※本日の記事は『スイス・アーミー・マン』のラストまでネタバレしているので、未見の人はご注意ください。
先日、友人の江須田君(仮名)が僕の家にやって来て
「何も言わずにこれを観ろ」と1枚のDVDを差し出した。
タイトルは『スイス・アーミー・マン』。
僕:「どんなストーリーなの?」
江須田:「ダニエル・ラドクリフが死体役で登場する」
僕:「ほう」
江須田:「ダニエル・ラドクリフがオナラをする」
僕:「うん?」
江須田:「そのオナラの勢いで海を渡って島に辿り着く」
僕:「え?」
江須田:「そこからこの物語は始まるんだ」
僕:「すぐ観よう!」
で、観てみたら本当にそんな映画だった。
冒頭、主人公が無人島に漂着して困り果てているシーンから始まり
「島を脱出するまでのサバイバルを描くのか?」と思いきや
最初から最後までシュールな展開の連続でワケがわからない。
そもそもタイトルの『スイス・アーミー・マン』って何?と思ったら
「スイス・アーミーナイフの人間版」という意味らしい。
スイス・アーミーナイフってのはいわゆる「十徳ナイフ」のことね。↓
要は「これ1個あればナイフやドライバーなど何でも使えて便利ですよ〜」的なアイテム。
それとダニエル・ラドクリフとどういう関係が?と思ったら
「死体になったラドクリフを十徳ナイフのように活用する映画」だった。
彼は死体なので体内に腐敗したガスが溜まってるんだけど
そのガスを尻から勢いよく噴射することで
なんとジェットスキーのように海上を爆走できるのだ。
(映画開始5分であっさり無人島から脱出してしまう)
さらにガスの力を利用し、口から石を発射して獲物を獲ったり
腕を使って木を切ったり、歯を使ってロープを切断したり
目からビームを出してエイリアンを撃退したり(ウソ)
エロ本を見て勃起したラドクリフのチンコが方位磁石になったり(本当)
色んな場面で便利に使える、まさに万能の死体。
だから『スイス・アーミー・マン』なのである……って何だその設定は!
しかも途中からこの死体が喋り始める。
主人公のハンク(ポール・ダノ)は他に話し相手がいないので
死体と会話し続ける(映画の大部分は2人の会話シーンのみ)。
その内容は家族の話や趣味の話など大半はくだらないことだが
そのうち”恋バナ”を始める。
ハンクはヒロイン(メアリー・エリザベス・ウィンステッド)に
恋心を抱いているものの、彼女に声をかける勇気がない。
そんな胸の内をラドクリフに打ち明けると、
「なぜ恥ずかしがるんだ?」と叱責される。
また、「人は他人のオナラを嫌う」
「だから僕はオナラを我慢する」というハンクに対し
「なぜそんなに不自由を選ぶ?」
「自分の好きに生きればいい」とラドクリフ。
そういった会話を繰り返すうちに、
次第に「生きることの素晴らしさ」に気付いてゆくハンク。
やがて彼は死体との会話を通じて
「人生とは…」みたいな哲学的思考に辿り着く。
出て来るセリフの大半は「オナラ」「オナニー」「ウンコ」など
下ネタのオンパレードなのに
いつの間にか「生とは何か?」「死とは何か?」など
高尚なテーマを考えさせる驚くべき展開に!
中でも最大の衝撃はラストシーンだ。
色んな苦労を経て、ようやく文明社会へ戻って来たハンクだったが
そこはなんとヒロインの家!
つまりハンクは彼女のすぐ近くの森の中をさまよっていたのだ。
ここで観客は
「あ〜、彼女のことが好きすぎて”遭難した”という妄想に取りつかれ
ヒロインの家の側で死体と暮らしてたのか。危ない男だな〜」と思っただろう。
実際、騒ぎを聞き付けて集まったマスコミや警察官たちも
「頭のおかしい変質者」を見る目でハンクを見ている。
「おい起きてくれ!」と死体に話しかけるハンクにヒロインもドン引き。
だがしかし…!
ハンクのオナラに反応して、突然死体が動き始める。
そして、自らの意思(?)で海へ入り、そのまま去って行くラドクリフ。
その様子を呆然とした表情で見つめるカメラマンやヒロインたち。
喋ったり動いたりする死体はてっきりハンクの妄想だと思っていたのに
実はそうじゃなかった!?いったいどういうこと!?
ラスト、この映画はハンクの優しい笑顔で幕を閉じる。
死体のラドクリフも満面の笑みを浮かべながら海の彼方へ去っていく。
あの死体は本当に喋っていたのか?
そもそもあいつは何者なのか?
謎は一切わからないまま。
観終わった僕はまさしくこんな心境である。↓
恐らく今回の記事を読んだ人は
「この映画ってどこが面白いんだ?」と思うだろう。
その反応はたぶん正しい。
なぜなら僕もよくわからないからだ。
いや、正確に言うと「本作の面白さ」をどう伝えればいいのか?
その方法がよくわからないのである。
「○○○に良く似た映画だ」と説明しようにも
類似の作品が見当たらない。
基本的にはコメディなんだけど、”本質”はもっと別の部分にある
ような気がするし…。
最大の疑問は「いったい監督はどうやってこの企画を通したんだ?」
ってことだろう。
「ダニエル・ラドクリフが死体になってオナラをしまくる映画です」
などと説明したところで、スポンサーが集まるとは到底思えない。
そもそもラドクリフはどうして死体の役なんて引き受ける気になったのか?
謎は深まるばかりである。
でも、僕は好き。
●ハリポタ・ファンはラドクリフの変貌ぶりに衝撃を受けるかもw
●ポール・ダノがヒュー・ジャックマンに延々拷問され続ける映画
●メアリー・エリザベス・ウィンステッド主演のサスペンス