶然聞こえてきたピアノの音に惹かれたミアがセブと出会うシーン。
●LAの夜景を見ながら(A lovely night)
街が見下ろせる夜の公園で、セブとミアがタップダンスを踊るシーン(フレッド・アステアとシド・チャリシー主演の名作ミュージカル映画『バンド・ワゴン』を彷彿とさせる名場面!)。
●埠頭で歌うセブ(City of Stars)
セバスチャンがミアと映画を観に行く約束をして、テンションが上がって一人で歌を歌うシーン(その後、ミアとアパートで暮らし始めると一緒に歌う)。
●グリフィス天文台(Planetarium)
二人でジェームズ・ディーン主演の『理由なき反抗』を観ていると、映写機の故障で上映が中断してしまう。そこでセブとミアは『理由なき反抗』の舞台となったグリフィス天文台へ行き、プラネタリウム館で空中を飛びながら歌い踊る、非常に幻想的なシーンです。
●オーディション(Audition)
セブの勧めで女優になるためのオーディションを受けるミア。
●エピローグ(Epilogue)
数年後、セブとミアはそれぞれ別々の道を歩んでいたが、ある日、ミアが偶然入ったバーでセブと再会。セブもミアに気付いてピアノを弾き始める。すると、「二人が結ばれていた場合の人生」が走馬灯のように映し出され…。美しくも切ない名シーンですね。