どうも、管理人のタイプ・あ~るです。
さて本日、BS-TBSで映画『ダークマン』が放送されます。監督は、今年の5月に公開され大ヒットを記録した『ドクター・ストレンジ/マルチバース・オブ・マッドネス』のサム・ライミ!
サム・ライミ監督と言えば、トビー・マグワイヤ主演の『スパイダーマン』シリーズなどでも知られていますが、『ドクター・ストレンジ』や『スパイダーマン』を撮るずっと前(1990年)に手掛けたヒーロー映画がこの『ダークマン』なのですよ。
当時のサム・ライミ監督は、友人や家族の協力を得て撮影したインディーズ映画『死霊のはらわた』が話題になり、続編の『死霊のはらわたII』も大ヒットするなど”ホラー映画界期待の若手監督”として知名度が高まりつつありました。
そんな時、大手映画会社のユニヴァーサル・ピクチャーズから声をかけられたサム・ライミ監督は、昔から大好きだったヒーローを映画化しようと考えたのです。
それが、1931年にラジオドラマが放送され、後にパルプ・マガジンにもなって人気を博した『ザ・シャドー』というヒーロー作品でした。
『ザ・シャドー』は、「かつて極悪人だった主人公が聖者タルクの教えによって改心し、”ザ・シャドー”に生まれ変わって悪と戦う」というストーリーで、いわゆるダークヒーローもの。
しかし『ザ・シャドー』は当時、他の監督が映画化の企画を進めていたため、残念ながら実現には至らず(その後、1994年にアレック・ボールドウィンが主演し、ラッセル・マルケイ監督によって映画化された)。
そこでサム・ライミ監督は「だったら自分でヒーローを作ろう!」と決意。こうして、『ザ・シャドー』のようなダークヒーロー的要素を持ちつつ、「顔の形を変える」という独自の要素を取り入れるなど試行錯誤を繰り返した結果、オリジナル・ヒーロー『ダークマン』が誕生したのです(以下、あらすじ)。
人工皮膚研究の科学者ペイトンが画期的な人工皮膚を開発するも99分で崩壊する問題に悩んでいた。そんなある日、ギャング団の襲撃を受け、顔や全身に深刻なダメージを負ってしまう。
かろうじて一命を取り留めたものの、変わり果てたその姿に恋人のジュリーも気付かない。失意の中、廃工場で密かに人工皮膚の研究を再開するペイトンは、やがてギャング団への怒りを募らせ、99分しか持たない人工皮膚を使って他人に成りすまし、彼らに報復を企てるのだった…。
当初、サム・ライミ監督は主人公のペイトン役を『死霊のはらわた』シリーズで主役を演じたブルース・キャンベルにやってもらおうと考えていましたが、映画会社に却下されて断念。代わりに決まったのがリーアム・ニーソンです。
リーアム・ニーソンと言えば、今でこそアクション映画によく出演しているイメージですが、1990年当時はまだ「演技派の舞台俳優」という印象でした(2008年の『96時間』以降、急激にアクションの仕事が増えた)。
なので、本作でも主人公の絶望感を表現するシーンなどでは割と舞台っぽい演技になってるんですよね。
もしブルース・キャンベルが演じていたら、もう少し”軽い感じのキャラクター”になっていたかもしれません。
しかしリーアム・ニーソンが演じたことで「優秀な科学者」としての説得力とか、主人公の苦悩や哀しみがより強調されたのではないでしょうか(ちなみにブルース・キャンベルもラストにチラッと出て来るのでお見逃しなく)。
またヒロインのジュリー役には、リーアム・ニーソンの希望で当時リーアムの恋人だったジュリア・ロバーツが候補に上がっていたものの、演技のテストをしてみたらジュリアの方が照れてしまって上手く演技できず不採用となってしまいました。
なお、その後ジュリア・ロバーツは『ダークマン』と同じ年に公開された『プリティ・ウーマン』で大ブレイクし、あっという間に一流ハリウッドスターへと上り詰め、リーアム・ニーソンとは破局したらしい(可哀想なリーアム…)。
そしてジュリアの代わりにジュリー役を射止めたのがフランシス・マクド-マンド。『ファーゴ』(1996年)、『スリー・ビルボード』(2017年)、『ノマドランド』(2021年)でなんとアカデミー主演女優賞を3度も獲得した世界的な実力派女優です。
しかも映画だけでなく、2011年には舞台『Good People』でトニー賞(主演女優賞)を、2015年にはドラマ『オリーヴ・キタリッジ』でエミー賞(主演女優賞)も受賞しているのだから凄すぎる!
そんなフランシス・マクド-マンドは、サム・ライミ監督とは『XYZマーダーズ』で一緒に仕事をした仲だし、監督の方もマクド-マンドの起用には賛成だったので現場でも上手くいくのかと思いきや、実際に撮影が始まると演技方針をめぐって二人の意見が衝突。
サム・ライミ監督によると「あくまでも演技の方向性について建設的な議論を交わしただけ」とのことですが、やはりアカデミー賞を3度も獲得した女優さんを相手に苦労したんでしょうかねぇ(汗)。
ただ実際に本編を観てみると、恋人役のリーアム・ニーソンとの会話も自然で特に違和感はありません。
ちなみに、全身大火傷を負ったペイトンが病院に運ばれ、「痛覚を遮断する治療法(ランゲヴェリッツ・プロセス)」を施されるシーンで女性医師を演じているのは『狼男アメリカン』でヒロインのアレックスを演じたジェニー・アガターです。
ペイトンはこの処置によって苦痛知らずの体となり、同時に「過剰分泌されるアドレナリンの影響で超人的なパワーを発揮する」という設定なんですけど、「だから全く痛みを感じません」と言いながらペイトンの体にブスリと針を突き刺すジェニー・アガターの笑顔が怖いw
あと、暗黒街を牛耳っているギャング団のボス:デュラントのインパクトが強烈!敵対する相手を拷問し、その指を葉巻カッターで切断してコレクションにするなど、完全にイカれたキャラクターなんですよ。
ペイトンもデュラントから凄まじい拷問を受け、両手と顔面をメチャクチャにされた挙句、研究室ごと木っ端みじんに吹き飛ばされてしまうものの、ボロボロの状態で生き延びて復讐を開始!
人工皮膚を使ってデュラントの部下に変装し、まんまと組織の金を奪ったり、デュラント自身に変装して強盗の濡れ衣を着せたり、様々な方法でギャング団に反撃するペイント。
途中で本物のデュラントと鉢合わせしつつ、最終的には隠れ家の廃工場で派手なアクションを繰り広げます。
なお、デュラントを演じたラリー・ドレイクはすごく存在感のある風貌でまさにこの役にピッタリなんですが、他の映画ではあまり見かけません(ローワン・アトキンソン主演の人気コメディ映画『ビーン』や、テレビドラマ『L.A.ロー 七人の弁護士』などに出演している模様)。
残念ながら2016年に亡くなったらしいんですけど、もっと色んな映画で活躍を見たかったですねぇ。
というわけで本作は「悪人たちから凄まじい暴行を受け、何もかも失った主人公が怒りに燃えて復讐する物語」なんですが、サム・ライミ監督の作風によってどこかユーモラスな雰囲気を漂わせているところがいいんですよね。
例えば、主人公が怒りを爆発させるシーンなどでは背景がいきなり抽象的な映像に変わって文字通り”爆発”したり、マンガチックな独特の演出が楽しめますよ。
また、現代のヒーロー映画に比べると明らかに低予算であるにもかかわらず、ド迫力の爆破シーンや銃撃シーン&カースタント、果ては「ヘリにぶら下がったまま街の上空を飛び回るダークマン」など、アクションシーンにかなりの力を入れており、さらに90年代当時はまだ珍しかった3DCGを導入している点など見どころも多数。
そして何と言っても「私は誰でもあり、誰でもない」「どこにでもいて、どこにもいない」「ダークマンと呼んでくれ」とつぶやきながら雑踏の中へ消えていくラストシーンが実に素晴らしい。
トビー・マグワイヤ版の『スパイダーマン』にも通じる孤独なヒーロー像が圧倒的にカッコよく、このラストシーンこそがまさに本作の真骨頂と言っても過言ではないでしょう。やはり『ダークマン』は面白い!
ちなみに先日、『ドクター・ストレンジ/マルチバース・オブ・マッドネス』公開後のインタビューでサム・ライミ監督が「いまユニバーサルが『ダークマン』の続編について検討している」と語ったそうです。
また、リーアム・ニーソンも別のインタビューで「『ダークマン』の続編に興味はありますか?」と訊かれた際、「いい質問ですね。とても興味があります」と答えたらしい。もしかしてサム・ライミ監督&リーアム・ニーソンで再び『ダークマン』が作られるのでしょうか…?だとしたらぜひ観たい!