■あらすじ『2005年、アメリカでは空前の住宅ブームが起きていた。しかし金融トレーダーのマイケル(クリスチャン・ベイル)は、独自の理論に基づいてシミュレーションした結果、住宅市場の破綻は時間の問題だということに気づく。だが、好景気に沸くウォール街で彼の予測に耳を傾ける者など一人もいなかった。そこでマイケルは、“クレジット・デフォルト・スワップ(CDS)”という金融取引で、バブル崩壊の際に巨額の保険金が入る契約を投資銀行と結ぶ。同じ頃、若き銀行家ジャレッド(ライアン・ゴズリンク)や、ヘッジファンド・マネージャーのマーク(スティーヴ・カレル)、引退した伝説のバンカー:ベン(ブラッド・ピット)もまた、バブル崩壊の予兆を敏感に察知し、ウォール街を出し抜くべく行動を開始。やがて起るリーマン・ショックで大金を手に入れたのは果たして誰か?世界中を大パニックに陥れたサブプライム・ローン危機の裏側で、密かに暗躍する4人の男たちの姿をシニカルな筆致で描いた衝撃の群像ドラマ!』
マイケル・ルイスのベストセラー・ノンフィクション『世紀の空売り 世界経済の破綻に賭けた男たち』を原作とした『マネー・ショート 華麗なる大逆転』は、第88回アカデミー賞で監督賞や作品賞など計5部門にノミネートされた映画であり、最終的には脚色賞を受賞しました。
さすがアカデミー賞に取り上げられるだけあって、かなり完成度は高いです。また、クリスチャン・ベイル、スティーヴ・カレル、ライアン・ゴズリング、ブラッド・ピット、マリサ・トメイ、マーゴット・ロビー、セレーナ・ゴメスなど、出演者も非常に豪華で見応えがありました。
しかしながら、映画を観た人の感想を見てみると、「難しすぎて良くわからない」「思ってたのと違う」「スッキリしない物語が嫌」など、どちらかと言えばネガティブな意見が目立つようです。僕自身は結構楽しめたんですが、こういう意見が出るのも、まあ分からなくはありません。その理由を書いてみましょう。
●難しすぎてわからない?
この映画は、2008年に起こった世界的な経済破綻「リーマン・ショック」について描かれた内容なので、劇中には難しい経済用語がバンバン出てくるんです。なので、これら経済用語の意味が分からないまま、ストーリーだけを追いかけようとしても、内容がイマイチ理解できないんですよね。
ただ、その辺の問題は作り手側も考えているらしく、劇中のキャラがいきなりカメラ(つまり観客)に向かって、「やあ!君たちちゃんとついて来てるかい?」みたいな感じで話しかけてくるんですよ。これはいわゆる「第四の壁」(舞台と観客の間に存在する境界線)を破るという演出で、最近ではアメコミ映画の『デッドプール』などでも同様のシーンが見受けられます。
割と昔から色んな映画で使われている演出なんですけど、本作では「”第四の壁”を破って登場人物が専門用語を解説してくれる」という新設設計なんですね。しかも出てくるのは美人なお姉ちゃん!
例えば、ストーリーの流れとは無関係に、いきなりバスタブに入っているマーゴット・ロビーが現れ、「は〜い、みんなサブプライム・ローンって知ってる?今から私が分かりやすく説明してあげるわよ〜♪」などと言いながら、レクチャーしてくれるんですよ。なので「おお、これはありがたい!」と一瞬思ったんですが…
全然分かりやすくねえええ!
いや、サブプライム・ローンの説明はまだ分かるんです。でも物語が進むに従って色んな専門用語が増えまくり、それらを理解するのにとても苦労しました。しかも「美人のお姉ちゃん」という本来ならありがたいはずのシチュエーションが逆に集中力を妨げる結果となり、難しい用語解説が全く頭に入って来ません。セレーナ・ゴメスがCDOだかCDSだかの用語を説明するシーンなんて、もはやセレーナ・ゴメスの胸しか覚えてない有様ですよ(苦笑)。
「じゃあ、難しすぎてつまらない映画なのか?」っていうと、そういうわけでもないんですよね。まず、クリスチャン・ベイル、スティーヴ・カレル、ライアン・ゴズリング、ブラッド・ピットが演じるそれぞれの人物が、非常に魅力的で面白かったです。
金融トレーダーのマイケル・バーリ(クリスチャン・ベイル)は、大のヘビメタ好き&常に裸足にTシャツ・短パン姿で周囲から変人扱いされていますが、数字に関しては天才的な嗅覚を発揮し、たった一人で住宅市場の崩壊を予測しました。そして、「もし市場が崩壊したら多額の保険金を受け取れる契約」を大手銀行と結び、大儲けしようと目論んだのです。
ただし、市場が崩壊するまでは延々と保険料を支払い続けなければならないので、大変なリスクを負うわけですよ(自分が損をする)。マイケルは「必ず近いうちに崩壊するはずだ!」と信じて危険な賭けに出るのですが、銀行側は「なんてバカな客だろう」と大笑い。世の中バブル真っ盛りなのに、一人だけ”逆張り”してるのですから無理もありません。
ところが、このマイケルの動きを察知した銀行マンのジェレド・ベネット(ライアン・ゴズリンク)は「これでひと儲けできるぞ!」と考え、ヘッジファンド・マネージャーのマーク・バウム(スティーヴ・カレル)に近づき、「いい話があるんだが…」と投資を提案。「住宅市場が破綻する?そんなバカな!」と最初は信用しなかったマークですが、調査のために訪れたフロリダで衝撃的な状況を目撃します。
立派な住宅が何軒も空き家になっており、玄関先にはローンの催促状が散乱。住宅ローン業者に話を聞くと、不法移民者とかストリッパーなど、”どう考えても金を払えそうにない人々”に無理なローンを組ませて、どんどん家を買わせていたことが発覚。
「どうやって審査を通過したんだ?」と思ったら、なんと名前を書くだけ!そもそも審査なんかしていなかったのですよ。それでも低所得者たちは、「サブプライム・ローンがあれば俺も家が買えるぞ!」と喜んで住宅を購入したそうです。そのうちの一人のストリッパーから「一軒だけじゃなくてコンドミニアムも買ったわ」という話を聞いて、「払えるわけねえだろ!」と呆れ果てるマーク。あまりにも杜撰な現状を目の当たりにし、もはや市場の破綻は避けられないと理解したのでしょう。
一方、彼らと同じように「住宅市場の崩壊」を予測した若手投資家のチャーリーとジェイミーは、大手銀行などに強いコネクションを持っている伝説的な元金融マン:ベン・リカート(ブラッド・ピット)に協力を依頼し、一攫千金を狙います。ブラピの出番は少なめですが、印象的なキャラクターを堂々と演じていました。
というわけで、この映画は「それぞれの登場人物がそれぞれの思惑で行動する群像劇」であり、彼らの目線を通して「あの時、アメリカで何が起きていたのか?」を知ることができる、ある種の”実録経済ドラマ”なんですよ。なので、難しい経済用語が分からなくても十分面白いんですが、できれば事前に「リーマン・ショック」と「サブプライム・ローン」ぐらいは知っておいた方がいいかもしれません。
●思ってたのと違う?
どうも、この映画を観て「思ってたのと違う!」と感じた人が多かったようなんですけど、それはたぶん予告編やポスターなどの”宣伝”によってイメージを誘導されたからではないのかなと。『マネー・ショート 華麗なる大逆転』の予告編ってこんな感じなんですが…↓
これを見ると、「4人の男たちがそれぞれのスキルを生かし、金融システムの隙を突いて一世一代の大博打に挑む痛快ギャンブル・ムービー」みたいな感じじゃないですか?でも、全然そんな映画じゃないですからね(そもそも4人が一緒に行動する場面なんて一回も出て来ない)。
また日本版のポスターも、予告編のイメージを強調するかのような「4人が横並びで歩いているシーン」になってますが、当然こんな場面は本編にありません。つーか、この並びにブラッド・ピットが入っていること自体がおかしいんですよ。ビラピの役割は、若手投資家のチャーリー(ジョン・マガロ)とジェイミー(フィン・ウィットロック)をサポートするだけで、積極的にドラマに絡んでくるキャラじゃないんです。
たぶん配給会社としては、『オーシャンズ11』のような「複数のスペシャリスト集団が難解なミッションに挑むクライム・サスペンス映画」を意識してたんでしょうねえ。ポスターの作りも、なんとなく『オーシャンズ11』っぽいし(笑)。ただ、『ベイマックス』の時にも感じたんですけど、「予告編による印象操作」って結局は観客の期待を裏切ることになるので、やっちゃいけないと思うんですよ。いずれにしても、こういうイメージを先に見せられたら「思ってたのと違う!」と感じても仕方ないかもしれませんね(『オーシャンズ11』のポスター、似すぎでしょw↓)。
●スッキリしない物語?
この映画を観てスカッとした気分になれるのか?と言われたら、確かに「はい」とは言えません。『華麗なる大逆転』というスッキリしそうなサブタイトルが付いてるにもかかわらず、モヤモヤした気持ちになってしまうのはなぜなのか?
それは、主人公たちが勝利することで、何万人もの人たちが不幸になるという”辛い現実”が確定してしまうからです。普通の娯楽映画の場合なら、最後の大逆転でカタルシスを得ることができるんですが、実話ベースの本作では、倫理的な面からも爽快なラストには出来なかったのでしょう。
また、映画全体の雰囲気がコミカルな印象でテンポよく進んでいくため、なんとなく明るい結末を想像しがちなんですが、予想に反して重いラスト…というギャップに戸惑う人も多かったようです。せめて「最後に悪いヤツをやっつけたぞ!」みたいな終わり方なら、観てる人の溜飲も下がったんでしょうけどねえ。
なお、マークたちがラスベガスを訪れた際、とある料理屋で会話する場面があるんですけど、そのシーンで流れている音楽に何やら聞き覚えが…。あれ?もしかして徳永英明の「最後の言い訳」じゃない?
最初、映画を観ている誰かのスマホから流れてるのかと思ったんですが、明らかに劇中のBGMなんです。外国映画を観ていて徳永英明の歌声が聞こえてくる違和感たるや…。どうやらこの曲、このシーンに合わせて監督がわざわざ選んだみたいなんですね。「いちばん近くにいても いちばん判り合えない」という歌詞の内容が、スティーヴ・カレルの表情と絶妙なマッチング効果を果たしていて、物凄い皮肉を感じましたよ。マット・デイモンの『オデッセイ』でもBGMの歌詞とシーンの状況がシンクロする場面がありましたが、まさか徳永英明の曲を持ってくるとは…よく見つけてきたなあ(^_^;)
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