どうも、管理人のタイプ・あ~るです。
先日、SNS上で「なぜ日本のSFは滅びたのか?」というツイートが話題になり、「面倒なSFオタクが文句ばかり言ってるからだよ!」とか、「そもそも日本のSFは滅んでなんかいないぞ!」など様々な意見が飛び交いました。
彼方のアストラのレビュー一覧を見れば「何故、日本ではSFは滅びたのか(流行らないのか)」がよく分かるようになっていて、すごい。これ、まさに日本SF界が煮しまった様子が的確に表されている。https://t.co/2EcfUdCH7q
— ぬまきち@ツイキャス配信中! (@obenkyounuma) September 13, 2019
いやマジでSFが滅びたのこれです。そして代わりに「異世界」が流行る大きな理由の1つ。物理学警察とか面倒なのがいないため
— こぴーらいたー作家@風倉 (@kazakura_22) September 15, 2019
ただ、その異世界でも最近は文化文明警察的なものが出てきたので「ゲーム風異世界」になった
読者の「平均知識レベル」はあがり続ける
それが、物語を異世界に飛ばしたのだ pic.twitter.com/oOPxUxUIcB
「日本でSFが衰退した理由」、警察が跋扈したからとかじゃなくて、「日本でSFが栄えていない」の比較対象がジョン・W・キャンベルのいたアメリカなのがそもそも間違いだと思います。あそこの国のSF事情だけスケールが違うんだ。
— こなたま(CV:渡辺久美子) (@MyoyoShinnyo) September 16, 2019
TLを「日本の大衆向けコンテンツでSFがメジャーだったことは一度もない」という発言が流れて行きまして、本棚の『日本沈没』『宇宙戦艦ヤマト』『機動戦士ガンダム』『超時空要塞マクロス』『新世紀エヴァンゲリオン』を見ながら呆然としております。
— 小太刀右京/Ukyou Kodachi (@u_kodachi) September 16, 2019
え?SF滅んだの?また?
— 笹本祐一 (@sasamotoU1) September 16, 2019
事の発端は『彼方のアストラ』というアニメのレビューに投稿された「批判的な意見」がきっかけだったようです。
その内容は「SF好きは見ない方がいい」「目が腐る」「科学もセンスオブワンダーもなかった」などで、要するに「こんなものはSFとして認められん!」的なツッコミをもの凄い長文で書きまくってたんですよ。
このレビューに対して、「こういう面倒くさいことを言う人がいるから、日本のSFは滅びたんだよ」と苦言を呈す人が現れ、さらにその発言に対し「ちょっと待て!日本のSFが滅びたなんて誰が決めたんだ?」「日本には今でもSFはあるぞ!」などの反論が噴出し、あーだこーだの激論になった…というわけです。
そして、ついには『彼方のアストラ』の作者本人までが参入し、「件のレビューの言いたいことは正しい」「その一方で僕は全ての項目に反論もできる」などとコメントする事態となってしまいました。
こうした「SFオタク」の細かいツッコミは昔から数多く見受けられ、「真空の宇宙で爆発音がするのはおかしい」とか、小説家の高千穂遙氏に端を発する「『機動戦士ガンダム』はSFなのか?論争」など、枚挙にいとまがありません。
まあ個人的には、『宇宙戦艦ヤマト』や『機動戦士ガンダム』はSFだと思ってるし、どちらかといえば「細けえことはいいんだよ!」派なので、「あの作品はSFか否か?」みたいな議論は正直どうでもいいんですけどね(笑)。
基本的に日本のSFは、主に小説や漫画やアニメの分野で発展したと思っています。特にアニメにおける普及度たるやすさまじく、『攻殻機動隊』や『AKIRA』などが海外でヒットしたことを含めて世界的にも高く評価され、今や「日本を代表する優良コンテンツ」と呼んでも過言ではないでしょう(たぶん「日本のSFは衰退した!」とか言ってる人たちにとって漫画やアニメは対象外なんだと思う)。
ただし実写映画に関しては、正直「かなり厳しい状況」と言わざるを得ません。その理由を、アニメーション監督の押井守さんは以下のように分析しています。
”SF映画”というのは基本的に舶来ものなので、外国の役者やコスチュームや特撮や音楽、さらには”英語である”ことまで含め、全部がワンセットで成立している。日本映画に特有のジャンルがあるように、アメリカ映画にも特有のジャンルがある。日本人にとって、西部劇ができないのと同じぐらいSF映画は難しい。
この押井監督の意見は、たしかに一理あると思います。ただ、「近未来SF」や「宇宙を舞台にしたSF」などはそうかもしれませんが、”SF”にも色んな種類があるわけで、一概に「日本で実写のSF映画は成立しない」とは言えないんじゃないのかな?と。
例えば、地質学者たちから綿密な科学考証を得て、大規模災害をリアルにシミュレーションして見せた『日本沈没』などは、まさに日本を舞台にした、日本人でなければ成立しないパニックSF映画でしょう。
また、近代兵器で武装した多数の自衛隊員たちが、ある日突然、戦国時代にタイムスリップし、現地の侍と壮絶な戦いを繰り広げる『戦国自衛隊』も、日本人ならではのアイデアに満ち溢れた見事なSF時代劇だと思います。
そう考えると、「日本でも実写のSF映画ってイケるんじゃね?」みたいな気がしなくもないんですが、現状はどうなのか?っていうと…。
ここ最近の、実写日本映画における人気ジャンルといえば、圧倒的に「ラブ・ストーリー」が多数を占めています(ラブコメ含む)。もう、「なぜこんなに恋愛映画を作る必要があるんだ!?」と困惑するぐらいの勢いですよ。
その次に多いのが、「主人公の身近な人が重い病気にかかって…」等の、いわゆる「難病もの」ですね(恋愛要素が入る場合もあり)。
その他、「親子の絆」とか「兄弟愛」みたいなものを描いた「人情ドラマ」や、「コメディ映画」、「学園ドラマ」、「サスペンス」、「ホラー」など様々なジャンルが存在する中で、「SF」というジャンルは……ほぼ見当たりません。
もちろん、単発では作られてるんですよ。後は低予算のB級映画とか。それでも少ない。『シン・ゴジラ』のような「怪獣映画」を「SF映画」としてカウントしたがる人もいますけど、「SF映画を作ろう!」という明確な意図を持って作られた”純然たるSF映画”はほぼ皆無です。
つまり、日本の実写映画における”SFというジャンル”は完全にマイナーな存在であり、ハッキリ言ってジャンルそのものがもはや絶滅状態に近い。
なぜこうなってしまったのか?というと、もちろん予算的な問題も大きいですが、一番の理由は「需要がないから」です。
「SF映画を観たい」という観客が大勢いれば、映画会社も少々製作費が高くてもSF映画を作ろうとするでしょう。しかし、残念ながら日本の観客は「日本製のSF映画」にあまり興味がないらしい(というより「アメリカのSFに勝てるはずがない」「SFは海外製で十分」みたいな認識なのかも…)。
こういう傾向はSFに限らず、「アクション映画」にも同じことが言えます。海外でも活躍している某アクション監督によると「日本ではアクションものの作品を支えるだけの需要自体が少ない。香港映画などのアクション先進国では(女性も含めて)観客の目も肥えているし、作り手たちのレベルもおのずと上がっていくだけの基盤がある、しかし日本では、肉体を駆使したアクションが好きな人たちはそう多くない。アクション映画を作ってもあまり観客が来ないとなれば、自然と先細りになっていくだろう」とのこと。
最近、『ザ・ファブル』で見事なアクションを披露した岡田准一さんも「『SP』を撮った後に”アクション映画のオファーが来るかな?”と思って期待してたんだけど、全然来なかった(笑)。日本ではアクション映画が少ないですからね」と嘆いていたそうです。
SF映画は、そんなアクション映画よりもさらに状況が悪いのでSFファンは泣くしかない…っていうより、そもそもSFファンは日本の実写SF映画なんかに期待すらしてないのかもしれませんが(苦笑)。
そんなわけで、「日本のSFは滅びたのか?」という議論について個人的には「小説・漫画・アニメなどの分野で日本のSFは目覚ましい発展を遂げているが、実写SF映画に関しては相変わらずマイナーな存在で残念」という見解です。
いや、SFマニアが納得するような、ガチガチにハードな本格SF映画じゃなくてもいいんですよ。設定としてSF要素が入っている程度の「なんちゃってSF」でも全然構いません。何らかのSF的な見どころ(ガジェットとか衣装デザインとかCGとか特撮など)が含まれてさえいれば、それでいいんです。
そういう作品が1年に1本、あるいは2年に1本ぐらいの割合でコンスタントに公開されれば、一般の観客にも”実写SF”というジャンルが徐々に浸透していくのでは…と思ってるんですけどねえ。
なお、ジャンルとしての実写SFは依然として厳しい状況ではあるものの、個別の作品に関しては(過去から現在に至るまで)優れた映画がいくつもあるので、機会があればご紹介したいと思います。