キャスリン・ビグロー監督の新作『デトロイト』は、1960年代のデトロイトで実際に起きた事件を忠実に描いた社会派ドラマです。
当時、デトロイトの黒人は人口過密な居住区に住まされ、暴力的な白人警官によって不当な逮捕や激しい暴行を受け続けていました。
そして1967年7月23日、ついに地元住人たちの不満が頂点に達し、放火や略奪などデトロイト全体を巻き込んだ暴動へとエスカレート!もはや警官だけでは対処できなくなり、とうとう軍隊まで出動する大騒動になったのです。
そんな中、とあるモーテルに泊まっていた黒人がふざけて「競技用のスターターピストル」を撃ったところ、「狙撃された!」と勘違いした白人警官たちがモーテルへ押し寄せ、外から一斉に銃撃開始!
たまたまそのモーテルに宿泊していたラリー(アルジー・スミス)とフレッド(ジェイコブ・ラティモア)は、いきなり大量の銃弾を撃ち込まれてパニック状態になりますが、本当の恐怖はそこから始まったのです…。
この映画、前半は普通に「物語」を描いてるんですけど、舞台がモーテルに移ってからはストーリーがほとんど進展せず、白人警官のフィリップ(ウィル・ポールター)が黒人たちを虐待しまくる壮絶な「私刑(リンチ)」の様子をひたすら見せてるんですよ。
レイシストの白人警官による残虐な私刑のせいで、一人また一人と命を落としていく黒人青年たち。延々40分も繰り広げられる尋問シーンのえげつなさが凄まじい!
キャスリン・ビグロー監督は、徹底したリサーチや当事者へのインタビューによって当時の状況を克明に再現し、50年以上も封印されてきた黒人差別問題にメスを入れようとしたのです。
しかし、あまりにも黒人虐待シーンを克明に描きすぎたため、白人警官を演じたウィル・ポールターは撮影中にどんどん気分が悪くなり、ついに泣き崩れてしまったとか(本人は優しい性格だったので、毎日毎日、仲間の俳優たちを痛めつけることが耐えられなかったらしい)。
また、食料品店の警備員メルヴィンを演じたジョン・ボイエガは「現場の誰にとっても過酷な物語だから、ずっと役柄になり切っている必要があった」と語り、白人と黒人の間に立って事態を収束させようと努める誠実なキャラクターを丁寧に演じていました。
最終的に暴行を働いた白人警官たちは、事件後に殺人罪などで起訴されるものの、裁判で全員無罪になります。えええ…
なんとも後味の悪い結末ですが、50年前にはこういう事件が実際に起きていて、しかも現代のアメリカもいまだに人種差別問題がなくなってはいない…という事実を突き付けているわけです。
なお、「デトロイト」という街は過去に何度も映画の舞台になってるんですが、いい印象がほとんど無いんですよね(苦笑)。
たとえば1987年に公開された『ロボコップ』は2010年のデトロイトが舞台なんだけど、メチャクチャに荒れ果てて完全なる”犯罪都市”になってるんですよ。
SF映画だから誇張されているはずなのに、現実のデトロイトとあまり変わらない…つーか『ロボコップ』の方がまだマシに見えるのがすごい(笑)。
また、2002年に公開された『8 Mile』のデトロイトは街中が廃墟だらけで、貧困ぶりがひどいです。タイトルの「8マイル・ロード」とは富裕層と貧困層を隔てる境界線のことで、「8マイル・ロードより先(内側)に行ってはいけない」と言われてるらしい。どんだけ恐ろしい場所なんや…
そして2014年公開の『イット・フォローズ』は、デトロイト郊外に住む若い男女の姿を描いたホラー映画です(誰かとセックスすると”イット”が現れ、捕まったら死ぬというストーリー)。
この作品にも「8マイル・ロード」が出て来るんですが、主人公たちは境界線の外側に住んでいるので『ロボコップ』や『8 Mile』ほど荒れ果てた風景は映りません(まあ街自体に活気はあまりないんだけど)。
しかし2015年公開の『ドント・ブリーズ』は、まさに「8マイル・ロードの内側」が舞台になっているため、住民はほとんどおらず、多くの建物は朽ち果て、巨大なゴーストタウンと化しています。
そんな街で主人公たちは泥棒を繰り返してるんですが、警察官の数が非常に少ないため、犯罪が起きても現場にパトカーが駆け付けるまで1時間近くかかってしまうなどムチャクチャな状況らしい(デトロイトの検挙率は全米で最低)。だから堂々と泥棒してるんですね(最悪や…絶対住みたくねえ…)。
まさにここは世紀末!正気でいられるなんで運がいいぜYou!の世界です。デトロイト恐るべし(^^;)