コンピュータ会社の女社長ミシェル(イザベル・ユペール)が、ある日自宅で覆面の男に乱暴された。犯人を突き止めるため自ら行動を開始するミシェルだったが、事件の真相に迫るうちに恐るべき彼女の”本性”が明らかになっていく…
というストーリーなんですが、本作は「勇敢な主人公が自分を犯した犯人を捜し出すミステリー映画」ではありません。
もちろん、最終的に犯人は見つかるんですけど、それが本作の主題じゃないんですよね。ではいったい、この映画は何を描いたものなのか?
冒頭、暴漢に襲われたミシェルは、ゆっくりと起き上がり、割れた食器を片付け、浴室のゴミ箱に下着を投げ込み、シャワーを浴びて浴室から出たあとは電話でスシを注文。
そして、訪ねて来た息子と一緒に食事をする…という具合に、まるで何事もなかったかのように平然と振舞っているのですよ(警察にも通報しない)。
すなわち、映画『エル ELLE』の最大の特徴は「ミシェルのキャラクター」そのものであり、危機に遭遇しても一切動じず、取り乱したり逆上したりしない冷静沈着な気質の中に、冷たい闇が垣間見えるところがポイントなんですよ。
そんな彼女のキャラクターは、どうやって作られたのか?過去に何があり、現在の彼女はどんな境遇に置かれているのか?冒頭の描写で沸き上がった疑問に、少しずつ答えが明かされていくのです。
そしてもう一つの特徴は、本作の登場人物が「ほぼ全員クズ」という点でしょう。ミシェルの息子は定職につかず彼女に金をせびり、ミシェルの母親は整形手術を繰り返し、若い男とラブラブ状態。
ミシェルの会社の社員は彼女に敵意を抱いてヘンな動画を公開するし、さらにミシェル自身も友人の夫と不倫関係を続けているなど、もれなく「クズ」しか登場しません。
つまり本作は「正義の主人公が悪をやっつける」という映画ではなく、「クズの主人公がさらにクズな連中に鉄槌を下す」という、「毒をもって毒を制す」的な”皮肉に満ちた映画”なのですよ。
そういう意味では、実にポール・バーホーベンらしい作風と言えるんじゃないでしょうか(^.^)