どうも、管理人のタイプ・あ~るです。
さて先日、『機動警察パトレイバー2 the Movie』に関する記事を書いたら長くなりそうだったため途中で一旦終了、本日はその続きです(前回の記事を読んでない方はこちらをどうぞ↓)。
前回は「東京上空に謎の戦闘機が接近し、航空自衛隊や空港がパニックになる」という辺りまでだったので、今回はその後の出来事について書いてみますよ(なお、言うまでもなくネタバレしているため未見の方はご注意ください)。
●水族館のシーン
”幻の爆撃”騒ぎの後、水族館で密会する後藤と荒川。水族館は『うる星やつら2 ビューティフルドリーマー』にも出て来ましたが、要は押井監督の好きな”魚”を見せるために必要な場所なんですね(水槽の魚を覗き込むアングルも印象的)。
押井監督の説明によると、「このシーンの主役は後藤たちではなく水槽の魚であり、それらは魚に姿を借りた何者かであるということを明確にするために敢えて選んだアングルです」とのこと(意味深だなぁw)。
押井守作品には毎回必ずと言っていいほど「魚」や「鳥」が登場していますが、例えば鳥は”恐怖”や”不安”を表しているとか、何らかのメタファーになっています(※「聖書」から引用している場合は別の意味になることもある)。そういう点にも注目すれば、さらに興味深く鑑賞できるかもしれません。
ちなみに、『踊る大捜査線』の本広克行監督(大の押井守ファン)が学生時代に『天使のたまご』を観に行った際、上映会に来ていた押井監督に「あの魚の意味はなんですか?」と質問したら「あれは”日常”です」と言われて「おお!」と感激したそうです(※ただし、『エヴァ』の貞本義行さんは別の解釈をしているらしい)。
●高速艇で川を下る後藤
恐らく、本作で最も”押井守らしさ”が炸裂しているシーンがここでしょう。「戦争だって?そんなものはとっくに始まってるさ。問題なのは如何にケリをつけるか、それだけだ」という荒川のセリフの後、延々と「平和とは?」「戦争とは?」について問答が繰り広げられる異色のシーンとなっています。
以前から押井監督の映画では「虚構と現実」がお馴染みのテーマでしたが、『パトレイバー2』ではそれに”戦争”を絡ませることでさらに難解さが増し、押井監督自身が様々な資料を調べて徹底的に研究したという「独特の戦争論」が語られているのですよ。
湾岸戦争の時、強烈に印象に残ったのは「コンピュータのモニターを通じて戦争が行われている」ということでした。現場で爆弾を投下している兵士たちもモニターを通して標的を見ているし、その戦争自体を、僕らはテレビ画面というモニターを通して見ている。
そういう意味では、現場の兵士も我々も、同じようにしか戦争には関わっていないと言えるかもしれない。
現実とモニターの中の世界(虚構)が、どんどん区別がつかなくなっている。だから、ふと窓の外を見ると、そこで戦争をやっていたというのと、毎日のようにTVを通じて送られてくる戦争の映像というのは、実は大差がないのではないか?そんな、いままでとは全く違った”戦争観”を今回の映画では提出したいと思ったんです。
(月刊「アニメージュ」1993年4月号より)
このように、押井監督は本作で”戦争”をじっくりと語ることに最も注力したと思われ、その結果、キャラクターがほとんど動かず、「延々と続く川下りの風景にセリフのみ」という、恐ろしく地味なシーンが誕生しました。
主人公が「ロケットパ~ンチ!」と叫びながら壊れた自機の腕を振り回して敵レイバーをぶん殴るという初期OVAの軽いイメージから大きく様変わりした『パト2』に、当時のアニメファンたちは「これ本当にパトレイバーなの?」と度肝を抜かれたことでしょう。
しかしながら、「戦争が平和を生むように、平和もまた戦争を生む。単に戦争でないというだけの消極的で空疎な平和は、いずれ実体としての戦争によって埋め合わされる」などの荒川の長ゼリフを、竹中直人さんの淡々とした口調で聞かされると何とも言えない不思議な空気が生まれ、観ているうちにどんどん”押井守ワールド”へと引き込まれてしまうのですよ。
伊藤和典さんも「押井さんから”ちょっと語りたいことがあるから、場面だけ用意しておいて”とオーダーがあったので、僕はただその場面を脚本内に配置しただけ」「セリフは全部押井さんが書いたものです」と証言していることから、まさに押井監督の思想や主張が凝縮された名シーンと言えるのではないでしょうか。
なお、完成した『パト2』を観た伊藤和典さんは「果たして映画として成立しているのか?」「押井さんの戦争研究論文にしか見えない」と感じたそうです(笑)。
●建設中の橋の謎
後藤が高速艇に乗って川を下っていると、建設中の橋の下を通り過ぎるシーンが出て来ます。これを観て「吹っ飛ばされたベイブリッジを修理してるのか?」と思った人もいるようですが、実はこのシーン、映画の制作前に押井守監督とスタッフたちがロケハンで東京湾周辺を船で回っている時に見つけた風景なのですよ。
当時はレインボーブリッジがまだ建設中で、その光景を気に入った押井監督が劇中に登場させたんですね。ところが、ここでちょっとした問題(?)が発生。『パト2』の時代設定は2002年なんですが、レインボーブリッジの開通は1993年なんですよ。あれ?じゃあ2002年の時点で未完成のあの橋は何?って話に…(もしかすると、この世界のレインボーブリッジは2003年ぐらいに完成したのかもしれませんw)。
ちなみに、「押井守の大ファン」を公言している本広克行監督は、『踊る大捜査線 THE MOVIE 2 レインボーブリッジを封鎖せよ!』の撮影時、「『パトレイバー2』ではベイブリッジを爆破したのに、我々は封鎖するだけでいいのか!?」とスタッフたちと盛り上がっていたらしい(笑)。
●すぐに気が変わる後藤さん
南雲さんに怒られた直後、すぐに謝罪の電話をかける情けない後藤さんですが、終始シリアスなムードが漂う本作の中で貴重なギャグパートの一つとなっており、押井監督曰く、南雲さんが出て行ってから「あ、しのぶさん?気ィ変わった。今変わった」を言うまでの”間”にこだわったそうです。
●不安を煽るレイアウト
進士が自宅でテレビを見ているシーンのレイアウトを描いたのは、『パーフェクト・ブルー』や『パプリカ』などの監督として知られる今敏さん。
このシーンをよく見ると、背後の襖(ふすま)が少しだけ開いて奥の部屋が見えてるんですが、今敏さんによると「あれは押井さんから”開けといて下さい”という指示があった」とのこと。
押し入れを開けることによって、画面の中にその部分だけ暗いところができるんですよ。それが、明るく散らかした生活感のある部屋に忍び込んでくる”不安の象徴”ということなのかな…と自分なりに解釈しまして。単に生活感を出すためではないという気がしたんです。
(「Methods パトレイバー2演出ノート」より)
言われてみれば、ちょっと怖い感じがしますねぇ…
●コンビニの背景
特車二課の”買い占め部隊”がコンビニの商品を買いまくるシーンでは大量の商品が映っていますが、アニメーションの画面はキャラクターと背景で構成されており、キャラはアニメーターが、背景は美術の担当者が描くのが一般的です。
ところが、このシーンで陳列棚や商品を描いているのは美術ではありません。個々のパッケージが細かすぎて筆では描けないため、全てセルで描いているのですよ。
押井監督曰く、「物をたくさん描くというのはアニメーターにとって厄介な作業ですが、観客にとってはアニメのお楽しみの一つでもあります。どうせ大変な作業なら、何万という宇宙船の大群を描くよりも、アンパンや即席ラーメンの大群の方が(個人的には)好きです」とのことなんですが…。
いや~、即席ラーメンのパッケージを1個1個手描きする方が大変なような気がしますけどねぇ(笑)。
ちなみに、押井守さんといえば「コンビニ大好き監督」としても有名で、『うる星やつら2 ビューティフルドリーマー』では無人のコンビニで買い物しまくる様子が描かれ、『イノセンス』ではコンビニの商品を全てスキャナーで取り込んで1個1個テクスチャを貼り付けるという途方もない作業を実行し、スタッフを瀕死に追いやったりしていました。
そして実写版『機動警察パトレイバー』では、とうとうコンビニのオープンセットを丸ごと1軒作らせ、その中で派手なアクションシーンを撮ったり爆破したりとやりたい放題!押井監督曰く、「コンビニは自分にとって重要なテーマの一つ」「今後も可能な限り出したい」とのこと。いや、どんだけコンビニ好きなんだよ(笑)。
というわけで本日はここまでです。続きはまた後日書きたいと思いますので、今しばらくお待ちください。