■あらすじ『時は1973年。ベトナム戦争が終結を迎えつつある中、南太平洋上に未知の孤島「スカル・アイランド(髑髏島)」が発見され、米国政府特務機関“モナーク”は調査隊の派遣を決定。リーダーは、ジャングルでのサバイバルに精通した元英国陸軍特殊空挺部隊のコンラッド(トム・ヒドルストン)。その他、研究者(ジョン・グッドマン)やカメラマン(ブリー・ラーソン)、ベトナム帰りの米軍ヘリ部隊を率いるパッカード大佐(サミュエル・L・ジャクソン)などの精鋭メンバーが集結した。しかし突如、巨大な生物キングコングが現われ、ヘリコプターを次々と破壊!その圧倒的なパワーに為す術もない人間たちは、一刻も早くこの島から脱出すべく、ジャングルの中で決死のサバイバルを繰り広げるのだった…!「GODZILLA ゴジラ」を手がけたレジェンダリー・ピクチャーズが、ハリウッドを代表する巨大モンスター“キングコング”を壮大なスケールでリブートしたアクション・アドベンチャー超大作!』
どうも、管理人のタイプ・あ〜るです。
現在、全国の劇場で絶賛上映中の『キングコング:髑髏島の巨神』が、観客動員100万人を突破、興行収入も16億円を超え、大ヒットしているそうです。さらにアメリカや中国などでも記録を伸ばし続け、4月10日時点での全世界の興収は5億3000万ドル(約595億円万円)を超えているらしい。
中でも中国の影響が凄まじく、5億3000万ドルのうち海外市場が3億5000万ドル(約392億円)で、中国での興行収入は10億8580万元(約175億円)となっており、実に半分近くを中国市場が占めていることになるわけですよ。中華パワーすげえ!
というわけで本日は、快進撃を続けている『キングコング: 髑髏島の巨神』の感想を書いてみたいと思います。なおネタバレありなので、まだ映画を観ていない方はご注意ください。
さて、キングコングと言えば、ストップモーション・アニメの先駆者:ウィリス・オブライエンが1933年に生み出したモンスター映画が元祖であり、まるで生きているかのように動くキングコングを見て、当時の観客は度肝を抜かれたという。
「コマ撮り人形アニメ」という技法で作られた『キング・コング』(33年版)は、物体を1コマ毎に少しずつ動かして撮影するため、非常に手間がかかるのですが、多くの映像作家に影響を与え、レイ・ハリーハウゼンやフィル・ティペットなど、優れた”モンスターメーカー”を生み出すきっかけになりました。
この映画が大ヒットしたことで、続編の『コングの復讐』や、1949年にはオブライエンの弟子のレイ・ハリーハウゼンがストップモーション・アニメを担当した『猿人ジョー・ヤング』が公開され、こちらも話題に(1998年にはビル・パクストンやシャーリーズ・セロン主演でリメイク版の『マイティ・ジョー』が作られた)。
そして1976年にはジョン・ギラーミン監督の『キングコング』が登場。こちらはコマ撮りアニメではなく、特殊メイクアーティストのリック・ベイカーが手掛けたゴリラスーツを自ら着込んでコングを演じたり、機械仕掛けの「巨大なコングの手」を作って俳優を掴むなど、リアリティを追及しようと様々な新技術が導入されました。
中でも、視覚効果アーティストのカルロ・ランバルディ(『エイリアン』(1979年)や『E.T.』(1982年)でオスカー受賞)が作った「実物大のキングコング・ロボ」は、見た目のインパクトが凄まじく、宣伝のためにわざわざ日本にも運び込まれ、当時は非常に話題になったそうです(ただし、撮影ではほぼ何の役にも立たなかったらしい)。
このギラーミン版『キングコング』も大ヒットしたため、続編の製作が決定。しかし、リンダ・ハミルトン主演で作られた『キングコング2』(1986年)は、「前作で死んだはずのキングコングに人工心臓を移植して生き返らせる」という無茶なストーリーについていけない観客が続出し、全世界で大コケ。
僕は公開当時に映画館で観たんですけど、「何をどうしたらこんな酷い脚本になるのだろう?」と呆れ果てるぐらいグダグダで、観たことを激しく後悔しました(ちなみに日本では映画を題材にしたファミコンソフト『キングコング2 怒りのメガトンパンチ』が発売され、それなりに売れたらしい)。
そんな大失敗から19年後、『ロード・オブ・ザ・リング』シリーズで数々の記録を打ち立てたピーター・ジャクソン監督が、1作目(33年版)をリメイクした『キング・コング』(2005年)を製作。最新CG技術を駆使して描き出されたデジタル・コングは、モーションアクターを務めたアンディ・サーキスの熱演と相まって実に生き生きとした動きを披露し、多くの観客を驚嘆させました。
さらに海外だけでなく、日本でもキングコング映画が誕生。しかも、我が国が誇る怪獣王:ゴジラと激突するという”夢の対決”に日本中が大興奮!東宝がキングコングの名称使用料として8000万円を支払ったとされる『キングコング対ゴジラ』(1962年)は、1200万人を超える未曾有の観客動員数を叩き出し、ゴジラ映画史上最大規模の大ヒットを記録したのです(この記録はいまだに破られていない)。
そして5年後には『キングコングの逆襲』が作られ(キングコングの使用権は5年間だったため、契約終了前にもう1本製作した)、原始恐竜ゴロサウルス(オリジナル版へのオマージュ)と戦ったり、巨大ロボ:メカニコングと激しいバトルを繰り広げるなど、大いに観客を沸かせました。
このように世界中のファンから愛された人気キャラクターが、2005年の『キング・コング』以来12年ぶりに復活!しかもジョーダン・ボート=ロバーツ監督が作り上げた『キングコング: 髑髏島の巨神』は、オリジナル版の『キング・コング』(33年)に敬意を表しつつ、フランシス・フォード・コッポラ監督の『地獄の黙示録』の要素も盛り込んだ、”怪獣映画”プラス”戦争映画”になっているのが凄い!
時代設定を1970年代前半のベトナム戦争終結直後にしたのも、荒唐無稽な巨大モンスターとリアルな戦争を一つの映画の中で同時に描くために必要な措置であり、わざわざベトナムやオーストラリアまで行って撮影するなど、徹底的に”本物っぽさ”を追求したそうです。
ジョーダン・ボート=ロバーツ監督曰く、「今はデジタルで何でもできる時代だけど、俺は撮り方も70年代に準じたかったんだ。ロケだからこそ生まれる臨場感や生々しさが欲しかったし、実際にヘリを夕焼けの中で飛ばしてみたかったんだ(笑)」とのこと。
こうして映画には見事なリアリティが宿ったんですけど、撮影は本当に大変で、毒ヘビや毒グモと何度も遭遇した役者がビビリまくっていたらしい。サミュエル・L・ジャクソンに至っては「マジで毒ヘビがウヨウヨしてるし、顔が引きつることもしばしばだった。普通なら撮影前にロケハンして安全を確かめているはずなのに…。オレは絶対、スタッフが手を抜いたと思うね!」と怒っていたそうです(笑)。
そんな苦労の末に完成した本作の最大の魅力は、何と言ってもキングコングの造形でしょう。今回のコングはとにかくデカい!全長31.6メートルに達するその大きさは、過去の映画に登場したコングの中でも最大級です。監督は「初めて目にしたとき、その巨大さに思わず息を呑む、という圧倒されるサイズ感がおよそ30メートルで、それぐらいが巨神的だろうと考えたんだ」とコメント。
また、監督はコングの動きにもこだわったようで、「俺が求めていたのは”荒ぶる神”であり、”孤独な王”なんだ。歩くときはゆっくり、重みがあって威厳があり、それと同時に不機嫌な感じも伝わってくるように見せたかった。参考にしたのは『ワンダと巨像』というゲームだ。そこに登場するクリーチャーには奇妙な悲しみがあって、俺はそのメランコリックな感じをコングでも表現したかったんだ」とのこと。
その言葉通り、本作のコングは威風堂々としていて実にカッコいい!中でも一番ビックリしたのが、女性に対してデレデレしてないこと。何しろ今までのコングは、初めて出会った金髪美女に一目惚れし、彼女を求めて右往左往し、最後はヒロインを助けるために死んでたんですけど、今回のコングはそんなことしません。
綺麗な女性がいても目もくれず、ひたすらストイックに髑髏島を守るために戦ってるんですよ。途中、水に落ちて死にかけているヒロインを助ける場面はありますが、助けた後に何も言わず(当り前かw)背中を向けて去って行くという、その男気溢れる後ろ姿に「渋いなあ!」と感激。人間の役者に例えたら、高倉健クラスの渋さじゃないでしょうか(笑)。
そんなコングに対して、人間側の主人公は全然渋くないというか、キャラが薄いんですよねえ(苦笑)。トム・ヒドルストン演じるコンラッドは、一応「サバイバルのエキスパート」なので島から脱出するために行動してるんですが、ずっと怪獣たちに追い回されるだけで、ほぼ何の活躍もしてません(というより活躍が目立たないw)。
終盤のスカル・クローラーに襲われる場面で、なぜかいきなりマーロウ(ジョン・C・ライリー)の日本刀を使って翼竜(サイコ・バルチャー)を切りまくるという”アメコミヒーローっぽいアクション”が飛び出すものの、カッコいどころか不自然に見えて仕方がない(苦笑)。「どうした突然!?」って驚きましたよ(^_^;)
トム・ヒドルストン本人も「編集でカットされると思った」とインタビューで話してるほどですから、あのシーンはいらなかったんじゃないかなあ(笑)。あと、「パッカード大佐の部下が皆を助けるために手榴弾で自爆しようとしたらスカル・クローラーに吹っ飛ばされて死ぬ場面」も必要ないと思いました(笑)。
「カットすればいいのに」と思ったシーンは他にもあって(シーンというより”キャラ”なんですけど)、ジン・ティエンという中国の女優さんが演じているサンというキャラクター。この人、全然ストーリーに絡んで来ないんですよ。科学者の一人として調査隊に同行しているはずなんですが、特に活躍するわけでもなく、ドラマに影響を及ぼすでもなく、本当に不要なキャラなんです。いったい何のために登場しているのか、全く意味が分かりませんでした(苦笑)。
実はこのジン・ティエンさん、ドニー・イェン主演の『スペシャルID 特殊身分』やジャッキー・チェン主演の『ポリス・ストーリー/レジェンド』、そしてマット・デイモン主演の『グレートウォール』、さらに現在撮影中の『パシフィック・リム2』など、超大作映画に次々と出演してるんですよね。
なので「いったい、どうしてこんな有名作品ばかりにキャスティングされるんだろう?」と不思議だったんですけど、衝撃の真相が発覚!以下、アクション監督の谷垣健治さんの証言より↓
谷垣:実は、『特殊身分』を作ったスターライト・フィルムのオーナーが、ジン・ティエンの恋人なんですよ。で、スターライト・フィルムはジン・ティエンをスターにするための会社なんです。
・それでジン・ティエンって妙に大物との共演が多いのか!
谷垣:そうなんです。彼女のデビュー作『戦国』(2011年)では、日本から中井貴一さんを呼んで、『ポリス・ストーリー/レジェンド』ではジャッキーの娘役、『ヴェガスからマカオへ(ゴッド・ギャンブラー レジェンド)』ではチョウ・ユンファとニコラス・ツェーと共演してますから。
・でも、よくジャッキーが引き受けましたね。
谷垣:スターライト・フィルムの親会社は、中国では有名な配給網を持っている会社で、最近AMCシアターズ(北米で2番目に大きな映画館チェーン)を買収したんです。『ライジング・ドラゴン』ってアメリカではAMCの配給だったんですよね。偶然かもしれませんが…。 (「映画秘宝2015年2月号」より)
なんと映画会社の重役の恋人だった!?なるほど、そういうことか…。まあ、いかにも芸能界で良くありそうな話ですね(さすがにちょっとあからさま過ぎる気はするけどw)。あと、製作会社のレジェンダリー・ピクチャーズは、2016年に中国の大連万達グループに買収されたので、”中国側の思惑”も働いてるんでしょうねえ。
特に最近のハリウッド映画は、やたらと中国市場を意識した描写が目立っているし、ジン・ティエンの不自然なキャスティングも”市場に対するアピール”と考えれば仕方がないのかも…。ただ、キャラの弱さだけはもう少しなんとかして欲しかったなあ(苦笑)。
それに比べて、パッカード大佐(サミュエル・L・ジャクソン)はキャラが立ちまくり!この人、映画の中では悪人っぽく描かれていますが、ベトナム戦争で多くの部下を失い、さらにジャングルで怪獣に部下を殺され、「絶対に仇を取ってやる!」と憤っているだけで、基本的には「部下思いのいい上司」なんですよね。ただ、”部下思いの気持ち”が暴走しすぎて、結果的に部下が大迷惑を被ってますけど(笑)。
あと、サミュエル・L・ジャクソンと言えば「マザー・ファッカー!」の決め台詞でお馴染みですが(『パルプ・フィクション』では26回も言ってるw)、でもその言葉を言っちゃうとアメリカではR指定になってしまうので、映画会社としては言わせたくないんですよね。で、「マザー・ファッ…」と言い終わる前にコングに潰されるという、衝撃的な方法でR指定を回避してるんですよ(笑)。ヒデぇ〜!最後まで言わせてあげて〜w
それから、太平洋戦争中に島に墜落したマーロウは、同じく墜落した日本兵のイカリ・グンペイ(MIYAVI)と仲良くなり、共に島を脱出するために船(グレイ・フォックス号)を作っていたものの、途中でグンペイは命を落とし、彼の日本刀をマーロウが受け継いで…という、ちょっとブロマンスっぽい雰囲気も醸し出していました(『太平洋の地獄』に設定が似てる?)。
このマーロウも、パッカード大佐と同じくキャラが立ちまくりでしたねえ。基本的にはコメディリリーフなんですけど、笑わせるだけでなく、意外と感動的なシーンもあったりして、しっかりドラマを引っ張ってるんですよ。もうこの映画って、完全にパッカードとマーロウとコングの映画ですよね(笑)。なお、イカリ・グンペイは『新世紀エヴァンゲリオン』の碇シンジと、ゲームボーイを開発した横井軍平の名前から取っているそうです。
ちなみに、本作ではスカル・クローラー、バンブー・スパイダー、スケル・バッファロー、リバー・デビル、スポア・マンティス、サイコ・バルチャーなど、ありとあらゆる怪獣が次々と襲いかかってくるんですが、例えばスカル・クローラーのデザインがエヴァの使徒(サキエル)を元ネタにしていたり、日本のアニメやゲームの影響を受けまくりなんですよ(他にも『もののけ姫』や『千と千尋の神隠し』からの引用もあるらしい)。
スカル・クローラー自体は、33年版の『キング・コング』に出て来た「大トカゲ」と同じなんですけど、骨みたいな顔の造形が、エヴァのサキエルだったり、『千と千尋』のカオナシだったり、ポケモンのカラカラだったりと、監督の趣味が反映されているそうです(動きは『グエムル』の怪獣を参考にしたとか)。
ジョーダン・ボート=ロバーツ監督が大の日本好き&ガチオタだからこそ、ここまでアニメやゲームネタをぶっ込んでるんでしょうね。インタビューで「オレは本当に日本のカルチャーが大好きなんだ。宮本茂や小島秀夫の影響は計り知れないね。日本こそ、地球上で最も大好きな場所だよ(笑)」と断言するぐらい、日本の文化にはまっているようです。
というわけで、色々魅力的な部分が多い本作なんですけど、個人的に一番気に入ったのはやっぱり「コングが圧倒的に強くてカッコいい」という点ですねえ。今までのキングコングは美女に弱く、ヒロインの尻を追いかけ回した挙句、最後は人間にやられて死んでしまう、という設定でした(あくまでも”悲劇”のキャラ)。
しかし今回のコングは髑髏島を守護する神であり、ヒロインをエロい目線で見ることもなく、島の平和を乱す連中(人間を含む)に対して容赦ない攻撃を加える、崇高な存在として描かれているのです。人間側はそんなコングに畏れおののき(後半は怪獣退治に協力してますが)、「絶対に敵わない相手だ」と判断して島を去っていくという。最後の最後までコングの威厳を維持したまま終わるのが印象的でしたね。
そしてエンドクレジットが流れた後は、皆さんお待ちかねの次回予告(?)が登場!ラドン、モスラ、キングギドラの壁画を見せつつゴジラの咆哮、という怪獣映画ファンにとっては悶絶ものの映像で幕を閉じていましたよ。これはもう、『三大怪獣 地球最大の決戦』のハリウッドリメイクじゃないか!?
レジェンダリー・エンターテインメントがブチ上げた「モンスターバース」という構想は、東宝から怪獣映画の権利を獲得し、自社が所有するモンスターと同一の世界で対決させる、「怪獣映画版のアベンジャーズ」みたいな企画だそうです。
ギャレス・エドワーズ監督の『GODZILLA ゴジラ』(2014年)から始まったこの「モンスターバース」の第2弾が『キングコング:髑髏島の巨神』で、第3弾がラドン・モスラ・キングギドラ登場の『Godzilla: King of Monsters』(2019年)、そして第4弾でついにゴジラとキングコングが激突する『Godzilla vs. Kong』(2020年)が公開されるわけですよ。これは期待するしかありませんね!
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