どうも、管理人のタイプ・あ~るです。
さて、ついに3月8日から『シン・エヴァンゲリオン劇場版』が公開されました!
新型コロナウイルスの影響や緊急事態宣言で二度も延期されるという不運に見舞われた本作ですが、長年待ち続けたファンにとっては取るに足らない問題だったようで、月曜日公開という不利な条件にもかかわらず初日の興行収入は8億円を超える大ヒット!
しかも緊急事態宣言が再延長されたばかりなのに、朝から大勢の観客が映画館に詰めかけ(まあ皆さん感染対策はしていると思いますが)、土曜日の公開だった前作『Q』(2012年)よりも興行収入・観客動員数ともに大きく上回るという快挙を成し遂げました。
そんな『シン・エヴァンゲリオン劇場版』について、さっそく多くの人が感想や評価、あるいは”謎の考察”や”ストーリー解説”などの記事を書いているようですが、まだ公開されたばかりでもあるし、今回はとりあえず個人的に観ていて気になった”特撮表現”について書いてみたいと思います。
※以下、ネタバレしているので未見の方はご注意ください!
映画終盤、ロンギヌスの槍を持った第13号機とカシウスの槍を持った初号機が激しいバトルを開始する場面で、なぜか突然、周囲のビルがミニチュアに、背景がホリゾント(描いたのは特撮映画のベテラン絵師:島倉二千六!)に、戦っている場所が撮影スタジオみたいになってしまいます。
多くの人が驚いたであろうこのシーン、実は「今までのエヴァンゲリオンはこういうイメージで作られていたんだよ」という庵野秀明総監督のメッセージなんですね。一体どういうことなのでしょうか?
今回、庵野さんは新劇場版を作るにあたり、いくつかのテーマを掲げました。そのうちの一つが「ミニチュア特撮の空間をアニメの世界で再現する」というものだったのです。
庵野さんは自他共に認める特撮オタクで、学生時代から『ウルトラマン』や『仮面ライダー』などの特撮番組にのめり込み、自ら特撮の自主制作映画を作るほどでした。近年も「特撮博物館」を立ち上げ、ミニチュアや小道具等の保存に尽力するなど、特撮好きエピソードは枚挙にいとまがありません。
そして新劇場版が作られる前にも、1クールのオリジナル実写特撮番組を企画していて、設定や脚本も考えていたそうです。しかし諸般の事情でボツになり、一緒に企画を進めていた大月俊倫プロデューサーやメカデザイナーの出渕裕さんたちと途方に暮れていました。
そんな時、大月さんの携帯に庵野さんから「エヴァの劇場版を作ろう」とのメールが…。庵野さんとしては「オリジナルの特撮番組はなかなか企画が通らない」「だがエヴァンゲリオンなら賛同者を集めやすいし、自分の好きなこともやれるだろう」と考えたようです(直接的な動機としては「会社の運転資金集め」とか「エヴァのコンテンツを育てたい」など色々あったようですが)。
こうして新劇場版の制作がスタート。当時、庵野さんは「僕が実写でミニチュア特撮をやれる確率はかなり低くなってしまった」「ならば、この想いをアニメに持って行くしかない」とコメントしており、意図的にエヴァの世界に特撮テイストを持ち込んだことが伺えます。
例えば、レイアウトを作る際にも「特撮ステージにミニチュアの建物を並べ、そこでエヴァと使徒が戦っている」という光景をイメージし、カメラアングルなども(アニメならどこにカメラを置こうと自由なのに)敢えて「実写だとすればどこにカメラを置くか?」を想定しながら描いていたそうです。
しかも『エヴァ序』は、「『ウルトラマンタロウ』のミニチュア世界を再現するのが目標だった」「なぜならタロウは特撮ステージが広く、ミニチュアを劇場版から流用しているので出来が違う」など、ひたすら好みの特撮表現にこだわっていたらしい(なお樋口真嗣は「いや、タロウよりもエースの方がすごいだろ!」とマニアックに反論した模様w)。
さらに『エヴァ破』の時には庵野さんのこだわりがもっと激しくなり、特撮研究所の三池敏夫さんに撮影ステージの作り方をレクチャーしてもらったり、わざわざ特撮スタジオへ出かけてミニチュアの写真を撮ったり、本物の図面をもとにCGでミニチュアのビルを作ったり、まさにやりたい放題!
それを聞いた特撮監督の佛田洋さんは「普通は本物のビルの写真を撮ってそれを再現するのに、なぜわざわざミニチュアの再現にこだわるんだ?」と呆れ返ったらしい。これに対して庵野さんは「もちろんリアルなビルをCGで再現することは可能だけど、わざとそうしない。ミニチュアが好きだから(笑)」と答えたそうです。
なので、13号機と初号機の戦闘シーンを見て「CGがショボい」とか「もっと真面目にやれ!」などと批判しても意味がないんですよ。あれはわざとああいう風に表現しているだけで、真面目に”ミニチュア特撮の再現”を追求した結果なんですね。
それから、冒頭の「ユーロネルフ第1号封印柱復元作戦」のシーンでも、エヴァ8号機βが光るピアノ線のようなもので吊るされていますが、あれもまさに「着ぐるみを上からピアノ線で吊るしている」という特撮現場の撮影風景を忠実に再現しているのです(こだわりが凄いw)。
なお、庵野さんのこうした「アニメで特撮を再現する」というこだわりは、エヴァから始まったわけではありません。実は初監督作品の『トップをねらえ!』の頃からこういうことをやり続けていたのです。
例えば『トップをねらえ!』の最終話で、主人公のノリコが乗っているコックピットのモニターが割れると、その中になぜか”蛍光灯”が見えるんです。これは「役者がコックピットのセットで演技をしていたらパネルが割れて中の蛍光灯が見えてしまった」という”特撮現場の舞台裏”をわざわざアニメで再現してるんですね。
さらに監督2作目の『ふしぎの海のナディア』でも同様のことが行われており、第38話のパリ市街戦のシーンについては以下のようにコメントしています。
「このカットを特撮で撮るとしたらどう撮るだろう?」と考え、ロングショットでN-ノーチラス号が飛ぶカットなら、パリ市街のセットを組んでN-ノーチラス号の一尺モデル(約30cm)のミニチュアをピアノ線で操演する…といった感じで画面をイメージし、1カットの映像を作っていった。 (ロマンアルバム『ふしぎの海のナディア』より)
つまり、庵野さんは昔から特撮のセットを脳内に思い浮かべ、「もしこのシーンを特撮で撮ったらどんな感じになるんだろう?」ということを常に意識しながらアニメの画面を描いていたのです(どんだけ特撮が好きなんだよw)。
ちなみに特撮と言えばもう一つ、『シン・エヴァンゲリオン劇場版』のクライマックスで流れる曲「VOYAGER~日付のない墓標」も印象的でした。元々は松任谷由実の歌なんですが、どうしてこれが特撮に関係するのか?っていうと、1984年に公開された『さよならジュピター』という特撮映画の主題歌なんですよ。
『さよならジュピター』は、精巧なミニチュア・モデルやCG映像、モーション・コントロール・カメラなど当時の最新技術を導入した超大作SFドラマなんですけど、世間の評価はイマイチで興行的にもヒットしませんでした。
しかし庵野さんはこの『さよならジュピター』が大好きで、昔の対談で以下のようにコメントしているのです。
『さよならジュピター』はダメな映画だと思うけど、僕は好きなんですよ。『エヴァ』の第3新東京市もなぜ”第3”なのかと言えば、『さよならジュピター』に登場する長距離旅客宇宙船の名前が「TOKYO-3」だからです。
あと、予告編ではクライマックスでユーミンの「VOYAGER~日付のない墓標」が流れるんです。それで期待して観に行ったのに「まさかエンディングでちょっと流れるだけとは!」と大ショック(笑)。あそこで歌がかかっていれば、もっと感動できたはずなんですけどね。 (『完全読本 さよなら小松左京』より)
そして37年後、庵野さんはこの時の不満を晴らすために、『シン・エヴァンゲリオン劇場版』のクライマックスでわざわざ「VOYAGER~日付のない墓標」を流したのでしょう。なんという特撮愛!(というか、単に自分の好きなものをブチ込んでるだけ?)
ただ、この「VOYAGER~日付のない墓標」は歌詞がいいんですよねえ。
私があなたと知り合えたことを
私があなたを愛してたことを
死ぬまで死ぬまで誇りにしたいから
これは「ゲンドウからユイへ」、「ミサトさんから加持さんへ」、「トウジからヒカリへ」、「シンジからアスカへ」など、色んなキャラクターに当てはまる言葉で、まさにこのシーンに相応しい曲だと思います(当然、庵野さんもそういう効果を狙っていたのでしょう)。
というわけで、庵野秀明総監督の特撮に対するこだわりが至る所に詰まった『シン・エヴァンゲリオン劇場版』ですが、このような点に注目しながら観るてみると、また違った楽しさが見つかるかもしれません(ちなみに、ヴンダーが突進するシーンで流れるBGMは1977年に公開された特撮SF映画『惑星大戦争』の曲をアレンジしたものですw)。