ジョン・ウー監督の最新作『マンハント』は、高倉健主演の日本映画『君よ憤怒の河を渉れ』(1976年)のリメイクです。
『君よ憤怒の河を渉れ』は過去に中国で大ヒットを記録しており、さらにジョン・ウー監督も高倉健の大ファンで「いつか健さんの映画をリメイクしたいと思っていた」とのこと。
ちなみに『男たちの挽歌』でチョウ・ユンファがサングラスと黒のコートを着ているのは、高倉健の『網走番外地』シリーズや『ならず者』の影響だそうです。
また、ジョン・ウー監督は小林旭のファンでもあり、小林旭が主演した日本映画をたくさん観ていて「日本で映画を撮ることが長年の夢だった」らしい。そのため、本作はなんとオール日本ロケが実現!夢がかなって監督は大喜びしたとか。
ただし、当初はオリジナル版と同じく東京を舞台に設定していたものの、撮影許可が思うように下りず、大阪に変更されてしまいました(『ブラック・レイン』と同じパターンですねw)。
しかし、大阪府や役所の人たちは非常に協力的で、通常は許可が下りにくい駅の中や線路上でのアクションシーンも「近鉄が許可してくれたおかげで撮影できたよ」と監督も喜んでいたそうです。
特に、堂島川(淀川が中之島で分岐し、南は土佐堀川、北は堂島川と呼ばれる)での水上バイクを使ったチェイスシーンが凄まじく、ジョン・ウー監督も「まさか日本であんな凄いアクションが撮れるとは思わなかった。そもそも観光地なので、許可が下りたこと自体が奇跡に近い」と驚いたらしい。
そんな『マンハント』で主演を務めた福山雅治さんは、英語のセリフに加えて初のガンアクション、さらに水上バイクも免許を取得して自ら運転するなど、苦労の連続だったそうです。
中でも言葉の問題が最も大きかったらしく、まず中国語で上がってきた台本を翻訳家が日本語に訳し、それを脚本家が適切なセリフに書き替え、さらに翻訳家がもう一度中国語に戻して監督がチェック。
そして監督から「いや、違う。これではセリフが長い」と言われると、また中国語から日本語へ翻訳し直して…というやり取りがずっと続いたらしい。うわ〜、大変だなあ(-_-;)
また、香港の映画界は昔から「現場で段取りがどんどん変わる」ことでも有名で、今回ジョン・ウー監督の映画に初めて参加した池内博之さんも「キャスティングされた時は”福山さんを追う刑事”という役だったのに、いつの間にか”製薬会社の次期社長”になっていた」と困惑気味(笑)。
ちなみに社長役の國村隼さんは、チョウ・ユンファ主演の『ハード・ボイルド/新・男たちの挽歌』に出演して以来、ジョン・ウー監督と非常に仲が良く、「今度日本で映画を撮るから出てくれない?」と直接頼まれ、脚本も読まずにOKしたそうです(^^;)
さて、ジョン・ウーといえば『男たちの挽歌』シリーズで一世を風靡した監督であり、ハリウッドへ渡ってからもジョン・トラボルタとニコラス・ケイジ主演の『フェイス/オフ』や、トム・クルーズ主演の『MI:2』など、ヒット作を連発しました。
その最大の特徴と言われる”ガンアクション”は、もちろん『マンハント』でも健在です。冒頭から女性二人が華麗な2丁拳銃でヤクザを瞬殺!チャン・ハンユー演じる弁護士と福山雅治との格闘場面では白いハトが飛び、中盤からクライマックスにかけても激しい銃撃戦のつるべ打ち!
ただし、香港やハリウッドで撮影していた時は本物の銃を使っていましたが、今回はオール日本ロケなので当然ながら実銃は使えません。しかし、市販のモデルガンやガスガンなのに、ジョン・ウーが撮るとカッコよく見えてしまうんですよ。それが凄い!
CGでマズルフラッシュを合成したり、電気着火式のプロップガンを使ったり、やり方自体は日本の撮影方法と変わらないのに、どうしてこんなに迫力が違うのか?その秘密は”マルチカメラ”にあるという。
通常、日本の撮影ではカメラは1台ですが、ジョン・ウー監督は常に3台のカメラを同時に回してるんですよ。福山さん曰く、「アクションシーンを3台のカメラで撮ると、手元と顔と全体を一気に撮れるので効率がいい」とのこと。
そして(『男たちの挽歌』などもそうですが)ジョン・ウー作品のガンアクションを見ると、複数のカメラで撮った映像を編集で巧みに繋ぎ合わせ、実に見事な効果を生み出していることがわかります。
つまり、マルチカメラで撮影した大量の映像素材を編集技術で自在に組み合わせ、通常速度やスローモーションなど緩急を適切にコントロールすることによって、迫力満点の素晴らしいガンアクションを作り上げていたんですね。
というわけで、内容的には色々アレな部分もありますが(笑)、「日本を舞台にした本格ガンアクション映画」としては見どころが多く、また「福山雅治が激しい銃撃戦を繰り広げる」という点においても極めて価値がある作品と言えるでしょう(^.^)